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シンセサイザーミュージックのパイオニア、冨田勲氏の功績を振り返る

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by [2016年6月02日]

 日本が世界に誇れる音楽家であり、シンセサイザーミュージックのパイオニアとしておなじみの冨田勲氏が逝去されました。
 今回は特別寄稿として、偉大な氏の功績を称えると共にその足跡を振り返ってみたいと思います。文:内藤 朗(有限会社FOMIS)

その偉大な足跡

「冨田勲 PROFILE|日本コロムビア」より

 “ISAO TOMITA”として世界的に知られ、日本の音楽家として初めてグラミー賞にノミネートされた実績を持つ冨田勲氏は、大学在学中の1950年代より作曲家としての活動を開始しました。
 氏の代表作としても知られているNHKのドキュメンタリー番組「新日本紀行」、大河ドラマ「天と地と」を始め、「ジャングル大帝」「リボンの騎士」などの虫プロアニメや「キャプテンウルトラ」「マイティジャック」といったSF特撮ドラマ番組などの音楽を担当され、これらの作品の多くでは、クラシック楽器をフィーチャーした壮大なオーケストラアレンジが施されていましたが、この作風こそ氏の作風の特徴と言えるでしょう。
 その後、アコースティック楽器によるオーケストラによる音楽の表現手法だけでなく、電子機器と従来の楽器を融合させるなどの新たな表現手法を積極的に取り入れ、多種多様の音楽を生み出しました。氏の音楽活動における転機となったのは、1969年にモーグシンセサイザーとの出会いであることは有名で、その後、様々なシンセサイザーを駆使して、クラシックの名曲を今日的解釈によって発表していくという活動が中心となりました。1980年代にはFairlight CMI、シンクラヴィアといった最先端のデジタルシンセサイザーなども先駆けて採り入れたり、ボーカロイドとオーケストラの融合に挑戦するなど、常に進化し、可能性に挑戦し続ける音楽家でした。

トミタサウンドの特徴

「Moog alchemist Isao Tomita speaks with RA」より

 氏のシンセサイザーによるオーケストレーションサウンドの最も大きな特徴は、多重録音によって生み出される重厚なサウンドだと言えます。それを実現するために同じメロディを何十回も多重録音するという非常に時間と労力を必要とする作業を行っています。なぜなら、モーグのモジュラーシンセサイザーはモノフォニックシンセサイザーであるため、同時に演奏できる音は1音のみです。これは奏者1人分相当と考えられますから、数十人で編成されるオーケストラで一斉に演奏して得られる重厚さを表現するには、同じメロディを何十回も多重録音することでオーケストラ編成のような多人数で演奏しているようなサウンドを作り出しています。
 もちろん、一つの録音したトラックを別トラックにコピーして音数を増やすことはできますが、実際にその方法で増やすと確かに音の厚みは作られるものの、音量的に大きくなるだけでリアルな音の重なり感が思うように表現できないのです。
 また、当時のアナログシンセサイザーはチューニングが一定に保たれることは少なく、常に微妙なピッチ変動があるため、実際に1音ずつ手弾きで同じフレーズを重ねることでコーラス的な効果が自然に得られるメリットがあります。これは、アナログシンセサイザーのデメリットとされていたチューニングの不安定さを逆手にとったワザと言えるでしょう。この手法はシンセサイザーの音色作りにも応用することができ、2つ以上オシレータがある場合は一方のチューニングを微妙にズラして厚みやコーラス効果を出すテクニックとして今日でもシンセサイザーの音色作りのセオリーとして活用されています。
 この他にも、電圧を変化させてテープレコーダーの再生速度を意図的に不安定にしてフランジャー的な効果を表現するなど、ある意味力ワザとも言える思い切ったレコーディング機器の独特な使用法などもトミタサウンドの特徴と言えるでしょう。

電子楽器・DTM業界に与えた影響

 氏の功績の中でも個人的に大きく記憶に残っているのは、1980年代中頃にはカシオ社の幻のモンスターシンセ『コスモシンセサイザー』の開発において、アドバイザーとしてその開発に協力されたことです。当時は雑誌などでも大きく取り上げられ話題になっていたものの、残念ながら製品自体のリリースには至りませんでした。しかし、その幻のシンセサイザーは1984年に発表された9枚目のアルバム『DAWN CHORUS』制作時に使用され、収録された曲中で、そのサウンドを耳にすることができます。

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コスモシンセサイザー(右)樫尾俊雄発明記念館にて

 また、1990年代以降急速に発達したコンピュータベースの音楽制作においても、積極的に制作活動に採り入れられていました。当時2大シーケンスソフトウェアの1つだったOPCODE社のVisionを長年に渡って使用され、MUシリーズなどのDTM音源を使用した曲作りも積極的に行われていました。このような制作環境でも氏ならではのアプローチによってシンプルな音源1台で作られた作品とは思えないほどのクオリティがあり、まさに“弘法筆を選ばず”の通りのアーティストだったと言えるでしょう。
 さらには冒頭でも紹介した2012年11月23日にボーカロイドの初音ミクと日本フィルハーモニー交響楽団のコラボレーションによる「イーハトーヴ」交響曲の世界初演公演を行うなど、新しい技術を採り入れて独特のサウンドを生み出していく氏の創作活動への情熱や姿勢は、これからもずっと同じ志を持つ音楽家にとっての道標となることと思います。

 2016年11月には「冨田勲 生誕85周年記念 新作世界初演 冨田勲×初音ミク 交響曲『Dr.Coppelius』ドクター・コッペリウス」として行われる予定だった初演コンサートは、「冨田勲 追悼特別公演 冨田勲×初音ミク『ドクター・コッペリウス』」という形で行われる予定ですが、亡くなる直前までその作品制作に取り組まれていたとのことです。最後まで音楽家としての道を全うした氏に敬意を表すると共に、私たちに与えてくれた数々の教え並びに素晴らしい音楽に対する感謝の念をこめて、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

▼参考リンク
冨田勲 Isao Tomita – Facebook
冨田勲|日本コロムビア
Moog alchemist Isao Tomita speaks with RA
樫尾俊雄発明記念館
冨田勲×初音ミク『ドクター・コッペリウス』

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