GIGABYTE GA-AX370-GAMING 5Ryzen発売のタイミングで発売されるSocket AM4搭載マザーボードの例。USB3.1やNVMeなど、最近のマザーボードで流行しているインターフェイス規格は一通り抑えられている。

VRへの対応に必要な最後のピース ~AMD Ryzenプロセッサを見る~ 後編

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by [2017年3月09日]

前編ではAMDの新CPUである「Ryzen」がどのようなCPUであるのか、それがどのように見られているのか、あるいはどうやって開発されたのかを見てきました。

後編ではその「Ryzen」の性能の一端について考えてみたいと思います。

Ryzenは何故そこまで性能を上げられたのか(承前)

ここまで、Ryzenの開発に関わってきたジム・ケラー氏の事績※注8についてみてきましたが、実のところRyzenの高性能を支えているのは、こうした一握りの天才の仕事だけではありません。

 ※注8:なお、ジム・ケラー氏はRyzenおよびこれと共用部分の多いARMv8系プロセッサである「K12」の開発を終えた後、2015年末に再びAMDを退社しており、現在は電気自動車で有名なテスラモーターズに移籍、同社の自動運転ハードウェアエンジニアリング担当副社長に就任しています。

グローバル・ファウンドリ社公式サイト7nm FinFETプロセスについての言及があるなど、最新製造プロセス開発の様々な動きが紹介されている

グローバル・ファウンドリ社公式サイト
7nm FinFETプロセスについての言及があるなど、最新製造プロセス開発の様々な動きが紹介されている

AMDが半導体製品の生産を委託しているGLOBALFOUNDRIES (グローバルファウンドリーズ)社※注9をはじめとするファウンドリ各社の半導体製造プロセス技術が進歩し、14nm FinFETプロセス(14LPP)でのチップ量産が実現したことの影響もまた、非常に大きいのです。

 ※注9:元々はAMDの半導体製造部門を分社化し、アブダビ首長国の投資企業の資本参加を得て成立した半導体製造企業で、その後のチャータード・セミコンダクター社の合併・IBMの半導体事業買収によって世界第2位のファウンドリ企業となっています。こうした企業規模の拡大は、同社が最新の半導体製造プロセスを導入・実用化にする際に必要となる設備投資のための資金調達に少なくない影響をおよぼしています。

ファウンドリ各社による14nm/16nm世代の半導体製造プロセス実用化は、2015年秋のApple iPhone 6s/6s Plusに搭載のA9プロセッサでサムスンの14nm LPEと呼ばれる14nm FinFETプロセスとTSMCの16FFと呼ばれる16nm FinFETプロセスで製造されたチップが混在していたことで知った方も少なくないと思います。

実際2015年秋の時点では、14nm/16nm FinFETプロセスは種類によらず、わざわざチップそのものの設計を各社のプロセスに合わせて再設計してでも両方の工場で作れるようにしなければ、歩留まりその他の理由でAppleがiPhoneなどに必要とする数のチップが供給できない状況だったのですが、そこから1年以上経過した2017年初頭の段階では、グローバルファウンドリーズ社を含む各社で、比較的安定してこれらのプロセスによるチップが作れるようになってきています。

圧倒的だったIntelの半導体製造プロセス開発力とその限界

これまで、Intelが圧倒的とも言えるパフォーマンスでx86系CPU市場に君臨し続けられた背景には、同社が常に他のメーカーよりも新しい、より微細化した半導体製造プロセスを用いて製品を開発できてきたことがありました。

極論すれば、多少設計が良くなくとも半導体製造プロセスが1世代も2世代も先行していれば、そんな設計上のビハインドは性能・生産コストの両面で簡単にひっくり返せてしまう※注10のです。

 ※注10:例えば2世代も進めばチップサイズは概ね1/4程度に縮小されますから、消費電力の低減・動作クロック周波数の引き上げが楽に実現でき、対抗企業による設計上の工夫によるそれらのアドバンテージは簡単に打ち消せてしまいます。

もちろん、そうした新しい製造プロセスの開発・導入には莫大な設備投資が必要で、実際Intelはこれまでその巨額の利益のかなりの部分をそうした半導体製造技術の開発に投じてきました※注11

 ※注11:こうしたIntelの設備投資は本当に莫大な金額を費やして行われており、そうして半導体製造装置メーカーに投じられた資金は、それらの企業が新しい技術開発を行う大きな手助けとなってきた、つまり半導体産業全体の進歩や発展に貢献してきたという一面があります。

こうしたアドバンテージは、32nm、28nm、22nmプロセスあたり位までは紆余曲折もあって泥縄式の対策が講じられたこともあったりしたものの有効に機能してきたのですが、それが14nm FinFETプロセスあたりになってくると、そろそろそこから先へ進むことが、恐ろしく難しくなってきました。

実際、今後実用化が予定されている7nmプロセスにおいては、ここまでの製造プロセスシュリンクに大きく貢献してきたアルゴン・フッ素エキシマレーザー光源を用いた液浸多重パターニング技術では回路パターンのチップ表面への露光が上手く行かない可能性が示唆されていて、より波長の短いEUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外線)を光源として用いるという、ほとんどSFのような手法の導入が検討されているのですが、このEUV光源はその発光自体が恐ろしく高価かつ巨大な機材を要し莫大な設備投資が必須となっていて、しかもあまりにも微細化が進んだ結果、これまで想定もされていなかったような原子の振る舞いがチップ製造の欠陥問題に関わってきて本格的な導入の障害となってしまっている様な状況です。

つまり、これまでIntelが苦労して得てきた製造プロセスのアドバンテージは、こうした立ちはだかる障害を前にして足踏みしている間にどんどん喪われていて、気がつくと同程度か、良くても0.5世代先程度のプロセスルールによるアドバンテージしか得られないような状況となっていたのです。

現行のIntelで最新の製造プロセスルールは、Kaby Lakeマイクロアーキテクチャによる第7世代、その一つ前のSkylakemicroアーキテクチャによる第6世代、そして更にもう一つ前のBroadwellマイクロアーキテクチャによる第5世代のそれぞれCore iシリーズプロセッサの製造に用いられている14nmプロセスですが、今回のAMD Ryzen 7プロセッサの生産に用いられているのも、ファウンドリの違いによる様々な相違はあるにせよ、同じく14nmのプロセス※注12なのです。

 ※注12:もちろん、現在開発中の10nmプロセスが実用化されれば再び差が開いてIntelが優位性を得られる可能性がありますが、グローバル・ファウンドリーズも同様に7nm・10nmプロセスの開発実用化に邁進しており、Intelがアドバンテージを得られる保証はありませんし、得られても短期間に終わる可能性があります。

その観点では、ジム・ケラー氏の復帰でアーキテクチャ開発での大きな進展があり、さらにIntelと真っ向勝負できる半導体製造プロセスを手にすることができたRyzen 7の性能が、初代Core iプロセッサ以来漸進的に改良を進められてきたIntelの現行Core i7と比較して拮抗あるいは凌駕していたとしても何ら不思議はなく、この系統のプロセッサとしては大方10年ぶり位の完全新規設計によるCPUコアを搭載し、パーセプトロンを応用した分岐予測機能などその間に新たに得られた知見が多数設計に盛り込まれたこのプロセッサが高性能なのは、ある意味当然であるとすら言えます。

Core iプロセッサ初代のNehalemマイクロアーキテクチャは、AMDのK8系プロセッサのアーキテクチャ、つまりジム・ケラー氏らが開発を手がけたプロセッサ群を強烈に意識して開発された、2008年当時としては最先端の技術を多数盛り込まれたアーキテクチャでしたが、以後の世代のCore iプロセッサではCore2世代からCore iプロセッサ初代への飛躍の際の様な抜本的な改良はあまり見られず、むしろ途中からCPUに内蔵されるようになったGPUの改良の方にばかり目が行くような状況が長らく続いていました。

もちろん、そうした状況下でもCPUコアに大きく手を入れない範囲でAVX2命令の追加などブラッシュアップが繰り返されてきた訳ですが、今回リークされ始めているRyzen 7との比較によるベンチマークテストの結果を見る限り、殆ど同じ土俵(半導体製造プロセスルール)での産品による比較であることも勘案すると、そろそろそうしたCPUコア設計の細かなブラッシュアップによる延命も限界を迎えつつある様に思います。

今後予定されている10nm、7nmプロセスの実用化が遅れた場合、あるいはIntelがCPU性能でAMDに完全に追い越されてしまう可能性も、充分ありうるでしょう。

付け加えて言えば、今回のRyzen 7は内蔵GPUを持たない、純然たるCPUですが、ここにAMDの持つもう一つの柱、つまりGPUのRADEONシリーズで採用されている技術に基づく、AMDの言うAPUとしてのRyzenが市場に投入されれば、元々GPU性能・技術ではビハインドの立場にあったIntelのプロセッサでは全く勝ち目が無い、といった状況に陥ることもあるかもしれません。

Ryzenに死角はないのか

GIGABYTE GA-AX370-GAMING 5Ryzen発売のタイミングで発売されるSocket AM4搭載マザーボードの例。USB3.1やNVMeなど、最近のマザーボードで流行しているインターフェイス規格は一通り網羅・サポートされている

GIGABYTE GA-AX370-GAMING 5
Ryzen発売のタイミングで発売されるSocket AM4搭載マザーボードの例。USB3.1やNVMeなど、最近のマザーボードで流行しているインターフェイス規格は一通り網羅・サポートされている

ここまで、Ryzenの優位性についてご紹介してきましたが、AMDのプロセッサには、それこそK6の昔からつきまとってきた不安要素があります。

それは、AMDは伝統的にチップセットを自社開発するのが苦手な会社だということです。

Intelは286/386時代の82340シリーズチップセットに始まって、今に至るまで恐ろしいほどの数・種類のチップセットを市場に供給してきました。その中には時代を先駆けるような、あるいはその後の標準を確立した様な技術が導入された製品が多数あって、ことにUSBの普及にあたってIntel製チップセットが果たした役割は非常に大きなものがありました。

一方、AMDはK6の頃まで自社でチップセットを開発したことがほとんどなく、その後も台湾VIAの開発したチップセットをOEM供給により販売したりしていて、CPUソケットだけでなくCPUの通信プロトコルも何もかもが変更されたK7の時にようやく、それも他に選択肢が無い状況で初めて自社製チップセット(AMD-750)を開発したような状況でした。

しかもその自社製チップセットには色々問題があって、K8のために後継となるAMD-8000チップセットを開発した際には、仕様上動作する筈のUSB 2.0や100BaseTX LANのコントローラ(NIC)が正常動作せず、USBは2.0としてのEHCIコントローラ機能を殺してUSB 1.1相当として動作させ、LANはそのまま無かったことにして別付けのNICを繋ぐという困ったことになっていました。

こうした事情もあって、K8の頃にはAMD純正のチップセットは極力使わず、nVIDIAのnForce4シリーズなどを使うのが定番でした。

ちなみに、このUSBの扱いがやたら下手というのは後にAMDが合併したATi Technologiesも同様で、同社製チップセットに搭載のUSBポートでは様々な怪現象が起きたことが知られています。

そうした経緯もあって、今回のRyzenでCPUソケットをAPUと通常のCPUで共通化してDDR4メモリ対応とし、しかもUSB 3.1対応の新チップセットを開発することを知った古参のマニアたちは「本当にそのUSB3.1、大丈夫なんだろうな」と心底不安に思ったもの※注15でした。

 ※注15:このUSB 3.1 Gen.2コントローラは、下位機種での展開を考慮してかCPUそのものにも搭載されているので、なおのことです。ちなみに件のチップセットの内蔵USB 3.1ポートについては一部のメーカーが事前に自社サーバにアップロードしたデバイスドライバを解析した結果から、AMD単独での開発ではなく、USBコントローラメーカーであるASmediaと共同開発したものであることを示すファイルが発見されている由です。

もっとも、USBについては過去の事例でもそうであった様に、拡張スロットを1本潰して良いのであれば、他社製コントローラを搭載した定評のあるUSBインターフェイスカードをマシンに挿して使うという手がありますから、そこまで不安視する必要も無いのですが。

もっと根源的な問題があるとすれば、それは現状で所謂自作機市場においてRyzenに対応するマザーボードの供給が潤沢とは言いがたく、またその動作に必要となるCPUクーラーの供給・対応もこの期に及んで十分ではない、ということです。

新CPUソケット採用ということは、つまりCPU固定に用いるリテンションメカニズムが変更になる、固定に用いるねじ穴の本数や位置が変わる、あるいはそもそも物理的な寸法・形状が変わるといったことが起きうるということで、CPUクーラーメーカー各社の対応を見ていると、例えば特定ロットから後の製品でSocket AM4に対応するねじ穴を開けたというコメントを出している会社があったりしていますから、店頭で新たにそうしたパーツを購入する際には正しく対応する製品なのかどうか、きちんと確認する必要があります。

まぁ、このあたりの問題は概ね時間が解決してくれる部分があるのですが、初物大好きで人柱志願の方は色々覚悟しておく必要があるでしょう。

VRに与える影響は小さくない

以上、AMDの新CPUであるRyzenについて見てきました。

正直な所を言えば、まさかここまでガチでIntelのメインストリーム向け以上のハイエンドCPUに対抗できる製品を出してくるというのは予想/期待していなかったので、当初ただただ驚いていたのですが、ジム・ケラー氏が開発に参加していたと聞いて納得したことでありました。

これだけ高性能なCPUが、それも従来の競合製品よりも格段に廉価で手に入るというのは全く素晴らしいことで、それはつまりVR向けパソコンを組み立てるのであれば当初目標としていた構成よりも安く同程度の性能を、あるいは目標よりも高い性能を同じ予算の枠内で、それぞれ実現出来ることになります。

AMD RADEON RX480Ryzenと同様グローバル・ファウンドリの14nm FinFET技術で製造されるGPUチップを搭載するAMD製グラフィックスカード。CPUの価格低下は、同じ予算の枠内でこうしたGPUカードの選択肢を大きく広げることになる

AMD RADEON RX480
Ryzenと同様グローバル・ファウンドリの14nm FinFET技術で製造されるGPUチップを搭載するAMD製グラフィックスカード。CPUの価格低下は、同じ予算の枠内でこうしたGPUカードの選択肢を大きく広げることになる

特にミドルレンジのCPUで1万の値段差は同じ予算の枠内でマシンを組むのであればGPUのグレードを1段上げられるため、特にVR用マシンの場合は性能面で相当に大きな影響が生じることになります。

また、ここまで触れてきませんでしたが、Ryzen 7は同格とされるIntelのCore iシリーズプロセッサよりも1段低いTDP、つまりより少ない消費電力で動作する機種があるため、マシンに搭載する電源の性能についても見直しが生じる可能性があります。

つまり、マシンに搭載する電源ユニットを、無理に高価かつ大容量な機種としなくても良いケースがありうるのです。

これも、低予算でVRデバイス対応マシンを組み立てたい人にとっては大きなメリットであると言えます。

そして最後に、このRyzenの登場で在庫処分のためIntel製プロセッサの大幅値下げを行う動きが見られ始めたということは、Intel製プロセッサを用いてVRデバイス対応マシンを組みたい人にとっても大きなチャンスです。

記事執筆時点での為替レートを勘案すると、正直この動きが日本に伝わってもここしばらくの円安進展による輸入パーツの値上がり傾向に相殺されてしまう可能性もあるのですが、いずれにせよこのRyzenの登場はCPU全体の価格を引き下げる大きな要因となることでしょう。

過去にも似た様なことがありましたが、やはり複数のメーカーが競争すると、回り回ってユーザーの利益になるものなのです。

もちろん行き過ぎた競争は駄目ですが、どこか1社が市場を独占した状態が長く続くと、ほぼ確実に技術的な停滞が起きることになるのは確かで、その意味ではAMDさんには今後も頑張って高性能なメインストリーム向けハイエンドCPUを、GPUともども開発製造販売していただきたいものです。

▼参考リンク
New Horizon
AMD Ryzen 7 Release – YouTube
GLOBALFOUNDRIES – the world's first full-service semiconductor foundry
GA-AX370-GAMING 5 (rev. 1.0) – GIGABYTE – Motherboard , Graphics Card , Laptop , Mini-PC , Server , PC Peripherals and more

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