aist04056

VRクリエイター必見!人が酔う仕組みとは?『映像酔い・VR酔いの理解とその軽減に向けて…初級編』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

by [2016年9月15日]

パシフィコ横浜にてゲーム開発者向けカンファレンス『CEDEC 2016』が開催された。その中で『映像酔い・VR酔いの理解とその軽減に向けて…(初級編)』と題した講演が産業総合研究所の氏家弘裕氏、渡邊洋氏、新潟大学の板東武彦氏によって行なわれた。人が映像によって酔う理由そしてそれを低減する方法など、VRコンテンツを開発しているクリエーターには見逃せない内容となった。

映像酔いを引き起こしやすい動き

aist03969

産業総合研究所 氏家弘裕氏

映像酔いとは?
映像酔いとは、映像視聴により、いわゆる乗り物酔いのような症状のことです。気持ち悪いという症状だけでなく、身体の平衡機能に影響を与えることもあります。平衡失調と思われる事例として、ヘリコプターのシミュレーターで、インストラクターが訓練後に自動車を運転したときに平衡感覚の異常を感じるなど、訓練用シミュレーターでは10~20%の人が重篤な症状を起こし、歩行失調や平衡失調、フラッシュバックを起こすという報告がされています。こういったことは、映像環境とインタラクション(頭部運動・機器の操作・乗り物の操作)の程度によって生じやすい可能性があります。

人はなぜ映像で酔うのか-感覚不一致説-
人は、過去に得られた経験によって予測できる変化と感覚情報の変化とが一致していると感じることで、動いている感覚を得ます。歩いている時も、様々な感覚情報(視覚・聴覚・触覚など)が一致して、自分が前に進んでいると感じます。映像酔いは、映像の視覚的な情報だけが動いていて、身体運動の前庭系の情報が止まっています。身体の動きについての感覚が、過去の経験にもとづいて予測できる変化から逸脱したことで酔いが起きてしまうのです。

自らの足で歩くのは主体的な動きですが、動く車に乗っているときには受動的な動きもあります。それらの動きをあらかじめ身体の中で予測するような内部モデルが人間にはあり、その予測と実際の動きの差が大きいと酔ってしまうと言われています。一方で、内部モデルもフィードバックして書き換えるので、酔いもある程度すると慣れてきます。短い期間での繰り返しは、実際の動きと内部モデルとの「不適合」が生じて、酔いが増加してしまいますが、長い期間での繰り返しは「順応」が生じて、酔いが軽減されるものと考えられています。

3軸の動きと酔いが出やすい速度
身体のヨー、ピッチ、ロールの3つの軸を設定して、それを仮想的な環境で身体があたかも軸に対する回転や併進運動に分解して、その影響を考えます。

aist03992

自分の周りをドラムで覆い、それをグルグル回す実験では、特定の速度帯域、60deg/sで酔いが生じやすいということが言われていました。

一方向にグルグル回すだけではなくて、往復でもやってみたのですが、やはり同じような速度帯域でどうも影響が強いことがわかってきました。60deg/sはどれくらいかというと、6秒間で1周するくらい、3Hの距離で画面の端から端まで約0.5秒です。

ゲームのような複雑な動きをするような映像を解析して、酔いの予測をたてられるような「映像評価システム」のを作りました。

aist04001
aist04002

こちらは、人間のシミュレーターを入れた評価装置です。1つは生理指標、これは医学的なパラメータで、映像酔いの主観評価と、時間分解能の高い映像酔いの変化がわかるモデルの入った2つのモデルを考えています。

酔いを抑えつつ、動きを提示する方法とは?
例えばホームに止まっている電車に自分が乗っています。隣の車両が動き始めると、あたかも自分の車両が動いていると感じることがあります。これがベクションです。ベクションを強く感じると、映像の動きが静止して見えます。

ベクションが起きやすいけれども、酔いが起きにくい条件があれば良いわけです。そもそも酔いが生じやすいのは、感覚器官の過去での経験との不一致であるという話をしました。ところが、その不一致が大きいほどベクションが抑えられて、逆に言えば不一致が小さくなるほどベクションが生じやすくなります。ですので、そういった不一致が小さくて、それによってベクションが生じやすくて酔いが小さい条件があるのか実際に3軸の動きで考えてみます。

yaw軸回転
耳石器という重力の方向を捉える場所が半規管にあります。yaw軸周りの回転は垂直軸回りです、重力方向の変化はありません。そのため、半規管の出力がないので、このような回転が含まれた映像は、不一致が小さいです。

pitch roll軸回転
この2つの動きは重力方向の変化があります。半規管と耳石器の出力があるので、yawよりも不一致が大きいです。

aist04005

球体で観察者をすっぽり覆ってしまって、それをぐるぐるいろいろな方向に回す。そうして酔いの程度とベクションの表を求めたところ、酔いの程度に関しては、yawが一番小さく、ベクションについてはyawが一番大きいという結果が出ました。yawの回転を与えるとある程度のベクションは生じやすいが、酔いは生じにくい条件にできるのではないか。実際にyawの動きを映像でどう出すかという工夫が必要です。

aist04007

本日のトピック「映像酔い」は現在ガイドラインを検討中で、経済産業省の国際標準化事業の中で産総研とJEITAさんとで連携してプロジェクトをやっています。

VR酔いを低減する予告

aist04019

産業総合研究所 渡邊洋氏

僕の考える映像の酔い成分は

  1. 能動性:そのコンテンツにアクティブに参加するのか、それとも受動的に参加するか
  2. 視点:一人称か三人称か
  3. 加速度:そのコンテンツは、等速運動なのか、加速度成分が入っているのか

この3つの要素がからみ合ってコンテンツができます。それぞれにおいて、見ている人が次を予測できるかどうかがポイントだと僕は考えています。今からご紹介する3つの論文は、受動的であって一人称視点で等速あるいは加速のある運動という条件での実験データです。

「さりげない」パス表示でも、効く
aist04035

3m×3m×3mの全身を覆うスクリーンにほぼ全試合に立体映像を提示する装置を扱った論文です。シンプルなお花畑に道があり、ドライブシミュレーターで進むコンテンツです。道がなくて、ただこの中をひたすら動き回されるとどうなるのかを数値化したのが表です。縦軸が酔いの主観評価、SSQという酔いに関するアンケートの結果を、シミュレーター前後の差を示した表になっています。

条件Aは道筋のパスを明瞭に表示したパターン。SSQが少し上がっています。
条件Bはパスを書くと直線で表示したパターン。これも条件AとSSQは同じくらいです。さりげないパス表示だけでも、酔いを抑制することができます。

「先導者」がいるだけで、効く
aist04036

この論文はバーチャルガイディングアバターを使用しています。先ほどのお花畑の中を進むコンテンツです。目の前を紙飛行機みたいなものが表示されるかどうかによってのSSQです。表示されないときは、酔いの主観評価が上がります。紙飛行機先導+回転や紙飛行機回転+移動のパス表示は統計的に酔いの主観評価が下がりました。

「加速度発生地点」の予告だけで、効く
柱をランダムに立て、その中を走ります。明瞭なパスが書いていないので、見ている人はどの柱と柱の間をくぐり抜けるのかわからない状況です。この実験ではモーションベースも組み合わせて、床もコンテンツと一緒に動くようにしました。生理指標で心電図をとって、変換すると交感神経系の活性化が数字になって現れます。このグラフ、縦に長くなるほど、交感神経系が活性化しています。次にどこへ行くのかわからないような状況は、観察時間が過ぎるにしたがって、何も手がかりを与えないと、赤い線のように興奮していっていることが分かります。

加速する予告信号を出したら効くだろうと思って、ここにきたらグッと加速・減速・右左折しますよという三角印を3.5秒前に提示してあげるとブルーの線で興奮の度合いが、抑えられています。面白いのが、イベント発生の0.75秒前に予告信号を出すと、赤い線と青い線の間くらいにグラフができます。予告がなければ、振り回されて非常に興奮してくる。予告が十分なタイミングで提示されれば、安静の状態が保たれる、イベント直前で予告信号が与えられると、慌ただしくてそれなりに興奮するという解釈ができます。

一般的に言われるのが、知覚的に動いているけれど、平衡感覚を司る前庭が止まっている状態を「酔い」と言います。こういう言い方だけすると、視覚≠前庭という状況が酔いの本質的理由になってしまいます。別にこういう状況でも酔わない時もあるでしょう。あるいは、視覚と前庭があっても酔うときだってあるでしょうと思っています。つまり、現実とかVRを問わず、移動するという当たり前の状況の中で、何をしているかを問題にすべきではないかということです。

視覚入力があって前庭系がない場合は映像によるベクションですね。そういうときに予測できなければ酔う、予測できれば酔わない、これが先ほどの3つの話です。

前庭しかない、つまり、映像しかないときはどうしようもなく酔いますね。これで、酔わない人はまずいないです。

視覚入力も、前庭入力もある場合、能動性・受動性という観点からみると、車の助手席、車の運転席で受け身の時、予測できなければ酔いますが、できれば酔わない。車の運転席、運転している人は普通酔わないと考えられがちですが、車の仕組みで加速が悪い車などは自分で運転していても酔います。つまり、ユーザーインターフェース次第ということになります。

視覚入力も前庭入力もない場合、これは死んでいる状態です(笑)。なので予測できませんから酔いません。

生きている限り、酔いとは付き合い続けなければなりません。酔いを少しでも低減するためには「予測」と「評価」という中枢神経系の大原則を学び、原則に即したユーザーインターフェースを構築するのが大事です。

なぜ、人は酔うのか

aist04056

新潟大学 板東武彦氏

どうやって人は立っているのか
我々は周りの空間を把握していないと、地球上を自由に動けません。生まれた時から、重力の方向を知り、耳の中の前庭器で加速度を知ることができます。重力も、直角方向にかかる加速度で知ることができます。これと直交する水平面がわかると、座標系がわかります。これを地球座標系と呼ぶことにします。この座標だけでは、周りの景色はわかりません。いろいろな感覚(五感)を使って、自分の周りの景色を知ります。これを自己中心座標と呼びます。この両方の座標のすり合わせを脳が行うことで、自分の周りの空間を知ることができます。そして、生後の学習で脳内プログラムが成長し、筋肉を使って人間は立つことができます。筋肉や関節からくる感覚情報は、意識しない感覚なわけです。重力の方向を我々が検知している前庭感覚も意識に登ってこない、この目に見えない自己受容性感覚が重要です。この自己受容性感覚、つまり筋肉や関節の感覚が大事であることを示した実験があります。

aist04070

一緒に生まれた2匹の子猫のうち、1匹には歩いてバスケットを引っ張ってもらいます。そのバスケットの中にもう1匹の子猫が乗っています。しばらくこういう状態を続けますと、生後ずっとバスケットに乗っていた子猫は、溝を飛び越えたり、箱に飛び上がったりができませんでした。2匹の猫は視覚経験も、前庭感覚経験は同じです。違うのは、自己受容性感覚、つまり、筋肉や関節の感覚が異なります。一生懸命自分の足で歩いて「こういう時にはこれくらいの力で歩けるんだ」ということが、バスケットの中にいた子猫は分かりません。

aist04075

それから、頭の中の環境は、学習すると変わります。例えば、猿にバナナを与えると喜んで食べるわけで、その時、大脳のSS領が活動します。バナナが無いとき、手の届く範囲外にバナナがあると、大脳のss領域は活動しません。熊手を置くと、猿は熊手でバナナを取ることができます。そうするとSS領が活動的になります。つまり、頭の中で手の届く範囲が、訓練によって熊手の届く範囲に広がったということが言えます。このように頭の中の空間認識は、環境条件や訓練によって変わっていきます。

概念的な「酔い」
なぜ酔うのかという概念的な話ですが、自己中心座標系と地球座標系をすりあわせて我々の空間認識は成り立っているわけで、普段と違う仮想空間での経験を与えてしまうと、酔うまでの空間認識が役立たなくなります。そういう場合に脳内の空間イメージと環境からの情報との間にミスマッチが起こり、主観的に違和感を覚えます。この状態が続くと酔いの症状が出てくる事になります。
仮想空間内での経験で新たな空間イメージを学習すると、それをやっているときは快適です。しかし、現実空間に戻ってくると新しい環境に学習してしまった分、これは現実空間とは違うという違和感を覚え、酔ってしまう可能性があります。

映像酔いの対策例
映像酔いのリスクについてユーザーに知ってもらうことは大事です。酔いは個人差が大きく、酔いを本人が感じたら止めなければなりません。
長時間の連続使用は避け、ボケや手ブレのない鮮明な映像を流し、激しい動き・揺れ(特に0.1-1HZ)を避けることはクリエーターさんが対策できます。頭の位置にセンサーをつけた装置の場合には、ノイズの振動にも注意し、リフレッシュレートはできるだけ早くして、変動をしないようにしましょう。

▼参考リンク
人間情報研究部門|国立研究開発法人産業技術総合研究所
くらし情報工学研究グループ | 産総研:国立研究開発法人 産業技術総合研究所
新潟大学
CEDEC 2016

PageTopへ