バージョン名の「5」をトップに大書きし、最下部に性能向上の倍率を誇らしげに掲載するBluetooth公式サイトページ。数字に嘘がないと言えば無いのだが・・・

Bluetoothは進化する ~Bluetooth 5発表~

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by [2016年12月26日]

Bluetooth 5の発表を告げるBluetooth SIG公式サイトページ

Bluetooth 5の発表を告げるBluetooth SIG公式サイトページ

現在、パソコン、スマートフォン、タブレット、家庭用ゲーム機からIoTの分野まで幅広く利用されている無線通信規格であるBluetooth。

周波数が2.4GHz前後の帯域を利用し低コストで近距離無線通信を行うこの規格は、元々スウェーデンのエリクソン社が開発、これに賛同したインテル、IBM、ノキア、東芝と共にBluetooth SIGという普及・開発のための組織が設立されて本格的な普及が始まったという歴史があります。

この規格では利用の簡便性が重視されてきた一方で、初期には全く想定もされていなかった利用方法、例えばより高音質に音声データを再生機器とヘッドフォンの間で送受信したい、家庭用ゲーム機と対応コントローラの間で遅延無く操作を伝達したい、あるいは今までよりも格段に低消費電力で通信できるようにしたい、そういったある意味無理難題に近いような要求に答える形で規格のバージョンアップが重ねられてきました。

こうした事情から、歴代の各バージョンでは前世代よりも高速に、より低消費電力で、あるいは同じ速度でより遠くに、通信が行える様な改良が繰り返されており、実のところ同じBluetoothという名称ですが、バージョン3.0以前とバージョン4.0以降では通信面で全く別規格と言え、実質的に同じ名前で2系統の異なった規格が併存している状況となっています(※注1)。

 ※注1:このため、Bluetooth対応機器では通信の互換性維持を目的としてホスト側のレシーバーでBluetooth 3.0以前と4.0以降の2規格の双方を搭載するのが一般的です。こうすることで、古いBluetooth 2.1対応の機器とBluetooth 4.2対応の機器を同じ場所、同じホストに接続して利用できるようになっています。言い替えれば、Bluetooth 4.0以降対応でもBluetooth 3.0以前をサポートしないレシーバーもありえます。

今や、モバイル機器で非対応のものを探すのは難しい、という位に対応機器が普及したBluetoothですが、それだけに今もなおその性能・機能の向上に対する要求は大きく、2016年12月8日に2年ぶりのメジャーバージョンアップとしてBluetooth 5が発表されました。

今回はこのBluetooth 5で何が変わったかを中心に見てゆきたいと思います。

Bluetooth 5でBluetooth 4.2から何が変わったのか

Bluetoothの5の直前に存在した最新バージョンは4.2です。

そこで、これと5の間で何がどう変わったか主立った点を列挙してみると、以下のようになります。

  1. Bluetooth 4.2比で通信速度が2倍に向上
  2. 同じく通信範囲(通信到達距離)が4倍に向上
  3. 隣接周波数帯を利用する通信との干渉による通信不安定の低減
  4. IoTへの対応強化

ご覧のとおり、多少センセーショナルな面もありますが、Bluetooth 4.0以降のBluetoothの改良路線を踏まえた、真っ当な正常進化となっていることが判ります。

物理的な通信速度の向上と安定化

バージョン名の「5」をトップに大書きし、最下部に性能向上の倍率を誇らしげに掲載するBluetooth公式サイトページ。数字に嘘がないと言えば無いのだが・・・

バージョン名の「5」をトップに大書きし、最下部に性能向上の倍率を誇らしげに掲載するBluetooth公式サイトページ。数字に嘘がないと言えば無いのだが・・・

今回のバージョンアップで最も目をひくのが、速度と通信範囲の向上・拡大です。

Bluetoothの公式サイトでも、速度向上を示す「2x」、通信範囲拡大を示す「4x」を、ブロードキャストのキャパシティ向上を示す「8x」(※注2)を、それぞれ大書きしており、これらの性能向上が掛け値無しのものであることを強調しています。

 ※注2:恐らく2×4=8で2と4が両立するということを強調したいのだと思いますが、どうにもしっくりこない表記です。

具体的な数値で言うと、Bluetooth 5での「現実的」な最大通信可能距離は120m、データ通信速度は2Mbpsとされ、これが通信範囲4倍、通信速度2倍の根拠とされています。

まず、通信速度の引き上げについては、通信の変調速度を単純に従来の1MHzから2MHzに倍速化することで実現しています。

これはパソコンのCPUの動作クロック周波数引き上げと一緒で、単位時間あたりの処理を倍にするわけですから、理屈通り動作すれば確かに倍速化します。

もっとも、高速動作はその分電力消費量が増えますから、熱あるいは電力消費で何らかの問題となる可能性があります。

次に、この通信可能距離の拡大は、送信出力の上限を従来よりも+10dBm大きくすることによって実現されますから、手放しで喜べるものではありません。

つまり、どちらの性能向上も電力消費の増大とセットになっているということで、半導体製造プロセスの進化によってこれまでよりも低消費電力で動作させる見通しが立ったからこそ、規格化できた技術仕様であると考えるのが妥当なようです。

空間を介して電波を送受信することでデータ通信を成立させる無線通信の場合、同じ周波数帯の枠内という条件を課せば、電波の到達距離を増やすには送信側の出力を上げるか、速度を上げるには利用する帯域を分割して通信経路の本数を増やすか、あるいはより効率の良い通信方式を採用するかのいずれかが必須で、魔法のような都合の良い問題解決策はありません。物理法則には勝てないのです。

さらに厄介なのは、Bluetoothの利用する2.4GHz帯が今やWi-Fiをはじめ様々な通信規格で利用されて通信が輻輳していて、さらにそれらとの干渉の問題が無視できないこと(※注3)です。

 ※注3:複数のBluetooth機器や同じく2.4GHz帯で通信を行うIEEE 802.11 b/g/n対応のWi-Fi通信デバイスを同時に使用すると、通信状況によっては帯域が飽和して通信が途絶する、あるいは通信速度が低下するといった現象が起きる事があります。筆者の経験でも、イベント会場でBluetooth対応機器が多数使用されている状況で、自分の使っていた機器のBluetooth接続が頻繁に切断される現象に出くわしたことがあります。

3番目の通信不安定の低減、具体的には誤り訂正機能の強化を中心とした改良は正にこうした問題への対応策ということで、大いに歓迎できる改良です。もっとも、2.4GHz帯の通信輻輳状況を考えると、不安定は低減できても根絶はできない(※注4)と考えられ、無いよりはマシとはいうものの、どうにも焼け石に水の感があります。

 ※注4:結局のところある帯域で通信に利用出来るデータ量の上限は定まっていますから、それを超える通信要求が行われれば回線が飽和し通信が正常に行えなくなるのは当然の話です。その状況で、(速度が出なくても)どうにか通信を安定的に維持するための工夫が、今回のBluetooth 5では導入された訳です。

このあたり、あまりにも多数の機器が2.4GHz帯を同時に使用する状況が原因ですから、少なくとも屋内であれば5GHz帯にオフロードできるWi-Fiについては、スマートフォンもルーターも、法的に利用が許可されている屋内での通信時には極力5GHz帯を使用するような促進策を積極的に講じる必要がある(※注5)のでは無いでしょうか。

 ※注5:低価格機種を中心に5GHz帯非対応の機種がスマートフォン・タブレット・ノートパソコン・ルーターの全てについて多数市販されていますが、これがある意味この問題の諸悪の根源と言えます。帯域消費の大きなスマートフォンがWi-FiとBluetoothヘッドセット、それにキーボードなどの接続利用で2.4GHz帯を圧迫する状況を解決しない限り、あるいはこの状況で通信を安定化させるような技術的ブレークスルーが発見されない限り、混雑した場所でのBluetooth対応機器の安定的な利用は難しいのではないかと筆者は考えます。まぁ、このあたりはこの種の機器で屋外/屋内関係なしにまともに利用出来る帯域が2.4GHzしか残っていなかった、というのが主因ではあるのですが。

IoTへの対応

さて、残るはIoT、つまり「モノのインターネット」として知られる技術への対応です。

Bluetooth技術のIoTへの援用は、Bluetooth 4.0でLE、つまりLow Energyで大幅な低消費電力化が実現し、情報を発信するタグの電源問題がクリアになったことで本格的に始まりました。

もっとも、これまでは通信時のエラーの誤り符号訂正を行う機能が充分サポートされていなかった(※注6)ため、送信して相手に渡ったデータが送り出し側の元データと完全に一致するかどうか保証がありませんでした。

 ※注6:電波状況に応じて通信が安定しない場合などにのみ、ブロック・エラー訂正符号を付与したパケットをやりとりする仕組みとなっていて、確実に送受信したデータが同一であることは保証できないような仕組みになっていました。

このため、各種機器側でソフトウェア的な問題や使用方法の変更が生じた場合などには、直接各機器をパソコンなどと接続してプログラムを書き換えることで対応するしかなかったのですが、エラー訂正により機器側でダウンロードしたファイルの同一性が確実に保証できるのであれば、そのファイルを用いてプログラムの更新を行える(※注7)ということになります。

 ※注7:この種のファームウェアと呼ばれる機器制御のためのプログラムをオンライン経由で自動更新する仕組みは、例えばルーターなどで採用されています。

IoTでこの技術を用いれば、月ごとの需要差などに応じて異なったデータやコードを含んだファームウェアを配信することで自動的に最適な挙動を得ることができ、手間をかけずに機器を有効活用出来るようになります。

IoTの場合、Bluetooth対応のタグなどが大量に流通することになる可能性があるため、それらをいちいち回収してファームウェアを更新するというのはコスト的にも時間的にも上手いやり方ではありません。その意味では、このファームウェア自動更新の道を開く誤り符号訂正機能の強化は、通信速度の向上に勝るとも劣らない重要な改良点と言えるでしょう。

また、Bluetooth 5で注目されるのが、情報配信のリッチ化を可能とする規格拡張です。

以前ご紹介した「江ノ電なび」でも触れましたが、IoTの情報配信では、例えば近隣の店舗でどのような商品を扱っているのか、どの道を通って行けば店に着くのか、営業時間は何時から何時までなのか、などといった情報の提供が実現されます。

もっとも。Bluetooth 4.x系の情報配信では、扱えるデータ量の制約が意外と厳しくて、伝えたい情報を伝え切れていなかった印象がありました。もう一枚画像があれば、あるいはもう一つリンクが扱えれば格段に使い勝手が良くなるのにできない。そんな感じのする情報提供が少なくなかったのです。

Bluetooth 5ではそのあたりの不満を受けて、より多くの情報を提供出来るようにする機能拡張が行われています。

さら、Bluetooth 5では、複数のデバイスに対して1つの機器からデータ送信する機能がサポートされました。

これは、1台のセンサーデバイスの情報を複数の異なる用途の機器に配信できるということで、例えば患者の身体に取り付けたセンサーデバイスの情報をいくつかの機器に配信することで、いままでよりもより良い治療に役立てる事ができるかも知れません。

また、最近話題の自動運転車の場合、センサー情報を複数の機器が受け取れるようにすれば配線の簡素化と共に、エンジンやモーター、変速機、ブレーキ、それにサスペンションなどの各機能の有機的連携による新しい走行モードが生み出せる可能性もあるでしょう。

このあたりはまだ対応製品が出荷されていないため、可能性の話になってしまいますが、この拡張は地味に影響範囲が広そうです。

これはつまりIoTの普及の過程で出てきた不満や問題点に対応したということで、Bluetooth SIGがこの新しい分野への適合に注力している事が見て取れます。

速度向上にはタネも仕掛けもないが、IoTの改良は弱点を潰してきている

以上、Bluetooth 5についてBluetooth 4.2以前との相違点を中心に見てきました。

速度2倍、到達距離4倍というセンセーショナルな言葉ばかりが一人歩きしている感がありますが、この新規格で行われた改良・拡張はどれも仕組み的に常識的な技術の範疇に収まるものばかりで、特段おかしなところはありません。

強いて言えば、消費電力増大につながるような速度向上となったことが気にかかりますが、これは今の最先端(でないにしろそれなりに微細化の進んだ)半導体製造プロセスを利用してレシーバやトランスミッタなどを造ればある程度は解決する問題で、恐らく開発側もそれを折り込んで今回の規格バージョンアップを行ったのでしょう。

Bluetoothで電力消費の増大に目を瞑ってでも通信速度を今以上に引き上げる方向性というのは、恐らくワイヤレスヘッドフォンやワイヤレススピーカーでの将来的な本格的ハイレゾ対応実現を睨んだもの(※注8)と考えられます。

 ※注8:現状のBluetoothの使われ方を考えれば、それ以外の選択肢への対応というのはちょっと考えにくいところです。

もっとも、QualcommのaptX HDにしろ、ソニーのLDACにしろ、現行のBluetooth対応高音質化コーデックは、いずれも今のBluetoothの規格の枠内で、既存のA2DPプロファイルを拡張する形でハイレゾ対応や高音質化を実現することに注力して一定の成果を出しています。

そのため、今後Bluetooth 5での性能向上をフルに生かした新ハイレゾ対応コーデックが出現するかどうかは判りませんが、今のBluetooth SIGにはAppleが参加しています。

ことによると、来年のiPhone 8あるいは7s(となると推測される機種)でこうした新技術がサポートされるのかも知れません。

一方、IoTにかかわる新機能はどれもこれまでのBluetoothの弱点あるいは問題点となる要素について様々な改善を実現しており、至ってまっとうな改良であると言えます。

このあたりの対応から判断する限り、Bluetooth SIGがBluetooth普及の大本命としてIoTを見ているのは疑う余地がありません。

▼参考リンク
Bluetooth 5 Now Available | Bluetooth Technology Website
Bluetooth 5 | Bluetooth Technology Website

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