スクエア・エニックス「乖離性ミリオンアーサーVR」ブース

「ニコニコ超会議2016」のVR展示を振り返る~スクウェア・エニックス~

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by [2016年6月01日]

スクウェア・エニックス「乖離性ミリオンアーサーVR」ブース

スクウェア・エニックス「乖離性ミリオンアーサーVR」ブース

前回の記事では、2016年4月29・30日に千葉県千葉市の幕張メッセ 国際展示場で開催された「ニコニコ超会議 2016」のVR関連展示の中からバンダイナムコエンターテインメントのブースについてご紹介しました。2回目はスクウェア・エニックスのブースをご紹介いたします。

▼「ニコニコ超会議2016」のVR展示を振り返る

  1. スクウェア・エニックス
  2. バンダイナムコエンターテインメント
  3. AMD

VRへ拡がるミリオンアーサーの世界

スクウェア・エニックスのブースでは体感デモ用として多数のHTC Vive(およびこれを動作させるための高性能GPUを搭載したパソコンのセット)が設置され、その環境で動作する「ミリオンアーサー」シリーズのVRコンテンツ「乖離性ミリオンアーサーVR」が展示されていました。

「ミリオンアーサー」つまり直訳すると100万のアーサーということでアーサー王が100万人(そして彼らと対になる聖剣エクスカリバーも100万振り)存在するというとんでもない王様インフレ状態の世界を舞台にして、プレイヤーそれぞれがその100万のアーサー王の一人となるこのシリーズ、元々は「拡散性ミリオンアーサー」のタイトルでiOS版(既にサービス終了)としてリリース、その後PlayStation Vitaやニンテンドー3DSといった携帯ゲーム機向け移植版がリリースされ、さらに「唯一性ミリオンアーサー」(スマートフォン向け:既にサービス終了)や正統後継作と言える「乖離性ミリオンアーサー」(スマートフォン向け:サービス提供中)などのサービスが開始され、TVでのバラエティ番組やラジオ番組といったメディアミックス展開(※注1)も行われるなど文字通り「拡散」を続けています。

 ※注1:バラエティ番組は「実存性ミリオンアーサー」のタイトルで独立UHF局の制作により放映され、ラジオ番組は「ミリオンアーサーRADIO!ミリラジ!」というタイトルで文化放送で放送されました。

このシリーズは、その第一作である「拡散性ミリオンアーサー」とその直接の後継作と位置づけられる「乖離性ミリオンアーサー」について、シナリオおよび世界観設定・キャラクター性格設定をライトノベル「とある魔術の禁書目録」「ヘヴィーオブジェクト」シリーズなどの著者として有名な鎌池和馬氏が担当しており、氏の作品群に共通する傑出した「キャラクターの魅力」がこのシリーズそのものの魅力ともなっています。

しかも、このシリーズのキャラクターの声については主だったところだけでも宮野真守、神谷浩史、浪川大輔、福山潤、置鮎龍太郎、釘宮理恵、佐藤利奈、伊藤かな恵、井口裕香、喜多村英梨、花澤香菜、そして悠木碧とそれぞれが作品の主人公級のキャラクターを演じられるクラスの豪華声優陣が各アーサー陣営・敵陣営の主要キャラクターに惜しげも無く充てられており、何というかその声を聞くだけでもお腹いっぱいになりそうな勢い(※注2)です。

 ※注2:このキャスト一覧を初めて見た時、筆者は思わず「で、今度はどんな大作映画を作るんですか?」と聞きそうになってしまいました。このクラスの声優陣をあっさり投入できてしまうあたり、さすが業界最大手のスクウェア・エニックスと言うべきでしょう。

そんなキャラクター性が前面に押し出されたタイトルである「ミリオンアーサー」シリーズが、数あるスクウェア・エニックスの作品の中で先陣を切ってVRコンテンツとされたのは、ある意味必然だったのでしょう。

そこで会場のブースでお会い出来た、同社の第10ビジネス・ディビジョンで開発を担当しておられる加島直弥氏に今回の出展内容について幾つかお尋ねしたところ、興味深いコメントをいただけました。

ここではそれらについて順を追ってご紹介いたしましょう。

まず、今回のVRコンテンツ化については、「ミリオンアーサーの世界観を広げ、キャラクターなどの魅力を知ってほしくてイベント限定の体感デモとして開発した」とのことで、あくまでミリオンアーサーシリーズ全体のPRを目的とした体感デモであるとのことでした。

冷静に考えれば、未だ充分VR対応デバイスも普及しているとは言いがたい現状で、いきなり予算をつけて大々的に商業化というのは考えにくい話ですから、開発予算の費目その他を考えて、まず広告宣伝費から出すというのは筆者の知る他のゲームでの例から判断する限り、妥当なところでしょう。

次に、では何故VRを採用したのか、とお尋ねしたところ「VRを採用した理由はその没入感の高さにある」との回答でした。

これは先日ご紹介したバンダイナムコエンターテインメントのブースでも全く同じ回答だったのですが、ジャンルも提供形態も全く異なるアーケードゲームの担当者の方とスマートフォン向けソーシャルゲームコンテンツの開発担当者の方がこの新しいデバイスについて全く同じ回答・同じ認識となっているのは興味深いところです。

これは言い替えれば、開発者レベルではその担当ジャンル・分野に関わりなくVRの持つ没入感の高さが非常に魅力的であると認識されているケースが多いということで、今回会場で取材させていただいた他の複数のブースでもまるで示し合わせたかのように全く同じ答えが返ってきていることと、筆者自身がそれらのブースで体験させていただいた際の感想も合わせて考えると、この没入感の高さ(という魅力)をコンテンツにどのように生かすのか、それを利用してコンテンツ自体の魅力をどう引き出すのか、という点がこのジャンルでのコンテンツの成否の鍵を握っているとみて良さそうです。

なお、今回展示されていた体感デモは筆者の目にはかなり完成度が高く見えたため、これをコンシューマー向けに展開することは計画あるいは予定されていないのでしょうか、とお尋ねしたところ、現状ではその予定はないが、今回のようなイベント会場での来場者の反応が良いため検討しているというやや踏み込んだ回答でした。

もっとも、VRヘッドマウントディスプレイ単体の価格が高価な上にそれに接続するパソコンに高い性能が要求される=高価なマシンが必要となることは、特にコンシューマー向け展開にあたっては深刻な悩みの種、あるいは障害となるようです。

スクウェア・エニックスブース内ご覧のとおり、HTC Viveの特徴であるトラッキングシステムのためのベースユニットはテーブル両端に1基ずつ三脚に載せて設置されているだけであった。なお、テーブル下で青白く発光しているのがHTC Viveに接続されるパソコン(マウスコンピュータ製のゲーミングパソコンであるG-Tune‎シリーズのLITTLEGEAR i310 シリーズ)である

スクウェア・エニックスブース内
ご覧のとおり、HTC Viveの特徴であるトラッキングシステムのためのベースユニットはテーブル両端に1基ずつ三脚に載せて設置されているだけであった。なお、テーブル下で青白く発光しているのがHTC Viveに接続されるパソコン(マウスコンピュータ製のゲーミングパソコンであるG-Tune‎シリーズのLITTLEGEAR i310 シリーズ)である

加島氏曰く、現在(のこのデモ)はHTCから提供されたViveを使用しているが、(特に最適化しているわけでもないため)Oculus RiftやPlayStation VRなどへの展開も当然考えられる、とした上で、ただ、VRデバイスの価格がとにかく高価であるため、まずはお客さんに体験してもらってVRの魅力を知ってもらうところから始めなければならないのがネックになる、とVRの普及が鶏が先か、卵が先か、といういわゆる鶏卵問題状態に陥っていることを指摘されました。

今回のデモでは複数のプレイヤーが隣接してプレイするためもあってか、HTC Viveの特徴であるトラッキングシステムのための2基のベースステーションは最小限しか設置されず、実質的にOculus Rift並の機能での動作となっていたと考えられますから、Oculus RiftやPlayStation VRへの展開が当然考えられる、という加島氏の言葉には素直に納得出来ます。

一方、VRの魅力を知る機会が充分ないためにVRが普及しないのか、それともVRが充分普及していないためにVRの魅力を知る機会がないのか、という問題は、VRに限らず普及初期段階の新デバイス・新規格などについて回る厄介な問題(※注3)です。

 ※注3:実際、この問題をクリア出来ずに消え去っていった新規格・新デバイスは過去に山ほどあって、その中にはあの横井軍平氏が開発を主導した「Virtual Boy」なんてものもありました。

どれほど革新的かつ革命的な新デバイス・新規格であっても、充分普及しなければその魅力を知らしめることは難しく、そして多少魅力が低くとも充分普及できるだけの素地のあった新デバイス・新規格がそんな鶏卵問題に陥ってしまった革新的かつ革命的な新デバイス・新規格を駆逐してしまった例も枚挙に暇がありません。

特に今回のVRヘッドマウントディスプレイはOculus Riftで9万円弱、HTC Viveで約12万円といったところで、これら単独でさえ気軽に購入出来る価額を簡単に突破してしまっていて、さらにGPUカードだけでも5万円~15万円クラスの高価な機種の搭載が必須で、さらに高性能なCPUやそれらに見合った大容量電源も必要となる高価なパソコンを導入せねばなりません。

つまり、現状でHTC ViveやOculus RiftによるVR環境を利用するにあたっては最低でも20万円以上という高いイニシャルコストが必要で、それがVRコンテンツ普及の壁となってしまっているのは言うまでもありません(※注4)。

 ※注4:だからこそ、Oculus RiftやHTC Viveなどと比較すると多少出力映像のクオリティやスペックの低下があるにせよ、世界的にある程度以上普及しているPlayStation 4のオプションとして開発され、PlayStation 4本体と合わせて新規購入しても9万円を切る、つまりOculus Rift単体と同レベルの価格でVR環境が一式揃えられるPlayStation VRへの期待が日増しに高まっていると言えます。

ちなみに加島氏も個人でVRデバイスを購入されたそうなのですが、それだけで約10万円、それを動作させるPCと合わせると20万円~30万円になるというのはやはり厳しい、とのことでした。

コントローラはHTC Vive標準のものがそのまま使用されていた今後、こうした光景が全国のPCカフェで見られる様になるのかも知れない

コントローラはHTC Vive標準のものがそのまま使用されていた
今後、こうした光景が全国のPCカフェで見られる様になるのかも知れない

ここで、(その問題を解決するについて)何か上手い手はあるのでしょうかと伺ったところ、まずは協力して貰えるPCカフェなどで(VRコンテンツ体験の機会を)展開するところから始めるといった手法を取る必要がある、という答えが返ってきました。

なるほど、確かにそれなり以上の性能のパソコンが設置されているのが一般的で、高性能かつ高価なパソコンやVRヘッドマウントディスプレイを設置機材や備品の扱いで経費として計上出来るPCカフェでの展開というのは普及の足がかりとして考えるとなかなか上手い手です。

実際、過去のネットワーク対戦ゲーム普及初期にはこうしたPCカフェが各メーカーによる試行錯誤やロケテストの場などとして大きな役割を果たしてきたという経緯があり、VRコンテンツもその普及にあたって先行成功例に倣うのは理にかなったやり方と言えるでしょう。

最後に加島氏は、何よりもVRデバイスが普及する前にまずお客さんにVRの魅力を知らせ、慣れさせるところから始めるのが肝要、と語り、VRとは何なのかということをユーザー層に周知徹底する必要があることを示唆しました。

普及の前に認知を高める努力が必要とするこれは、先に触れた鶏卵問題の解決にあたってしばしば用いられる手法の1つです。

果たしてこの手法で上手く行くのかどうかは分かりませんが、このコメントだけでも加島氏らが真剣にVR普及の術を模索していることが伝わってきます。

実際に製品化され、コンシューマー向け市場に登場するとき、果たしてこの「ミリオンアーサー」シリーズがどのような姿になっているのかは正直想像もつかない現状です。しかし、加島氏らスタッフ諸氏の言葉からは、VRコンテンツというこれまでにない新分野の可能性に強い手応えを感じていることがひしひしと伝わってきます。

いずれ登場するであろう同社のVR作品が驚きと魅力に満ちあふれたコンテンツとなることを期待したいものです。

▼参考リンク
Million Arthur Portal Site | SQUARE ENIX
ニコニコ超会議2016

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