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Lumia 930に潜むMicrosoftの影

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by [2014年4月21日]

日本では採用するキャリアが皆無で、しかも何をどう考えているのかMicrosoft自身も積極展開をしようとしていないWindows Phoneおよびその搭載端末。

しかし、海外に目を向けるとMicrosoftの傘下に入ったノキアが地道に製品ラインナップの拡充を続けており、このほど最新のWindows Phone 8.1を搭載するハイエンド機種として「Lumia 930」を発表しました。

今回はこの「遅れてきた最新OS搭載ハイエンド機」たるLumia 930と、それを取り巻くMicrosoftのOS戦略について考えてみたいと思います。

主な仕様

公表されているLumia 930の主なハードウェア仕様は以下の通りです。

  • OS:Windows Phone 8.1
  • チップセット:Qualcomm MSM8974 “Snapdragon™ 800″(2.2GHz クアッドコア)
  • サイズ:約71 × 137 × 9.8 mm
  • 重量:167g
  • メインスクリーン
    • 種類:16,777,216色有機EL
    • 解像度:1,920×1,080 ピクセル
    • 画面サイズ:5 インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:2 ギガバイト
    • フラッシュメモリ:32 ギガバイト
    • 拡張スロット:なし
  • カメラ
    • メインカメラ解像度:20 メガピクセル
    • フロントカメラ解像度:1.2 メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac
    • 対応周波数:2.4GHz、5GHz
  • LTE:
    • 対応バンド:1・3・7・8・20
    • 転送速度:下り最大150Mbps/上り最大50Mbps
  • Bluetooth:Ver.4.0
  • 電池容量:2,420 mAh(端子電圧3.8V・無線充電対応)

LTEの対応バンドの範囲が狭いこと(※これは搭載されているRFトランシーバーの世代が古いことを示唆します)と筐体の厚さがやや厚めとなっていること、それに外部メモリスロットを持たないこと(※ただし7ギガバイトのOneDrive(旧SkyDrive)が提供されることが発表されています)が若干気にかかりますが、それ以外は冒頭でも記したとおり、概ね1年前から半年前のAndroid搭載スマートフォンのハイエンド機種に近いハードウェアスペックです。

実を言うと、このハードウェア仕様は今年2月にアメリカ向けとして発表されたWindows Phone 8搭載の「Lumia Icon」と全く同一であったりします。

遅れてきたハイエンド機

繰り返しになりますがこのLumia 930(およびLumia Icon)のスペックは、これまでのノキア製歴代ハイエンドWindows Phone搭載スマートフォンがそうであったように、発表時点でのAndroid搭載スマートフォンのハイエンド機種と比較すると決して最新の高性能機種というわけではありません。

搭載プロセッサであるSnapdragon 800が既に改良後継機種であるSnapdragon 805へ移行し、それどころか64ビットCPUコアであるCortex-A57 + Cortex-A53を搭載するSnapdragon 810さえ発表されている現状を考えると、厳しい言い方をするとハードウェア的には「2013年夏のハイエンドモデル」レベルのものでしかなく、この機種の発売時期が今年6月を予定していることを考えると、ハードウェア的には発売時点で完全に1年遅れのハイエンドモデルとなってしまいます。

無論、ドイツを代表する光学機器メーカーであるカールツァイス・オプティックス(※日本では京セラが製造を担当した「Contax」ブランドのカメラへの搭載や、ソニー製ビデオカメラなどへの技術供与による搭載で知られます)の手になる光学系を備えた20メガピクセル級メインカメラユニットの搭載や、有機ELでフルHD解像度を実現した5インチディスプレイパネル(※メーカー非公表)の搭載など、「おっ」と思わせるような要素ももちろんありますし、トータルで見るとAndroid搭載ハイエンドスマートフォンでこれくらいバランスの取れた機種はそれほど多くないのですが、それにしても決定的なアドバンテージを備えているとは言いがたいでしょう。

しかし、この機種には別の部分に新機軸があります。

Windows Phone 8.1の搭載

この機種最大の新機軸、それはWindows Phone 8.1の搭載です。

Windows Phone 8.1は、元々PDA(Personal Digital Assistant)のためのOSであったWindows CEをベースにして泥縄式に開発されたWindows Phone 7、そのアップデートバージョンであるWindows Phone 7.5およびWindows Phone 7.8、それにWindows 8(Windows RT)をベースとして実質新規開発されたWindows 8、と続いてきたWindows Phoneの最新版で、Windows Phone 8のマイナーアップデートバージョンにあたります。

ちなみに、Windows PhoneおよびWindows RTでは、ドライバ開発のリソース集約の関係から対応チップセットの選択肢がAndroid搭載スマートフォンよりもかなり狭くなる傾向(※Windows RTマシンの搭載プロセッサで実質的にTegra3かSnapdragon S4の2択の状況が長く続いたのもこれが原因です)があり、そのためノキア製Windows Phone搭載スマートフォンでは何と昨年5月発表のハイエンド機であるLumia 925まで延々とデュアルコアのSnapdragon S4が搭載され続けたほどでした。

Snapdragon 800の搭載でさえ、先に記した2月発表のLumia Iconでやっと実現したばかりもので、つまりその頃までこのプロセッサのためのドライバが提供されていなかったということになります。

最新プロセッサを搭載したくとも、OS側に対応ドライバが用意されていない/対応が遅れるために端末メーカー側ではいかんともしがたい、という状況をノキアの技術陣がどのように考えているのかはわかりませんが、このあたりのMicrosoftの対応の異様な鈍さこそが、Windows Phoneが商機を逸してきた最大の理由ではないでしょうか。

新鮮みの薄いWindows Phone 8.1

なお、音声認識であるパーソナル・アシスタントであるCortana(コルタナ)の搭載を最大の特徴とするこの新OSは、日本では前身でありWidows Phoneとしては久々の大規模メジャーアップデートとなったWindows Phone 8を搭載したスマートフォンが大手キャリアから全く発売されなかったためもあって、一部のマニア層を別にするとほとんど話題にもなっていません。

日本でWindows Phone 8が全く採用されなかった理由は明らかになっていませんが、ともあれそんなWindows Phone 8のマイナーアップデートバージョンとなるWindows Phone 8.1では、Windows 8以降のMicrosoft製OSで標準となったModern UIがほぼそのまま踏襲されていることもあって、見た目や表面に現れている機能レベルでは新鮮味はほとんどありません。

実際にはWindows Phone 8からの変更点や新規追加機能を確認すると結構な数が列挙されているのですが、それらはほとんどがiOSやAndroidの改良や新機能に追従するものに過ぎない(※例えば新規追加機能である「Action Center」は見た目も含めてiOSやAndroid、中でも特にAndroidの通知バーそのもので、有用であることは間違いないものの何ら新しい提案はありませんし、今回の目玉とされている「Cortana」も本質的には機能を聞いて思い浮かべるiOSやAndroidの同等機能の後追い模倣の域を出るものではありません)と切って捨てることさえできそうな状況であったりします。

それでも、今までのWindows Phoneが作り込みが雑で機能が他のライバルOSと比較して決定的に不足するなど、お世辞にもできが良いと言えない程度にはひどい代物であったことを思えばずいぶんまともになったと言え、その点では評価に値しますし、一気にそこまで遅れを取り戻したOSメーカーとしてのMicrosoftの開発力のすさまじさを思い知らされもします。

しかし、それでさえ3周遅れだったのがようやく周回遅れ無しで背中が見えるようになってきた程度のものでしかなく、ライバルから遅れていることには変わりはありません。

未完成なModern UIに固執せざるを得ない訳

前世代のWindows Phone 8と同世代のパソコン版WindowsであるWindows 8(RT含む)がWindows 8.1、さらにはそのUpdate 1を経てもなおModern UIおよび従来のデスクトップUIによるユーザーインターフェイス(UI)の完成度の低さに多々苦情を寄せられ続けていることでも明らかなように、Windows Phone 8/8.1のホーム画面に採用されているModern UIは、タイルウィンドウ表示による画面デザインが個性的で他と際だった違いを見せる一方で、UIとしての完成度では控えめに言っても未だ及第点を与えうるレベルに達していません。

にもかかわらず、Microsoftはユーザーエクスペリエンスの統一を理由としてメーカー各社にホーム画面として自社独自の「使いやすい」UIを搭載することを許していません。

これは、Microsoftが.NET Frameworkと呼ばれるWindows向けアプリ開発・実行環境で動作するマネージコード(managed code:中間言語コードの一種)を基礎として、デスクトップパソコン、タブレット、それにスマートフォンのアプリ開発を統合し、最終的にどのマシンでもWindowsストアで販売される同じコードで書かれたアプリが同じように動作するようにする計画を持っている(※実際に同社の提供する開発環境であるVisual Studio 2013 Update 2リリース候補版で、「Universal Project」と称して1つのパッケージとして共通ユーザーインターフェイスによるユニバーサルWindowsアプリの開発を可能とする機能の提供が発表されています)ことが原因の1つです。

どのOSでも同じようにアプリが動作するようにするには、各アプリが利用するAPI(Application Programming Interface)やサービスがどのOSでも同じように動作することが保証されていなくてはなりませんから、少なくともデスクトップパソコン/タブレット向けWindowsで突然Modern UIを放棄して新UIを採用するようなことにでもならない限り、Windows Phoneは何が何でもModern UIをホーム画面のUIとして固定しておかざるを得ないのです。

ストアアプリのユニバーサル化は確かに重要だが・・・

筆者個人の感想としては、ストアアプリのユニバーサル化という方向性は正しいと思いますし支持もしますが、タイルUIは黎明期のWindows 1.03で触って以来、操作体系として一度として好感が持てたことのないものなので、このWindows Phone 8.1を含めModern UIはさっさと「なかったこと」にして別のUIを用意して欲しいところです。

Windows 8.1のUpdate 2でWindowsストアアプリをデスクトップ画面上にウィンドウ表示する(※つまり普通のデスクトップ環境向けアプリと同様の表示・利用が可能となる)機能のサポートが予告されていることなどから、少なくともデスクトップ版Windowsの開発チームはModern UIがWindows 8の開発時点での当初想定以上にユーザーに激しく拒絶され、厳しく批判されている現状を把握し、そのことに一定以上の危機感を抱いているものと推測できますが、それでもModern UIそのものを止められないところから判断するとこのUIの採用はMicrosoft本社の方針で、ストアアプリのユニバーサル化を理由として、恐らく今後も長期間に渡ってWindowsへのこのUIの搭載が続くものと考えられます。

Android搭載版が欲しい

ハードウェアとしてみた場合、このLumia 930は遅れてきただけあって、5インチフルHDディスプレイ搭載のハイエンド端末としてプロセッサが若干古いもののそれ以外は充分に及第点を与えられる、いやこのクラスの機種としては良くバランスの取れた完成度の高い機種であると言えます。

それだけに、OSがWindows Phoneであることが最大のネックとなる(※無論、Windows Phoneユーザーにとっては待望の機種であるのでしょうが)と考えられ、個人的にはブランドを変えるなどしてハードはそのまま、あるいはプロセッサだけSnapdragon 805に変更するなどした上でAndroid 4.xを搭載したモデルを出した方がよほど売れるのではないだろうか? などと考えてしまいます。

もちろん、今後Microsoftに完全に吸収合併され同社の一部門となる(※ブランド名は当面存続することが発表されています)予定のノキアの携帯電話部門の立場ではそんな製品は間違っても出せないのでしょうが、そつなくまとまったハードを見ると、「これは惜しい。この機種のAndroid搭載版が欲しい」と思わずにはいられません。

NOKIA LUMIA 930

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