Kindleシリーズの現行製品性能比較表「Kindle Paperwhite マンガモデル」ではこれまで無かったマンガ(コミックス)の最大保存冊数が明示される一方で、一般書籍の保存冊数は従来機種と同じ表記となっている(ただし同じ冊数になるとは限らない)

「マンガモデル」の意味するところ ~Kindle Paperwhite マンガモデルを考える~ 後編

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by [2016年12月02日]

前編では既存のKindleシリーズの不満点や日本市場での問題点について説明しました。

後編ではそうした不満・問題に対応すべく日本限定モデルとして登場した「Kindle Paperwhite マンガモデル」の特徴と、その制約などについて考えたいと思います。

Amazon Kindle Paperwhite マンガモデル

Amazon Kindle Paperwhite マンガモデル

ストレージ容量は十分か?

「Kindle Paperwhite マンガモデル」の主な仕様は以下の通りです。

  • サイズ:169×117×9.1mm
  • 重量:205g
  • メインスクリーン
    • 種類:16階調グレースケール電子ペーパー
    • 解像度:300dpi
    • 画面サイズ:6インチ
    • ※対角線長
  • 内蔵メモリ
    • フラッシュメモリ:32 GB(使用可能領域約27.5GB)
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 b/g/n

ストレージ容量を除く基本的なスペックは、「Kindle Paperwhite」のWi-Fiモデルと同一です。ストレージ容量が8倍になってその分公称重量が幾らかでも増加するかと思ったのですが、205gのままで変わっていません。

これはつまり、本体内蔵フラッシュメモリのチップサイズ・質量はほぼ同一のままで、そのストレージ容量だけが8倍に増大していること(※注6)を意味します。

 ※注6:ただしマンガのページめくりの速度に限って、それもこの機種のみ33%アップと謳われていることから、フラッシュメモリの読み出し速度は従来機種よりも高速なタイプに変更されている可能性が高いことが見て取れます。一般に大容量フラッシュメモリの場合、微細化で高速駆動が容易となっていることが珍しくありませんから、これはそうした搭載メモリチップ変更の恩恵と考えられます。

Amazon.co.jpのKindle Oasis製品ページ記事執筆時点でのKindleシリーズ最上位モデル。

Amazon.co.jpのKindle Oasis製品ページ
記事執筆時点でのKindleシリーズ最上位モデル。

これがWi-Fi+無料3Gモデルと大差無い価格でできるのなら、どうして以前ご紹介した「Kindle Oasis」でストレージ容量を増やしたモデルを提供してくれなかったんだと言いたくなるのは、恐らく筆者だけではないでしょう。特に画面表示のムラにデリケートなコミックスを扱うことを考えれば、バックライト個数を増やして明るさの均一性を高めた「Kindle Oasis」にこそ「マンガモデル」が欲しい、という人は決して少なくない(※注7)と思います。

 ※注7:「Kindle Paperwhite マンガモデル」のレビューを確認してみると、この画面のムラを問題視する指摘がありました。今後、「Kindle Oasis」の「マンガモデル」が発売される可能性も(恐らくはこの「Kindle Paperwhite マンガモデル」の売れ行き次第となるものの)ありうるでしょう。

「マンガモデル」ではあるものの「大容量モデル」ではない?

さて、そうした問題はあるものの、ストレージ容量が従来比何と8倍の32GBとなったことは、コミックス閲覧用にこのシリーズの購入を検討している人にとって、素直に喜ばしい改良だと言えます。

Kindleシリーズの現行製品性能比較表「Kindle Paperwhite マンガモデル」ではこれまで無かったマンガ(コミックス)の最大保存冊数が明示される。

Kindleシリーズの現行製品性能比較表
「Kindle Paperwhite マンガモデル」ではこれまで無かったマンガ(コミックス)の最大保存冊数が明示される。

もっとも、この機種のストレージ容量については、書籍の場合「最大数千冊」、マンガ(コミックス)の場合は「約700冊」と案内されていて、これほどストレージ容量が増強されたにもかかわらず、またコミックスの保存については明確にその効果が確認できる最大保存冊数が示されているにもかかわらず、書籍の場合の最大保存可能冊数表記は、ストレージ容量4GBの他の機種と変わっていません(ただし同じ冊数になるとは限らない)。

これはいささかおかしな事態です。ストレージの空き容量がKindleストアで購入しライブラリに表示されるようになった書籍のダウンロードにリニアに使用できるのであれば、ストレージ容量が8倍に増強されたこの機種では、一般書籍の最大保存可能冊数も同様に8倍に増えて然るべきです。ここで示されている、「最大数千冊」が一体どの程度の冊数を想定しているのかが公表されていない(※注8)ため確言はできないのですが、どんなに少なく見積もって一万冊以上の書籍は扱えるようになったはずです。

 ※注8:仮に登録書籍を管理するプログラムがデータを10ビットで扱っていれば最大で1,024冊ないしは1,023冊、12ビットで4,096冊ないしは4,095冊となります。この場合「千数百冊」ではなく「数千冊」とあえて言うからには、少なく見積もっても2,000~3,000冊程度、さもなくば5,000~6,000冊は扱えるものと判断されます。ここで前者の最小値を取ったとしても、ストレージ容量が従来比8倍に増えていることから必然的に最低でも2,000 × 8 = 16,000冊以上のデータが扱える筈だ、ということになります。

にもかかわらずこの機種の仕様では、先にも触れたとおり一般書籍の最大保存冊数について「1万数千冊」や「数万冊」ではなく、従来機種と同じ「数千冊」という表記を用いていています。

これについて筆者が推測する理由は以下の通りです。

  1. 1.端末に内蔵されている電子書籍管理アプリの設計で扱える書籍の最大数が「数千冊」規模までとなっていて、1冊あたりのファイルサイズにかかわらず、また幾ら空き容量があろうとも、その冊数までしか認識できない
  2. 2.端末内蔵OSのファイルシステムの設計の制約で、内蔵ストレージのディレクトリ上に置かれたファイル数に制約があって、「数千冊」以上ファイルを扱えない。
  3. 3. 1・2の複合

これだけとは限らず、筆者が想像も付かないような斬新な理由である可能性も否定できませんが、とりあえず一定の合理性がありそうなのはこのあたりの、ソフトウェア的な制約に起因する理由です。

また、製品レビューで再三に渡ってソート機能の改善を求める声が上がっていて、Amazon自身も認識し解決する必要があると判断しているにもかかわらず、求められた改善がなかなか実現できていないことなども考え合わせると、Kindleの端末内蔵ソフトウェアの設計とその実装について、開発チームそのもののソフトウェア開発能力の事情(※注9)と考えることもできそうです。

 ※注9:昔筆者がマシン語でプログラムを書いていた頃の経験から言うと、数千件レベルで扱えるデータ件数が頭打ちのデータベースというのは、ハードウェア側に何らかの制約があることを勘案しても、決して褒められた設計ではありません。この端末の中で一体何がどのように機能しているのか知りたいところです。

まぁ、この辺については大規模なデータ管理に対応するとそれだけで端末のメインメモリ容量を一時作業領域として大量消費したりするので、何でもかんでも安易に大容量対応とするのもクレバーではありません。一般論として言えば、単純にストレージ容量を増やすだけでは無く、搭載するプロセッサやそのメインメモリ容量の増量なども歩調を合わせて行いバランスをとらねば、そうしたソフトウェア側の改良は充分な効果・威力を発揮できません。

実際、ソフト側で一度に扱える冊数が増えるということは、ユーザーのライブラリに登録された書籍の書影表示処理等の際の負荷もその分増えるということです。

そのあたりの管理を勘案すると、メインメモリ容量の増量やプロセッサ性能の向上といった性能強化の実施なしでの本格的な大容量ストレージ対応は色々難しそうです。

Amazonが公表している仕様を眺める限り、この機種ではそうした扱える書籍数の上限値を引き上げるための総合的な対処が行われた形跡はなく、ストレージ容量に見合わない最大冊数で据え置かれていると言えます。このことから、この機種は本当に従来機種とほぼ同じハードウェアのままで、ただただ強い要望のあったコミックスの保存冊数を増やすことだけに主眼を置き、一般書籍の管理可能冊数を増やすのをすっぱり諦めて割り切った方針で設計されている(※注10)可能性があるのです。

 ※注10:この機種の開発はAmazonの日本法人が主導したとされていますが、それだけにAmazon米国本社の今後のKindle開発方針を左右するような重要かつ大規模な設計変更の要望は行いにくかったと推測されます。

なお、この機種ではストレージの保存可能冊数がマンガで約700冊、内蔵ストレージのOS・専用アプリなどの占有容量を引いた公称空き容量が約27.5GBとなっていることから、AmazonがKindleストアで取り扱う平均的なコミックスのファイルサイズを約40MBと想定している(※注11)ことがわかります。

 ※注11:これは恐らく主流となるであろう新書サイズのコミックスなどのファイルサイズを勘案した数字と考えられ、ジャンル・提供出版社・表現形態によっては先に触れたように80~100MB程度のファイルサイズとなることもあり得るため、その場合はこれよりも大幅に少ない冊数しか保存できません。もっとも、それでも従来モデル比で10倍近い冊数の保存は期待できます。

仮に一般書籍で万単位の冊数を保存できるのならば、これまでとはまた違う使い方を考えられるというか、携行できる電子図書館という、本読みの夢が実現することになるのですが、先にも触れたとおりこの機種では折角ストレージ容量を大容量化したにもかかわらず、そうした対応は謳われていません。そのため、特にコミックスを読まず一般的な書籍のみを利用するユーザーがこの機種を購入しても、ストレージの大容量化によるメリットはほとんどないのかもしれません。

まぁ、仮に一般書籍しか購入/閲覧しないユーザーがこの機種を買ったとしても、最悪で通常版の「Kindle Paperwhite」のWi-Fiモデルと同等程度の使い勝手にしかならないだけの話で、扱える一般書籍数は両モデル間で恐らく変わりないため、せいぜいその端末本体の価格差程度しか実害はないようなものなのですが。

仮に筆者の推察どおりだとすれば、今後、AmazonがKindleシリーズにより大容量のストレージを搭載し、通常の書籍でも万冊単位でデータを扱えるようにするには、OSか専用アプリ、あるいはその双方の抜本的な設計・仕様の見直しに加え、恐らくハードウェアについても搭載プロセッサやメモリ容量などについて大がかりな再設計が必要となるでしょう。

同じ6インチサイズのディスプレイを搭載しながら販売価格が「Kindle Paperwhite」の倍以上となる「Kindle Oasis」が軽量化を謳う一方で抜本的な設計の改善に踏み切れなかったのも、このあたりの大規模な新規開発コストの負担による製品価格の高騰を避けたことも考えられます。

Kindleに残された2つの道

このあたりの状況から、今後のKindleには2つの道があることになります。

一つは、これまで通りのハードウェア・ソフトウェア設計のままで本格的にストレージ容量を変えず低価格化路線を追求する道、そしてもう一つは、価格高騰を覚悟でより高機能・高性能なハードウェアを用意し、より大容量のストレージでより多くの書籍を扱える端末とその搭載ソフトウェアを開発する道です。

前者は、Kindle端末の普及拡大には有効な戦略ですが、その一方で機能の革新や改良に制限をもたらし、さらに低価格化にも一定の限度があるため、長期的に見るとやがて行き詰まるのが確実です。

そのため、王道の戦略は継続性や発展を期待できる後者ということになるのですが、Kindleシリーズにせよ、Fireタブレットにせよ、少なくともAmazonが販売している現行の機種を見ると一目瞭然、どれも先進的な設計とは言いがたい状況です。

本来は流通業者であるAmazonの立ち位置からすると、いわば余技であり、実際の製品製造はOEMメーカーに委託しているであろうこの種の機器に多くを求めすぎては駄目だと思うのですが、このあたりの弱点をつぶせるか否かに、Kindleシリーズの命運がかかっているとみてよろしいでしょう。

データそのものの作り方も問題だ

さて、ここまで「Kindle Paperwhite マンガモデル」、およびKindleシリーズについて見てきました。

総じて、コストを可能な限りかけずにどこまでユーザーの要望に応えられるかに挑戦したかのような印象の派生モデルですが、今あるハードウェアでユーザーから強く寄せられている要望に、それも最小限の改修で応えるという観点では、満点に近い出来の製品(※注12)と言って良いでしょう。

 ※注12:これはあくまで「既存製品を利用してミニマムな変更でマキシマムなユーザーベネフィットを得る」という観点での評価です。そうした前提無しで電子書籍閲覧デバイスとしてみた場合、この機種には先にも少し触れたとおり、様々な課題が存在しています。

過去に諸事情で数千冊規模の古い書籍をいわゆる自炊で電子化した経験のある筆者個人の感想としては、端末側でのソフト・ハードの改修による端末保存可能書籍冊数の増加努力も当然必要ですが、それ以上にそこに保存される書籍データそのもののスキャン時のノイズ除去作業徹底などによる1冊あたりのファイルサイズ削減徹底も重要になってくるのではないかと考えています。

筆者の経験上、一見同じに見える電子書籍用画像データでも、例えばモノクロページで経時変化などにより変色した=本来色がついていないはずの部分について画像処理により色抜きする、ノイズが乗っている筈のないコマ外の白地枠の部分についてノイズを丹念に潰す、といった手間をかけてやるだけで、同等あるいはそれ以上にクリアな画質でファイルサイズを元より縮小できることが結構ありましたから、そうした部分での画質化以前・容量縮小努力を積み重ねていけば、それだけでもかなりのストレージ容量占有の削減を図れるものと思います。

筆者が購入していた電子書籍データでも、出版社によるファイルサイズの傾向差は思った以上に大きく、このあたりが下手でファイルサイズが大きめになっている会社が普通にスキャン時のノイズ除去作業を行うようになるだけでも、かなりのストレージ容量節約を期待できるのではないでしょうか。

このあたりの、電子書籍の画質をどのようにコントロールするのかというのは、Amazonではなくコンテンツを提供している出版社・著者側のポリシーの問題はありますが、こうした画質を保ったままでの電子書籍のファイルサイズ縮小のための努力は、是非電子書籍サービス事業者と出版社が連係・協力して実現して欲しいものです。

▼参考リンク
Kindle Paperwhite 32GB、マンガモデル、Wi-Fi 、ブラック
•2016年10月18日: 日本限定モデル、「Kindle Paperwhite 32GB マンガモデル」を発売
Kindle Paperwhite Wi-Fi + 3G、ブラック
Amazon.co.jp: Kindle本 セール&キャンペーン: Kindleストア

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