Qualcomm Snapdragon 835製品紹介ページ“Incredible mobile experiences”(信じられないほどのモバイル体験)と豪語する

Windows対応を射程に入れたSnapdragon ~Qualcomm、Snapdragon 835を発表~ 前編

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by [2017年1月30日]

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Qualcomm Snapdragon 835製品紹介ページ
“Incredible mobile experiences”(信じられないほどのモバイル体験)と豪語する

ARM系統合プロセッサ、特にAndroid搭載スマートフォン・タブレットにおいて市場で大きなシェアを握るQualcomm。

2013年頃にはSnapdragon S4の大ヒットで日本で発売される新型スマートフォンのほとんどがこのプロセッサを搭載し、そうでない機種は実はこのプロセッサの供給不足で仕方なく他社製プロセッサを搭載したという噂話が語られる※注1ほどの圧倒的シェアを持っていた同社は、サムスンやMediaTechが台頭した今もなおこの市場で重要な位置を占め続けています。

 ※注1:しかもそれらの他社製プロセッサ搭載機では高発熱が問題となるなどトラブルが頻発し、以後のそれらのプロセッサの採用に悪影響を及ぼしました。こうした、ライバルの自滅もSnapdragonシリーズの圧倒的シェアの背景にあります。

Qualcomm製プロセッサの強みは、自社製プロセッサを開発しているAppleが、こと通信を司るベースバンドプロセッサに限っては今なおQualcomm製チップを採用し続けているほどの通信技術面での優位性・信頼性※注2と、「Krait」「Kyro」と続く自社開発CPUコアの高性能、AMDから手に入れた技術を元に発展させた「Adreno」シリーズと呼ばれるGPUの高性能・高機能、それに企業買収により手に入れた「AptX」技術のライセンス元である点など、すぐ思いつくだけでもかなりあります。

 ※注2:QualcommはCDMA2000方式の開発元でこの方式にかかる重要特許のほとんどを握っているため、この系統の通信方式を3G回線で採用するキャリアへの供給を考慮すると、そうしたキャリアの存在する地域・国向けの製品ではQualcomm以外のメーカーによるベースバンドプロセッサやモデムを採用しづらい状況にあります。

実際、スマートフォンやタブレットのチップセットで特に重要なCPUコア・GPU・ベースバンドプロセッサの3要素全てを自社で開発できるメーカーは他にNVIDIAとIntelがある位※注3で、現在スマートフォン・タブレット市場で有力なメーカーにはQualcommの他に充分な競争力を備えたチップセットを一括で提供できるメーカーはなく、それが同社の大きな強みとなっています。

 ※注3:NVIDIAは、Tegraシリーズとしてモデム/ベースバンドプロセッサを含むスマートフォン・タブレット用プロセッサを製造販売しており、先日には任天堂の次世代ゲーム機「Switch」に同社製プロセッサが搭載されることが発表されています。もっともスマートフォン市場では現在採用例が皆無に近い状況です。またCPUメーカー最大手のIntelも一通りCPU・GPU・ベースバンドプロセッサを手がけていますが充分なシェアが得られず、現在ではスマートフォン・低価格タブレット市場から事実上撤退しています。

こうした事情から2017年初頭の時点で、スマートフォン・タブレット市場では大手を中心にQualcommのプロセッサ・チップセットが圧倒的なシェアを握り続けているのですが、そんな同社がこのほどアメリカで開催されたCESでSnapdragonシリーズの最新作、Snapdragon 835を発表しました。

この機種は従来のハイエンドモデルであるSnapdragon 820よりも高性能とされ、Qualcommの製品ラインナップ上で同モデルを置き換えることになります。

今回はこのSnapdragon 835について考えてみたいと思います。

Snapdragon 835の主な仕様

記事執筆時点で明らかになっているSnapdragon 835の主な仕様・特徴は以下の通りです。

  1. 半導体製造プロセスはサムスンの10nm FinFETプロセス
  2. トランジスタ集積数は約30億個
  3. CPUコアは最大2.45GHz駆動かつ64ビットアーキテクチャ準拠のKryo 280 × 8基
  4. GPUはAdreno 540を搭載
  5. メモリは1866MHz駆動のLPDDR4x デュアルチャネル接続に対応
  6. ストレージは内蔵がUFS 2.1 Gear 3.2L、外部がSD3.0(UHS-I)に対応
  7. 内蔵モデムは下りLTE Category 16、上りLTE Category 13に対応
  8. LTEでのデュアルSIMデュアルスタンバイ対応
  9. Wi-Fiは2×2 MIMO でIEEE 802.11a/b/g/n/ac/ad対応
  10. Bluetooth 5対応
  11. USB 3.1対応
  12. カメラは最大画素数16メガピクセル2基あるいは32メガピクセル1基の接続をサポート
  13. 動画は最大4K解像度での30fps録画と60fps再生に対応
  14. ディスプレイは内蔵・外部出力共に最大4K解像度までサポート。色深度は最大10bitをサポート
  15. サウンドはaptX Codecをサポートし、最大384KHz 32bitのハイレゾPCM出力とネイティブDSD出力に対応
  16. 充電はQuick Charge 4による急速充電をサポート。ワイヤレス充電にも対応
  17. フルスペック版Windows 10に対応予定

これらについて順に見てゆくことにしましょう。

半導体製造プロセスの縮小で大幅な性能向上を果たしたCPU

10nmプロセス(緑)と14nmプロセス(赤)で等価回路を作成した場合のチップサイズの比較これは周辺条件を無視した乱暴な比較だが、14nm→10nmへの半導体製造プロセスルールのシュリンクで概ねチップサイズが半減し、消費電力なども同様に減少する。このため、10nmプロセスで製造されるチップはチップサイズが同じであれば14nmプロセス比で2倍に回路規模を拡大できる

10nmプロセス(緑)と14nmプロセス(赤)で等価回路を作成した場合のチップサイズの比較
これは周辺条件を無視した乱暴な比較だが、14nm→10nmへの半導体製造プロセスルールのシュリンクで概ねチップサイズが半減し、消費電力なども同様に減少する。このため、10nmプロセスで製造されるチップはチップサイズが同じであれば14nmプロセス比で2倍に回路規模を拡大できる

今回のSnapdragon 835のハードウェア面で最も大きなトピックは、半導体製造プロセスルールが既存のSnapdragon 820/821が使用していた14nm FinFETから10nm FinFETに変更され、Snapdragon 820比で35パーセントも小さなチップとなったことでしょう。

この種の半導体ではチップ面積は生産コストに直接影響し、また発熱量および消費電力にも影響しますから、この数字は無視できません。

もっとも、単純に考えれば14nmから10nmにマスクピッチが縮小されたのならばチップ面積は単純計算で約半分に減る筈なのですが、これはチップの生産委託先各社の半導体製造プロセスによって考え方や構造がかなり異なることや、昨今の半導体製造プロセスシュリンクはチップをただ小さくするといった単純な話では無くなっていること、それに何より公表されているCPU・GPUの仕様から回路を構成するトランジスタ数がこれまでよりも格段に増えていると推定できることなどを考えると、むしろこのチップ面積縮小率はかなり頑張った値であると言えるでしょう。

なお、総トランジスタ数約30億というのはこの数字だけを聞くとあまりその凄さが理解できないかも知れません。

しかし、例えばIntelのハイエンド向けチップで8コア構成だったCore i7-5000シリーズ※注4が内蔵GPUなしで26億トランジスタ構成であったと聞けば、GPU搭載でしかもそのGPUがかなり強化されているとは言え、このSnapdragon 835の仕様の凄さが理解できるのではないでしょうか。

 ※注4:半導体製造プロセスは22nm。ちなみにこのシリーズは元々サーバ・ワークステーション向けのXeon E5 V3シリーズを流用した製品で、3次キャッシュとして20 MBものSRAMを搭載し、DDR4メモリコントローラを4チャネル分内蔵するなど、通常のデスクトップパソコンで使用するには過剰性能気味の製品でした。

前世代のSnapdragon 820/821ではCPUコアとしてQualcomm自社開発のARM-v8A系プロセッサであるKyroを4基搭載していましたが、その開発時点で利用可能な最新の半導体製造プロセスを使用していたにもかかわらず、高発熱などの問題に苦しめられた事が知られています。

それが、物理CPUコア数が倍増し、GPUも大幅強化でき、それでいて消費電力を従来比25パーセントの節減を謳えるほど低下できたというのですから、まさに10nm FinFETプロセス様々といった感じです。

なお、GPUのAdreno 540については従来機種※注5比で25パーセントのグラフィックス性能向上を実現したとしており、その性能向上率から推測する限りこのGPU性能向上は、半導体製造プロセスシュリンクにより生じたチップ面積の余裕を活用し、内蔵されている汎用シェーダー数の増強を行って得た可能性が高いようです。

 ※注5:明確には説明されていませんが、Snapdragon 820 / 821搭載のAdreno 530のことを指すと考えられます。

Kryoコアの単独での性能は、Snapdragon 820搭載各機種でのベンチマーク結果などを見る限り決して悪いものでは無かったのですが、競合各社がCPUコア数の多さを売りにして8コア搭載機種が珍しくなくなっている状況では、苦戦を免れ得なかったと言えます。

最新技術が盛り込まれたモデム・ベースバンドプロセッサ

Qualcomm製プロセッサでは常に最新の通信技術が導入されてきましたが、このSnapdragon 835も例外ではありません。

LTE通信を司るモデムがSnapdragon 820/821世代のSnapdragon X12 LTE modemからSnapdragon X16 LTE modemへ更新され、LTEの対応規格が下り方向がLTE Category 13からCategory 16に、上り方向がCategory 12からCategory 13へそれぞれ変更されたことで、前者はアンテナ4本を使用した場合の4×4 MIMOで最大1Gbps、後者でもアンテナ2本使用による2×2 MIMOで最大150Mbpsで速度的には変化の無い後者はともかく、前者についてはピーク速度とは言え4割もの速度向上が実現しています。

比較対象となるSnapdragon 820/821の公称下り最大速度は3×3 MIMO時の600Mbpsですから、キャリアアグリゲーションのアンテナ本数増強による速度向上が25パーセントと考えると、アンテナ本数をおいそれと増やせず、またそのために必要となるRFモジュールの追加も消費電力およびその基礎となるバッテリー容量の制約が厳しいことから、スマートフォンなどの場合はこのあたりの性能差はそれほど大きくない可能性が高い※注6と言えます。

 ※注6:単純にLTE Category 13の仕様のままでアンテナ本数を3×3から4×4へ増強したとすると最大速度は800Mbpsとなる筈ですから、Category 16で導入された技術によって4×4 MIMOの場合でそこから更に200Mbpsの上乗せがあることにはなります。

なお、LTEについてはSIMカード2枚の併用で同時2系統待ち受けを可能とするDSDS(Dual SIM / Dual Standby)動作に、それも両系統ともLTE接続で対応することが明示されています。

DSDSのサポートはSnapdragon 820の段階で示されていたものですが、この機能は2系統のLTEモデムとRFモジュールを常時動作させる必要があることから消費電力面でのハードルが結構高く、あるいは半導体製造プロセスルールが10nmとなってプロセッサ側の消費電力低減が実現するこのSnapdragon 835でようやく現実的な消費電力・動作時間の枠内に収まることになるかもしれません。

一方、Wi-Fiでは新たにIEEE 802.11adが新たにサポートされています。

このIEEE 802.11adは、Wi-Fiとは言っても周波数帯がこれまでの2.4GHz帯でも5GHz帯でもなく、ミリ波帯、具体的には60GHzという大変に高い周波数帯を用いて通信を行うものです。

電波による通信では、一般に周波数が高くなればなるほど通信伝達距離による信号の減衰が大きく、また波長が短くなって回折も起きにくくなる≒電波の指向性が非常に強くなるため、この60GHz帯あたりになると、間に遮蔽物のない状況でも到達範囲がこれまでのWi-Fiの半分~1/3クラスの約10mと大変短くなっています。

もっとも、その一方でこのIEEE 802.11adは、規格で定められた伝送速度がMIMOを併用しない状態で6.8Gbpsと1チャネルあたりでは867Mbpsは精一杯のIEEE 802.11acよりも格段に高速に設定されています。

これは、60GHz帯ともなると1チャネルあたりの帯域幅が2.16GHzも確保でき、5GHz帯や2.4GHz帯のように20MHz単位で細かく区切っていたのとは段違いの通信帯域を確保できるためです。

つまり、言い替えれば電波の到達距離が短く間に遮蔽物があると厳しく、その一方でこれまでの規格とは比較にならないほど高速での通信ができる≒室内などでの高速ストレージ接続の無線化などに大変有益な規格であると言えます。

そのためこれは、どちらかと言えば現在Bluetoothを利用している室内などでの高速ストレージとの通信や広帯域を必要とする音声・映像データの送受信などで威力を発揮することが期待されます。

加えて言えば遮蔽物があれば電波が到達せず、また指向性が強く※注7、さらに電波の到達距離が短いという特徴は、室外で電波が傍受されにくいということでもありますから、これはセキュリティ面ではむしろメリットとなります。

 ※注7:ビームフォーミングという技術により、通信を行うデバイス間で電波を絞って相手のデバイスの方向へ向けて発信する仕組みが採用されているため、電波の指向性は非常に高くなっています。

最大で32メガピクセル対応でセンサー2分割も可能なカメラ

Snapdragonシリーズの上位モデルの歴史は、世代を重ねるごとに急激に増え続ける、内蔵デジタルカメラ用の映像データ処理機能の増強の歴史でもありました。

もっとも、中にはセンサー側の性能/画素数向上に追いつかず、公称最大解像度で撮影したデータの処理で性能不足を露呈した機種もあったりしましたが、いずれにせよSnapdragonシリーズでは、その機種の発表時点で利用できる最大解像度(あるいはそれ以上の解像度)のセンサーがサポートされるのが常でした。

今回のSnapdragon 835もその例に漏れず、Snapdragon 820/821では画素数28メガピクセルであったメインカメラの最大画素数が32メガピクセルに増強され、さらにそれを2分割して16メガピクセルのカメラモジュール2基を接続して利用できるようになりました。

これは最近のファーウェイなどの各社でのデュアルカメラ搭載製品の増加に対して、プロセッサ側で標準的に扱えるような配慮が行われたということを意味します。

このあたりのトレンドがいつまで続くかは定かでありませんが、シングルでデュアルカメラ時の倍の画素数にできるということは、デュアルカメラのブームが去ったとしても画素数増強に大きな余裕があるということで、設計面ではそれなりにメリットのある構成※注8だと言えるでしょう。

 ※注8:この構成で問題があるとすれば、そんな超高解像度のセンサーやカメラモジュールを作れそうなのが事実上ソニー1社のみとなってしまうこと位でしょうか。

高機能・高音質を実現するサウンド機能

Snapdragon 835ではaptX HDが標準でサポートされ、サウンド出力はDSDフォーマット音声データのダイレクト出力や384KHz 32ビットPCMのハイレゾ音源データ出力に対応しています。

DSDについては一体どのサンプリング周波数まで対応しているのか明らかにされていませんが、PCMのハイレゾ音源で扱えるデータ量から推定すると最大でも11.2MHzまでの対応となりそう※注9です。

 ※注9:11.2MHz 1ビットステレオのDSD音源の場合、データ圧縮がほとんど効かないこともあって1時間で10GBほどのデータ容量となります。このため、ストレージ容量の制約の厳しいスマートフォンなどでは仮に最大で11.2MHzのDSD再生がサポートされていたとしても、実際には2.8MHzあるいは5.6MHzでの利用がほとんどとなるでしょう。このあたり、無圧縮時に同程度の容量でもFlacなどのコーデックで圧縮することでそのファイルサイズを縮小できるPCM音源とは状況が異なります。

このあたりのサウンド機能強化についてはAndroid陣営が先陣を切って推進している状況で、筆者の正直な感想としてはタブレットやPCならばともかく、スマートフォンではこれらの機能がフルに発揮されるケースは少ないのではないかと思います。

ただ、スマートフォンだけではなくタブレットや後述するようにWindowsパソコンへの進出も視野に入っているこのSnapdragon 835の用途と、将来的な展開も考慮すればこの程度のスペックを満たしておいた方が望ましいのも確かです。

このあたりについてはどこまで標準でサポートしておくのかについて議論が分かれるところなのですが、この機種については、その用途の範囲が広がりすぎてそろそろ収拾がつかなくなり始めている印象があります。

周辺機器との接続は最新規格へ完全移行

スマートフォンやタブレットの場合、外部の周辺機器との接続には基本的にUSBやBluetoothが使用されることになります。

そのためこれらの対応規格が重要になってくるのですが、今回のSnapdragon 835ではUSBは対応モードを明確にしていませんがUSB 3.1対応、Bluetoothについては先日発表されたばかりのBluetooth 5に対応することが明らかになっています。

また、外部ディスプレイの対応画面解像度で最大で4K解像度としていることから、Snapdragon 835では基本的にUSBコネクタはオルタネートモードでDisplayPortのディスプレイ出力信号をやりとり可能なUSB Type-Cコネクタを利用することが前提となっていることがわかります。

このあたりはBluetooth 5を除き昨年後半に発表されたAndroid搭載スマートフォン各機種で既に採用されている仕様・技術なのですが、昨年前半の時点ではまだUSB2.0までしか対応しない端末が少なくなかったことを考えると、確実に新しい規格への移行が進みつつあると言えます。

なお、内蔵バッテリーへの充電については、このType-Cコネクタ経由での急速充電だけでなく、ワイヤレス充電もサポートされています。

後編へ続きます。

▼参考リンク
Snapdragon 835 Processor | Qualcomm
Qualcomm at CES | Qualcomm

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