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ロボットの定義と日本に不足する上流設計を考える『ロボットのディペンダビリティ』

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by [2016年4月27日]

 人間とAIが対局するテーブルゲームや、自動運転の進歩が目覚ましい自動車、実証実験が始まり法整備も進むドローンなど、最近はロボットの話題に事欠きません。ロボットとの共生が当たり前になってくるこれからの時代に向けて、改めて「ロボットとは何なのか」について考えてみませんか?
 ここでは、2016年4月13日に科学技術館で行われた『第55回 電気科学技術講演会』の中から産総研の大場氏による講演「ロボットのディペンダビリティ」をお届けします。

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大場光太郎氏 工学博士 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研) ロボットイノベーション研究センター副研究センター長

ロボットとは?

 大学の講義で「ロボットとは何か?」という話になるのですが、実はこれには答えが無くて、国内外のロボット学会でも明確な定義はされていません。学生さんの場合は「機械とメカとエレクトロニクスの融合体」という定義をされることが多いのですが「君たちはまだまだターミネーター1の世界だね。ターミネーター2を見てみなさい。ロボットが液化するんだよ」という話をして、なるべく頭をフレキシブルに、もっと自由に発想するよう叱咤激励しています。
 さて、ディペンダビリティとは、なかなかなじみのない言葉ですが、これはAvailability、Reliability、Maintainability、Durability、Safety、Securityという概念を総称した言葉です。ロボットの場合は、セキュリティという概念まで、まだたどり着いていませんので、今日はセーフティのところをメインでお話させていただきます。
 安倍首相からは、ロボットで労働人口を補うことを期待されています。今後、日本の労働人口は減り、高齢者人口は増え、2025年にはトータルで1400万人の労働人口が不足します。ただし、ロボットだけでまかなうのはまだ難しいかもしれません。

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 産総研では、2020年の東京オリンピックまでに産業化が期待されているロボットとして次の5つを挙げています。

  1. 産業用
  2. 移動系
  3. 社会インフラ系
  4. 装着型
  5. 搭乗型

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 この中から主に高齢社会への対応ということで、装着型のロボットをピックアップしてご紹介します。
 まずはサイバーダイン株式会社のHAL(Hybrid Assistive Limb)というロボットです。HALは、装着した人の生体電位信号から微弱なデータを取って、それがモーターとシンクロすることでパワーをアシストします。これによってリハビリテーションの効果が上昇すると言われています。
 安全性については、人体に装着して使うものでパワーがある程度ありますので、HALが本当に安全なのかという評価を、つくばにある生活支援ロボット安全検証センターで評価をした上で、JQA(一般財団法人日本品質保証機構)の認証を取得しました。

 HONDAの装着型『Honda歩行アシスト』も装着型のロボットなのですが、歩ける方、特に高齢者で段々歩くことが苦になってきた方へのアシストをするタイプです。足の振り出しと蹴り上げの動作を誘導するだけですので、先ほどのHALに比べると圧倒的にパワーは少なくてすみます。
 こちらも装着型なので安全性が求められます。Honda歩行アシストは、私どもの提案から生まれたISO 13482という規格をベースにして、安全検証センターで評価していくことになります。
 試験の内容は、装着した状態で横に倒れたときにどのくらいのダメージを受けるか、EMC試験(外部の電磁波に対する耐性試験)、耐久性試験などです。いろいろな試験を複合的に行なうことでロボットの安全性を評価します。

 Panasonicの離床アシストベッド『リショーネ』は、別名ロボティックベッドとも呼ばれていますが、ベッドの一部が分離して車椅子になります。これによって、患者本人が自分の意思で自由に動けるようになります。また寝たきりの方を車椅子に乗せる移乗(抱えて車椅子に乗せかえる動作)は、介護者の腰痛を引き起こしますが、これを防ぐこともできるのです。

 よく、四輪歩行器を使っている高齢者を見かけますが、これに荷物を積んでいると、上り坂ですと重くなりますし、下り坂ですと勝手に進んでしまったりします。RT.ワークス株式会社のロボットアシストウォーカー『RT.1』はモーターがついていますので、上りになるとアシストしてくれますし、下りになるとブレーキをかけてくれます。さらにGPSが仕込まれていますので、例えば認知症の患者さんがどこへ行ってしまったか分かるようになっています。

RT.1

ロボットアシストウォーカー『RT.1』

RT.2

2016年4月18日に発表された最新モデル『RT.2』

 他にも、マッスル株式会社や富士機械製造株式会社などのいろいろな製品の安全性を安全検証センターで評価しています。
 ただし課題もあります。ロボット産業が伸びると言われていますが、現状は事業化がなかなかうまくいっていません。その理由の1つが上流設計です。ロボットというと、どうしてもメカ部分がもてはやされるのですが、システムインテグレーターも大事なのです。

ユーザーはロボットがほしいわけではない

 ロボットがほしくてロボットを買う人はいません。ユーザーはサービスがほしいのです。
必要なサービスをユーザーから聞き出して、ロボットメーカーとサービス事業者がバランスよくデザインしないと、ビジネスは立ち上がりません。
 ここで2つの問題があります。1つはこの中心になるコンサルタントの人材が日本は決定的に不足していることです。両者の話を俯瞰的に聞くため、経営的なセンスとものづくりのセンスの両方が必要になります。もう1つはニーズ(需要)とシーズ(製品やサービスの元となる技術や材料)のマッチングです。
 ユーザーは決してニーズを言わずに、デマンドしか言いません。そのデマンドをうまくニーズに昇華させる人が求められています。例えば、介護施設で「どんなロボットがほしいですか?」と聞いても答えは得られません。ですが、入所者は、なんとなく困っていることは言ってくれます。そのときに、ロボットのテクノロジーに精通している人の着眼点が活きるのです。
 ものを設計して評価する際に、よく使われるのがV字モデルです。私どもはその上に、サービスシステムエリアと社会システムエリアをつけた形で新たなV字モデルを考えています。ものづくりから始めて世の中に入れようとするのではなく、ものが入ったときの社会システムレイヤーをデザインしてから、サービスをデザインして、ものを作らないといけないということです。

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 石川県にある旅館『加賀屋』の事例をご紹介します。実は加賀屋の女将さんは、首相官邸で開かれた政策会議『ロボット革命実現会議』に招かれています。なぜかというと、加賀屋のバックヤードではロボットが走っているのです。
 加賀屋のロボットシステムが成功した理由は、女将さんが旅館の中で、ロボットを導入して良い場所と悪い場所を顧客サービスの観点から非常に明確に分かっていたということです。女将さんは上流設計として、厨房は板前さんが料理を作る場所ですし、お客さんはちゃぶ台を持って歩いている仲居さんの姿を見たくないだろうと考え、厨房から客室までの間を100%自動化しました。これによって、仲居さんが客室に張り付くことができ、サービスのクオリティが上がり、リピーターが圧倒的に増えたのです。

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 最後は「人の死に方」についてです。これを国別に見ますと、日本は「ズルズルベッタリ型」、北欧は「ピンピンコロリ型」と言えます。
 日本では、要支援度2の方が介護施設に入ると、3ヶ月ほどで座りきりまたは寝たきりになる可能性が高いです。なぜなら施設側が、今まで何とか歩いていた高齢者をなるべく歩かせないような介護をするからです。さらに施設には入所者の要介護度に応じて補助金も交付されます。
 一方、北欧では、生きているうちはピンピンしていてくださいというスパルタ的な政策がうまくいっています。
 どちらが良いとか悪いということではありませんが、これを前述のロボットに当てはめると、サイバーダインのHALは落ちていったものをどうやって戻すかという日本型、Honda歩行アシストは歩いている方をいかに長く歩き続けさせるかという北欧型のコンセプトと言えるでしょう。

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 以上を踏まえて「ロボットとは何か?」を考えて頂くと良いかと思います。ただ、それを突き詰めていくと「人間とは何か?」ということを考えざるを得なくなってくるのではないでしょうか?

▼参考リンク
産総研 – ロボットイノベーション研究センター
世界初のサイボーグ型ロボット「HAL®」 – CYBERDYNE
Honda|Honda Robotics|歩行アシスト
離床アシストベッド「リショーネ」
ロボットアシストウォーカー RT.1
和倉温泉 加賀屋
第55回 電気科学技術講演会のお知らせ

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