「本日の整理券 終了いたしました」と告知の張り紙がなされた「マブラヴVR」の案内板会期中の両日とも大盛況であった

「ニコニコ超会議2016」のVR展示を振り返る~マブラヴVR後編~

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by [2016年7月05日]

マブラヴVR体験デモ会場全景

マブラヴVR体験デモ会場全景

前回は「マブラヴVR」の展示よりはむしろその背景事情としてのSteamとデジカの関係等についてお話ししました。今回は会場で「マブラヴVR」を実際にプレイしてみての感想等についてお話ししたいと思います。

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実際のプレイ感はどうだったのか

「本日の整理券 終了いたしました」と告知の張り紙がなされた「マブラヴVR」の案内板会期中の両日とも大盛況であった

「本日の整理券 終了いたしました」と告知の張り紙がなされた「マブラヴVR」の案内板
会期中の両日とも大盛況であった

さて、前回も触れてきたとおり色々ややこしい背景設定や背景事情を持つ「マブラヴVR」ですが、やはりというか会場でも大人気で、体験デモも2日ともあっという間に全時間帯の体験枠が埋まってしまう程でした。

今回のデモで使用されていたVRディスプレイデバイスはHTC Viveで、コントローラは純正のものがそのまま2つ1組で使用されています。

係員氏の指示に従って一旦座席に座り、ヘッドマウントディスプレイとヘッドセットを順次装着した後、コントローラを両手に持って立ち上がり、動ける範囲の設定など初期設定を行います。

ここまでの手順は前回のAMDさんのブースでも同じように行いましたから、HTC Viveとしての標準的な手順ということになるでしょう。

問題は、この後画面に現れた物体です。

筆者が体験中の姿ご覧のとおり、コントローラはHTC Vive標準のものを使用し、トリガボタンで操作や銃撃などを行う。ちなみにVR空間内ではこのタイミングで自動小銃を手に取る操作を行っていた筈である

筆者が体験中の姿
ご覧のとおり、コントローラはHTC Vive標準のものを使用し、トリガボタンで操作や銃撃などを行う。ちなみにVR空間内ではこのタイミングで自動小銃を手に取る操作を行っていた筈である

何と、自動小銃が目の前に現れ、それをコントローラを操作して手に取って操作してみることを指示されたのです。

…これは、ひょっとしてあれか、あれなのか。

このシチュエーションだけでも、最初のWindows版「マブラヴ」をCD-ROM版で買って以来延々とシリーズを遊んで何度もちゃぶ台返し的な展開を経験してきたきた筆者のこのシリーズについての記憶が、いやな警報を鳴らします。

「マブラヴ」の各シリーズのストーリー上で登場人物が自動小銃を携行しなければならないシチュエーションというのはごくごく限られています。1つは、基地警備の衛兵、1つは、教育課程にある訓練兵、そしてもう1つは、絶望的な状況の戦場で襲いかかるBetaと対峙する、戦術機から脱出した衛士(パイロット)あるいは前線配置の歩兵たち。

いや、実はこの自動小銃は見た目がアレだがサイズが大きな戦術機用なんじゃないのか、きっとそうに違いない、などと思わず現実逃避的なことを考えてしまいますが、「マブラヴ」でも「マブラヴ オルタネイティヴ」でも容赦の無い描写を敢行してファンにトラウマを与えてしまった(※注1)あのAgeが、そんな手ぬるい話にするとはとても思えません。

 ※注1:ただしそれらはいずれも作品の物語展開上どうしても必要があって描かれたもので、無意味にグロい画像を出すような性質の物ではありませんでした。なお、さすがにPS3・Xbox360向けの家庭用ゲーム機移植版および全年齢版と呼ばれるアダルトなシーンを他のシーンに差し替えたりしたバージョンでは、CEROの倫理規定による表現規制などの事情もあってこれらのシーンはぼかされています。

果たして、筆者の操る名も無き兵士と思しき登場人物は、見渡す限り雪に覆われた戦場に1人立ち尽くし、時折表示される矢印の表示に従って行動することになったのでありました。

…ああ、これは死ぬわ。死ぬしかないわ。

こんな所々に塹壕が見える以外は満足な遮蔽物のない見晴らしの良い戦場で、轟音と共に突撃をかけてくる、1体1体が大型トラックほどもある戦車(タンク)級Betaの群れ。しかもこちらは貧弱な火器を携行する歩兵1人だけ。

作中でも最低で分隊支援火器クラス、つまり重機関銃以上の強力な火器がなければ倒すのが難しいとされていた戦車級Betaがそれも集団で襲ってくる状況で、自分の手元には自動小銃1丁しかないというのは、それだけでもう完全に死亡フラグです。

一体どういう交戦規則に則って敵(Beta)が活動しているのかわかりませんし、自分の置かれた状況もよく分からないのですが、これはなんというのか、作品について知識があればあるほど絶望が深まる、ああ、作中のロシアやアラスカでの戦闘はこんなだったのか、と思い知らされる、本当にろくでもない戦場です。

VR空間内で突進してくるBetaの大群に思わずのけぞる筆者意識してこのようなポーズとなった訳ではないが、プレイ中何度も無意識にのけぞる羽目に陥った

VR空間内で突進してくるBetaの大群に思わずのけぞる筆者
意識してこのようなポーズとなった訳ではないが、プレイ中何度も無意識にのけぞる羽目に陥った

実際、凄まじい振動音とともに巨大なBetaがのしかかるように現れ、こちらを踏みつぶし蹂躙しようと襲いかかってこられると、作中の兵士たちが抱いた絶望感というものがひしひしと伝わってきます。

幸いというか何というか、こちらは「喰われる」ところまでは描かれていないので、そこまで心臓に負担はかかりません。しかし、Betaにあのおっかない顔でこちらを見下ろしつつ突撃してこられると、それだけで下手なホラーゲーム/ホラー映画よりもよほど心臓に悪いと断言できます。

筆者はこれまで何度かホラーもののVRコンテンツを体験させていただいたのですが、それらとは別のベクトルながら、この「マブラヴVR」のBeta突撃シーンはそれらのホラーVRコンテンツと比較しても格段に「怖い」という印象を受けました。

なんというか、ただでさえ生理的に恐怖感のあるデザインのBetaがど迫力の臨場感で突進してくるだけでももう、生命の危機を覚えずにいられません。

自動小銃をいくら撃っても全く意にも介せずこちらに向かって突撃を続ける敵というのは、本当に理屈抜き、問答無用で「怖い」のです。

まぁ、これをやり過ぎるとアトラクションやゲームコンテンツとして色々大問題になるため、さじ加減が本当に難しいと思いますし、今回のデモでは心臓疾患のある人はお断りとなっていて妙に納得したた訳なんですが、この感覚を体験できただけでも、長年のファンとしては感無量です。

実物の自動小銃だと弾倉に入っている弾丸の数が厳しく限られるため、さらに条件が悪くなる筈なのですが、なるほどこんな凶悪な敵が相手ならば作中でそうであったように人型2足歩行ロボットにサイズをスケールアップした重火器を携行させて交戦させようという、ある意味狂った発想となろうというものです。

正直、Betaの集団に向かって飛んで行く後方からの制圧射撃の重砲が立てる砲声がこれほど頼もしく思えたことはありません。

そして、そんな戦場で轟音と共に軽やかに飛んで行くXFJ-01 不知火・弐型フェイズ2(※注2)。

 ※注2:「マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス」の主人公であるユウヤ・ブリッジス少尉が搭乗した試作戦術機。この「マブラヴVR」では紅白の塗り分けを基調とする大変におめでたいデモンストレーター塗装でユウヤ少尉の搭乗する1号機(XFJ-01a)ともう1機、シックなダークパープルグレーに塗られたタリサ・マナンダル少尉の搭乗する2号機(XFJ-01b)の2機が登場します。つまり、この戦場は「マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス」の時間軸上にあり、しかも作中で舞台となったアラスカ・ユーコン基地の周辺地域である可能性が高いということになります。ただし、この不知火2型2機がこの塗装・装備の組み合わせで存在していたのは「マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス」で確認してみると作中時間で2001年9月13日から17日までの非常に短期間だけ、しかもその間は大規模演習期間でしたので作中では冬の戦場に2機が揃って現れる筈がなく、この作品限定で別の世界線上の別の場所である可能性もあります。

以前お台場で展示されていた1/1ガンダムもそうでしたが、VR環境で「見上げる」戦術機の存在感というか威圧感というのか、ともかくそこにそれが「在る」ことのもたらすインパクトの大きさは圧倒的です。幼少期にリアルタイムで「マジンガーZ」の本放送を見て以来、ずっと求めてきたものが目の前にある感動。これはいわゆるスーパーロボットやガンダムのブームを体験してきたオッサン世代の人間でないと共感してもらいにくいことですが、このVR空間にそびえ立つ戦術機の圧倒的な存在感が訴えかけるものは世代に関わりなく伝わるのではないでしょうか。

これまでの各種VRコンテンツについて触れた記事でも何度も申し上げてきたことですが、一枚絵のゲーム画面で見ていたときとは全く違うこの皮膚感覚、臨場感の高さこそが、VRコンテンツ最大の魅力であると断言してよいでしょう。

特にこの不知火・弐型フェイズ2はこれまで模型雑誌での作例を利用したフォトストーリーにはじまり、家庭用ゲーム機向けゲームでの3Dグラフィックス画像、設定資料での2D画像、TVアニメ版、そして今回のVR空間内での3D画像と様々な媒体、手法で同じ機体が描かれてきただけに、それぞれの特性の違いがより一層強く伝わってきます。

従来、この手の巨大な人型を巨大に見せるには、構図の工夫で極端なパースをつけたり、動くときの振動音やその影響を重量感たっぷりに演出したり、といった様々な手法が用いられてきたのですが、特にそうした工夫をしなくても、VRの場合はただそこに「あるがまま」に描くだけでそうした手法の数々を吹き飛ばしかねない勢いで巨大感が伝わってくるのです。

今回の「マブラヴVR」では残念ながらこの戦術機をプレイヤーが操縦するところまではできなくて、とんでもない勢いで空を飛んで行くのを見上げるだけということになってしまったのですが、それでもそのスケール感はこれまでにない「リアル」を感じさせてくれるものです。

一方、これまで2Dのディスプレイ上で見てもグロくてとてつもなく怖い存在であったBETAが当社比8割増し位で凄まじく恐ろしい存在にランクアップしていたことには色々考えさせられました。

「マブラヴ オルタネイティヴ」Windows版の設定画面立体音響演算(AGES-ACS)の設定項目が独立したタブとして用意されており、その機能の利用が強く推奨されていることからも、当初から臨場感の演出について強く意識して作られた作品であることがわかる

「マブラヴ オルタネイティヴ」Windows版の設定画面
立体音響演算(AGES-ACS)の設定項目が独立したタブとして用意されており、その機能の利用が強く推奨されていることからも、当初から臨場感の演出について強く意識して作られた作品であることがわかる

実は、マブラヴシリーズをはじめAgeのWindows対応ゲームではAGES-ACSと呼ばれる立体音響演算機能が搭載されていて、それにより従来にない迫力のサウンド環境が実現しています。その環境下でゲームをプレイすると多数のBETAが襲いかかる恐怖が真に迫る勢いで再現されるのですが、「マブラヴVR」の戦場で出会ったBETA群の迫力というか怖さは、そんな可愛いモノではありません。元々生理的な不快感を刺激するような凶悪なデザインだったそれらが、VR空間で動き、大きな音を立てて襲いかかってくると、ただそれだけでもう1つの暴力と化する、そんな印象なのです。

正直に言えば、今回の「ニコニコ超会議2016」でも、それ以前の各種VRイベントでも、筆者にとってここまで「怖い」VR空間上の存在はこれまでありませんでした。

これは、「怖い」コンテンツがなにもホラー系の作品に限らない、つまりホラー以外でも充分以上に「怖い」VR作品を作れることを示唆していてなかなか興味深いところです。

これそのものは完成品ではない

ちなみに、この「マブラヴVR」は何らかのイベント等で出展される度にバージョンアップが行われている由です。

つまり、現状ではこれは未完成というか暫定仕様であるということです。

実際、1つの作品としてみるとその展開は充分練られているとは言いがたい面があるのですが、それでさえこれほどに人の心を動かすのですから、今後完成された商業作品として「マブラヴVR」が姿を現すとしたら、一体どれほどの作品となるのだろうか、と思わず妄想してしまいます。

将来的には「絶望の戦場」を描く現行バージョンから進化して、実際に戦術機に搭乗、操縦できるようになることも可能性としてはあり得るのです。

今後、「マブラヴ」のVR版が本格的に製品化されることがあるとして、果たしてその時どのような作品となるのか、既存作品のVR版となるのかそれとも全く新しい別の「マブラヴ」となるのかは定かではありません。

個人的にはVR版が実現するなら、未だアニメ化が実現していない「マブラヴ」「マブラヴ オルタネイティヴ」の2作のVR対応作品化をやって欲しいところなのですが、先にも触れましたがこれら2作品は非常に複雑な物語世界設定と王道ラブコメからハードSFまで本当に多様な性質を備えた、この種のビジュアルノベルタイプのゲームとしても破格の大作です。

もっとも、大作過ぎるのも善し悪しで、「マブラヴ」ではストーリー上の分岐が非常に少なく、「マブラヴ オルタネイティヴ」では遂に事実上一本道のストーリーが展開される(※注3)というこの種の作品としては異例の状況となりました。

 ※注3:一応選択を求められるイベントが存在しますが、それらはストーリー展開の大筋には何ら影響しません。

通常、この種の作品では「○○ルート」と名付けて複数のキャラクターごとに異なったストーリー展開となるのが一般的ですから、ここまで一本道なのは日本のPC向けアダルトゲームの歴史の中でも非常に珍しいパターンで、筆者の思いつく限りではニトロプラスの「鬼哭街 -The Cyber Slayer-」(2002年。※注4)位しか類似例がありません。

 ※注4:後に「サイバーパンク武侠片『鬼哭街』」と改題し全年齢対応版としてリメイク。こちらはそもそも選択肢そのものが存在せず、本当にテキストを読み進めて行くだけの「ビジュアルノベル」ですが、本シリーズ同様に熱烈なファンを持つことで知られています。言い替えれば、この種の1本ルート構成は余程ストーリーに自信があってその他の要因でも勝算が充分ある状況でないとできないことであると言えます。

実のところ、「マブラヴ」と「マブラヴ オルタネイティヴ」のアニメ化を阻むものがあるとすればそれは恐らく前者の数少ない分岐それ自体が物語の構造に重大な影響を及ぼす作中の物語メカニズムにこそあります。

「マブラヴ」で各キャラクターごとの「ルート」の完走を積み重ねた上でなければ、「マブラヴ オルタネイティヴ」をプレイしても、「マブラヴ」で提示された前提条件や情報を持たないが故に、作中の演出やストーリー展開・構成上の意図がまるで伝わらなくなってしまうのです。

分岐のほぼない「マブラヴ オルタネイティヴ」はそれ単独ではひたすら用意されたテキストを読みその演出を味わうことに終始しますから、これを単純にアニメ化やVRコンテンツ化するだけなら、グロ表現やアダルト表現を除くと技術的・手法的には特に制約らしい制約はありません。

そのため、もしこの「マブラヴ オルタネイティヴ」のアニメ化やVRタイトル化を困難とするものがあるとすれば、先に挙げた「マブラヴ」のアニメ化やVRコンテンツ化をまず行わねばならない事に加え、そのあまりに膨大なテキスト量ということになるでしょう。

特にVRタイトル化の場合、現状でVRコンテンツの長時間連続体験は推奨されておらず、完走までにWindows版でのプレイ時間に照らして最短でも30時間以上はかかることがほぼ確実な、あまりに膨大な量のテキストで構成されたこの作品をVRで再現するとすれば、何かプレイ時間を制限する仕組みを用意しないと色々問題になりそう(※注5)です。

 ※注5:ただし、そうしてプレイ時間を制限するとしても、その医学的な根拠を十分に示せないとそれはまた別の問題を惹起しそうです。そのため、このあたりの問題についてはVRコンテンツにおけるショッキングな映像・演出が人間の身体に及ぼす影響と共に、今後医学的に十分な検討が必要となるでしょう。

例え現状では未完成であってもそうしたことを考えさせるほどに、この「マブラヴVR」は魅力的です。

今のところVR関係のイベント以外でこの感覚を体験できないのが本当に口惜しく残念でなりません。正直、Steam版「マブラヴ」・「マブラヴ オルタネイティヴ」の反響次第とはなるものの、それらのVR版こそクラウドファンディングで資金を集めて本腰入れて作るべきなんじゃないか、と筆者は思ってしまいます。

▼参考リンク
デジカ | 海外展開をシンプルに
Steam へようこそ
MUVLUV.com | エントランス
Muvluv x HTC Vive 体験会
Muv-Luv: A Pretty Sweet Visual Novel Series by The Muv-Luv Team — Kickstarter

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