Snapdragon VR SDKの発表を告知するQualcommのブログ記事ページ

QualcommもVRに本格参戦~Snapdragon 820搭載機種を対象としたVR開発キットを発表~前編

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by [2016年4月28日]

Snapdragon VR SDKの発表を告知するQualcommのブログ記事ページ

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最近、サムスンのGear VRをはじめスマートフォンの機能を利用した簡易なVRデバイスが話題となっています。

それらは解像度がそれなりに低いレベルであれば十分VR体験に耐えうる程度には、スマートフォンの搭載する統合プロセッサをはじめとする各部の性能が向上してきたからこそ実現をみたデバイスであると言えます。

それならば、そうしたスマートフォンに搭載されている統合プロセッサの大手開発元であるQualcommがSnapdragonの名で知られる統合プロセッサの新製品発表といった機会を含め目立ったリアクションも起こしていないのはおかしい、最近IoTをはじめ様々な分野への進出を果たしつつある同社がわざわざVRだけを避けて通る理由は無い、と筆者は考えていたのですが、同社はVRへの進出へ向けた準備を始めていました。

先日、割とひっそりとその概要が発表されたSnapdragon VR SDKと呼ばれる開発キットがそれです。

そこで今回はSnapdragon VR SDKと、そのプラットホームとして明示されたSnapdragon 820プロセッサについて考えてみたいと思います。

そもそもSnapdragon 820ってどんなプロセッサ?

Qualcomm Snapdragon 820 製品紹介ページ前世代のSnapdragon 810比でCPUコア数が半減したにもかかわらず、2倍のCPU性能、Snapdragon 810に内蔵のAdreno 430 GPU比で40パーセント増の性能を実現したAdreno 530 GPUの内蔵など、飛躍的な性能の向上を謳う

Qualcomm Snapdragon 820 製品紹介ページ
前世代のSnapdragon 810比でCPUコア数が半減したにもかかわらず、2倍のCPU性能、Snapdragon 810に内蔵のAdreno 430 GPU比で40パーセント増の性能を実現したAdreno 530 GPUの内蔵など、飛躍的な性能の向上を謳う

ところで、最前から名前の出ているSnapdragon 820とは一体どのようなプロセッサなのでしょうか。

Snapdragonシリーズ、それも現行機種ではハイエンドモデルを示す800番台の型番で現状最高位のナンバリングが行われていることから、間違いなくシリーズラインナップ最上位に位置する機種であることが推定できますが、単にCPUコア数が多いだとか内蔵GPUのシェーダ数が多いだとかいったスペックの量的な面で最上位に位置づけられているものではありません。

実はこの機種、CPUコアが(未だその詳細は明らかにされていないものの)ARM v8系64ビットアーキテクチャ準拠としてはCortexーA53・A57を擁する本家ARMやA7・A8・A9系プロセッサを自社開発しているApple、それに他にない独自アーキテクチャによる「Denver」コアを開発したNVIDIAに続く4社目の完全自社設計によるオリジナルCPUコアとなっているのです。

これらの内、ARMの各機種はARM v7系アーキテクチャ時代のCortexーA7・A15を素直に拡張発展させたもので、Qualcommも現行のSnapdragonシリーズで採用していてなかなかの性能ですが、正直なところを言ってしまえば、そこまで傑出した性能というわけではありません。

また、Appleの各プロセッサも半導体製造プロセスその他の進歩による改良はあるものの、これらも(Apple自身の宣伝文句はともかくとして)実際にはそこまで他を圧する様な突出した性能を備えている訳ではありません。そもそもAppleの各機種は、iPhoneやiPadなどの自社製品に搭載すべく開発されているものであって外部の企業に供給される可能性は事実上皆無ですから、これらは他の機種と同じ土俵で比較対象となることはまずあり得ない機種であると言えます。

2016年4月の時点での NVIDIA Tegra K1製品紹介ページ以前にはあった64ビットCPUコア“Denver”搭載版についての記述が全て抹消されてしまっている

2016年4月の時点での NVIDIA Tegra K1製品紹介ページ

一方、NVIDIAの「Denver」コアは「Dynamic Code Optimization(動的コード最適化)」と呼ばれる、プロセッサ内で利用されるマイクロコードレベルでの動作を最適化し、命令発行数を向上させる技術が採用されるなど非常に野心的な構想に基づいて開発され、他に無いアイデアが多数盛り込まれていたのですが、残念ながら営業的にはどこのメーカーにもまともに採用して貰えず、これを搭載していたTegra K1統合プロセッサの公式ページにおいてさえいつの間にやらその存在が完全に「無かった」ことにされる(※注1)ほどの大失敗となってしまいました。そのため、まともに市中に出回った製品としてはGoogleのNexus 9が”Denver”コア内蔵のTegra K1を搭載した史上唯一の例となりそうな有様です。

 ※注1:現在のNVIDIAのTegra K1製品紹介ページではCortex-A15 “r3″コア 4基+1基搭載の32ビットモデルのみが掲載されていて、以前掲載されていた「Denver」コア2基搭載の64ビットモデルの情報は跡形も無くなっています。余談ですが、NVIDIAには成功作は麗々しく自社サイトで宣伝する一方で、失敗作と見なされた製品は一切の情報を自社サイトから抹消し、存在そのものすら「無かったこと」にしてしまう傾向があります。言い替えれば、同社のサイトから情報が消されたということは、同社自身によって否定の余地が無いほどの失敗作と判断されたということを意味します。

つまり、Apple製品以外では事実上本家ARMの一人勝ち状態にあったARM v8対応64ビットCPUコアの市場で、それらの対抗馬として投入されるのが、このSnapdragon 820およびその搭載CPUコアであるKryo(クライヨ)コアということになります。

元々、QualcommはARM v7系プロセッサの全盛期にARM Cortex-A8・A9を凌駕する高性能CPUコアとしてKrait(クレイト)コアを開発、これを搭載したSnapdragon S4シリーズの大成功で現在のスマートフォン向け統合プロセッサのトップメーカーとしての地位を確立した、という歴史があります。

ところが、QualcommはCortexーA53・A57対抗の64ビットCPUコアの開発では大きく出遅れ(※注2)、ようやく2016年になってこのSnapdragon 820に搭載されるCPUコアとして、独自開発の64ビットコアであるKryoコアが発表されるに至りました。

 ※注2:そのためQualcommとして最初の64ビットCPUコア搭載SnapdragonとなったSnapdragon 410/610/810系の各機種(Snapdragon 808を含む:2014年発表)では、ARMのCortexーA53・A57がグレードに合わせたコア数・動作クロック周波数で搭載されています。

この出遅れは、他社製競合機種を圧倒しうる要求性能を満たすために必要なトランジスタ数がKraitコア比で指数関数的に増大した結果、14nm FinFET LPPプロセス(※注3)による半導体製造、つまり同じチップサイズでより高速かつより多くのトランジスタが利用できる製造技術の利用が本格化しはじめた2016年まで量産の目処が立たなかったことによるもの考えられます。

 ※注3:このプロセスルールのサイズと種類から、Snapdragon 820についてQualcommはこれまでSnapdragonシリーズの製造を委託してきた台湾TSMCではなく、サムスン・GLOBALFOUNDRIES連合のいずれかに委託していることが推定でき、実際にもサムスンが受託したことが報じられています。

ちなみに、この遅れにより競合相手であるARMのCortex-AシリーズではCortex-A57よりも高速なCPUコアとして、やはりサムスン・GLOBALFOUNDRIES連合の14nm FinFETプロセス、あるいはTSMCの16nm FinFETプロセスで製造することを前提とするKryoの競合機種である、Cortex-A72が発表されていて、Cortex-A57比で飛躍的な性能向上を謳っています。

もっとも、QualcommはKryoコアを最上位機種であるSnapdragon 820に搭載すると発表すると共にこのCortex-A72コアをよりグレードの低いSnapdragonシリーズのミドルレンジの機種(Snapdragon 650・652)に搭載することを発表しており、同社がこのKryoコアの性能が大幅にCortex-A72を凌駕するものであるとして、並々ならぬ自信を持っていること(※注4)をうかがわせています。

 ※注4:これは同時に、Cortex-A72のCPUコア1コアあたりの回路規模がKryoコアの1コア分よりも小さいことを示唆するものでもあります。ちなみにサムスン・GLOBALFOUNDRIES連合の14nmプロセスとTSMCの16nmプロセスはそのプロセス名で示されているマスクピッチの値こそ異なりますが、実際にはそれぞれの製造手法の相違などが原因で同世代・同程度の回路サイズかつ同程度の性能となるとされ、実際にAppleのA9+M9プロセッサでは双方の陣営に(物理回路設計をそれぞれに最適化した上で)生産が委託されており、これらは得手不得手は多少あるものの、概ね同等の性能のプロセッサが得られていることが報じられています。そのためARMがターゲットとなる半導体製造プロセスごとの設計の最適化・チューンで余程何か致命的なミスを犯さない限り、これらの製造プロセスを用いて生産されるCortex-A72において生産委託先毎に大きな性能差が出るとは考えにくい状況です。こうした理由から、Cortex-A72とKryoのCPUコア部ではっきりした性能差が出るとすれば、例えば条件分岐予測のための回路など、プロセッサの処理高速化のための回路へのトランジスタ割り当て数の差が原因となる可能性が高いと言えます。

なお、このKryoコアを搭載するSnapdragon 820はCortexーA53・A57によるBigLITTLE構成を採用している現行のSnapdragon 810の2倍に達するプロセッサ性能を実現しているとされ、内蔵GPUであるAdreno 530も半導体製造プロセスがシュリンクされた恩恵でSnapdragon 810に搭載のAdreno 430比で40パーセントの性能増大をみたと発表されています。

後編に続きます。

▼参考リンク
Qualcomm Announces Introduction of Snapdragon Virtual Reality Software Development Kit | Qualcomm
Immersive Virtual Reality | Qualcomm
Virtual reality is here. And it’s amazing! | Qualcomm
Virtual reality: growth will come from freedom, not ratings | Qualcomm
Snapdragon VR SDK – Qualcomm Developer Network

Snapdragon 820 Processor with X12 LTE | Quad-Core CPUs | Qualcomm
Snapdragon 810 Mobile Processor (8 Core) Octa-Core CPUs | Qualcomm

Tegra K1 次世代モバイルプロセッサ | NVIDIA

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