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圧倒的な世界観とデザインセンスが評価されたアプリ『ひとたがやし』ところにょり氏インタビュー

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by [2016年4月25日]

kaihatsukankyo
2016年4月21日、Google Playの新着カジュアルゲームカテゴリで1位を獲得した『ひとたがやし』。独特の世界観が評価されている、開発者の「ところにょり」氏にメールでお話を伺いました。

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芸術系大学を卒業したばかり

dog──プロフィールを教えてください
 ところにょりと申します。なにもない住宅地の、複雑だけど平和な家庭で生まれ育ち、小中高となんの面白みもなく進んだあと、関西の芸術系の大学に入学して一ヶ月前に卒業しました。いまはフリーランスとしてゲームを作っています。

──フリーランスになった経緯を教えて下さい
 大学在学中に就活というものをしたのですが、いろんな企業を回っていくうちに「ここに飲み込まれるとやばいな…」と思い、すべての就活生と同じように悩んだあと、一部の就活生と同じように「逃げよう…」と思いました。
 逃げの一手としてのフリーランスです。たぶんフリーランサー史上もっともダサい経緯だと思います(笑)

──どういったお仕事を請け負ってらっしゃいますか?
 2D表現のゲーム制作であれば基本的になんでもお請けしてます。ただ、Unity上で使えるノベルゲームエンジンを自作したので、それを知ってくださった方からノベルゲーム・ADVゲーム関係のお仕事を依頼されることが多いです。ジャンル的には乙女ゲームが一番多いような気がします。

──こういう案件を請け負いたい、というものがあったら教えてください
 やっぱりノベルゲームって衰退の一途をたどってますので、その流れを壊してやろうというような勢いのある案件は請け負ってみたいです。
 スマートフォン向けにもノベルゲームは少なからず出ているのですが、売り切りか、収益無視の無料公開が多く、あまり盛り上がってる印象はありません。いまの時代に合った方法が適切にはまれば、また盛り上がる余地はあるんじゃないかなと思います。
 ちなみに『ひとたがやし』はその辺りの実験を行ってる部分もあります。ほんのちょっとですが。

──ハンドルネームの「くじらはおおきい」「ところにょり」の由来を教えてください
 たまにこれを聞かれるのですが、聞かれる度に「しまった」と思います。このふたつは本当になんの意味もないんです(笑)「くじらはおおきい」はくじらが好きというだけですし、「ところにょり」に関してはなんでこの名前なのか自分でもわかりません。なんなんでしょうこの名前(笑)
 僕の馬鹿と適当さがバレるので、あまりこの質問は今後されたくないですね……。

──もともと受託開発をされていたそうですが、自作アプリをリリースしようと思われたきっかけを教えてください
 自分の作ったものを世間に向かってぶちまけたい、という欲は昔からあって、高校生のときから小説を書いてネットに投稿したりしてました。ですので、自力でゲームを作れるようになったときも、遅かれ早かれ受託だけでなく、なにか自分の作品を作ることになるんだろうなと思っていました。

メインはUnity、気になっているのはSwift

──使用機材を教えてください
 メインマシン:iMac 21.5( + 23インチディスプレイ)
 サブマシン:MacBook Pro
 使用ソフト:Unity、Affinity Designer、Affinity Photo、SourceTree

──Unity一筋ですか? 他に取り扱っている言語はありますか?
 いまはもうUnity一筋でおんぶにだっこ状態ですが、Unityを使う前はSwiftとSpriteKitでiOS向けのゲームを作ってました。公開はしてないのですが。

──いま気になっている言語はありますか?
 やっぱりSwiftですかね……。最近はAndroid開発にも使えるという話もあって、いつかUnityでも使える日がくればなと思います。でもC#がUnityの主流なのは変わらなそうですし、参考文献もC#が多いでしょうし、必ずしもSwiftに戻るわけではないと思うのですが(笑)

──イラストはどんなソフトで制作されているのですか?
 基本的に画像関係はAffinity DesignerとAffinity Photoで制作しています。

きっかけは自主開催した「Unity1week」

──『ひとほろぼし』はどういった経緯で企画が生まれたのですか?
 少し前にTwitter上などで「Unity1week」という一週間でゲームを作る企画を一人で勝手にやってたんです。WebGLというウェブブラウザで遊べる形で公開するのが最終目標でした。『ひとほろぼし』はその第一週目に作ったゲームです。
 その企画で一ヶ月に三つほどゲームを作ったあと、まずは『ひとほろぼし』を少し改良してGoogle PlayとApp Storeでリリースしました。
 ちなみに「一ヶ月に三つ」という計算が合わないところは無視してください。

──『ひとほろぼし』の制作期間を教えてください
 プロトタイプの制作は8日ほどで、改良は2~3日くらいだったと思います。

──『ひとたがやし』はどのようにして生まれたのですか?
 『ひとほろぼし』と同じく「Unity1week」の第三週目に制作しました。iOS/Android版『ひとほろぼし』に対する反応などを踏まえて大幅に改良したのちにGoogle PlayとApp Storeでリリースしました。

──『ひとたがやし』の制作期間を教えてください
 プロトタイプの制作は『ひとほろぼし』と同じく8日ほどですが、改良には2週間ほどかかりました。

「死なないように」企画書

「死なないように」企画書

──『ひとほろぼし』『ひとたがやし』はもともと1セットで作る予定だったのですか?
 最初期の段階では1セットではありませんでした。
 「Unity1week」をはじめた初日に、「死なないように」というゲームの企画書のひな型をTwitterに投稿しました。
 このゲームは怪物を操作して人を滅ぼしながら、人を滅ぼすことが嫌で自殺しようとする怪物が自殺しないよう、ノベルゲーム的な選択を繰り返してエンディングへと向かうというものでした。文字通り肉体的にも精神的にも「死なないように」導くゲームです。
 でもすぐに「一週間でここまで盛り込めない……」と気づいて、ストーリーなどを全部剥ぎ取って「ひとをほろぼす」部分を強調した『ひとほろぼし』に変更したんです。
 そして第三週目に「ひとをたがやす」というアイデアでゲームを作ろうと考えたとき、「ひとほろぼし」で操作した怪物を倒すゲームにしようと思い、タイトルを『ひとたがやし』にしました。ここでやっと1セットになったという感じです。

──両作に共通している設定、たとえば「なにか」が生まれた経緯などは『ひとほろぼし』を企画した時点で考えていたのですか? それとも『ひとたがやし』を作るにあたって細部を詰めたられたのですか?
 「死なないように」の企画段階でおおむねの設定はつくっていたのですが、『ひとたがやし』を改良するときにそのままこの設定は使えないなと思って、核の部分は残したまま新しく設定やストーリーを考えなおしました。

構想を書き留める黒板

構想を書き留める黒板

──『ひとほろぼし』『ひとたがやし』のような世界観がお好きなのですか?
 もちろん大好きです。いままでもこれからも、自作のゲームに関しては自分の好きな世界観のゲーム以外を作るつもりはありません。
 ただ、自分の好きなゲームなのに、自分が作ったゲームだからこそ、純粋に楽しめないというのが悩みどころです。「自分が作った」という記憶が消せるなら消したいです(笑)

──「なにか」や戦闘機、『ひとたがやし』の歯車と計算機を組み合わせたような機械のデザインが秀逸だと思います。イラストやデザインは昔から行われているのですか?
 デザインはすべて自分で行いますが、イラストは一切描きません。「なにか」も「たがやす機械」も、アイコン素材だったり色んな素材をかき集めて、パッチワーク的に組み合わせてるだけなんです。そういった「既存の部品のかき集め」というところが世界観に合っているという理由が一番なのですが、絵の描けない人の裏技的なものでもあります(笑)

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──イラストやデザイン関係の仕事は請け負われないのですか?
 イラストは描けないのですが、デザインはできますので、『ひとほろぼし』『ひとたがやし』のデザインを踏まえて依頼して頂ける方がいましたら、喜んでお請けいたします。

──『ひとたがやし』は『ひとほろぼし』よりゲーム性が高くなっていて、格段に面白くなったと思います。やはり『ひとほろぼし』のときのプレイヤーレビューを参考に改善されたのですか?
 かなり参考にさせていただきました。一週間で作った『ひとたがやし』は『ひとほろぼし』と同じように、一切の説明もなくただ人をたがやして、なにかと戦わせるだけのゲームでした。強化もなかったですし、ストーリーもありませんでした。
 反応を見ると「一回遊べばおわり」「なにをしたいのかわからない」「強化もなにもない」というような意見が多かったので、そこをそっくりそのまま参考にして、『ひとたがやし』にはストーリーと強化機能を追加しました。

──APPREVIEWに掲載したレビューもそうですが、かなりキツい意見が多かったのではないでしょうか? (そんな記事を書いた私が言うのもなんなのですが)へこまれたのではないかと心配でした……
 そりゃもうへこみましたとも(笑)
 ただAPPREVIEWさんのレビューでもそうだったのですが、「雰囲気はいいけど」「面白みは感じるけど」というような前置詞がつく場合が多かったので、「期待されているんだな!」とむりくり解釈しました。
 それに(Unity1weekで制作した)『ひとたがやし』があるのにそれをアプリとしてリリースしないという選択肢はなかったので、『ひとたがやし』に救われた部分も大きいです。

──どうして「たがやす」は30分に1回しかできないのですか? 待ち時間が長すぎるように感じます
 ここは今回の反省点だなと思っています。
 僕が作り手ではなく受け手としてスマートフォンゲームに求めているのは、生活に密着して遊べるゲームだったんです。なので『ひとたがやし』も「充電している間に洗濯物でも取り込んで、終わった頃にまた遊べるかな?」とか「駅から学校まで歩いて教室についた頃にはまた遊べるかな?」というような、ゲームと生活が融合した面白さをプレイヤーの皆さんに感じて欲しくて、「たがやす」に充電時間というのを設けました。 
 けれど『ひとたがやし』の反応を見ると「待ち時間が長い」というのが少なからずあったので、「もっとがっつりやりたい」という需要があることを知りました。最新のアップデート(2016年4月22日現在、iOS版は審査中)で「えいきゅう きかん」という、待ち時間と広告を解除する有料アイテムを設けたのはそのためです。

──たたかいが終わった後動画広告を再生できる時間が短すぎるように思うのですが……
 ちょっと短いかな、くらいの方が動画広告を押してくれると思ったのですが、APPREVIEWさんのレビューを参考にして、App Storeで審査中のアップデートでは4秒ほど長くしています。Google Playでも次回アップデートで改善する予定です。

──アップデートで実装される新要素がありましたら教えてください
 大幅なアップデートの予定はありませんが、Android 6.0でのみ特殊な条件下で「わかちあう」を実行するとエラーが出てしまうので、その対策と、「たがやす」パートの初回起動時に簡単なチュートリアルを追加したいと思っています。

有料素材分の元はなんとかとれました

──『ひとほろぼし』はどのくらいダウンロードされましたか?
 iOS:3,282
 Android:4,798 です。(2016年4月22日現在)

──収益(赤字でも)はどのくらいですか?
 2万円もいかないくらいです。海外の有料素材サイトとかにも登録してるのですが、その分くらいはなんとか元が取れました(笑)

──続編の『ひとたがやし』はどのくらいDLされていますか?
 iOS:3,873
 Android:13,320 です。(2016年4月22日現在)

──現時点での収益はどのくらいですか?
 おおよそ10万円くらいです。

──また今後収益が上がる(もしくは下がる)見込みはありますか?
 Android版『ひとたがやし』で有料アイテムを追加して3日ほどなのですが、意外と好調なので、iOSでもアップデートが公開されれば収益も少し上がるかなと思います。
 あと、まだ『ひとたがやし』がランキングに乗ってから日も浅いので、これからも継続してDLしていただけることを祈ります!

──広告は何を導入されていますか?
 動画広告はUnityAds、全画面広告はadMobを使っています。

──動画広告とその他広告における収益の比率を教えてください
 動画広告と全画面広告で4:6くらいです。『ひとたがやし』では、これからたがやすために見る動画広告なのでクリック率が低いのと、5秒でスキップできるようにしているので収益性は少し低いです。ただ「動画広告がうざい」という反応は一切見ないので、スキップできない設定よりもアンインストール率は少ないのではないかと推測しています。

絵本のような文体を目指して

──どういったゲームや映画などの娯楽作品がお好きですか?
 アニメと映画が大好きで、基本的にはどんなものでも観ます。アニメでは、新海誠さんや吉浦康裕さんの作品は何回もくり返し観るくらい好きです。映画だとガス・ヴァン・サント監督が好きです。
 あとは小説も読みますし漫画も読みますし絵本とかも読みます。
 好きな小説家は伊藤計劃さんとか橋本紡さん、三崎亜記さん、リチャード・ブローティガンですかね……。漫画家だと宮崎夏次系さんや道満晴明さん、吉田戦車さんが好きです。
 すべて語ると日が暮れてしまうのでこのあたりで止めておきますが、とにかく人一倍、誰かが作り出したものに触れたいという欲求は強いと思います。

──影響を受けた作品・作家などはありますか?
 作風への影響ではないのですが、新海誠監督の『秒速5センチメートル』にはかなり影響を受けました。高校生の時はじめて観て、なんで自分の人生というのはこうも平穏無事でつまらないんだろうと真剣に数ヶ月悩みました。悩むことがないことに悩んでたという……。ほんと若かったです(笑)
 あとは吉浦康裕監督の『ペイル・コクーン』とか、小説だとリチャード・ブローティガンの『西瓜糖の日々』とか、漫画だと宮崎夏次系さんの作風とかには強く影響を受けてると思います。あと『ひとたがやし』では、絵本のような文体になるように心がけてました。

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──他のアプリデベロッパーさんとコラボなどのご予定は?
 ないですね……。自分が他の方とコラボしているところが想像できないです(笑)
 でも楽しそうなのでコラボしましょうという方がいましたらぜひ!

──次回作のご予定はいかがですか? 答えられる範囲でお願いします
 『ひとたがやし』を作りながら次回作の構想を練っていて、もうすでに作りはじめているのですが、だんだんと面白いのかどうか分からなくなってきて停滞気味です……。
 舞台は『ひとたがやし』よりも更にあとの世界で、世界観を少しだけ共有するつもりなのですが、もしかしたら全く別の話になっているかもしれません(笑)

──最後に一言お願いします!
 僕なんぞのインタビューをここまで読んでくれている物好きな方は、『ひとほろぼし』『ひとたがやし』の世界観がなんだか刺さってしまった人なのかなと思います。そんな人に突き刺さるゲームをこれからも作りたいと思っているので、応援よろしくお願いします!

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