Imagination TechnologiesPowerVR Series 8 XE Plusブロックダイアグラムご覧のとおりGPUの心臓部であるシェーダユニットを束ねたクラスタを最大2セット搭載可能として処理の並列度を強化できる構成である。

Windowsへの対応は? ~PowerVR Series 8を考える~

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by [2017年2月27日]

PowerVR Series 8 XE Plus発表のプレスリリースページ

PowerVR Series 8 XE Plus発表のプレスリリースページ

現在のスマートフォン/タブレット用プロセッサ市場においてGPUは、自社で開発を行っているQualcommやNVIDIAなどを別にすると、ARMのMaliシリーズか、Imagination TechnologiesのPowerVRシリーズの事実上二択となっています。

これは、アーキテクチャを(ARMに金を払えばそのレベルに応じて)公開してもらえるため、ある程度の技術力と優秀なアーキテクトをスカウトなどで確保できればそれはそれでオリジナル設計の機種を開発できるCPUとは異なり、基本的にそのGPUシリーズを開発している各メーカーからIPとして購入するしかないためです。

特に、スマートフォン/タブレット用GPUは一定以上の描画性能を確保しつつ低消費電力性能も求められるためその設計は難しく、実際自社でノートパソコン要CPU内蔵GPUの開発を行っているIntelでさえ、これらの分野向けのプロセッサ、つまりAtomシリーズなどではPowerVRシリーズを搭載した程に、性能と消費電力のバランスを保つのが難しいことが知られています。

実際、サムスンが自社オリジナルのARM v8系CPUコアを開発・搭載したことを公表したExynos 8 Octa(Exynos 8890)ではARMのMali-T880 MP12が搭載されていますし、AppleのAシリーズプロセッサでは一貫してPowerVRシリーズが搭載され続けています。

このようにARMからのライセンス供与を受けているとは言え自社でCPUコアを開発できるだけの技術力のある大手メーカー各社でさえ、GPUだけは餅は餅屋ということか、それを開発しているメーカーから購入している訳です。

もっともこれは、言い替えるとこれらのGPUメーカーから購入したIPを利用するプロセッサの性能は、少なくともGPUについては同一型番のモデルを搭載している機種については、近似している可能性が高いということで、その性能についてある程度の類推予測が可能となります※注1

 ※注1:逆に言えば、自社で独自開発していてその回路規模や構成について詳細を公表していないQualcommのAdrenoシリーズなどについては、シリーズ内での性能のヒエラルキーはある程度予測できるものの、その絶対的な性能は実際に製品が出てみないことには判断がつかないということになります。

そのため、ARMとImagination Technologiesが発表する新GPUの仕様は、以後の各社製スマートフォンやタブレットの新製品の方向性を占う上で重要な意味を持っています。

そんな2社のGPUですが、先日Imagination Technologiesが最新モデルとして「PowerVR Series 8 XE Plus」を発表しました。

今回はこのやたら長いシリーズ名を持つGPUについてみてゆきたいと思います。

PowerVR Series8XE Plus の立ち位置

まず、Imagination Technologiesの製品ラインナップにおける「PowerVR Series8XE Plus」の立ち位置を確認しておきましょう。

まず、大前提としてImagination Technologiesの現行PowerVRシリーズでは、「シリーズ○」として○の部分に世代を示す数字が入り、さらにGPUのグレード、つまり搭載汎用シェーダーのクラスタ数やその構成などによってミドル~ハイエンドモデルである「XT」と価格に敏感な市場向けのエントリー~ミドルレンジモデルの「XE」の2グレードに大別されます。

つまり、今回の「PowerVR Series 8 XE Plus」の場合はPowerVRシリーズとして第8世代、その中でもローエンドからミドルレンジにかけてを担当する下位機種という扱いで、「Plus」とあることから既存の「PowerVR Series 8 XE」のマイナーチェンジあるいは機能強化モデルであることが判ります。

ちなみに今回発表された「PowerVR Series 8 XE Plus」では、1クロック当たり処理可能なピクセル数(pixel per clock:PPC)が4で「PowerVR Series 8 XE」の相当機種であったGE8300と比較して、

  1.  同じくPPC=4ながら演算性能(FLOPS)をGE8300比で2倍に強化しローエンドからミドルレンジまでのモバイルデバイスをサポートするGE8320
  2.  GE8320にロスレス画像圧縮(PVRIC v3)をサポートしYUV 10-bitと称するH.265まで対応する動画ストリーミングハードウェア※注2を内蔵する据え置き端末向けのGE8325
  3.  GE8320/8325比で2倍の演算性能を実現し、ミドルレンジからハイエンドまでのモバイルデバイスでの究極のゲーミング環境を謳うGE8340

の3モデルが公表されています。

 ※注2:YUVは元来アナログテレビ放送のPALおよびSECAM規格で採用されていた映像信号記録方式に由来する技術で、映像の色情報を赤(Red)・緑(Green)・青(Blue)の光の三原色(RGB)で記録せず、輝度信号(Y:ちなみにこのYはCIE色度図のY軸が輝度を示していた事に由来します)と色差信号U(RGB方式で青を示すB信号からYを引いた値にある定数を乗算して得られた値)および色差信号V(RGBの赤を示すR信号からYを引いた値にある定数を乗算して得られた値)の3情報で記録します。

なお、10bit YUVの動画ストリーミング機能に専用のハードウェアが用意されているのは、人間の目の特性に原因があります。

というのは、人間の目は元々明るさ(輝度)の変化に対して敏感で、色の変化に対しては輝度の変化ほどには鋭敏ではないためです。

つまり、莫大な量の情報をやりとりする動画などの場合は、同じ情報量で色を表現する場合、光の三原色それぞれに対し基本的に同じ情報量を割り当てて記録するRGB方式よりも、輝度情報に重点を置いて記録するYUV方式での記録の方がより自然で効率の良い記録が可能となります。もっとも、コンピュータのディスプレイやその内部処理では通常、RGB方式で映像情報を伝送していますから、動画再生などでYUV記録されたデータについては、再生時に画面表示にRGB方式を使用する各種ディスプレイの場合、毎秒画面解像度×30ないしは×60ビットの画面データをリアルタイムでYUV方式から通常のRGB方式に再変換する必要があります。

また、動画データ側がY・U・Vの各信号を10bit記録してある場合、各信号が8bitのRGB方式での表示を行うには、単純に色変換を行うだけでは済まず、色空間内での再配置を行わねばなりません。

テレビ代わりに利用される事の多いセットトップボックスの場合は使用頻度の高い10bit YUVや動画の圧縮・伸張に関わるPVRIC v3のような専用ハードウェアにトランジスタを割り当てた方が効率が良いのは、動画再生に重点を置いた端末の場合、こうしたリアルタイムで常時行われる処理の多さを考えれば当然の話で、これをCPUにソフトウェア的に処理させるのは、消費電力的に見てもあまり賢いやり方ではありません。だからこそ、こうしてこれらの機能を搭載したモデルが設定されている訳です。

登場しない上位シリーズ

これまでPowerVR Series 8では上位機種となるべき「PowerVR Series 8 XT」が発表されておらず、今回の「PowerVR Series 8 XE Plus」に対置されるべき「PowerVR Series 8 XT Plus」も記事執筆時点では発表されていません。

順当に行けば、「PowerVR Series 8 XE Plus」を基本にしてシェーダーなどを量的に増強すれば、それだけでもかなり強力なプロセッサが造れそうな印象ですが、何故かそれは用意されていません。

ただ、今回の発表に合わせて既存の「PowerVR Series 8 XE」として、

 GE8300を基本としつつPPC=8にピクセル処理能力を強化し、YUV 10-bit動画ストリーミング機能およびPVRIC v3ロスレス画像圧縮機能を追加した最上位モデルのGE8430
 GE8430のPPC=4版であるGE8310
 GE8300を基本としつつPPC=1に機能削減したGE8100

と3モデルが追加されており、ピクセル処理能力についてはより強力なモデルと最低レベルの性能のモデルが設定されています。

つまり、GPUとしての演算能力よりもこのあたりの機能の方が重視されているということで、パソコン用GPUとはやや違う市場の特徴が現れています。

また、このあたりのモデルが「PowerVR Series 8 XE」として設定されていることから「PowerVR Series 8 XE Plus」は純粋にGPUのシェーダー性能が強化されたモデルに与えられた、つまり3Dグラフィックス描画機能を強化したモデルのシリーズ名となっていることがわかります。

なお、先にも触れたとおりPowerVRはAppleがiPhone・iPadなどに搭載しているAシリーズプロセッサに組み込まれています。中でもiPhone 5s搭載のA8プロセッサがSeries 6 XT系、iPhone 6s搭載のA9プロセッサがSeries 7 XT系と判明しており、要求性能が高いこともありますが概ね各世代のミドルハイ~ハイエンドクラスのモデルが採用されているようです。

このため、デバイスドライバの互換性その他の事情もあることから、今回の「PowerVR Series 8 XE Plus」も従来機種と同様に次世代のiPhoneやiPad用Aシリーズプロセッサに搭載される可能性が高いと言えます。

PowerVR Series 8 XE PlusとはどんなGPUなのか

メーカー発表のプレスリリースでは前世代との差や相違がどのようなものであるかの相対的な比較説明に注力していて絶対性能での比較としていないため幾分わかりにくいところもあるのですが、この「PowerVR Series 8 XE Plus」は4基の演算ユニット(ALU:Arithmetic and Logic Unit)を一つに束ねて利用するUSC(Unified Shading Cluster Array)と呼ばれる演算ユニットクラスタを、従来は1基のみ搭載としていたのをもう1基追加して2基搭載可能にした、いわゆるユニファイド・シェーダー内蔵GPUです。

Imagination TechnologiesPowerVR Series 8 XE Plusブロックダイアグラムご覧のとおりGPUの心臓部である演算ユニット(ALU)を束ねたクラスタ(USC)を最大2セット搭載可能として処理の並列度を強化できる構成である

Imagination Technologies
PowerVR Series 8 XE Plus
ブロックダイアグラム
ご覧のとおりGPUの心臓部である演算ユニット(ALU)を束ねたクラスタ(USC)を最大2セット搭載可能として処理の並列度を強化できる構成である

つまり、先に触れたGE8320はUSCを1基内蔵、GE8340が2基内蔵のモデルということで、同じ動作クロック周波数で動作させる限りは、後者の方がより高性能となります。

もっとも、これら2機種は先にも触れたとおりYUV 10-bit動画ストリーミング機能およびPVRIC v3ロスレス画像圧縮機能は未搭載で、つまり10bit YUVカラーによるH.265などで圧縮された4K2K動画再生には向かない設計であると言えます。

現状の一般的なスマートフォン/タブレット用ディスプレイパネルで10bit YUV色出力に対応する機種というのは事実上皆無で、用途的にはバッテリー消費を抑える意味でそんな拡張機能は搭載しない方が望ましく、またGPUの生の演算性能を強化した方がゲームなどのアプリではよりニーズに適した利用が可能ですから、これは合理的なシリーズ展開と言えるでしょう。

言い替えれば「PowerVR Series 8 XE」で追加されたGE8430やGE8310、あるいは「PowerVR Series 8 XE Plus」でもGE8325は4K2K解像度のディスプレイに10bit YUV色出力のH.265でエンコードされた動画を再生出力するには好適ですが、2560×1440ピクセル以下の解像度の8bit色出力対応パネル搭載が一般的な現在のスマートフォンで比較的「重い」処理の3Dゲームアプリを動作させるにはあまり適していない※注3と言えます。

 ※注3:GE8320と同じUSCを備える、つまりそれと同じ演算性能を備えるGE8325にはある種の万能性があると言え、セットトップボックスでの3Dグラフィックス多用アプリ動作の可能性を広げるものですが、それとて絶対的な3Dグラフィックス性能ではGE8340に及びません。ただ、ミドルレンジかその少し上くらいの機種で「3Dグラフィックスも高解像度動画再生も」というニーズが存在しているのは確かで、GE8325はその部分のラインナップの隙間を埋めるための機種であると言えるでしょう。

このあたりの用途別機能特化・最適化は限られたバッテリー容量の枠内での動作を前提とするスマートフォン/タブレット用GPUと、外部からの電力供給で動作し、こと消費電力についてはそこまで重視する必要の無いセットトップボックス端末用GPUの求めるものの相違が明確に現れたと言えますが、このあたりの機器でさえかつて10年ほど前にはフォトレタッチなど一部の限られた分野のユーザー以外では全く意識さえされなかった10bit YUV色出力への対応が当たり前になりつつあることには、少々感慨を覚えてしまいます。

いずれにせよ、YUV 10-bitおよびPVRIC v3機能を搭載した各モデルについては、今のところスマートフォンユーザーが意識する必要は全くと言って良いほどありません。

ちなみに、前々世代のハイエンド機種に当たる「PowerVR Series 7 XT」の場合は USCが1基しかありませんが、その代わりALUはその1基のUSCに最大16基内蔵まで拡張可能な設計となっており、単純にシェーダに搭載されている演算ユニットの最大数だけで見れば「PowerVR Series 8 XE Plus」よりも有利ということになります。

Imagination TechnologiesPowerVR Series 7 XTブロックダイアグラムクラスタは1基のみだが、ハイエンドモデルらしく最大16基の演算ユニットを搭載できる構成となっていた。

Imagination Technologies
PowerVR Series 7 XT
ブロックダイアグラム
クラスタは1基のみだが、ハイエンドモデルらしく最大16基の演算ユニットを搭載できる構成となっていた。

もっとも、USCの性能は額面上の演算ユニット数だけでは測りきれない※注4ため、この「PowerVR Series 7 XT」のGPU性能が「PowerVR Series 8 XE Plus」比で必ず良い結果となるという保証はありません。各世代ごとにクラスタ単位での性能向上のための地道な研究開発が続いているため、むしろ逆転してしまう可能性もあるのです。

 ※注4:極端な言い方をすれば動作クロック周波数を引き上げれば同じ演算ユニット数でもより高い性能が実現できます。そのため、例えばALUの搭載数が半分しかなくても2倍速で駆動できればALU数が倍の機種と同程度の性能を得ることが可能です。動作クロック周波数は半導体製造プロセスがシュリンク(縮小)すれば一般に従来よりも高い周波数で動作可能となるため、半導体製造プロセスが20nm、14nm FinFET、10nm FinFETと縮小しつつある現状では、逆に言えば、同世代・同クロック駆動のGPUでALU数が異なる場合は、概ねその数に比例した性能差が発生することになります。

こうした事情から、同一世代ならばともかく、世代の異なるGPU同士で演算ユニット数やクラスタ数を比較しても余り意味がありません。

Windows対応の可能性

さて、今回の「PowerVR Series 8 XE」および「PowerVR Series 8 XE Plus」で興味深いのが、その対応するAPI(Application Programming Interface)がOpenGL ES 3.2, OpenCL 1.2, Vulkan 1.0 and OpenVX 1.1.の各種で、 「PowerVR Series 7 XT」の世代まで設定されていたDirectX 10あるいは11.2のサポートについて言及が一切ないことです。

これは、PowerVRシリーズの大口顧客であったIntelがそれらのGPUを搭載していたAtomプロセッサから事実上撤退してしまったことの影響によるものと推測されます。

言い替えれば、今回の「PowerVR Series 8 XE」あるいは「PowerVR Series 8 XE Plus」の顧客、つまりこれらのGPUを搭載するメーカーの製品では、Windows 10への対応が全く想定も計画もされていないということになります。

先日の記事でも触れましたが、QualcommのSnapdragonシリーズでは最新機種でARM系のコードでネイティブ動作するフルスペックWindows 10のサポートが表明されていますから、少なくとも記事執筆時点では、「PowerVR Series 8 XE」および「PowerVR Series 8 XE Plus」搭載製品がARM版フルスペックWindows 10を搭載あるいは対応する可能性はほぼ皆無と考えて良さそうです。

まぁ、PowerVRシリーズの大口顧客の一つがiOSやOS Xの開発元のAppleであることを考えれば、それはある意味自然な展開と言えますが、あるいは今後、Apple以外の顧客からの要望に応える形でDirectX 11.2あるいは12.0サポートが追加される可能性が皆無ではありません。

実際、今回の2シリーズでは考え方としてはDirectX 12に近いVulkan 1.0がフルサポートされていることから、ニーズさえあればDirectX 9.3・11.2の対応復活と12.0の対応追加は意外と早く実現されるかも知れません。

▼参考リンク
Imagination’s new PowerVR GPUs deliver leading performance in lowest area for mid-range markets – Imagination Technologies
PowerVR Series8XE GPU Family – Imagination Technologies
PowerVR Series8XE Plus GPU Family – Imagination Technologies
PowerVR Graphics Architecture – Imagination Technologies

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