ZOTAC EN1070現在市販されているミニPCの中では数少ない「VRレディ」を満たす機種の一つ。NVIDIAのGeForce GTX 1070をマザーボードにオンボード搭載する

コストの壁は厚かった ~コンパクトPCでのVRコンテンツ対応を考える~ 後編

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by [2016年12月22日]

前編ではいわゆる「VRレディ」なコンパクトパソコンの例としてZOTAC Eシリーズを取り上げ、同社自身やEシリーズの製品展開、それに現行機種の仕様などについてご紹介しました。後編ではその仕様が示す特徴について考えてみたいと思います。

消費電力と冷却

これら3機種の仕様を比較すると、CPUとGPU、つまり消費電力と発熱量に影響するデバイスが異なっていて、MAGNUS EN1060・EN1070とEN1080でそれをサポートする冷却システムと電源にも大きな相違があることがわかります。

言い替えると、GeForce GTX 1080とCore i7-6700の消費電力がそれだけ大きく発熱量も大きいということです。

MAGNUS EN1080の製品一式同型のACアダプタが2基付属しており、これらにより360 Wの電力を本体へ供給する

MAGNUS EN1080の製品一式
同型のACアダプタが2基付属しており、これらにより360 Wの電力を本体へ供給する

しかし、冷静に考えると付属するACアダプタの出力が180Wで、MAGNUS EN1080 10 Year Anniversary Editionではそれを2基接続としているということから、MAGNUS EN1060・EN1070の消費電力が非常に小さいことと、MAGNUS EN1080の消費電力が最大でも360 Wで、大きいといっても800 W~1200 Wクラスの電源を搭載した機種が珍しくない、昨今のハイエンドゲーミング/VRレディパソコンのスペックを考えれば、半分以下の消費電力に収まっていることになります。

ちなみに、拡張スロット対応のGeForce GTX 1080の公称消費電力は180 W、最小限必要な電力は500 Wとされていて、ACアダプタ2台接続で出力を倍増したMAGNUS EN1080でさえ「最小限必要な電力」の下限を下回っています。

NVIDIA GeForce GTX 1080「Pascal」アーキテクチャによるGeForce GTXシリーズのハイエンド機種。DisplayPort端子の対応バージョンは1.4で、下位モデルのGeForce GTX 1060・1070もこれに準じる

NVIDIA GeForce GTX 1080
「Pascal」アーキテクチャによるGeForce GTXシリーズのハイエンド機種。DisplayPort端子の対応バージョンは1.4で、下位モデルのGeForce GTX 1060・1070もこれに準じる

また、各機種で2基ずつ搭載されているDisplayPort端子の対応規格がバージョン1.3止まりとなっていて、本来のGeForce GTX 1060・1070・1080でサポートしているDisplayPort 1.4には対応していません。

DisplayPort 1.4では1.3と比較してリフレッシュレート60 Hzの8Kディスプレイへの対応が追加されているのですが、わざわざ1.4ではなく1.3と明記していることから推測する限り、これは性能面で一定の実用性を保ちつつシステム全体の消費電力の上限を引き下げるためのスペックダウン(※注2)である可能性があります。

 ※注2:これらの機種に搭載された他のパーツの性能を勘案すると、そもそもこれらで高負荷のかかる「リフレッシュレート60 Hzの8Kディスプレイ」をサポートするのはあまり現実的ではありません。それならば、4K2Kレベルまで画面解像度の対応範囲の上限を引き下げて、その分トランスミッタなどデータ転送に関わるチップでの消費電力を抑制した方が有用でしょう。

こうした工夫を勘案すると、MAGNUS EN1080に搭載のGeForce GTX 1080は特に明示していないものの、恐らくはリファレンスデザインのGeForce GTX 1080搭載グラフィックスカードと同等のGPU・メモリ動作クロック周波数を保っていて、これについてはスペックダウンは一切行っていない可能性が高いと推定できます(※注3)。

 ※注3:MAGNUS EN1060・EN1070と比較してACアダプタが2基接続となって1基分をGeForce GTX1080に振り向けられるようになっていることや、EN1060・EN1070がACアダプタ1基でCPUやメモリ、ストレージ、それにチップセットなどの消費電力を賄いつつGPU(EN1060は最大120 W、EN1070は最大150 W)への電力供給を行っていることなどを勘案すると、少なくとも電源容量的には余裕のあるMAGNUS EN1080についてはGPUが定格クロック周波数で動作していると考えられます。

一方、CPUのCore i7-6700はTDPが65 W、Core i5-6400Tは同じく35 Wとなりますから、180 WのACアダプタ1基で給電するMAGNUS EN1060・EN1070については搭載GPUについて定格動作クロック周波数からのクロックダウンなど消費電力を低減するための措置が行われているか、さもなくば消費電力の小さいチップを選別して搭載することでこの問題をクリアしている可能性があるということにもなります。

MAGNUS EN1080背面レイアウトやコネクタの対応規格に若干の相違はあるが、EN1060・EN1070も同様のレイアウトである。Wi-Fi用に左右両端にアンテナ接続端子が用意されている

MAGNUS EN1080背面
レイアウトやコネクタの対応規格に若干の相違はあるが、EN1060・EN1070も同様のレイアウトである。Wi-Fi用に左右両端にアンテナ接続端子が用意されている

また、これらの各機種はいずれも汎用の拡張スロットを持たず、搭載されているUSBポートの種類とその数も限定されています(※注4)し、また内蔵できるストレージにも厳しい制限があって、そもそも光学ドライブの搭載を考慮しない設計となっているなど、小型化、給電能力の制限によるトレードオフが発生しています。

 ※注4:MAGNUS EN1060・EN1070とMAGNUS EN1080ではUSBポートの構成が異なっていますが、これはチップセット側の仕様差というよりはむしろ、USB 3.0で求められる給電能力に対するACアダプタ側の出力不足が原因で、EN1060・EN1070では2ポートをUSB 2.0接続に変更し最大出力の枠内に収めていると考えるのが妥当でしょう。なお、同じ消費電力でUSB 3.1(恐らくはGen.2)×2とUSB 3.0(≒USB 3.1 Gen.1)×2ないしは×4に分かれていますが、これはチップセット側の仕様、あるいは転送帯域性能の制限によるものと考えられます。最大でUSB 3.0あるいはUSB 3.1 Gen.2の2倍に当たる最大10Gbpsの転送速度を実現したUSB 3.1 Gen.2は2ポート搭載するだけでもCPUのサポートするPCI Expressのレーン数を大きく消費するため、転送速度を落とさずに同時接続できるポート数を増やすのが難しいという問題があります。

このため、接続するハードディスク容量を増やしたり光学ドライブを接続したい場合には、前者の場合はUSB 3.1あるいはUSB 3.0での接続に対応する外付けハードディスクケースを利用するか、さもなくばLAN接続のNASを用意する必要があって、後者の場合はUSB 2.0かUSB 3.0での接続に対応する外付け光学ドライブを用意する必要があります。

ミニマムな構成だが、VRレディなPCをサブマシンとして導入したい場合には好適な選択肢

以上、ZOTACの「VRレディ」を謳うミニPC、「Eシリーズ」の現行3機種についてハードウェアを中心に見てきました。

これらの各機種はいずれもGPUをマザーボード直づけとすることで拡張性を代償としてスペックからは考えられないようなコンパクト化を実現したと言えますが、よほど大容量のメモリを必要とするようなアプリケーションを日常的に使用したいであるとか、大容量かつ高速のディスクストレージを複数接続したいであるとか、そういったかなり「尖った」使い方を求めないのであれば、これは「Oculus Rift」や「HTC Vive」といったVRデバイスを接続してのVRコンテンツ利用だけでなく、普段使いでも充分実用に耐えるどころか、長期的に使用できるスペックを満たしている(※注5)と言えます。

 ※注5:CPUスペック的に現行のSkylake版 Core i7・i5シリーズ中でも最下位に位置するCore i5-6400Tを搭載するMAGNUS EN1060・EN1070でさえ、Oculusが公表しているRiftの「Minimum Spec」ばかりか「Recommended PC Specification」の要件を満たしています。また、CPUもGPUも現行のハイエンドクラスの製品を搭載するMAGNUS EN1080ならば長期に渡ってメインマシンとして利用できるだけの性能を備えています。

これらの機種を導入するに当たってネックになるのはただ一つ。その価格の高額さです。

具体的に言えば、記事執筆時点での円安ドル高傾向もあってか、Windows 10 Home 64bit・1TB HDD・8GBメモリ搭載の完成品で、最安値でも「MAGNUS EN1060」で税込み18万円から19万円程度、「MAGNUS EN1070」で26万円~28万円、「MAGNUS EN1080」に至っては32万円~35万円程度と大変高価となっていることです。

なお、前編でも少し触れましたがこのEシリーズに属する製品としては、EN1060と同じ基本設計でGPUをより廉価で「VRレディ」の要件を満たすAMDのRADEON RX480(メモリ4GB版)に変更した「MAGNUS MAGNUS ERX480」という機種(※注6)が2016年11月に発表されています。

 ※注6:当初NVIDIA製GPU搭載製品でグラフィックカードの開発製造販売をスタートし、さらに同社のTier 1ベンダーの地位にあったという事情からか、ZOTACは創業以来長らくAMD製GPU搭載グラフィックスカードやミニPCを製品化してきませんでした。そのためこの機種は同社初のAMD製GPU搭載製品ということになるようです。

しかし、この機種はいかなる理由によるものか、11月の発表から1ヶ月以上を経た記事執筆時点でもなお、日本市場で未発売となっています。

このあたりは色々な事情があるようですが、NVIDIA GeForce GTXの1000番台各機種と同様に最新の半導体製造プロセスを使用し、単体カード製品でもVRデバイスに適した機種として性能や消費電力の面で一定の評価を得ている機種であるだけに、これを搭載した機種が選択できないというのは残念です。

もっとも、搭載されているGPUの価格差から勘案すると、この機種でもMAGNUS EN1060比で大した価格低下は期待できません。

搭載されているCPUやGPUのコストや他に無い専用設計の部品の塊となっていることなど(※注7)を勘案すれば高額になるのは致し方ない部分があるとは言えますが、さすがにこれではサンタさんにお願いするのはちょっと厳しそうです。

 ※注7:例えばGeForce GTX 1080搭載グラフィックスカードは記事執筆時点での最安値でも6万円越え、通常製品だと7万~8万円程度が相場という価格帯で、Intel Core i7-6700は概ね3万4千円~3万8千円程度となり、この2つだけでもどんなに安く見積もっても10万円を超えてしまいます。これにマザーボードに筐体、電源、そしてこれらのCPU・GPUを充分冷却できるだけの水冷キットとなると、MAGNUS EN1080の場合、単純に構成要素を汎用のパーツとして価格を積み上げていくだけでも恐らく30万円を超える価格となってしまいます。

▼参考リンク
ZOTAC Powers Up MAGNUS to Give Gaming and VR Performance Wings | ZOTAC
The MAGNUS 10 Series Gaming Mini PC | ZOTAC

ZOTAC Launches World First AMD Radeon™ Powered Gaming Mini PC for VR and Next Gen Gaming | ZOTAC

MAGNUS EN1060 with Windows 10 | ZOTAC
MAGNUS EN1070 with Windows 10 Home | ZOTAC
MAGNUS EN1080 10 Year Anniversary Edition with Windows 10 Home | ZOTAC

VR GO | ZOTAC

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