現行Mac Pro内部左右に分かれている基板がGPUモジュールで、内側にGPUチップやメモリが実装されているため、本体に組み付けるとこのような外観となる。当然ながらこれはMac Pro専用設計のため、交換用GPUモジュールを用意するには、この形状の基板を新規設計する必要がある

Oculus社創業者(現時点での)RiftのMac非対応を公言~各機種をVRの観点でチェックしてみる~後編

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by [2016年3月30日]

前編は製品版Oculus Riftが現時点でAppleのMacに対応しないとするOculus創業者であるPalmer Luckey氏の発言から、なぜMacが対応しないのか、ノート機と一般向けデスクトップ機についてみてきました。

今回は、唯一対応の可能性のあるMac Proについて考えてみたいと思います。

対応しそうでしないMac Pro

Apple Mac Proあまりに特徴的かつ他にないデザインのために形状が似ていることで「ゴミ箱」などと呼ばれる現行モデル。このような特殊な形状の筐体であるため、それそのものの内部拡張性はほとんど皆無に近い

Apple Mac Pro
あまりに特徴的かつ他にないデザインのために形状が似ていることで「ゴミ箱」などと呼ばれる現行モデル。このような特殊な形状の筐体であるため、それそのものの内部拡張性はほとんど皆無に近い

ノート機やこれらの2シリーズについてはまぁ、最初から結論が見えていた感じではあるのですが、厄介なのはクリエイター向けのハイエンド機種という位置づけのMac Proです。

わざわざ「クリエイター向け」と謳い、製品紹介ページでも「果てしない想像力のために」などというコピーを用いているのは、Apple自身が「クリエイター向け」と称して提供しているアプリ等の大半が動画編集などの2D映像処理やDTMなどの音響処理を中心にしていることも併せて判断する限り、3Dグラフィックを多用するゲーマー向けではない/少なくともApple自身はこの機種をゲーマーの利用に適するようにはハードウェアを構成していないということのエクスキューズであると考えられます(※注7)。

 ※注7:一方Windows対応パソコンでは「クリエイター向け」と称する、どちらかといえばワークステーション的な性質・性能を備えた機種でも往々にして3Dゲームが快適に、それどころか上位モデルだと下手なゲーミングパソコンよりもずっと軽快に動作したりします。そもそも、Windows対応パソコンの最新技術は、むしろそうした「クリエイター向け」のハイエンドワークステーションでまず試され、然るべき後に一般向けパソコンに適用される様な状況にあります。このあたりはAppleとWindows陣営の各社との考え方の相違が明瞭に出ている部分であると言えます。

まぁ、Apple自身は「Metal」というAMD提唱の「Mantle」と呼ばれる新しい構想に基づく3DグラフィックAPIの影響を多分に受けた3DグラフィックAPIを現行のOS XやiOSに実装するようになっていて、そうしたゲーミング対応について全く興味も関心も無いわけではないようではあるのですが、そうした用途でのMac利用の優先度が低く想定されていることはここまで記した一般向けマシンでGPU強化が重視されていないことでも明らかでしょう。

そのことを最も端的に物語るのが、現行Mac Proで搭載されているGPUです。

現行Mac Pro内部左右に分かれている2枚の基板がGPUモジュールで、内側にGPUチップやメモリが実装されているため、本体に組み付けるとこのような外観となる。当然ながらこれはMac Pro専用設計のため、交換用GPUモジュールを用意するには、この形状の基板を新規設計する必要がある

現行Mac Pro内部
左右に分かれている2枚の基板がGPUモジュールで、内側にGPUチップやメモリが実装されているため、本体に組み付けるとこのような外観となる。当然ながらこれはMac Pro専用設計のため、交換用GPUモジュールを用意するにはこの形状の基板を新規設計する必要がある

現行のMac Proでは、AMDのFirePro D300やD500、あるいはD700というGPGPUやOpen GLでの利用に特化した、つまりいわゆるHPC(High Performance Computing:高性能計算)分野やCAD、あるいはCG映像処理などに特化したチューンのGPUを、それもデュアルGPU構成で搭載するのが標準となっています。

これらGPU 3機種は実はApple以外での採用実績の無い型番なのですが、製品紹介ページで公開されている各モデルのGPUの仕様を確認すると、世代的にはAMDのコードネームでいう「Pitcairn」(ピトケアン)系および「Tahiti」(タヒチ)系(※注8)、つまりRADEON HD 7800番台および7900番台のGPUの派生モデルにあたると推定できます。

 ※注8:AMDではここ数年、具体的には2010年後半発表のRADEON HD 6000シリーズの上位機種(「Northern Islands」シリーズと総称)以降、GPUの開発コードネームに主に南太平洋の島々の名を付けるのが慣例となっています。

具体的には、FirePro D300はストリームプロセッサ数1,280、メモリバス幅256ビット、メモリ帯域幅160GB/s、実装メモリ容量2GBと公表されていることからRADEON HD7870(≒RADEON R9 270X)相当のGPUコアでメモリクロックをそれよりも若干高速化したモデル、D500はストリームプロセッサ数1,526、メモリバス幅384ビット、メモリ帯域幅240GB/s、実装メモリ容量3GBとあるためRADEON HD 7950(≒RADEON R9 280)から更に一段シェーダ数(ストリームプロセッサ数)を削ったモデル、そしてD700はストリームプロセッサ数2048、メモリバス幅384ビット、メモリ帯域幅264GB/s、実装メモリ容量6GBとあるためRADEON HD 7970(≒RADEON R9 280X)よりも若干メモリクロックを落として実装メモリ量を倍増したモデル、ということになります。

つまり、Mac Pro本体にそれぞれ内蔵されている2枚の専用GPUカードモジュールに搭載されているGPUは全ての機種が単体でOculus Riftの推奨要件(※RADEON R9 290あるいはGeForce GTX 970以上)に届かない程度の性能のモデルなのです。

しかも、MacではWindows向けRADEONシリーズで利用可能なCrossFire技術、つまり2つのGPUに1つの画面を分担して演算処理させることで3D描画を高速化する技術がサポートされていませんから、GPUが2基搭載されていてもそれらを束ねて1基扱いで利用できません。そのためいささか厳しい言い方をすると、Oculus RiftのようなVRデバイス(およびそのソフトウェア環境)から見るとただ「条件を満たさない上に必要な描画APIに最適化されていない低速なGPUが2基積まれている」だけ、という扱いになってしまいます。

Sapphire R9 290 4G GDDR5 PCI-E DUAL DVI-D / HDMI / DPAMDのRADEONシリーズを多数販売してきたSapphire社の販売したRADEON R9 290搭載GPUカード。派手なステッカーが貼られているが、搭載されるGPUクーラーそのものはAMDのリファレンス設計そのままである。ちなみにこのRADEON R9 290はライバルであるNvidiaのGeForce GTX 970と比較してGPGPUに振ったチューンで設計されたが故に大変消費電力の大きな機種で発熱も当然に過大という難点があって、途中からは冷却性能を大幅強化した各社独自開発のクーラー搭載に切り替わった

Sapphire R9 290 4G GDDR5 PCI-E DUAL DVI-D / HDMI / DP
AMDのRADEONシリーズを多数販売してきたSapphire社の販売したRADEON R9 290搭載GPUカード。派手なステッカーが貼られているが、搭載されるGPUクーラーそのものはAMDのリファレンス設計そのままである。ちなみにこのRADEON R9 290はライバルであるNvidiaのGeForce GTX 970と比較してGPGPUに振ったチューンで設計されたが故に大変消費電力の大きな機種で発熱も当然に過大という難点があって、途中からは冷却性能を大幅強化した各社独自開発のクーラー搭載に切り替わった

ちなみに、先ほどのD300~D700と同じ記法でRADEON R9 290のスペックを示すと、ストリームプロセッサ数2,560、メモリバス幅512ビット、メモリ帯域幅320GB/s、実装メモリ容量4GBとなって、ストリームプロセッサ数もメモリ周りの性能も前世代のシングルGPUチップ搭載RADEONでは最上位のRADEON HD 7970比で大幅に向上していることが判ります。

実はこのRADEON R9 290、フルHD解像度以下の比較的低解像度の画面で利用する分には競合機種であるNVIDIAのGeForce GTX 970と比較して不利な局面が多々あるのですが、4K解像度などの高解像度環境、つまりメモリに高負荷のかかる条件になると競合各機種よりも大きなメモリバス幅およびメモリ帯域幅のおかげで性能が逆転するという特性を備えています。

もっとも、そうした高性能の反面、この機種は前世代のRADEON HD 7970やRADEON HD 7950と比較して格段に消費電力が大きく発熱もまた大きくなり、AMDがこの機種および上位モデルであるRADEON R9 290Xの公称典型消費電力を非公開としてしまった、という逸話もあります。

これは半導体の製造プロセス縮小がなかなか思うように進まず、古い大きなピッチの製造プロセスのままで、本来はより小さな製造プロセスでの生産を想定して構想されていた高性能GPUを作らざるを得なくなったことが主因なのですが、さすがにGPUカード1枚で300Wに迫るレベルの大消費電力というのはやり過ぎで、Appleがエアフローや冷却対策を特に重視する現行筐体のMac Proで消費電力も発熱量も過大なこのシリーズのGPU搭載を見合わせたのも無理ないことと言えます。

さて、Oculus Rift製品版の画面は解像度が1,080×1,200ピクセルでリフレッシュレートが90Hzの有機ELディスプレイを2枚組み合わせた構成で、つまり実態としてはGPUが2,160×1,200相当のやや変則的な解像度の画面に対して描画を行うことになります。

この画面解像度では、画素数比およびリフレッシュレートによる単純計算でもフルHD解像度で一般的なリフレッシュレート60Hzでの表示と比較すると、その3倍近い描画性能をGPUに要求します。

先にも触れたようにMac Proの場合はAMDのCrossFireを含め複数GPUを束ねて高速動作させるような技術はサポートされていないので今更の話ではある(※注9)のですが、いずれにせよ現行のMac ProはCPU周りの性能は申し分ないものの、搭載される専用設計のGPUモジュールの選択肢が自社製のFirePro D300・D500・D700の3種しかなく、それらの性能が不足しているが故にOculus Riftの推奨条件を満たせないということになります。

 ※注9:Apple自身が恐らく片方のGPUをGPGPU用途で専用し、CPU性能を補うコプロセッサとして運用することや、多数の4K解像度ディスプレイを接続してのビデオ編集・エフェクト処理を快適に行うことを目的としてFirePro系GPUのデュアル構成としたことは製品紹介ページでの記述からも明らかで、GPU2基を束ねて1基のより高速なGPUとして扱うことは最初から考慮の外にあったと考えられます。

現行機種でも対応の可能性が皆無というわけではない

もっとも、これは言い替えればAppleがAMDNのRADEON R9 290以上(相当)、あるいはNvidiaのGeForce GTX 970以上(相当)のGPUを搭載したMac Pro専用GPUモジュールを提供してくれさえすれば、少なくとも現行のMac ProについてはOculus Rift対応とできる可能性がある、ということです。

Palmer Luckey氏の今回の発言は、恐らくそうした最新世代の高性能GPUをMac Proをはじめとする各機種に搭載するよう、あるいは搭載可能とするようAppleに促す目的が強いように筆者には思えます。

過去のMac Proはと言うと…

Apple Mac Pro(Early 2009)筆者所有のMac Pro。現行の円筒形モデルになる前は、このように拡張性の(それなりに)高いアルミ製のタワー型筐体が採用されていた

Apple Mac Pro(Early 2009)
筆者所有のMac Pro。現行の円筒形モデルになる前は、このように拡張性の(それなりに)高いアルミ製のタワー型筐体が採用されていた

ちなみに、現行の独特な円筒形筐体になる前の世代のMac Proでは汎用のPCI Expressスロット(およびGPUへの電源供給用6ピンPCI Express電源コネクタ)が搭載されていて、一定の制限があったもののWindows対応製品でも利用可能(※注10)でした。

 ※注10:起動時の初期化画面が表示されない、特定の出力ポートしか利用できない場合がある、など幾つか制約条件がありましたが、OS X起動後であれば充分このタイプのMac Proで利用可能なWindowsパソコン用GPUカードがそれなりに多く存在しています。ちなみに筆者はこの世代に含まれるMac Pro(Early 2009モデル)を所有・使用しているのですが、手持ちのWindows用RADEON HD 5870(※特殊な構成のEyefinity 6 Editionを含む)やRADEON HD 7950を挿してもあっさり動作して驚いたことがあります。

しかし、これらの機種では最後のモデルでもCPUがLGA 1366搭載であったためPCI Expressは2.0世代止まりで、またPCI Express電源コネクタも6ピン×2しか用意されていなかったためにサードパーティ製を含めてもこれらの機種を対象として公式サポートを謳ったGPU製品はGeForce GTX 680やRADEON HD 7950が最新という状況です。

Mac Pro(Early 2009)の内部ご覧の通り、下段に巨大なアルミ製ヒートシンクの装着されたCPUやメインメモリのDIMMが搭載されたCPUボードが挿し込まれ、上段には光学ドライブや電源類が搭載され、その間の中央部にフルサイズのPCI Express対応カードが搭載可能なPCI Express拡張スロットが4本用意されている。なお、その最下段に赤と黒のGPUカードが挿してあるが、これはWindows PC用のRADEON HD 5870 Eyefinity 6 Editionであったりする

Mac Pro(Early 2009)の内部
ご覧の通り、下段に巨大なアルミ製ヒートシンクの装着されたCPUやメインメモリのDIMMが搭載されたCPUボードが挿し込まれ、上段には光学ドライブや電源類が搭載され、その間の中央部にフルサイズのPCI Express対応カードが搭載可能なPCI Express拡張スロットが4本用意されている。なお、その最下段に赤と黒のGPUカードが挿してあるが、これはWindows PC用のRADEON HD 5870 Eyefinity 6 Editionであったりする

一部でWindows対応のGeForce GTX 970をこの世代のMac Proに搭載して動作させたという報告もある(※注11)のですが、報告されたベンチマークテスト結果を見るとやはりPCI Expressの世代が2.0と一世代古くデータ転送帯域幅が現行のPCI Express 3.0の半分しかないことが足を引っ張るような結果になっていて、こちらもOculus Riftの推奨動作条件を(額面上はともかく)満たせていない(※注12)ことが見て取れます。

 ※注11:公式にはサポートされていない筈なのですが、現在Nvidiaが提供しているMac対応のQuadro&GeForce用デバイスドライバではGeForce GTX 970も動作するようになっています。
 ※注12:筆者がメインマシンとして現用中のヒューレット・パッカードZ800はこれらのPCI Expressスロット搭載世代後期のMacProとほぼ同じCPU・チップセット構成となっているのですが、このZ800にRADEON R9 290を搭載して推奨動作条件を可能な限り充足してもOculusやSteamから配布されているVRデバイス動作環境確認用ベンチマークソフトでNGを喰らっています。このため、LGA1366搭載世代のMacProでは例えRADEON R9 NanoやGeForce GTX 970/980といった電源容量的に問題のない、Oculusの推奨条件に含まれるGPUを搭載して動作したとしても、それらのベンチマークソフトでダメ出しを喰らわないだけの十分なパフォーマンスが得られる可能性は非常に低いと推定できます。

今後のAppleの対応に期待?

つまり、現状では一番Oculus Rift対応の実現可能性があるMac Proでも、各世代ともことごとくあちらを立てればこちらが立たずという状況に陥っているということで、なるほど最下位構成のモデルでも約35万円と非常に高価なこのシリーズでさえこのような有様では、Oculusとしてもとても正式な対応を謳えないでしょう。

ちなみに、件の発言でPalmer Luckey氏は “If they prioritize higher-end GPUs like they used to for awhile back in the day I think we’d love to support Mac.”「もし彼ら(Apple)がしばらく前にそうであったようにハイエンドGPUを優先するようになる(≒推奨条件を満たすGPUを積んだMacをリリースする)なら、私たちは喜んでMacをサポートするつもりだよ」と明言しています。

この心情的にはAppleシンパ、でも現実的/物理的な理由でサポートができないというPalmer Luckey氏の発言に、Appleが果たしてどのような回答を(製品という形で)返してくるのかが注目されます。

▼参考リンク
Oculus’ Palmer Luckey will consider Mac support if Apple ‘ever releases a good computer’ | Shacknews
Mac Pro – Apple(日本)
Mac Pro – パフォーマンス – Apple(日本)

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