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「デュアルSIMスロット」ミステリー後編~何故LTE対応SIMが1枚しか利用できない?~

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by [2016年2月24日]

nanoSIM前編では、SIMカードの現状や仕組みについて見てきました。今回は、デュアルSIMスロット端末の種類について詳しく見ていきましょう。

3種類あるデュアルSIMスロット端末

さて、その名称からも明らかなように、デュアルSIMスロット端末はSIMスロットが2基搭載され、それぞれ1枚ずつSIMカードを挿入して利用できる様になっている端末のことを指します。

しかし、実のところこの名で呼ばれる端末は全て同じ仕組みで動作するわけではありません。

2枚のSIMカードに格納された固有IDをどのように利用するかで3種類に大別されるのです。

具体的に言うと、

 1:2つのSIMスロットを切り替えて利用し、常にデータ通信も通話待ち受けもどちらか一方のSIMカードを使用するDSSS(Dual SIM/Single Standby)タイプ
 2:2つのSIMスロットに同時に並列でアクセスでき、通話待ち受けは両方とも可能だが、データ通信はいずれか一方のSIMカードの固有IDを使用するDSDS(Dual SIM/Dual Standby)タイプ
 3:2つのSIMスロットに同時に並列でアクセスでき、通話待ち受けとデータ通信が両方とも2枚のSIMカードの固有IDで同時に利用できるDSDA(Dual SIM/Dual Active)タイプ

の3種類となります。

切り替えるだけのDSSSタイプ

1のDSSSタイプは要するに物理的なスロットは2基備わっているものの、通信・通話そのものは常時どちらか一方のSIMカードの固有IDを利用し続け、必要に応じてそれを切り替えて使用できる仕組みになっています。

つまり、切り替えスイッチに相当するロジックでどちらのSIMカードの情報を読み出すかを適宜決めているだけの話で、基地局と位置情報確認のための通信を行い続ける固有IDは常に1つなのですから、消費電力的にも通信時の挙動の面でも、シングルSIM端末と何ら違わないということなのです。

ただ、違いがあるとすればそれぞれの固有IDに紐付けられた情報も切り替える必要があることで、そのためこのタイプの端末では一般に、SIMスロットの切り替え後にシステムを再起動し電話帳などの情報を対応するものに入れ替える作業が必要となります。

NECプラットフォームズ MR04LNSIMロックフリーかつデュアルSIM対応のモバイルルーターの例

NECプラットフォームズ MR04LN
SIMロックフリーかつデュアルSIM対応のモバイルルーターの例

なお、最近のモバイルルーターでもデュアルSIMスロット搭載の機種が増えているのですが、こちらはそもそも通話がない上に、データ通信で2系統を同時に使用してインターネット接続するという利用形態が普通はあり得ないためか、2スロットに挿したSIMカードの固有IDを切り替えて使用するこのDSSSタイプばかりとなっています。

制約の多いDSDSタイプ

サードウェーブデジノス Diginnos Mobile DG-W10M3G/2G(GSM)のSIMカードの組み合わせでしかデュアルSIMの恩恵を享受できないDSDSタイプ端末の例。仕様でも「日本国内ではSIM1スロットのみの使用」と明記してあり、日本ではシングルSIMスロット搭載機相当としてしか機能しない

サードウェーブデジノス Diginnos Mobile DG-W10M
3G/2G(GSM)のSIMカードの組み合わせでしかデュアルSIMの恩恵を享受できないDSDSタイプ端末の例。仕様でも「日本国内ではSIM1スロットのみの使用」と明記してあり、日本ではシングルSIMスロット搭載機相当としてしか機能しない

一方、2のケースは少々面倒な問題があります。

2のDSDSタイプの場合は一般に2つのSIMカードの内、一方の待ち受けが3G回線ではなく2GのGSM(Global System for Mobile communications)回線、つまり現在の日本ではサービスが行われておらず全く使い道のないタイプになっていることがほとんど(※注4)なのです。

 ※注4:2G/3G併用でのDSDSタイプ端末の一部で2系統の3G回線での待ち受けが可能と報告された機種がありましたが、それらではいわゆるroot化の上で色々ソフトウェアを改変せねばならなかったり、またW-CDMAとCDMA2000系のキャリアのSIMカードの組み合わせ、つまり日本ではW-CDMAを採用するNTTドコモ・ソフトバンクモバイル系のキャリアのSIMカードとCDMA2000系を採用するauのSIMカードの組み合わせでなければ2系統3G回線待ち受けができない、といった制約があり、内部ロジックの構成の都合でたまたまW-CDMAとCDMA2000系の通話機能を分離できた場合に限って可能であったようです。

これは端末に搭載されていて実際の通信を司るベースバンドプロセッサのチップに内蔵されている3G回線通信機能と、2G回線通信機能(※注4)を利用して2系統の通話待ち受けを可能としているだけで、これもまた本質的にはSIMスロットが1基しか搭載されていない端末と大差ない回路構成となっていることを示唆するものです。

 ※注5:後述するように3Gと2Gでは通信の多元接続を行うための仕組みが根本的に異なっており、一般に別回路とされています。

ただし、電話帳などの固有IDごとに用意される個別情報は同時に保持する必要があるため、この部分にかかわるソフトウェア的な挙動の変更は必要となります。

これはもともと、シングルSIMスロット端末で排他動作していた回路群を同時に利用するだけの話で、しかも構成が簡単で消費電力も小さくて済みますから、DSDSタイプにするための追加コストがそれほど大きくならずに済みます。

そのため、GSMが普及している各国では低コストで通話可能のGSMを通話に、高コストですが高速でデータ通信を行える3G/LTE回線をデータ通信に、といった形で併用できるこの種のDSDSタイプのデュアルSIMスロット端末には相応のメリットが存在することになり、実際にも海外ではある程度普及しています。

問題はそのGSMが世界的には広く普及している一方で日本や韓国などでは既に利用されておらず、これらの国々で使用する限りは1のDSSSタイプどころかシングルSIMスロット端末相当の動作となってしまうことです。

PDCによる第二世代携帯電話サービスの終了を告知するソフトバンクモバイルのプレスリリース日本国内ではNTTドコモ、auそしてソフトバンクモバイルの通信キャリア大手3社とその傘下の各社で行われていた2G携帯電話サービスは既に全て終了・停波している

PDCによる第二世代携帯電話サービスの終了を告知するソフトバンクモバイルのプレスリリース
日本国内ではNTTドコモ、auそしてソフトバンクモバイルの通信キャリア大手3社とその傘下の各社で行われていた2G携帯電話サービスは既に全て終了・停波している

日本でこのGSMによる2G方式の携帯電話サービスが存在しないのは、GSMを含む第二世代携帯電話サービスの時代に電波帯域使用効率がGSMよりも格段に高いPDC(Personal Digital Cellular)やCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)(※注6)が採用されていたためです。

 ※注6:PDCは日本で開発。日本の各キャリアで採用されましたが、現在はその割り当て周波数帯を他に転用する必要があったことなどから、全てのサービスが終了しています。CDMAはQualcommの開発したGSMやPDCよりもやや新しい方式で、こちらはau系各社が採用したものの、後継規格のCDMA2000へ移行したため、現在はPDCと同様に全てのサービスが終了しています。ちなみに、NTTドコモやソフトバンクモバイルの採用している3G方式であるW-CDMAもこのCDMAの改良版で、TDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)を基礎としているGSMやPDCとは通信の仕組みが根本的に異なっています。

まあ、仮にGSMを第二世代で採用していたとしても、PDCやCDMAが停波されてその割り当て周波数帯をより高速なサービスに再割り当てしている、いやそれどころか地上波アナログテレビ放送の廃止を強行し周波数帯に余裕を持たせねば満足にLTEサービスを展開できなかったほどに逼迫している日本の電波状況を考えれば、GSMも恐らくそれと同じ状況になっていたと考えられますが。

もちろん、日本でもGSMによる携帯電話サービスが行われている国に頻繁に海外出張を行うような人であれば、このタイプの端末には結構な使い道があるでしょう。

回路構成も消費電力も大きくなるDSDAタイプ

先にも少し触れましたが、携帯電話の通話の基本的な仕組みとして、かかってきた電話をどこにつなぐのか、という問題を解決するために、現在ある固有IDのSIMカードが挿された端末がどこにあるのかを常時把握しておく必要があります。

そのため、(電源の入っている)端末と最寄りの基地局の間では定期的に通信が行われ位置情報の常時把握を実現しているのですが、2系統の3G通話待ち受けおよび2系統のデータ通信を同時実現するには、2系統分の3G/LTE送受信回路群を1台の端末に内蔵する必要(※注7)があります。

 ※注7:2枚のSIMカードに保存されている固有IDがそれぞれ異なるキャリアとの契約であるケースを想定すると、1系統でひとまとめにして通信することはできません。

これは2のDSDSタイプで両方の待ち受けを3G回線対応にしたものでも同様で、こうした機能を備えたDSDSタイプの端末が事実上市場に存在しないのも、その仕様で製品化するのであればデータ通信も2系統対応としてDSDAタイプとして発売した方が良い、ということになってしまうためです。

さらに言えば、DSDAタイプでデータ通信で2系統双方でLTEをサポートせず、片方だけLTE対応になっている機種がもしあれば、搭載されているベースバンドプロセッサおよびその直下に接続されているRFトランシーバなどの通信回路が3G対応のみのものと3G/LTE両対応のものを混用している可能性が高いということになります。

Qualcomm Gobi 製品紹介ページ業界最大手のベースバンドプロセッサメーカーであるQualcommでは、この種のプロセッサに“Gobi”とブランド名を与えて製品化している。この種のプロセッサはこれ単独でもCortexーA5クラスのCPUを搭載しており、その動作とこれに接続されたRFトランシーバ経由での通信には相応の電力消費が発生する

Qualcomm Gobi 製品紹介ページ
業界最大手のベースバンドプロセッサメーカーであるQualcommでは、この種のプロセッサに“Gobi”とブランド名を与えて製品化している。この種のプロセッサはこれ単独でもCortexーA5クラスのCPUを搭載しており、その動作とこれに接続されたRFトランシーバ経由での通信には相応の電力消費が発生する

ベースバンドプロセッサやRFトランシーバはそれなりに値段が高く、しかも搭載端末でどのような通信規格をサポートできるのかを決定する、重要なパーツの1つです。

またこの部分は基地局との間で常時通信を行う必要から相応に電力を消費しますから、2系統とも3G以上対応のDSDSタイプやDSDAタイプのデュアルSIM端末は、同世代の半導体製造プロセスによるベースバンドプロセッサ+RFトランシーバ同士での比較であれば、同時に2カ所の基地局と個別に通信することになるため、ほぼ確実にシングルSIM端末やDSSS端末などよりも大きな消費電力となってしまいます。

つまり現在市販されている端末で、2系統とも3G以上対応のDSDSタイプやDSDAタイプのデュアルSIM端末がほとんど見当たらないのは、別にキャリアやメーカーの陰謀でも何でもなく、現在のベースバンドプロセッサの消費電力とバッテリー性能・容量の兼ね合いから、こうしたタイプにしてしまうと必然的に連続待ち受け時間が単純計算でシングルSIM端末の半分になってしまい、またその他の利用形態でも連続稼働時間が激減してしまうため(※注8)、実用性に難が生じる可能性が高いという問題があるが故のことと推測できます。

 ※注8:現在の携帯電話においてはこのベースバンドプロセッサおよび実際の送受信を司るRFトランシーバの消費電力低減が至上命題の1つとなっています。実際、この種のプロセッサのトップメーカーであるQualcommは最新の、つまり等価回路同士で比較した場合にその時点で同社が利用できる中で最も低消費電力チップを作れる半導体製造プロセスを、主力商品であるはずのSnapdragonシリーズ(統合プロセッサ)ではなくこのベースバンドプロセッサ周りに最優先で割り当てています。過去の例で言うと、0.5世代~1世代新しいQualcomm製RFトランシーバを搭載する以外はほとんどiPhone 5と同スペックの筈のiPhone 5cでは、それだけで連続稼働時間がiPhone 5比で25パーセント増しと劇的な性能向上を実現していました。つまり、CPUやGPUといった一般に「電力喰らい」であると理解される機能を内蔵する統合プロセッサの消費電力を低減するよりも、常時基地局と通信し続けるのに利用されるベースバンドプロセッサとRFトランシーバを中核とする回路群の消費電力を低減させた方が端末の実用的な動作時間延長にはよほど「効く」ということなのです。そんな単独でさえ(相対的に見れば)大電力を消費するチップを1台の端末で2セット分積んで常時動作させ続ければバッテリーの残量がどうなるかは言うまでも無いでしょう。

技術の進んだ現在でも実用上、ぎりぎりのバッテリーの持ちとなっている機種が少なくないことを考えれば、DSDAタイプのデュアルSIM端末だと下手をすると半日も経たずにバッテリーが切れてしまう、といった状況となる可能性があるのです。

今後、もしDSDAタイプのデュアルSIMスロット搭載のスマートフォンが広く普及するとすれば、それは恐らくベースバンドプロセッサによる待ち受けのための通信による電力消費が充分小さくなり、送受信回路を複数搭載することによる電力消費の増大を無視できるようになった時でしょう。

▼参考リンク
Gobi Modem Specs | Qualcomm
Windows 10 Mobile 搭載スマートフォン「Diginnos Mobile DG-W10M」12月11日(金)より予約販売開始|ドスパラ公式通販サイト
Aterm MR04LN | 製品一覧 | AtermStation

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