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VR・AR・MRはどう違う? ~現実ならざる現実について考える~ 前編

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by [2016年5月06日]

長くて複雑な合成語の頭字語が横行するのは、コンピュータ産業の長年の悪しき伝統というかそれだけで一冊の本が書けてしまう(※注1)ほどに面倒な企業のマーケティングやブランディング、あるいは企業内でのプレゼンテーションなどとも密接に結びついた悪習なのですが、その中にあってもVR・AR・MRの3つの頭字語ほど、その違いあるいは同一性がきちんと理解されていない語もないのではないでしょうか。

 ※注1:このあたりの話に興味を持たれた方には、ジョン・A. バリー氏の快著「テクノバブル」(邦訳版は1993年3月、工学社刊)という書籍があるので、そちらをご覧いただきたいと思います。

それぞれ順にVirtual Reality(仮想現実)、Augmented Reality(拡張現実)、そしてMixed Reality(複合現実)、ということになるのですが、そもそも日本語の訳語からして単に英単語を一対一で日本語の単語に置き換えただけであるため意味的に「?」な部分があって、英語名の言わんとするニュアンスはわかるのですが、筆者個人としてはもう少し上手い訳語は無いものかと思います。

まぁ、新しい概念を既存の語を利用して命名するのは本当に大変な作業であるのですが、ことにVRデバイスを基礎としつつフロントカメラやそれに対応する専用の回路を搭載してARやMRにも対応すると豪語するSulon Qのようなジャンルの境界を軽々またぎ超してゆくがごとき多用途のHMDまで登場するとなると、いっそ区別無しにArtificial Reality(人工現実)ってことでひとまとめにした方が話が簡単になるんじゃないか、などと思ってしまったりもします(※注2)。

 ※注2:無論、まとめても厳密性を重視して区分する必要がある際にはやはり個別の名称で呼ばねばならないでしょうし、そもそもArtificial Realityという語はこれ自体既に1970年代中盤から学問的に使用されてきた用語であるので、状況によってはそちらの意味との混同を避ける必要もあるのですが。

もっとも、このSulon Qのようなケースは例外と言うべきで、現状では特にVRとARはそれぞれの領域を一定程度共有しつつ個別に存在しているというのが一般的な状況ということになります。そのため、それぞれがどういうものでどう違うのか、あるいはどこが違わないのかを把握しておくのは、勘違いを避ける意味でも有益なことなのでは無いでしょうか。

そこで今回は、これらVR・AR・MRについて、それぞれに対応するデバイスの抱える問題点も含めて、考えてみたいと思います。

全てが仮想のVR

PlayStation VRディスプレイに視界が塞がれるため、自分の手さえ見えない

PlayStation VR
ディスプレイに視界が塞がれるため、自分の手さえ見えない

まずはVRから。

仮想現実といういささか矛盾した訳語が物語るとおり、VRの場合はHMDなどにより視野に投影される空間全ての物体が仮想空間上のオブジェクトとして表現・配置され、現実の空間とは切り離された形で、HMDの使用中、つまりパソコンから映像信号が入力され続ける間は常時全画面で描写・表示されます。

分かりやすく言えばこれはFPS(First Person shooter)タイプの3Dシューティングゲームの空間内と同様の画面表示(※注3)ということで、視界内の場所・空間を全てポリゴンなどによるオブジェクトとして生成することで実現されます。

 ※注3:このためもあるのでしょうが、Oculus RiftをはじめとするVR対応HMD向けのコンテンツにはやたらとFPSタイプのゲームが含まれています。また、その種のHMDに対応する手持ちの入力デバイス自体もそうしたコンテンツでの利用を想定して設計されたとしか思えないような形状・構造のもの、具体的には人差し指の位置にトリガ状のスイッチが搭載されている機種が少なくありません。

つまり、VRの場合は画面の表示が続く限り、接続されたマシンのGPUやCPUにかなりの負荷が常時かかり続けることになります。

この方式の場合はユーザー自身の身体も当然に直接見えなくなってしまうため、特別な手立てを用意しない限り何らかの操作を行う際に手に持っているコントローラの状態確認が難しいという問題があります。また空間内の全てのオブジェクトを生成・表示せねばならないため、HMDに接続あるいは内蔵されるマシンのGPU性能に対する要求が非常に厳しく、また独特の「3D酔い」と呼ばれる乗り物酔いに似た症状を引き起こす可能性があります。

ことに3D酔いの問題は深刻で、その対策としてHMD内蔵ディスプレイパネルのリフレッシュレートや解像度を高めるとさらに要求される性能が高まってしまう(※注4)ということも相まって、Oculus RiftやHTC Viveなどでは合計でフルHDを上回るピクセル数で一般的なディスプレイよりも高いリフレッシュレートのディスプレイパネルを搭載し、このため現在のハイエンドゲーミングパソコンの中でもかなり上位のGPUを搭載している、言い替えれば結構高価な機種でなければ実用的な描画性能が確保できなくなってしまっています(※注5)。

 ※注4:実際、Oculus RiftはDevelopment Kit 1(DK1)、Development Kit 2(DK2)、製品版とユーザーの声を反映し改良を重ねるごとに内蔵ディスプレイパネルの性能・解像度が引き上げられた結果、必然的に推奨動作環境のスペックも急激に跳ね上がってしまい、OculusのCEOが度重なる製品版の値段引き上げについて自分たちに儲けはほとんどなく、Riftは製造コストギリギリの価格設定であると弁明・謝罪せざるを得ない状況に追いこまれました。本格的なVRデバイスでのこうした製造コスト高騰問題、言い替えれば搭載ディスプレイに対する際限のない性能向上要求は、Foveated Renderingと呼ばれる視界の中心から外れる領域の解像度を下げて画面全体での描画負荷を軽減する技術が一般化しない限り、その抜本的な対策・解決は難しいと考えられています。また、こうした製造コストの高騰とそれに起因するHMD本体の価格急上昇はその反動としてスマートフォンと段ボールを加工したバイザー部を組み合わせるといった簡易な構造のVRデバイスの流行を引き寄せており、VRデバイスでは市場の二極分化が起きつつあります。
 ※注5:具体的に言えば今の市場価格で6万円クラスのGPUカードの搭載が必須で、電源もこれに見合った容量の機種を選択せざるを得ず、さらに応答性能の向上などを考慮するとストレージもそれなりの容量のSSDとするのが望ましいため、マザーボードやCPU・メモリ、それにOSを抜きにしても最低で8万~10万円くらいかかってしまいます。そのため、秋葉原のPCショップなどで販売されているVR対応を謳うパソコンを見ても大体は15万~30万円クラスの結構なお値段となっています。

また、この方式の場合はユーザの首の回転などによって視界が変化することになり、さらにユーザーのジェスチャーなどが何らかの操作のトリガーとなるケースが大半を占めています。

そのため、HMDを装着したユーザーがジェスチャー操作を行ったりするためにその利用中、常にある程度自由に動き回れるだけの実空間を確保し、さらにその空間の中でのユーザーの位置情報を検出するため、外部にセンサーを設置する、あるいはHMD本体に各種センサーを搭載して相対位置の検出を可能とする、といった動作の前提条件が生じるため、機材の設置・利用にあたってさまざまな制約が生じています。

Microsoft KinectXbox360用周辺機器として開発されたジェスチャー入力のためのセンサーシステム。各種センサーを用いてユーザーのジェスチャーを判定するため、センサー本体から一定の距離をとってプレイする必要がある

Microsoft Kinect
Xbox360用周辺機器として開発されたジェスチャー入力のためのセンサーシステム。各種センサーを用いてユーザーのジェスチャーを判定するため、センサー本体から一定の距離をとってプレイする必要がある

ちなみに、筆者はジェスチャーによる操作で先鞭をつけたマイクロソフトの家庭用ゲーム機であるXbox 360とその周辺機器としてリリースされたKinectと呼ばれるカメラセンサーモジュールのセットを所有しているのですが、購入直後にいざXbox 360にKinectを接続して付属してきたKinect対応ゲームを遊ぼうとしたところ、自室の奥行きが足りなくてセンサーが正常動作せず、結果としてXbox360の購入目的の1つだった重鉄騎(カプコン)も遊べないという非常に悲しい結果となってしまったことがあります。

VRデバイスの場合も大なり小なりこれと同じような問題を抱えていますから、筆者がKinectで体験したのと同様の悲しい状況が出来る可能性が高くなっています。

そのため、今後この種のVR HMDの購入を検討しておられる方は、この種のデバイスにおいてはそうしたユーザーがプレイするための空間の確保についてかなり厳しい条件を満たす必要があることを認識・確認しておく必要があります。VR対応HMDはスマートフォンと組み合わせて使用する簡易なアダプタ的なバイザーを別にすれば総じて凄まじく高価な機種ばかりであるため、買ったは良いが遊べなかった、という状況となると救いが無さ過ぎて目も当てられません。

後編ではAR・MRを中心にこれらの「現実ならざる現実」を実現するデバイスについて考えてみたいと思います。

▼参考リンク
Sneak peek of the Sulon Q™ – Sulon – Sulon
Microsoft HoloLens | Official Site
FX-8800P with Radeon™ R7 Graphics
Xbox 360 – Kinect

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