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「カノジョ」は予想以上に「重かった」~『VRカノジョ』に見るハードウェア要件の壁~

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by [2017年7月11日]

『VRカノジョ』トップ画面細かな画質設定などはここに用意されている「コンフィグ」で行える

『VRカノジョ』トップ画面
細かな画質設定などはここに用意されている「コンフィグ」で行える

VR(仮想現実)デバイスの普及にあたって、何らかのキラータイトルが必要だというのは様々なところで指摘されてきた課題の1つです。

例えば、ファミコンの初期の爆発的な普及にロードランナー(ハドソン)やゼビウス(ナムコ)がどれほど大きく貢献したかや、初代PlayStationの勝利にローンチソフトであったリッジレーサー(ナムコ)やそれに続く鉄拳(ナムコ)が果たした役割の大きさを見れば、言わば起爆材となる大型タイトルの重要性は議論の余地もないでしょう。

実際Oculus RiftやHTC Viveの普及状況を見ていても、「このソフトを遊びたい。だからこれを買う」という積極的に購入を肯定する要因を欠いていることが、それらの(接続されるPCを含めた)あまりの高価さと共に普及の障害となっていることは明らかです。

筆者の周囲における過去の例を見ても、遊びたい魅力的なソフトが既に提供されているのならば、ユーザーは自身の購買力の限りを尽くしてでもそのソフトを動作させる環境を手に入れようとしてきた訳で、キラータイトルはプラットフォームそのものの成功の鍵です。

※例えば筆者の大学時代の知人には、ほぼWindows 95版のアダルトゲーム『To Heart』(Leaf)を遊ぶためだけにNECのPC-9821Aシリーズを別途購入したMac使いがいましたし、アドバンスド大戦略 ドイツ電撃作戦(セガ)を遊ぶためだけにメガドライブを買った先輩やサムライスピリッツ(SNK)を遊ぶために必死でバイトしてNEO-GEO本体を追加のコントローラと共に買ってしまった先輩もいました。1本でも没頭して遊べる魅力的なタイトルがあれば、そのハードの普及率とか他のソフトのラインナップなど無視出来ますし、そのハード本体の価格も人は力ずくで乗り越えてしまうのです。

VRデバイスについては、ようやく主立った開発者たちの手にある程度以上行き渡ったかどうかといった状況で、キラータイトルが出てくるとすれば恐らくこれからということになるのですが、そんなVRデバイスのキラータイトル候補として初期から注目を集めてきたものの1つに、VRカノジョ(イリュージョン)というアダルトゲームがあります。

VR技術を用いて(仮想の)「カノジョ」を全方位から眺めふれ合おうというそのあまりにあまりな、直接的に過ぎるというか正直過ぎるというか、身も蓋もないタイトルのこの作品、先行して行われた体験版配布の段階から大きな注目を集めていて、2017年2月末の発売直後には(ダウンロード販売のための)イリュージョンのサーバがダウンしてしまうという凄まじい状況となりました。

今回はこのゲームを実際に購入し遊んだ筆者自身の体験について、避けるべきところは避けた上でご紹介したいと思います。

基本的にはVRデバイスの要求スペックに準じるのだが…

この種のVRコンテンツで何よりも気になるのは、自分の使っている環境でちゃんと動作するのか、という問題でしょう。

そしてこのVRカノジョでも当然のようにOculus RiftやHTC Viveで示されているのと基本的には同等の「動作環境」が提示されています。

※ただしOculus TouchあるいはVive Controller、つまりVRコントローラの使用だけは別途推奨されています。

まぁ、VRデバイスの動作環境以下というのは示せませんから考慮しないとしても、より高いスペックを要求していないというのは正直ちょっと意外です。

もっとも、イリュージョンのVRカノジョ公式サイトの「動作環境」ページを見ると、「動作確認結果」としてかなり高いスペックのマシンでのベンチマーク結果が提示されていて、メーカーの本音としてはそのあたりの高性能GPU・CPUを搭載したマシンを暗に要求していることが伝わってきます。

具体的に言えば、この欄ではNVIDIAのGeForce GTX 1070 8GBやGTX 1080 8GB、GTX970 4GB、それにRADEON RX480 8GBをIntel Core i5・i7の6000番台モデルを搭載したマシンでのベンチ結果が示されています。

そしてそのベンチマークスコアを見るとFPS、つまり描画のフレームレートも併記されているのですが、GeForce GTX970 4GBとRADEON RX480 8GBの結果には補足としてそれぞれ「ハイクオリティ、Render Scale:70%」か 「クオリティ、Render Scale:90%」で ☆☆☆ (FPS:89)になりました。」 「ハイクオリティ、Render Scale:50%」か 「クオリティ、Render Scale:90%」で ☆☆☆ (FPS:89)になりました。 」と書かれていて、最近では(中古も含め)割と入手しやすくなったこれら2機種では要求される性能をフルに満たせず一定の妥協が必要であることが示されています。

つまり、このクラスのGPUでは「カノジョ」は満足してくれないのです。

言い替えるならばこうです。

すなわち「カノジョと満足に付き合いたいなら、せめてGeForce GTX 1070 8GBクラス以上のGPUを持って来い」と。

カノジョと付き合うために

以前の筆者が書いたVR関係の記事をお読みになった方にはご記憶の方もおられるかと思いますが、筆者のVR環境は実は諸事情で使用しているOculus Riftの要求する動作環境を完全には満たしていません。

それでも様々な更新の努力を経て、CPUについてはOculus Riftを使い始めた頃と比較して一世代以上後のものに置き換える事に成功したのですが、後一歩も二歩も手が届いていないような状況でした。

具体的に言うと、こんな感じでした。

・CPU:Intel Xeon E5-2650(2.0GHz 8コア)×2
・メモリ:PC3-12800R DDR3 DIMM 8GB ×16 = 128GB
・GPU:AMD RADEON RX480 8GB

CPUについては搭載メモリの都合もあってちゃんと買い換えると大変に怖い価格になってしまうのでとりあえずこれで妥協するとして、問題はGPUです。

※筆者の日常的なパソコンの使用状況として大容量のメインメモリが必要で、そうすると各VRデバイスの要求する性能を満たすとなるともの凄い価格になってしまうためです。ちなみに筆者の部屋の都合上、別途VR専用マシンを用意するというのも厳しい状況で、このため無理を承知でこの環境を使用しています。

AMD RADEON RX480(上)とRADEON R9 290(下)下のRADEON R9 290がOculus RiftやHTC Viveの推奨環境の最下限に位置するグラフィックスカードであり、これと同等程度の性能を発揮するRADEON RX480も同様にVR環境で利用可能と期待できる。ただし、消費電力の点ではRX480の方が圧倒的に有利であり、またローカルメモリ容量も倍の8GBであるため複雑なデータを扱う際には若干有利になる

AMD RADEON RX480(上)とRADEON R9 290(下)
下のRADEON R9 290がOculus RiftやHTC Viveの推奨環境の最下限に位置するグラフィックスカードであり、これと同等程度の性能を発揮するRADEON RX480も同様にVR環境で利用可能と期待できる。ただし、消費電力の点ではRX480の方が圧倒的に有利であり、またローカルメモリ容量も倍の8GBであるため複雑なデータを扱う際には若干有利になる

RADEON RX480は以前の記事でもご紹介しましたが、それなりに安くて高性能で普通のVRコンテンツを利用するならばCPUが非力な筆者の環境でもそこそこ「見られる」VR体験を提供してくれる、最近の秋葉原では仮想通貨マイニングのGPGPU用途目的で外国からやって来たお客さん達がもの凄い枚数をまとめて買い漁ってゆく程の優れものです。

※ただしこれは、本来の3Dグラフィックスデバイスとしての性能もさることながら、GPGPUとしての機能・動作にGeForceシリーズのような(GPGPUに特化した製品であるTeslaシリーズを売らんがための)おかしな制限がなく、GPGPU機能をメインで使用する場合のコストパフォーマンスに優れていることが主因です。

しかし、先にも触れたとおりイリュージョン公式サイトの示すベンチ結果ではこれは「一応動くけどもうちょっとマシなのを持って来な!」と言わんばかりの扱いで、CPUにかなりのハンデを抱える筆者の環境では相当厳しそうです。

玄人志向 GF-GTX1070-E8GB/BLF玄人志向が販売していたGeForce GTX 1070 8GB グラフィックスカード。取り立てて目立った特徴はないが、外排気仕様で筆者の環境では扱いやすかった事もあってこのカードを選択した

玄人志向 GF-GTX1070-E8GB/BLF
玄人志向が販売していたGeForce GTX 1070 8GB グラフィックスカード。取り立てて目立った特徴はないが、外排気仕様で筆者の環境では扱いやすかった事もあってこのカードを選択した

そこで、色々悩んだ末にRADEON RX480 8GBを売り払い、丁度出物があったGeForce GTX 1070 8GBに買い換える事にしました。

予算があればより強力なGeForce GTX 1080やGTX 1080Tiのいずれかを買うところですが、そんな予算はどこを振っても出ないため、消去法で残ったのがこの機種でした。

もっとも、消去法はともかくとして、RADEON RX480(あるいは同じコアを使用する後継のRADEON RX580)よりも高性能な機種でコストパフォーマンスを優先すると、記事執筆時点ではこれ以外に選択肢が無いというのが実情です。

SteamVR パフォーマンステストを筆者の使用しているマシン環境で動作させた結果GeForce GTX 1070へGPUを換装した後はご覧のとおり忠実度がほぼ「非常に高い」に張り付いたままとなっており、現在のVRデバイス動作ではこのクラスのGPUでようやく及第点扱いであることが見て取れる

SteamVR パフォーマンステストを筆者の使用しているマシン環境で動作させた結果
GeForce GTX 1070へGPUを換装した後はご覧のとおり忠実度がほぼ「非常に高い」に張り付いたままとなっており、現在のVRデバイス動作ではこのクラスのGPUでようやく及第点扱いであることが見て取れる

また、これだけ重いVRソフトで実質的な推奨となっているからには、GPUについてはこれが実用上の最下限と考えておいた方が良いでしょう。

ちなみに、GeForce GTX 1070の購入後にSteamVRのパフォーマンステストを実行してみると、RADEON RX480だと平均忠実度 6.3(高い)でかなりぎりぎりでVRレディ扱いだったのに対し、GeForce GTX 1070では平均忠実度 10.7(非常に高い)でゲージが振り切れた状態でのVRレディ扱いとなっています。

ともあれ、これで今後CPUやマザーボードなどを買い換えるとしても、少なくともGPUについては当面性能不足の言い訳をせずとも済む事になります。

いざ動かしてみると…

そんな訳で諸々の準備を終えてイリュージョンのサイトにてVRカノジョの購入手続きとダウンロードを行い、インストールを行います。

なお、公式サイトではDLC(DownLoad Contents)の配布やアップデートの情報が公開されていますので、インストール後も適宜巡回閲覧するなどして確認をした方が良さそうです。

※記事執筆時点では大型無料DLCとして「お風呂で遊ぼう」という何というかあまりにあまりなタイトルのDLCが提供されています。このあたりはアダルトゲームならではと言うべきでしょうか。ちなみに、これらのDLCやアップデートファイルの情報は購入にあたってユーザー登録する際にメールアドレスを登録しておけばそちらに イリュージョン特別会員メールといった形で他の同社製タイトルのアップデートファイルなどの情報と共に案内が行われるようになっています。

ちなみにアップデートは購入直後のバージョン1.00の段階ではアプリ上から行えず、まず「初期設定」の「Webマニュアルを読む」から「アップデート」で案内されている(初期設定パネルの)アップデートプログラムをダウンロードして適用する必要がありますが、適用後は初期設定画面左下に「アップデートを確認する」「アップデート」「中止」の3つのボタンが表示されてアプリ上でのアップデート確認・適用が行える様になっています。

「VRカノジョ」初期設定画面「はじめに…」として細々とした注意書きが並ぶのは18歳未満禁止のアダルトゲームならでは。この初期出荷状態では画面左下のアップデートに関わるボタンは表示されていない

「VRカノジョ」初期設定画面
「はじめに…」として細々とした注意書きが並ぶのは18歳未満禁止のアダルトゲームならでは。この初期出荷状態では画面左下のアップデートに関わるボタンは表示されていない

ダウンロードを終えてインストールし、VRカノジョを起動してみると、Windowsのデスクトップ上に初期設定パネルが表示されます。

ここでは(ミラーリングを行う場合の)画面解像度、Render Scale(レンダースケール)、Tracking Type(トラッキングタイプ)、ミラーリングの有無が設定できるようになっています。

※VR機器の位置取得方法のこと。事実上着座前提のOculus Riftでは関係ないのですが、HTC Viveの場合は立ったままでのプレイも可能であるため、ここで選択・指定するようになっています。

実際にVRデバイスで出力される画面解像度そのものは固定であるため、ここで画面解像度を変えても負荷軽減にはあまり役に立ちません。それはレンダースケールで変更するようになっています。

レンダースケールって何だ、という話になるのですが、要はOculus RiftなりHTCの画面の実解像度に対して、VRアプリ側が描画する画面解像度が何パーセントに当たるかを設定するものです。

これにより比率が低く50パーセントに近づくほど、映像出力の解像度は低くなって、VRデバイス側ではそれを拡大表示する(つまり実際の描画が粗くなる)ことで帳尻を合わせる仕組みです。

当然ながら、VRアプリでレンダリング出力する画面の解像度が50パーセントになると画面を構成する画素数がそれだけ減少するため、1フレームあたりの描画にかかる負荷はそれだけ軽減され、コマ落ちのないスムーズな描画が可能となります。逆に言えばそれだけ画面が粗くなるためVR体験としてはいささか残念な画面になってしまう訳で、実際にも50パーセントに設定するとジャギーの激しく現れたキャラクターとご対面することになります。

※先年公開されたアニメ映画『楽園追放 -Expelled from Paradise-』で、高速通信ゲート通過時にもの凄いローポリゴンというかキューブを積み重ねたものに簡略化したテクスチャを貼った状態になるシーンがありましたが、あれは極端としても、ポリゴンによる3D描画で1フレームに使える演算リソースを減らす事の影響は、見た目の部分に割とすぐ判る形で現れます。

なお、このレンダースケール設定は基本的には50パーセント、70パーセント、90パーセント、それに100パーセントの中から設定するようになっていて、デフォルト値は100パーセントなのですが、恐ろしい事に「技術デモ」と称して倍率200パーセントも選択できるようになっています。

もっとも、200パーセントに指定したからと言ってVRデバイス本体の解像度(100パーセント)以上の画素数でのレンダリング結果を入力してもそれ以上になる訳ではなく、実用上は只単に相当なフレーム落ちに見舞われるだけであるため、本当に「技術デモ」の域を出ません。

ちなみに、筆者の環境で試した範囲では、キャラクターがワープするレベルのもの凄い処理落ちが起きており、CPUに相当な過負荷がかかっていることが否応なしに理解させられました。

この機能は、将来このクラスの解像度のディスプレイパネルを搭載したVRディスプレイデバイスが登場した際にはこの位の負荷がかかってこんな感じの挙動になるよ、ということを知る上では色々示唆的です。だからこそ「技術デモ」として搭載されたのでしょう。

1つの到達点

ヒロインというか作中で事実上唯一の登場人物である夕陽さくら(ゆうひ さくら)嬢

ヒロインというか作中で事実上唯一の登場人物である夕陽さくら(ゆうひ さくら)嬢

さて、肝心のゲーム本体について…と言いたいところですが、遺憾ながらこのゲームは18歳未満禁止のアダルトゲーム、所謂エロゲーに分類される作品です。

そのため、本記事ではそのゲーム内で誰が何をしてどうなっているのかについては、具体的には申し上げないことにいたします。

ただ、エロの要素を抜きにすると、そして決して充分とは言えない性能のマシンで動作させてもなお、その基礎的な部分の凄みはひしひしと伝わってきており、このゲームは現在のVR技術において1つの到達点、あるいは1つのリファレンスたり得るだけの凄まじい完成度を実現していると言えます。

もちろん、今の技術でできる事にも限界はあるため、特に登場人物である夕陽さくら嬢の挙措などに微妙に違和感を覚える部分があるのですが、これは時間が解決する類の話と考えて宜しいでしょう。

何より、いわゆる「不気味の谷」の問題を殆ど意識させないのですから大したものです。

ただ、その代償に莫大なプロセッサパワーを要求するゲームであるのは間違いなく、今回の筆者の環境では止め絵としてみると全く問題ないのにVR機器を介して表示するとコマ落ちを、単位時間あたりの表示枚数が全体の半分以下になってしまうレベルのそれを起こしてしまいました。

正直、この状態から普通に遊んでいてコマ落ちが起きないレベルまで性能を引き上げる上で必要となるプロセッサパワーの莫大さを考えると頭が痛い限りです。

▼参考リンク
VR専用ゲーム『VRカノジョ』公式サイト

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