Amazon Kindle Paperwhite マンガモデル内蔵ストレージ容量を4GBから32GBへ増量した以外は、外観を含め基本的に既存の「Kindle Paperwhite」 Wi-Fiモデルと同一である

「マンガモデル」の意味するところ ~Kindle Paperwhite マンガモデルを考える~ 前編

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by [2016年12月01日]

Amazon Kindle Paperwhite マンガモデル内蔵ストレージ容量を4GBから32GBへ増量した以外は、外観を含め基本的に既存の「Kindle Paperwhite」 Wi-Fiモデルと同一である

Amazon Kindle Paperwhite マンガモデル
内蔵ストレージ容量を4GBから32GBへ増量した以外は、外観を含め基本的に既存の「Kindle Paperwhite」 Wi-Fiモデルと同一である

流通大手のAmazonが展開している電子書籍サービスと、その対応端末の双方で用いているブランドである「Kindle」。

前者の電子書籍サービスについては、登録されている雑誌・コミック・書籍が読み放題という破天荒なサービス内容で業界を震撼させ、その一方で登録されていた出版物が突然無断で削除されるなどしたことから出版社との間でのトラブルも伝えられるなど、良くも悪くも話題になったKindle Unlimitedをはじめ、これまでの電子書籍ストア・サービスでは考えられなかったような展開を見せつつあります。

一方、電子書籍リーダー・端末としてのKindleについては、内蔵ディスプレイとして液晶や有機ELではなく、画面の書き換え時以外はそれらと比較して格段に消費電力の小さいe-inkによる電子ペーパーを採用していることから目が疲れにくく、バッテリーの持ちが良く、さらにスマートフォンやタブレットでは避けがたいSNSやメール、それにインストールされたアプリなどによるプッシュ通知などがなく、本当の意味で読書に没入できるといったメリットがあります。

しかも、Kindleのサービスで配信されている電子書籍だけではなく、TXT、PDF、MOBI(著作権保護機能非対応)、PRCの各ファイルフォーマットにネイティブ対応し、さらにHTML、DOC、DOCX、JPEG、GIF、PNG、BMPの各フォーマットについては変換して対応し電子書籍全般についてかなり融通が利く、つまりこの端末にデータを転送すれば大概のテキスト・画像が(モノクロ表示とは言え)閲覧できる(※注1)ことや比較的低価格で端末が提供されていること、それにWi-Fiルーターがあれば特にパソコンが無くとも利用できる簡便さもあって、このシリーズは多くのユーザーの支持を受けています。

 ※注1:ただし自炊のJPEGデータをまとめてZIPあるいはRARで圧縮したCBZ(Comic Book ZIP)・CBR(Comic Book RAR)と呼ばれるタイプのファイルなどの場合は直接対応しないため、例えばWindowsパソコンでcalibreのような電子書籍管理ツールを使うなどして、Kindle標準のmobiフォーマットにコンバートしておく必要があります。

日本市場での不満~ストレージ容量が致命的に足りない~

そうしたことから世界的には一定の成功を収めている電子書籍端末としてのKindleシリーズですが、海外市場はともかく日本市場においては、これまでその仕様に対する不満が多く聞かれてきました。

新モデルが複数発売されているにもかかわらず、内蔵ストレージ容量が長らく4GB(OS・専用アプリ領域を含む)で固定されてきたことが、どうしてもファイルサイズが大きくなるコミックスを主体として利用するユーザーの多い、日本市場のニーズに適合しなかったのです。

富士通 ScanSnap S1500比較的低価格かつ失敗の少ないドキュメントスキャナとして一世を風靡し、いわゆる「自炊」ブームの原動力となった機種の一つ

富士通 ScanSnap S1500
比較的低価格かつ失敗の少ないドキュメントスキャナとして一世を風靡し、いわゆる「自炊」ブームの原動力となった機種の一つ

自分で、例えばScanSnap S1500(富士通)などのドキュメントスキャナを利用して解像度300 DPIでA5判180~200ページ程度のコミックス単行本をスキャンして画像ファイル化、つまりいわゆる自炊を行った場合、JPEGの圧縮率を低めに設定するとノイズを極限まで削除して余分なデータを排除した場合でも、ファイルサイズが300MB程度になることがありえます。そうした高画質データのファイルだと、OS・アプリを除いた空き領域が3GBあっても、コミックスはわずか10冊程度しか端末本体内蔵のストレージ領域に保存できないことになります。

しかも、そうした低圧縮率画像データの場合、例え300 DPIであっても端末本体のメインメモリ容量不足で画像が開けない、といった事態も起こりえます。

これは再刊の期待ができないか難しい状況にある、貴重なコミックスをスキャニングする際に筆者が行った、かなり極端なケースですが、現行のKindle各モデルの標準的なストレージ容量では、こうした大容量データを扱う場合、そうした問題が避けられないのです。

筆者がKindleストアで購入したコミックス52冊のKindle Contentファイルのサイズ合計ご覧のとおりわずか52冊で2.7GBに達しており、従来のストレージ容量が(OSの占有領域その他を含め)4GBしかなく実質的なコンテンツ保存領域の容量が3GB強程度しかないKindle各機種では、コミックスはあと5~6冊程度しか追加保存できない。シリーズもので70冊以上の大作が珍しくない昨今、これではまとめ読みしない場合などかなり不便である

筆者がKindleストアで購入したコミックス52冊のKindle Contentファイルのサイズ合計
ご覧のとおりわずか52冊で2.7GBに達しており、従来のストレージ容量が(OSの占有領域その他を含め)4GBしかなく実質的なコンテンツ保存領域の容量が3GB強程度しかないKindle各機種では、コミックスはあと5~6冊程度しか追加保存できない。シリーズもので70冊以上の大作が珍しくない昨今、これではまとめ読みしたい場合などかなり不便である

また、そうしたいささか極端な条件の自炊データでなくとも、一般に流通している電子書籍のコミックスであっても、ストアからダウンロードされてローカル保存されるファイルサイズを確認してみると、1冊あたり30MB~50MB程度になることは珍しくなく(※注2)、その場合、文字コードだけであるため数十KB程度で済むテキスト主体の書籍と比較すると、圧倒的に端末に保存できる冊数が少なくなってしまうのは自明であると言えます。

 ※注2:実際に筆者がAmazonからKindleストアで購入したB6判コミックス52冊のダウンロードされたmobi形式ファイル(.azwファイル)のサイズを確認してみたところ、30~80MB程度、カラーページを含む作品では100MBを超える大容量のものが幾つも含まれていて、これだけで合計2.7GBという恐ろしく巨大なファイルサイズになっていました。もちろん、作品の作風・画風(例えば大島弓子やわかつきめぐみの諸作品のようなシンプルな線主体の少女マンガと車田正美の諸作品のようなベタフラッシュ炸裂の熱血系マンガ、あるいは高密度で過剰なほどの情報量の描写が売りの大友克洋・士郎正宗的なSFコミックが1ページあたり同じファイルサイズになることはないでしょう)によるファイルサイズの変動はあるため、一冊あたり平均何MBとは一概に言えませんが、こうした状況を踏まえると、電子書籍ストアで販売されているコミックスでも、ダウンロード時に1冊あたり平均で50~60MB程度のストレージ容量が消費される可能性があることは承知しておく必要があるでしょう。

分かりやすく言えば、AmazonがKindle各モデルで公称している「端末本体に数千冊保存可能」が、こうしたコミックス主体の電子書籍データを保存した場合、一般的なストアからの購入であってさえ「端末本体に数十冊~数百冊保存可能」にまで激減してしまうということなのです。

Amazon Kindleストアのセール&キャンペーンページここでは日替わり、月替わり等の形で大幅ディスカウント対象となった書籍や、無料キャンペーン中のコミックスなどの紹介が行われている

Amazon Kindleストアのセール&キャンペーンページ
ここでは日替わり、月替わり等の形で大幅ディスカウント対象となった書籍や、無料キャンペーン中のコミックスなどの紹介が行われている

これは、期間限定セールとは言え、全巻まとめ買いなどの条件を付して一冊10円程度のお値段でかつての名作コミックスが多数一括提供されることが珍しくない(※注3)、最近のAmazon Kindleストアのコミックス販売状況を考えるとゆゆしき事態です。

 ※注3:実際、そもそも電子書籍に積極的に手を出す気が全く無かった筆者でさえ、1冊10円というあまりの安さに惑わされて、本来買う予定の無かった過去の好きな作家のコミックスシリーズをまとめ買いしており、この種のセール・キャンペーンの威力は非常に強力であると言えます。

Windows版のKindleソフトウェアで筆者のライブラリを表示した状態このようにWindowsパソコン上、あるいはiOS搭載端末やAndroid搭載端末上でも専用アプリのインストールでこれらの電子書籍の閲覧は可能である。

Windows版のKindleソフトウェアで筆者のライブラリを表示した状態
このようにWindowsパソコン上、あるいはiOS搭載端末やAndroid搭載端末上でも専用アプリのインストールでこれらの電子書籍の閲覧は可能である。

読みたいコミックス作品が一度にわずか数十冊しか端末に保存して持ち歩けず、シリーズ全巻読み通すには途中で端末に保存されたファイルを適宜入れ替える必要があるというのは、いかにも不便です。これだけでも、筆者にとってはKindleを積極的に選ばない理由となります。

また、そもそも端末本体の内蔵ストレージ容量がわずか4GBしかないということ自体、4GBクラスのUSBメモリがタダ同然で売られている、いやそれどころか何かの販促キャンペーンで配布されるファイルの収録媒体としてDVDメディア代わりに扱われることが珍しくない昨今の情勢では、旧態依然も甚だしいというか、恐ろしく時代遅れな印象です。

こうした状況について、何故AmazonはKindle各モデルの内蔵ストレージ容量を増量しないのかという疑念が湧き起こる方も恐らく少なくないことでしょう。

しかし、次々節以降で述べるように、Kindle各機種、特に今回の「Kindle Paperwhite マンガモデル」で示されたハードウェア・ソフトウェア仕様を確認してゆくと、これまで思いもよらなかった事情が浮かび上がってきました。

どうやら、Amazonは何の理由もなしにストレージ容量を4GBとしていた訳ではないようなのです。

日本市場に適合していなかったKindleの書籍ダウンロード関連サービス

こうしたKindle各機種での端末側ストレージ容量の不足については、Kindleに限らずこの種の電子書籍サービスでは、購入した書籍を何度でもダウンロードできるような制度として、一定容量のクラウドストレージサービスを提供することで補うのが一般的です。

さらにこれまでのKindleの各端末ではWi-Fiでのダウンロードに加え、Kindleの対応モデル所有ユーザーは無料で利用可能な3G回線接続によるダウンロード機能が搭載されたモデル(Wi-Fi + 無料3Gモデル)が提供されていて、これの場合はWi-Fiスポットのない場所でも気軽に電子書籍をダウンロードできるような仕組みが提供されてきました。

しかしKindleの場合、実はここに一つ大きな問題がありました。

低速の3G回線経由の場合、Kindleストアからはファイルサイズの大きなコンテンツをダウンロードすることが制限されていて、元々ファイルサイズが一般書籍の10倍以上になることが当たり前のコミックスは、そもそもダウンロードできないのです。

いくら無料で3G回線による通信サービスが利用できるとしても、肝心のコンテンツでその機能が利用できないのならば、それは無いのと同じで、何の意味もありません。

つまり、購入したコミックスを回線の使えるところで一気に全部ダウンロードしておこうとすれば内蔵ストレージ容量が足りないことが問題となり、かといって途中でダウンロードしたファイルの入れ替えをしようと思っても3G回線しか利用できないエリアではそれ経由でのコミックスのダウンロードそのものが禁止されているという、外出先で一挙に多数のコミックスをKindle端末上で読みたいユーザーには、これ以上無い位に質の悪いハメ技を喰らったような状況が待ち受けているのです。

これは視点を変えると、公共施設・店舗などで提供されているWi-Fiスポットや自宅などに設置されているWi-Fiルーターが使える環境でないとコミックスはKindleストアから一切ダウンロードできないということを意味します。

そのため、出先でそう簡単に端末にダウンロードした書籍を入れ替えることが出来ないか、かなり難しい状況(※注4)であると言えます。

 ※注4:母艦となるパソコンをノートパソコンにしておけば、いわゆる自炊した書籍データについてはUSBケーブル接続によりKindle本体をUSBドライブモードに切り替えてそのパソコンと接続することで、Wi-Fiが使えないような環境でもコミックスのデータ転送が可能です。もちろん、予めそのパソコンに必要な書籍データを保存しておく必要がありますが。

東京都交通局ホームページに掲載のバス車内での無料Wi-Fiサービスについての案内ページ

東京都交通局ホームページに掲載のバス車内での無料Wi-Fiサービスについての案内ページ

例えば、東京都23区内など有償無償を問わず比較的Wi-Fiスポットや公共交通機関でのWi-Fiサービス提供が普及したエリアならば、Wi-Fi経由でコミックスをKindleストアからダウンロードできるようにすることは可能(※注5)です。

 ※注5:ただし公共施設・公共交通機関などで提供されている無料Wi-Fiサービスの中には、「都営バス無料Wi-Fi」サービスのようにWEPなどによるWi-Fi通信の暗号化を一切行っていない、つまりセキュリティ的に大変問題のある状態の者が含まれているため、特に注意が必要です。こうしたWi-Fiサービスでは、利用時にパスワード入力などによるログインが必要でしかも有償のコンテンツを取り扱う電子書籍ダウンロードサービスを利用するのはセキュリティ面で丸裸も同然で様々な問題があって、事実上利用できません。外出時等の際にこの種のコンテンツダウンロードを行う場合には、基本的には暗号化が利用できる有償のWi-Fiサービスを利用する必要があります。

もっとも、そうした都心部から離れた、Wi-Fiスポットが満足に整備されていないエリアでWi-Fiスポットを探してそこでダウンロードしろ、というのはかなりの無茶振りで、およそ現実的ではありません。

そうした事情で、Kindleについてはコミックス愛好者を中心に、そもそもそうしたユーザーでは全く使えない3G通信機能は要らないからWi-Fiモデルベースで内蔵ストレージ容量を大幅に増やして、利用中の書籍データダウンロード/入れ替えの必要を無くせるモデルが欲しい、という切実な要望が結構前からありました。

iPadなどのタブレット各機種でさえ昨今は最低容量が16GBから32GBに底上げされ、しかもスマートフォンでは最上位でストレージ容量256GBの機種が珍しくなくなりつつあるような状況で、いかに低価格かつ機能が制限されているとは言え、電子書籍端末だけがストレージ容量4GBを墨守し続ける状況に対する不満は結構大きく、実際筆者の周囲でも、この難点があるが故にKindleの利点を理解しながら買わず、悩んだ末にiPadを購入した知人がいたほどでした。

そして先日、ようやくAmazonが重い腰を上げ、既に発売されている「Kindle Paperwhite」のバリエーションモデルとして、「Kindle Paperwhite マンガモデル」が発売されました。

これまで散々要望されてきた「無料3G通信なし、大容量ストレージ搭載」の2条件を満たした機種が遂に登場したのです。

以下、後編に続きます。

▼参考リンク
Kindle Paperwhite 32GB、マンガモデル、Wi-Fi 、ブラック
•2016年10月18日: 日本限定モデル、「Kindle Paperwhite 32GB マンガモデル」を発売
Kindle Paperwhite Wi-Fi + 3G、ブラック

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