Kindle Oasis本体基本的には非常にシンプルな構造・機能の電子書籍リーダーである

より軽くより長く……でも容量は据え置き?~Amazon、Kindle Oasisを発表~

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by [2016年4月25日]

Amazon.co.jpのKindle Oasis製品ページ2016年4月27日発売予定となっている

Amazon.co.jpのKindle Oasis製品ページ
2016年4月27日発売予定となっている

今や電子書籍リーダー端末として一大勢力となったAmazonのKindle。

Kindleが大きなシェアを獲得した背景には様々な理由があったことが指摘できますが、中でも世代を重ねるごとに端末本体の低価格化が進んで購入しやすくなったことと、出版社や著作権者に支払われる印税が紙媒体の出版物より多くするといった、いわば「損して得取る」制度をAmazonが導入し、コンテンツ拡充が進んだ=読みたい本が読める様になってきていることは、その成功の大きな理由として挙げられるでしょう。

そんなKindleですが、このほど最新モデルとして『Kindle Oasis』が発表されました。

Amazon自身が

 新発想のデザイン、完璧なバランス

と製品紹介ページ等で豪語するこの機種は、現行のKindleシリーズではハイエンドに位置づけられています。

つまり、この機種のハードウェアスペックや提供されている機能を見れば、Amazonが現時点で電子書籍リーダー端末に対してどのような性能・機能が必要あるいは搭載されるべきと考えているかが見えてくるということになります。

そこで今回は、このKindle Oasisを通じて、Amazonの電子書籍リーダー端末、そして電子書籍に対する考えを探ってみたいと思います。

Kindle Oasisの主な仕様

Kindle Oasis本体基本的には非常にシンプルな構造・機能の電子書籍リーダーである

Kindle Oasis本体
基本的には非常にシンプルな構造・機能の電子書籍リーダーである

記事執筆時点でAmazonが公開しているKindle Oasisの主な仕様は以下の通りとなります。

  • サイズ:143×122×3.4~8.5mm
  • 重量:131g(Wi-Fiモデル本体)・133g(Wi-fi+無料3Gモデル本体)・107g(カバー)
  • メインスクリーン
    • 種類:16階調グレースケール電子ペーパー
    • 解像度:300dpi
    • 画面サイズ:6インチ
    • ※対角線長
  • 内蔵メモリ
    • フラッシュメモリ:4 GB
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 b/g/n

スマートフォンやタブレットと違い、CPUやメインメモリなどについて一切触れられていませんが、またOSについても一切言及がありませんが、このKindle Oasisを含むKindleシリーズ各機種も、CPUやメインメモリを搭載しOSが動作する立派なコンピュータです。

実際、Wi-Fi接続も3G接続も、搭載チップセットやOSがサポートしていなければ対応が難しい機能であると言えますし、カタログスペックとして4 GBと記載されている内蔵フラッシュメモリ容量も、保存可能な本の冊数から逆算するとその4GBの内約1GB程度がOSや電子書籍リーダーアプリなどによって占有されていることが推測できます。

もっとも、電子書籍リーダーに特化したKindleシリーズの場合、そうしたコンピュータとしての側面を表に出す必要は無く、またOSの存在を意識させないような構成となっていることもあって、ユーザーがそのことを意識する機会はほぼ皆無と言えるでしょう。

「本を読む」ことに特化したディスプレイ

さて、このKindle Oasisにはスマートフォンやタブレットでおなじみの液晶や有機Elなどではなく、電子ペーパーと呼ばれるそれらとは異なった原理によるディスプレイデバイスを搭載しています。

この電子ペーパーは、単純化して言えば半球単位で白と黒に塗り分けられた微少な球を電界の中で泳動・回転させて画素を構成する仕組みです。

この方式であれば一旦回転させれば(=書き込みを行えば)その後は大抵の場合その状態が維持されるため表示時、つまり画面の書き換えの時に電界を操作する以外はほぼ電力消費がなく、液晶などの様に画面リフレッシュ動作も必要ありません。

また、光の反射で白黒を表示するため、紙にインクで字などを書いた場合に近い表示が得られ目に優しいというメリットもあります。

もっとも、その動作原理で想像がつく方が多いかと思いますが、この電子ペーパーはフルカラー化が難しく、また白黒でも十分な階調幅を確保するのが難しいという難点があります。

分かりやすく言うと、オフセット印刷を前提としてスクリーントーンを使用する=階調差の範囲を最小限に抑えるようになっているコミックや、元々階調差が存在しないのが一般的な活字による小説などの表示には問題が出にくいのに対し、スムーズな濃淡の変化が必要な写真などの表示には例えモノクロであっても適さないディスプレイなのです。

それでも現在の技術であればカラー化そのものは不可能では無くなっているのですが、それでもせいぜいRGB各色でそれぞれ16階調=4,096色程度といったところで、一般的なフルカラー表示(16,277,216色)の域には達していません。

AmazonがKindleシリーズで16階調モノクロ表示を墨守しているのは、恐らくこうした電子ペーパーの同時発色数の低さが一因と考えられます。

一方、Kindle Oasisの画面は6インチディスプレイで解像度300ppi(pixel par inch:1インチあたりの画素数を示す単位)とのみ公表されていて実際の画面を構成するピクセル数は示されていません。

しかしこの2つの数字と、画面の縦横比が概ね4対3になっていることから、画面は1,440 × 1,080ピクセルで構成されていると計算できます。

300ppiという解像度が示されている段階でも判っていたことですが、これ自体はiPhone 6 plus/6s plusクラスのスマートフォン(5.5インチ 1,080 × 1,920ピクセル、約401ppi)よりもいずれも低い値ということになります。

ただ、この値が悪いかというとそんなことは無く、筆者は現在iPhone 6 plusを使用していますが、この機種の画面は例えばWordでテキストを読んだり編集したりする際、画面サイズに対して画素密度が高すぎる≒表示される文字が小さすぎて目が疲れる傾向(※注1)が強くなっています。

 ※注1:これ自体は基本となるフォントサイズを拡大すれば済む話ですが。

そのため、現状での実用上のウェルバランスを勘案すると、電子書籍リーダーをこのクラスの物理的な画面サイズで設計する場合は、この程度の解像度が適当という判断なのでしょう。

ちなみに、300ppiという解像度自体は今から30年ほど前にレーザープリンターが普及し始めた当時に一般的だった、紙にアウトラインフォントで印刷して実用的な印字品位が得られる最下限の解像度(300dpi:※注2)と同等の値です。

 ※注2:dots per inch。意味するところは概ねppiと同じです。なお、一般市販されたレーザープリンターの出力解像度は初期には300dpiを基本として紙送り制御の工夫で縦方向の解像度のみ高めた機種が大半を占めていて、1990年代中盤に入り基本解像度が600dpiのプリンタエンジンを搭載した機種が普及するようになった後も、300dpi級プリンタエンジン搭載で縦方向のみ解像度を高めた機種は長らく廉価機あるいは高速印刷対応機種という位置づけで販売が続けられました。このことから、300dpiエンジンの印字結果は決して十分なクオリティではないとしても、それはそれで実用に耐える品質であったと評価できるでしょう。なお、600dpiで縦横比3:4の6インチディスプレイを作ると、ピクセル数が2,880 × 2,160ピクセルとなります。近年話題の4k2kディスプレイのピクセル数が3,840 × 2,160ピクセルですから、この解像度のディスプレイを電子書籍リーダーに搭載するのは現状では難しいと言えます。

Amazonは現行のKindle各機種のうち、最安の入門機と言える「Kindle」(解像度167ppi)を除く他の3機種(Kindle Paperwhite・Kindle Voyage・Kindle Oasis)全ての解像度を300ppiで統一しており、その一方で自社で販売しているタブレットは解像度が全て300ppiを下回っていてしかもバラバラの値となっています。

このことから、Amazonは電子書籍リーダーについては出力解像度を画面サイズに関係なく300ppiに保つ必要があると考えていることが見て取れます。

最薄を謳う筐体だが…

Kindle Oasisの側面確かに右のグリップ部を除くと大変薄くなっている

Kindle Oasisの側面
確かに右のグリップ部を除くと大変薄くなっている

さて、今回のKindle Oasisでは最薄部での筐体厚さが3.4mmと極限まで薄く設計されていて重量も大幅に軽減された結果、「最も薄く最も軽い」Kindleであるとされています。

しかし、これには罠があります。

実はこの機種、筐体の一端が盛り上がって最大で5.1mm分厚くなっているのです。

Amazonが主張するところによればこれは「人間工学に基づいたハンドグリップ」とのことですが、筆者の見るところではこの盛り上がりはどう見ても薄型筐体化で収まらなくなったバッテリーやスイッチなどを押し込むためのスペースです。

まぁ、シャツの胸ポケットに入れて携行する可能性の高いスマートフォンであれば、このようなデザインは正直受け入れがたいのですが、そうではない電子書籍ビューワーであればこれはこれで有りでしょう。

ただ、筆者の個人的感想としてはこの種の縦と横でグリップバランスが変わる、また重心位置も大きく変わるタイプの筐体デザインはあまり感心できません。

ちなみに、この段差のある筐体厚はバッテリー内蔵カバーを組み合わせた際に概ね均等になる様に設計されています。このことから推測する限り、メーカー自体もこうした設計の持つ問題を認識している/基本的にはバッテリー内蔵カバーを付けて使用することを想定していると考えて良いようです。

未だに4GBのままのストレージ容量

次はこのKindle Oasisの内蔵するストレージ容量の問題です。

先にも触れましたが、この機種では仕様上4 GBの内蔵フラッシュメモリをストレージとして搭載しています。

これにより、最大数千冊(書籍の場合)のコンテンツを本体内に保存可能となっているとされているのですが、これは(書籍の場合)という但し書きがあることでも明らかなとおり、テキストコードで本文が構成された、基本的に「文字だけ」の書籍を想定した冊数です。

確かに、「青空文庫」などで無償公開されている作品のファイルをみると、夏目漱石の「三四郎」のxhtmlファイルで449 KB、「こころ」だと604 KBといったファイルサイズになっていますから、OSなどのシステム領域が約1 GB程度のストレージ容量を占有しコンテンツに割り当てられるのが3 GBと仮定しても、このクラスの「書籍」ならば余裕をもって数千冊レベルの冊数を本体に保存可能という計算になります。

しかし、ここにコミックを保存することを想定すると話が全く違ってきます。

一般的な電子書籍として流通しているコミックの単行本で1冊当たりおおむね40 MB前後、いわゆる「自炊」、つまり自分で紙の書籍を裁断し1ページずつスキャナでスキャンして取り込んだ場合、品質を重視すると1冊あたり100 MBを超えるサイズとなることも珍しくありません(※注3)。

 ※注3:いわゆる「自炊」の場合、書籍の組版の状態を正確に解析・取り込めるOCRソフトウェアは未だ存在しませんから、文字のみの書籍であってもテキストでは無く画像としてスキャンしてしまうケースが少なくありません。そしてその場合、ルビなどの文字潰れを勘案すると、どうしても高品質・高解像度での保存とせざるを得ないのです。

そのため、他の電子書籍リーダーで一般的なコミックのファイルサイズとして想定されることの多い、1冊あたり40 MBで換算すると、仮に3 GBのストレージ容量でもわずか77冊弱程度しか保存できないことになってしまいます。

Amazon自身は、Amazonで購入したコンテンツについては提供しているクラウドに無料・容量無制限に保存可能なのだから、そこから必要に応じてコンテンツをダウンロードすれば問題ないだろう、と言わんばかりの書き方をしているのですが、問題はそのダウンロード手段です。

通常モデルだとIEEE 802.11 b/g/nによるWi-Fi、3Gモデルだとこれに加えてAmazonが日本国内限定で提供している独自の3G回線経由でダウンロードを行えるのですが、後者では大容量のコミックのダウンロードができないのです。

つまり、コミックの電子書籍が主体のユーザーの場合、Amazonで購入したものでもWi-Fiが利用可能な環境へ行かねばコンテンツの入れ替えはできないため、3Gモデルはほとんど無意味無価値となってしまいます。

しかも、Wi-Fiでも高速な5GHz帯での接続はサポートされていませんから、一度に10冊単位でコンテンツの入れ替えを行う様な場合には結構な時間がかかります。

活字の小説で数十冊を読破しようと思うとそれ相応に時間を要するため、数千冊規模の蔵書を電子書籍リーダーに保存できればそれこそ数週間~数ヶ月レベルでコンテンツ入れ替えの必要が生じないと思いますが、大容量かつ1冊の読破にかかる時間もそれほど大きくないコミックの場合は、結果として全部で4 GBしかないストレージ容量では活字の書籍では考えられないほど高頻度でのコンテンツ入れ替え作業が必要となります。

筆者が以前ストレージ容量16 GBのAndroidスマートフォンで電子書籍を使用していた時、あっという間にストレージが満杯になって毎日の様にコンテンツの入れ替え作業を行うことを強いられていたのですが、その1/4のストレージ容量で同じことをするとなると、それはもう悪夢でしかありません。

にもかかわらず、AmazonはローエンドからハイエンドまでKindleの現行モデル全てをストレージ容量4 GBで統一しています。

これは何故なのでしょうか?

そもそも外でコミックを読む習慣のない日本国外

これは恐らく、日本の出版・書籍事情が他の諸外国と比較してかなり特殊な状況となっていたことに一因があると考えられます。

最近ではそれでも少しずつ状況が変わってきているのですが、そもそも電子書籍がなかった1960年代~1970年代当時、いやそれどころかそれ以降でさえ、長らく日本人が電車の車内で、それも大人がマンガ週刊誌を読む姿は諸外国の報道陣などから奇異の目で見られてきました。

なぜなら海外では基本的にコミックは子供の読むもので、そうでなくともフランスのバンドデシネをはじめ各家庭などで「鑑賞」するのが大人の読むコミックだったからです。

そうした状況と比較すると、今も毎週のように大人も対象とする多数の週刊・月刊コミック誌が発行され、それらが通勤電車の車内などで「消費」され続ける日本の出版事情は特異な状況にあると言えます。

繰り返しになりますが、大人がコミックを多数購読することも、そうして彼らが購入したコミックを通勤電車の車内など外出時に読むことも、日本以外の海外各国では未だ決して当たり前のことではないのです。

このままではいつまで経ってもニッチのままだ

恐らく、Amazonの技術陣はそうした日本市場の特異性を全く理解していないか、理解していても世界的なニーズとのアンマッチングから意図的にそれを無視してKindleのワールドワイドモデルを日本市場で販売し続けていると推定できます。

正直、ストレージに使用するFlashメモリを増量するのは技術的にはそれほど困難なことではなく、今ならそれこそ1チップで16 GB以上の大容量を実現するのも(多少のコストの増加を除けば)何ら難しいことではありません。

まぁ、4 GBまでならばファイル管理が32ビットのアドレス内に収まるため、OSやアプリの改修の手間を嫌って4 GBで済ませている可能性もありますが、そうした事情を勘案しても、コミックの利用が多い日本市場で実際に利用できるストレージ容量が3 GB程度しかない電子書籍リーダーというのはほとんど悪い冗談のようなものです。

もっとも、海外由来の端末を販売している「Kobo」など他社の製品でもストレージ容量がほぼ一律に4 GBとなっていることから判断する限り、活字主体のコンテンツばかりの海外市場ならば、確かにそれで充分なのでしょう。

しかし、そうした海外の事情を日本市場に不適合のまま製品として持ち込んだ/押しつけたことは、恐らく日本国内市場での電子書籍リーダーそのものの普及にブレーキをかけている側面があると筆者は考えます。

実際、筆者の周囲を見渡しても、電子書籍は購入・利用していても電子書籍リーダーは購入せず、それらの電子書籍をサポートするリーダーアプリの提供されているスマートフォンやタブレット、あるいはPCで閲覧するユーザーばかりで、彼らに尋ねてみても「ストレージ容量が全く足りないしカラーも表示できないから興味が無い」と電子書籍リーダーの購入可能性をばっさり切り捨てています。

加えて言えば、今以上に多くの端末を携行したくない、というのも理由の1つとして挙げられるようで、大画面のスマートフォンが普及した昨今の日本市場における今の電子書籍リーダーの爆発的な普及実現は、こうした問題にきちんと対処しローカライズしたモデルを提供しない限り、恐らく100年経っても無理であろうことが推定できます。

正直、日本のAmazonが米国本社に対して一体どのようなフィードバックや働きかけを行っているのか、筆者は知りうる立場にありませんが、少なくとも現在のKindleは、そのあまりに実用を無視した3G通信サービスの提供を含め、コミック主体の日本の電子書籍市場には全くと言って良いほど適合していません。いや、それどころかここまで漫然とストレージ容量4 GBの機種をリリースし続けていることから判断すれば、Amazon日本法人でKindleを含む電子書籍事業を統括する部署、あるいはその立場にある人物が本当にこうした状況を把握しているのかどうかすら疑わしいと言わざるを得ません。

あるいは、AmazonはKindle各製品のレビューを判断材料としているのかも知れませんが、高評価のものでも「テキストならば」といった但し書きの文言が散見されることは無視すべきでは無いでしょう。

そして、そうした高評価の背景に、縦書き表示やルビなどを含む日本の出版物独特の組版にきちんと対応してきたこと、つまりソフトウェア面での地道なローカライズ対応があったこともまた、忘れるべきではありません。

もしAmazonがKindleが今以上に日本市場で普及することを本気で望むのならば、日本市場でのニーズに対応しストレージ容量を最低でも今の4倍程度に増量すべきです。

それができないのならば恐らくKindleは、そしてそれ以外の電子書籍リーダー各製品は、いつまで経っても市場における「ニッチ」以上の立場とはなれず、iPadなどのより高機能・高性能そして高画質なタブレットに市場を奪われ続けることになるのではないでしょうか。

厳しい言い方をすれば、このKindle Oasisの価格でこのストレージ容量であれば、中古のiPadの適当な機種を探してきて購入した方がよほど快適な読書環境を構築できる気がします。

もちろん、KindleにはKindleで、パソコンなどを持っていなくともスタンドアローンで購入書籍の管理やダウンロードなどを簡単に行える、という専用機ならではの強みもあるのですが。

ただ、今回みてきたKindle Oasisそのもののハードウェアはストレージ容量以外、特に問題となる様な要素は無かったため、Amazonには今後発売されるKindle各機種でのストレージ容量の増量を特に強く要望しておきたいと思います。

▼参考リンク
Kindle Oasis – 最薄・最軽量。革新的なデザイン
Amazon.co.jpについて Kindle Oasis 新登場 — Kindle 史上最も薄く最も軽い

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