NIVIDIA Quadro P5000プロセッサやメモリの規模が2/3であるためか、Quadro P6000と比較して幾分シンプルな形状のクーラーを備える。ソフトウェアはともかくハードウェア的には先行発売されたGeForce GTX 1080のメモリクロックを1割落として倍容量のメモリを搭載したと考えるとわかりやすい

VRクリエーターの強力なツール ~NVIDIA、Quadro P5000・P6000をみる~ 後編

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by [2016年11月01日]

前編ではNVIDIA Quadro P6000・P5000の主な仕様やそれぞれのGPUチップ、それにメモリ回りについてみてきました。後編ではそもそもQuadroとGeForceでは何がどう違うのかについてみていきたいと思います。

QuadroとGeForceの違い

NVIDIA GeForce GTX 1080「Pascal」アーキテクチャによるGeForce GTXシリーズの現行最上位機種。クーラー部分の形状はQuadro P5000と異なり派手なデザインだが、GPUチップそのものは同系で、メモリの容量とチューンが異なり、ディスプレイ出力回りの周辺回路設計に若干の相違がある程度にとどまる。これらGeForce系一般向けグラフィックスカードとQuadroシリーズの差はソフトウェアの挙動の違いにこそある

NVIDIA GeForce GTX 1080
「Pascal」アーキテクチャによるGeForce GTXシリーズの現行最上位機種。クーラー部分の形状はQuadro P5000と異なり派手なデザインだが、GPUチップそのものは同系で、メモリの容量とチューンが異なり、ディスプレイ出力回りの周辺回路設計に若干の相違がある程度にとどまる。これらGeForce系一般向けグラフィックスカードとQuadroシリーズの差はソフトウェアの挙動の違いにこそある

Quadro型番のGPUは、メモリ容量や速度などの仕様差はあれど、原則的には同世代のGeForceと同じチップを使用しているのが基本(※注8)です。

 ※注8:生産・販売数の圧倒的な差を考慮すると、少数しか生産されないQuadroの各機種ごとに専用のチップを用意するのは不経済です。そのため、近似仕様のGPUをGeForceとQuadroで共用するのはコスト的に理にかなっています。

それでは、GeForceとQuadroは何が違うのでしょうか。

まず、ソフトウェア的には対応するデバイスドライバが異なること。

Quadroは基本的にはCADツールや3D CGツール、それに動画編集ツールなどのクリエイター向けツールでの使用を前提として開発されているため、ドライバレベルでDirect XではなくOpenGLなど3D CAD・3D CG作成での利用頻度の高いAPIに最適化され、さらに広く利用されているそれらのツールなどでの動作に個別に最適化・対応したチューンが施されるのが基本となっています(※注9)。

 ※注9:こうした各種クリエイター向けツールでの最適化は、それらのソフトでの動作確認と表裏一体で、Quadroでは機種ごとにそれらのソフトの開発元からソフトウェア動作認証を取得しているものが大半となっています。

つまり、ドライバレベルで一般的な3Dゲームを遊ぶのにはあまり適さないチューンとなっているということで、Quadroは必ずしも同系チップを搭載するGeForceの性能面での上位機種という位置づけではない(※注10)のです。

 ※注10:往々にしてそのようが誤解がなされることがあるのですが、例え同じGPUチップを積んだGeForce型番の機種では無効化されている一部のシェーダユニットがフルに有効化されていたとしても、Quadro型番のその機種がGeForce型番の機種と同じゲームを動作させてより高速に動作するという保証はありません。むしろゲームなどのDirectXを前提とするアプリを動作させた場合、後述するようなメモリ回りの設計に関わる制約もあって同系チップ搭載のGeForceよりもかえって性能が低下する可能性すらあります。QuadroとGeForceは用途に合わせ同じチップの性能をどう使うかを充分検討の上でチューンや構成を変えて作り分けられていると考えるべきなのです。

次に、ハードウェア的な面では、ディスプレイ出力に関わる機能の相違が多くなっています。

これは、Quadroが業務で使用される機会が多く、動画編集などで高解像度多画面表示が強く求められることへの対応で、Quadro搭載グラフィックスカードは基本的に同じGPUを使うGeForce系グラフィックスカードと比較してより高解像度に対応したディスプレイ出力端子を多数搭載しています(※注11)。

 ※注11:Quadro P5000と兄弟機種と考えられるGeForce GTX 1080でDisplay Port 1.4×3、HDMI 2.0b×1、Dual-Link DVI-D×1搭載ですから搭載されているディスプレイ出力端子数はQuadro P5000と同等です。しかしDual-Link DVI-Dのサポートする画面解像度はWQXGA (2,560 × 1,600ピクセル)で60fps程度が精一杯で、HDMI 2.0bでも3,840 × 2,160ピクセル60fpsが上限となっていますから、Display Port 1.4の完全な代替規格となり得ません。また、GeForce系カードでは一般にハードウェアの制約その他から同時に出力できるポート数が4基までに制限される、つまり5基以上ポートがあっても少なくとも1基は常に使えないという問題もあります。これに対しQuadroでは5K解像度、つまり5,120 × 2,880ピクセル(60fps)の出力を可能とする(=帯域的に大変負荷の大きい))Display Port 1.4が4基搭載されていてしかも4基同時出力可能となっているため、最大接続時に実際に得られる画面のピクセル数は確実に大きくなります。

また、Quadroは内部の色処理でRGBそれぞれについて10ビットカラー、つまり2の30乗で1,073,741,824色が扱えるようになっており、RGBそれぞれ8ビットでしか扱えないGeForceよりも色再現性の点で有利となっています(※注12)。

 ※注12:当然ながら1画素あたりの色情報量が2割増しとなるため、3D演算にしろ映像出力にしろ、これによる処理速度の低下の問題は避けられません。これはQuadroが同等スペックのGPUを搭載するGeForceと比較してゲームの描画速度が1段落ちる一因です。

そうした通常よりも多くの色情報を内部処理その他で扱う必要もあって、Quadroは総じて搭載メモリ容量が同系GPUチップを搭載するGeForceシリーズ製品よりも多くなる傾向にあります。もっとも、メモリの増量はチップ枚数増加によるコスト増およびメモリインターフェイスのドライブ能力の制約に起因するメモリの動作クロック周波数の低下といったトレードオフが生じるため、色情報の問題よりもむしろ高速でのメモリ応答性能を重視するゲーミング用途の一般向けGPUでは容量をある程度削ってでも高速動作するメモリを優先した方が良い結果となる傾向にあります。

何にせよ、QuadroとGeForceを比較するのは同じエンジンを積んでいるからと言って乗用車とトラックを同列で比較するようなもので、もちろんそれぞれに搭載されている新機能が以後互いの後継機種で搭載されることもあるので、それぞれの将来の改良を占うこともできますが、実用上はあまり意味の無い行為であると言えます。

このクラスのスペックが一般向けに降りてくるのはいつの日か

以上、NVIDIAのクリエーター・業務用途向けグラフィックスカードの最新作、Quadro P6000・Quadro P5000について見てきました。

医療などの業務用途でのVR本格展開なども見据えてVRWorks’ 360 Video SDKと呼ばれるソフトウェア開発環境とセットで提供されているのは流石と言うべきで、また特にQuadro P6000では今できる上限一杯の性能が与えられており、これらだけでもVRにかけるNVIDIAの意気込みが伝わってきます。

また、Quadro P5000でもVRに限ってみればメモリ搭載量が2倍になる分、GeForce GTX 1080よりもほぼ確実に「軽い」動作が期待できます(※注13)。

 ※注13:筆者の(AMD製品での)実体験から考えても、よりグレードの高いGPUを搭載するもののメモリが4GBしか搭載されていないRADEON R9 290よりもGPUの性能は若干劣るもののメモリを8GB搭載するRADEON RX480の方がより快適なVR体験ができており、PCI Expressインターフェイスにかかる負荷も考慮するとメモリ倍増は1割のメモリ帯域性能低下よりもVRでの性能向上に「効く」と言って良さそうに思います。

フラグシップモデルとして今できる最善を尽くしたQuadro P6000より(恐らくは格段に)リーズナブルな価格で、VRコンテンツ作成を行う上で必要充分以上の性能を実現する、という観点に立てばこのQuadro P5000にもQuadro P6000に負けない利用価値があるでしょう。

気になるのは、Quadro P6000クラスの性能のGPUを搭載したグラフィックスカードが一般向けとして普通に市販されるようになるのがいつか、ということです。

NVIDIA TITAN X仕様からQuadro P6000と同系のGPUチップを搭載すると考えられる、現在の一般向け史上最速グラフィックスカード。メモリ容量はQuadro P5000に対するGeForce GTX 1080と同様にQuadro P6000比で半減だが、その分帯域性能が向上して480GB/sに達している

NVIDIA TITAN X
仕様からQuadro P6000と同系のGPUチップを搭載すると考えられる、現在の一般向け史上最速グラフィックスカード。メモリ容量はQuadro P5000に対するGeForce GTX 1080と同様にQuadro P6000比で半減だが、その分帯域性能が向上して480GB/sに達している

単純に製品レベルで考えれば、NVIDIAにはGeForceの上位機種としてTITANシリーズと称する、Quadroシリーズの上位GPU搭載モデルを一般向けにチューンし直したモデルが存在しており、このQuadro P6000も実はCUDAコア数を3,584基に、GDDR5Xメモリを12GBに減らした派生モデルがNVIDIA TITAN Xとして両機種の発表と前後して発表され、既に限られた代理店経由での取り扱いとは言え、一般販売が開始されています。

しかし、そうは言ってもこのTITANシリーズはお値段がQuadroシリーズほど高価ではないにせよカード単体だけで10万円を軽く超えるレベル(※注14)で、下手をするとGeForce GTX 1080搭載のVR対応パソコンが1台変えてしまうクラスの価格設定ですから、これの市販をもって一般向けとして普通に買える製品の市販が開始されたとするのは無理がありそうです。

 ※注14:発表時点でのアメリカ市場向け価格が1,200ドル。日本円に換算するとそれだけで12万円ほどですが、輸入やサポートのコストその他もあるためか、代理店経由での発売開始時点での価格は17万円と一般向けグラフィックスカードとしては破格の、凄まじい高額になっています。もっとも、Quadro P6000の前世代にあたるQuadro M6000では国内販売価格が60万円ほどで、Quadro P6000もこれと同等かそれ以上の価格となると予想されていますから、それと比較すれば充分低廉な価格と言えます。また、これらの極端なほどの価格差からCUDAコアが完全に動作する、製造不良や欠陥の一切無い「ビッグチップ」なGPUチップの選別搭載と高速動作するGDDR5Xメモリの倍容量化にあたっては、GPUチップの歩留まり率の極端な悪さがチップ価格を大きく押し上げていることや、メモリチップのコスト増が予想以上に大きいという事がわかります

そのため、このQuadro P6000クラスの性能のGPUを搭載した一般向けVR対応グラフィックスカードがそれなりに低廉な価格で市販され広く流通するようになるには、恐らく最低でも1~2年以上の時間が必要で、その時にはGPUのアーキテクチャが次世代、あるいは次々世代以降のものとなっていることでしょう。

▼参考リンク
UNMATCHED POWER. UNMATCHED CREATIVE FREEDOM. NVIDIA® QUADRO® P6000(PDFファイル)
UNMATCHED POWER. UNMATCHED CREATIVE FREEDOM. NVIDIA® QUADRO® 5000(PDFファイル)
introducing HDMI 2.0
NVIDIA Ups Ante for VR, Design with World’s Fastest GPU
The New NVIDIA TITAN X: The Ultimate. Period. | The Official NVIDIA Blog
NVIDIA TITAN X Graphics Card with Pascal | GeForce
GTX 1080 Graphics Card | GeForce

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