サムスン電子 Galaxy Note 72016年8月19日の韓国・北米各国をはじめとする10カ国での発売開始以来好調な売れ行きを示していたが、思わぬ形で足下を掬われる結果となり、遂に全数リコールとなった

Galaxy Note7が全数リコールへ ~内蔵バッテリー爆発事故頻発で~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

by [2016年9月05日]

サムスン電子 Galaxy Note72016年8月19日の韓国・北米各国をはじめとする10カ国での発売開始以来好調な売れ行きを示していたが、思わぬ形で足下を掬われる結果となり、遂に全数リコールとなった

サムスン電子 Galaxy Note7
2016年8月19日の韓国・北米各国をはじめとする10カ国での発売開始以来好調な売れ行きを示していたが、思わぬ形で足下を掬われる結果となり、遂に全数リコールとなった

8月19日の一部地域での発売以来、本国である韓国市場で10日間に40万台が販売され、そのスタートダッシュの好調さを好感し自社の株価が発売当日に過去最高値を記録するなど好調に売れ行きが増大しつつあったGalaxy Note7は、サムスン電子にとって久方ぶりの大ヒット商品となることが期待されていました。

実際、このクラスの大画面ファブレットとしては至れり尽くせりの仕様・性能を備え、網膜認証やデュアルピクセルによる像面位相差AFを搭載した高速AFカメラなど、申し分の無い新機能を搭載したこの機種の評価は高く、ヒットも当然とする見方もありました。

しかし好事魔多し、揚々たる前途が待ち受けていたはずのこの機種には、とんでもない問題が潜んでいました。

発売から1週間前後の時期から、このGalaxy Note7を充電中に突然発火、あるいは爆発した、という報告が相次いで出されるようになったのです。

その後サムスン電子は急遽Galaxy Note7の出荷を停止、そして2016年9月2日、遂に出荷された全てのGalaxy Note7、数にして約250万台を対象とした大規模リコールが同社から発表されました。

幸か不幸か日本ではまだ発売開始前だったため、一部のショップで扱われている先行発売地域からの並行輸入品を別にすればこのリコールには該当せず、また今後発売時には対策品が出荷されることになると考えられますが、いずれにしてもこれは大変な規模のリコールです。

そこで今回は、このGalaxy Note7のバッテリー問題を考えてみたいと思います。

多分に危険をはらんだリチウムイオン/リチウムポリマー二次電池

よく知られるように、Galaxy Note7を含む現在のスマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどで多用されるリチウムイオン/リチウムポリマー二次電池は、他の一般に現用されている二次電池各種と比較して格段に高いエネルギー密度を実現でき、また継ぎ足し充電を繰り返してもメモリー効果がほぼ起きないという、モバイル機器用二次電池としては理想的な性能・性質を備えている反面、その使用に当たって重大な問題を抱えています。

リチウムイオン/リチウムポリマー二次電池で厄介なのは、まず正極に用いられる材料であるリチウムに水と激しく化学反応する性質があること。

このため、通常の二次電池ならば電解質を水溶液とすることで発火などの危険をある程度回避できるのですが、それができず発火性のある有機化合物を電解質とせざるを得なくなっています。

二つ目は、充放電時の電圧制御について、文字通り針の穴を通すような精密な制御を要求され、しかも過放電も過充電も許されないこと。

実はリチウムイオン/リチウムポリマー二次電池で過充電状態に陥ると、正極を構成するリチウム酸化化合物であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)から酸素が遊離し、金属リチウムを析出させてバッテリーパックそのものを膨張させてしまいます。

この状態になると、酸素と燃料である有機化合物が電池内に揃い、しかも金属リチウムの析出によってバッテリーセル内での回路短絡が生じる恐れがあり、これによって過熱が発生すると簡単に爆発が起きてしまうわけです。

また、過放電では今度は電極のコバルトや銅が析出し、これらがショートして発火に至る危険性があります。

つまり、リチウムイオン/リチウムポリマー二次電池はうっかり充電しすぎても放電し過ぎても発火や爆発を起こす大変に面倒かつ危険な代物で、これでエネルギー密度が低ければ誰も見向きはしなかったであろう、というレベル(※注1)のデリケートさなのです。

 ※注1:こうしたほとんど爆弾同然の性質から、近年ではリチウムイオン/リチウムポリマー二次電池の航空輸送には厳しい制約が科せられるようになっています。

これまでも発火・爆発事故は起きていた

当然ながら、こうした危険な性質はリチウムイオン二次電池の開発初期から認識されていました。

そのため、これまでの二次電池各種とは異なり、それぞれの電池パックそのものに容量や電圧を監視する保護回路が組み込まれていて、過充電や過放電状態となりそうな時にはこの保護回路が働いて回路接続を切り離すことで過充電や過放電を阻止する仕組みが搭載されています。

ところが、この保護回路とバッテリーセルの特性が上手く一致しないと、思わぬタイミングで過放電や過充電による発火や爆発が起きてしまう恐れがあります。

しかも、発火や爆発の原因となるのはこうした充放電制御のミスばかりではありません。

過去にソニーの子会社であるソニーエナジー・デバイス製リチウムイオン二次電池で起きたトラブルでは、バッテリパックを封止する過程で微細なニッケル粉がバッテリーセル内に飛び散り、これが絶縁層を透過してしまって回路短絡から発火に至ったと判明していますし、他社のケースでは製造あるいは輸送の過程でバッテリーパックに与えられた衝撃が原因で発火や爆発に至ったケースもありました。

つまり、充放電制御の問題だけではなく、バッテリーパックそのものの製造工程での不具合や強い衝撃もまた、発火に結びついてしまうのです。

ちなみに過去の事例では、ソニーエナジー・デバイスの各社製ノートパソコン用電池パックで公称960万個、膨張対策が不十分で問題が生じたパナソニックの携帯電話用電池パックでは何千万個もの全回収対応となっており、この種の事故が発生した際には電池製造元に大変大きな負担が生じたことと、電池メーカーと機器メーカーとの間で事故原因や責任範囲について激しい論争が起きたことが知られています。

今回サムスン電子が250万台出荷の時点で出荷を止め全回収に踏み切ったのは、恐らく対応が遅れたためにさらに大きな被害となってしまった、こうした過去の事例を教訓としたと考えられます。

事故の原因

サムスン電子のUSサイトで発表された公式声明9月1日時点で全世界において35件の報告があったことと、バッテリーセルの問題が発見されたことが説明されている

サムスン電子のUSサイトで発表された公式声明
9月1日時点で全世界において35件の報告があったことと、バッテリーセルの問題が発見されたことが説明されている

今回の問題について、サムスン電子のアメリカサイトで発表された公式声明では簡潔に「バッテリーセルの問題」(battery cell issues)が発見されたとしています。

またその文中で世界中において35件の問題発生報告があったとしています(※注3)。

 ※注3:この点について中央日報の報ずるところによれば、サムスン電子幹部は9月1日の時点で報告されている件数が35件で、これは確率が100万台に24台とコメントしています。このことから、出荷台数250万台に対して実際の販売台数がこの時点で150万台弱であったことがわかります。

各種メディアによって報じられている発火・爆発状況から推測すると、これは制御基板の保護回路の問題と言うよりは、特定ロットのバッテリーパック製造工程で何らかの事情により異物が混入したかさもなくばバッテリーパックそのものに欠陥が生じていて、その状態で充電したところ内部で本来想定されていない化学反応が発生し短絡発火・爆発に至った可能性が高いと考えられます。

親会社に当たるITM Semiconductorの公式サイトに掲載されているDongguan ITM Electronicsの紹介ページ

親会社に当たるITM Semiconductorの公式サイトに掲載されているDongguan ITM Electronicsの紹介ページ

実際、韓国の中央日報などが報じるところによれば、サムスン電子向けのバッテリーパックはまず韓国のサムスンSDIでバッテリーセルが生産され、それをDongguan ITM Electronics(東莞ITMエレクトロニクス)という中国の東莞市にある協力会社の工場へ送り、そこでバッテリーパックに封入して完成するという工程となっていて、その内、中国の工場で行われるバッテリーパックへの封入工程で正極側と負極側を仕切ってリチウムイオンだけを移動させる分離膜(セパレータ)と呼ばれる部品に何らかの欠陥が生じていた可能性が専門家によって指摘されています。

もっとも、サムスン電子自身は今回の問題について記事執筆時点では原因を明確にしておらず調査を続けており、またリチウムイオン二次電池での爆発事故はその爆発規模が大きいこともあってその原因特定が難しく、長期化しやすくなっているため、現時点ではその原因を断言することはできません。

とはいえ、先に触れたソニーエナジー・デバイスでのバッテリーパック発火問題の際には原因究明が進まなかったことから被害が拡大した事が知られており、その意味では最悪の事態を避けるために早期の出荷停止・製品全数回収によるバッテリーリコールという決定を行ったサムスン電子の判断は妥当かつ適切なものであると言えます。

リコールの規模を小さくしたければ、問題が生じたバッテリーパックの製造ロットを絞り込んで該当番号のパックを搭載して出荷された端末だけを交換すれば良さそうなものですが、サムスン電子が今回それをせず全数リコールとしたのは、今回の問題への対応が時間との戦いであったことが大きいと考えられます。問題のあった製造ロットの絞り込み調査を進める間に爆発事故が頻発すればサムスン電子の企業イメージは文字通り地に落ちることになるでしょうから、例え費用負担が大きくとも、まず早急に全数回収して問題発生の可能性を無くしてから不具合ロットをゆっくり時間をかけて調べた方が得策だという判断になったのでしょう。

このあたりでは、折角大ヒットの兆しを見せ始めていて、「次期iPhoneキラー」として期待されていたGalaxy Note7について、問題発生の懸念をバッテリーパックの新品全数交換によって根絶することでこれ以上の不具合発生を無くし、何とかして今後も商業的な成功を納めたい、また姉妹機種であり発売以来好調な売れ行きで推移しているGalaxy S7・S7 edgeに悪影響を及ぼしたくない(※注4)というサムスン電子側の強い意向が見え隠れしています。

 ※注4:これら2機種はGalaxy Note7とは容量の異なるバッテリーパックを搭載しており、その生産工程が異なると考えられることから、直接今回の問題の影響を受けません。なお、アメリカ向けのプレスリリースでは今回のリコールにおいてGalaxy Note7の新品交換、あるいはGalaxy S7・S7 edgeとの差額支払いを含む交換+Galaxy Note7用周辺機器の交換の2方法が提示されており、現時点でサムスン電子がGalaxy S7・S7 edgeには同様の問題がないと判断していることが判ります。

対岸の火事では済まない可能性がある

ただ、このDongguan ITM Electronicsが自社ホームページで「Pack Assembler」としてリチウムイオン二次電池のパッキング工程を請け負っている事を示す相手企業一覧を公開しているのですが、気になるのはその中にバッテリーメーカー大手が何社か含まれていることです。

もし、中央日報の報道のとおり今回の不具合がDongguan ITM Electronicsによるバッテリーパックパッキング工程でのものであるとすれば、Dongguan ITM Electronicsの親会社に当たるITM Semiconductorにこの工程を委託しているとされる企業各社と、Dongguan ITM Electronicsで組み立てられたバッテリーパックについて委託元各社から供給を受けている企業各社も安穏としていられません(※注5)。

 ※注5:筆者の過去の経験からすると、この種の下請け工場では委託した側の企業がどれだけ下請け工場に人を派遣し生産・品質管理を厳しく監視するかが不良発生抑止その他の各種問題対応の鍵となっているのですが、果たしてこれらの委託元各社はどの程度生産管理や品質管理にコミットできているでしょうか。

もちろん、過去にリチウムイオン二次電池の発火問題で苦労した企業はこのあたりの品質管理や生産管理に神経質になっているものと思われますが、この種の問題に絶対という言葉はありません。

恐らく、サムスン電子やサムスンSDIは問題発生直後から原因究明と品質管理のための人員を東莞市のDongguan ITM Electronics社工場をはじめとする関係各工場へ送り込んでいるものと推測され、交換用バッテリーパックの品質そのものは出荷前に動作に問題ないことを確認されていると考えられますが、ユーザー側が抱いている不信感や不安感を和らげる為にも、サムスン電子には代品となる新バッテリーパックをどのような管理体制で生産させているのかを明確に説明して欲しいところです。

また、仮にDongguan ITM Electronicsでの工程に問題が無かったと判明した場合でも、同社にバッテリーパックのパッキング工程を委託している各社、特にサムスンSDIには慎重かつ徹底した生産・品質管理体制を維持して欲しいと思います。

東京大学と物質・材料研究機構 (NIMS)が発表した新たなリチウムイオン伝導性液体の発見についてのプレスリリース2種類のリチウム塩 (リチウム塩A及びリチウム塩B) を一定の割合で混合すると、極めて少量の水を加えるだけで液体化し、ハイドレートメルトとなること、そしてそのハイドレートメルトがリチウムイオン二次電池の電解液として機能し、3Vを超える電圧で動作していることが示されている。この電解液を使用するリチウムイオン二次電池が実用化されれば、低価格・安全・高性能化が実現されることになる

東京大学と物質・材料研究機構 (NIMS)が発表した新たなリチウムイオン伝導性液体の発見についてのプレスリリース
2種類のリチウム塩 (リチウム塩A及びリチウム塩B) を一定の割合で混合すると、極めて少量の水を加えるだけで液体化し、ハイドレートメルトとなること、そしてそのハイドレートメルトがリチウムイオン二次電池の電解液として機能し、3Vを超える電圧で動作していることが示されている。この電解液を使用するリチウムイオン二次電池が実用化されれば、低価格・安全・高性能化が実現されることになる

このあたりの発火問題については、先日、東大と物質・材料研究機構 (NIMS)の研究グループが水と特定のリチウム塩2種を一定の割合で混合することで電解液として水を利用できるリチウムイオン二次電池が作れることを発表しており、もしこれが本格的に製品化されれば今回のような事態は起きにくくなって行くものと考えられます。

もっとも、研究から製品化まではどうあっても年単位の時間を要しますから、少なくとも今後数年はモバイル機器での有機溶媒によるリチウムイオン二次電池の天下が続くことでしょう。

最近では各社のスマートフォン/タブレットにおいてプロセッサ性能の向上と表裏一体で搭載二次電池容量の増大が図られていて、今回のGalaxy Note7でもその筐体サイズやスペックなどから考えて、容積的に限界に近い設計となっていました。あるいは、そうした二次電池容量増大に対する強い要求が設計面での無理を強い、それが結果として生産工程でのマージンを奪って今回の事態につながった可能性も完全には否定できません。

言うまでも無いことですが高性能実現のための設計が発火や爆発の原因となるとすればそれは全く本末転倒な話で、スマートフォンやタブレットを開発設計製造する全てのメーカーには、今回の問題に関係なく二次電池とその周辺回路について特に安全性に配慮した設計を望みたいと思います。

▼参考リンク
[Official Statement] Galaxy Note7 – Samsung Newsroom
Samsung Establishes U.S. Product Exchange Program for Galaxy Note7 – Samsung Newsroom
ギャラクシーノート7、充電中に爆発相次ぐ…サムスン、供給中断後に全数調査 | Joongang Ilbo | 中央日報
ギャラクシーノート7の爆発原因は中国製バッテリー? | Joongang Ilbo | 中央日報
中国で組立のサムスンSDIバッテリー分離膜に欠陥か(1) | Joongang Ilbo | 中央日報
中国で組立のサムスンSDIバッテリー分離膜に欠陥か(2) | Joongang Ilbo | 中央日報
サムスン「250万台のノート7を全量交換」 | Joongang Ilbo | 中央日報
新たなリチウムイオン伝導性液体の発見 | NIMS

PageTopへ