Samsung Z3現行最新のTizen搭載スマートフォン

「第三のOS」の現在 ~iOSとAndroidの壁を前にしての紆余曲折~ 後編

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by [2016年1月26日]

前回はiOSやAndroidに対抗すべきいわゆる「第三のOS」に共通する特徴について見てきました。

今回は「第三のOS」の代表例であるFirefox OS・Tizen・Ubuntu Touchの3つのOSそれぞれの推移について考えてみたいと思います。

第三のOSの栄枯盛衰

それでは、これら3種のOSが今どうなっているのかを順に見てみることにしましょう。

搭載端末の国内発売にこぎ着けたがそこで終わってしまったFirefox OS

au Fx0 LGL25スケルトン構造の筐体を採用する。日本国内向けに発売された史上唯一のFirefox OS搭載スマートフォン

au Fx0 LGL25
スケルトン構造の筐体を採用する。日本国内向けに発売された史上唯一のFirefox OS搭載スマートフォン

まずはFirefox OSから。

Firefox OSは恐らくこれら3つの「第三のOS」中では最も開発が先行しており、世界各国で確認される限り17機種の搭載スマートフォンが発売されました。

以前の記事でご紹介しましたが、日本国内でも2014年12月23日にauからFx0 LGL25(製造は韓国のLG電子)としてこのOSを搭載するスマートフォンが発売され、2014年中に搭載端末を発売するというauの公約が守られました。

このFx0は内部部品の見えるスケルトン構造を採用するなど話題性十分の筐体設計を与えられ「世界初のクアッドコアCPU搭載Firefox OS端末」と謳われたものの、ハードウェアスペックが低い割に価格がかなり高め(※注1)であったためかさっぱり売れなかったと伝わっています。

 ※注1:ハードウェアの搭載プロセッサやメモリ・ストレージ容量といった性能面から判断する限りはQualcomm Snapdragon 400搭載のいわゆる中華スマホの3万円より下のクラスの機種相当でしかないのに、また特に開発ツール類も全くバンドルされていないのに、49,680円と少なくとも1ランクは上のクラスの機種並のお値段になっていました。

2015年3月には当時のMozilla CTOであったアンドレアス・ガル氏によって日本のKDDI(au)、韓国のLG電子、スペインのTelefonica、そしてアメリカのVerizon Wirelessと共同で、Firefox OSベースの新カテゴリー携帯電話を開発が表明され、2015年5月には2014年からFirefox OSのスマートテレビ向けバージョン開発についてパートナーシップを締結し協力関係にあったパナソニックがFirefox OS搭載スマートテレビ「VIERAシリーズ」をヨーロッパと日本で発売するなど、このOSとその搭載製品の普及へ向けた動きが見られるようになっていました。

もっとも先に挙げたFx0の大不振が影響したのかどうか、この頃にはFirefox OS開発元であるMozillaで組織的に何らかの問題が生じていたようです。

これらのFirefox OS搭載「VIERA」シリーズ発表直後にあたる2015年6月にFirefox OSの産みの親の一人であったアンドレアス・ガル氏がCTOの職を辞してMozillaを去り、その他にもFirefox OS開発に携わった幹部たちが相次いでMozillaを退社したことが伝わって、このOSの先行きが急速に怪しくなってきました。

そして同年12月に入ってアメリカのTechCrunchがFirefox OS搭載端末の開発・販売終了を報じ、さらにMozillaのソフトウェアエンジニアがキャリア経由での搭載端末販売が終わることをコメントしてこれを事実上肯定しました。

一応、Firefox OSそのものの開発は今後も継続することと、スマートテレビ向けといった製品への搭載が終了するわけではないことは表明されていますが、少なくとも記事執筆時点ではスマートフォン用OSとしてのFirefox OSは事実上「完全に終わった」状態になっているということになります。

しぶとく生き残るTizen

Tizen公式サイトトップページ一時は更新すら停滞気味だったが、スマートウォッチやスマートフォンの搭載製品が発売されるようになったためか、再びまともに更新されるようになった。

Tizen公式サイトトップページ
一時は更新すら停滞気味だったが、スマートウォッチやスマートフォンの搭載製品が発売されるようになったためか、再びまともに更新されるようになった。

2番目はTizenです。

このOSは元々Intel等が主導して開発していた「MeeGo」とNTTドコモなどが中心になって開発を進めていた「LiMo」という2つのLinuxを基本としたスマートフォン用OSを糾合して2011年に誕生したものです。

簡単に言ってしまえばこれは、Googleに主導権を握られるのを嫌った各国の大手キャリアやAndroid搭載スマートフォン市場では一応はサポートされていたもののQualcommをはじめとするARM系CPUのメーカー各社と比較して弱い立場に置かれていたIntel、それに最大手の端末メーカーとしてGoogleの対応に不満を抱くようになっていたサムスンなどの、いわば「アンチGoogle」の立場にあったApple以外の各社が集まってAndroidに相当するOSを作り、その上でキャリア各社やサムスンは自社独自のストアやサービスを自由に搭載し、Intelはそれをあわよくば自社のプロセッサ上で動作させて貰おうという、呉越同舟というか同床異夢というか、それぞれが自分に都合の良いように考えて集まり、成立してしまったOS開発プロジェクトであったのです。

もっとも、この中でもAppleに対抗する上で独自サービスの展開の必要性を痛感していたサムスンと、AppleとのiPhone販売交渉がこじれて長期化し、これに対抗しうるOSの開発を(交渉上の必要もあって)行う必要性があったNTTドコモの2社は、その中でも真剣に開発プロジェクトを推進しており、筆者は2013年前半に某所でドコモ向けサムスン製Tizen搭載端末の実働試作機(※注2)に触れる機会がありました。

 ※注2:この機種のハードウェア自体はこの時点で完成していたと考えられ、この年の12月に「Samsung ZEQ SC-03F」としてFCCの認証を取得し、半年後の画像公開時に一部で話題になったことがありました。

その時点では同年秋モデルとして製品を発売するため、様々なソフトハウスにおいて急ピッチで搭載アプリの開発が進められていたのですが、ある時突然に開発が中止されてしまいました。

その時期にはNTTドコモで「LiMo」時代からこのプロジェクトに携わりTizen搭載端末導入を主導していた取締役執行役員マーケティング部長(当時)の永田清人氏が取締役を退任して常務執行役員関西支社長に異動となり、その後遅くとも同年7月頃までにはTizen開発プロジェクトは表向きはともかく内情は事実上死に体となっていました。

Eldar Murtazin氏によるTizenの開発が事実上中断した際のツイート2013年のこの時点では、Tizenの開発継続は困難な見通しであった

Eldar Murtazin氏によるTizenの開発が事実上中断した際のツイート
2013年のこの時点では、Tizenの開発継続は困難な見通しであった

このとき、モバイルニュースサイトMobile-reviewの編集者兼チーフアナリストを務めるEldar Murtazin氏が「Tizenはほとんど死んでいる(Tizen is almost dead.)。」とつぶやいて一部で話題となったのですが、その時点ではもう、関係者の間ではそれは単なる事実の追認以上の意味合いを持たなくなってしまっていたのです。

この一連の動きが何故起きたのかについては当時各種メディアが予想をしていましたが、その答えの1つは同年9月に示されました。

Appleが最新機種としてこのとき発表したApple iPhone 5s/5cをソフトバンクとauに加えてNTTドコモが発売することを公表したのです。

つまり、長年にわたる交渉の末にようやくキラーアイテムであるiPhoneの販売権を手に入れたNTTドコモは、その販売にあたって障害となりかねないTizen搭載機を発売する訳には行かなくなったため、またiPhoneの販売に全力を傾注せねばならない状況にあったため、一度発売延期を発表した後で事実上の開発無期限凍結となる2度目の延期を発表し、Tizenをあっさり切り捨ててしまった(※注3)のです。

 ※注3:さすがにその場で中止発表をするのは露骨に過ぎたのか、「発売を当面見送る」として事実上の開発無期限凍結を示した再延期の公式発表は、1回目の延期の際に発売予定時期とされた2014年1月まで持ち越されました。

この時期、Tizen搭載端末を実際に発売しようとしていた大手キャリアは事実上NTTドコモだけでしたから、そのNTTドコモがTizenを見放してiPhone販売に注力するようになると、Tizenの開発で大きな役割を果たしていたサムスンは単にTizen搭載端末の顧客を喪うだけにとどまらず、同社にとって金城湯池であったAndroid搭載のGALAXY Sシリーズの販売でも悪影響を受けることになってしまいました。

iPhone販売にこぎ着ける以前はあの「ツートップ戦略」でのGALAXY S4のツートップへの指定をはじめNTTドコモから実質的に最恵国待遇を受けていたサムスンにとって、このNTTドコモの経営戦略転換はかなり大きな打撃となったと考えられ、少なくともこの時点では需要を喪ったTizen搭載端末の開発をそのまま続けられるような状況ではなくなっていたのです。

Samsung Gear S製品紹介ページのスペック欄さりげなくOS名の記載があり、Tizen搭載機種であることがわかる。

Samsung Gear S製品紹介ページのスペック欄
さりげなくOS名の記載があり、Tizen搭載機種であることがわかる。

以後、Tizenの開発プロジェクトそのものはなくなりはしませんでしたが、組み込み機器用やスマートウォッチ用などに重点を置いた開発にシフトし、このOSを搭載して発売された最初の製品はドコモ向け端末の発売延期(という名の開発中止)発表から1年以上を経た2014年末に発売が開始されたサムスン製スマートウォッチの「Gear S」となりました。

このGear Sおよびその後継機種ではTizenの搭載が継続し、日本国内においてもauとNTTドコモが取り扱いを行っています。

一方、一度は開発中止に追い込まれたスマートフォン向けTizenですが、さすがに巨費を投じて開発されたものをそのままお蔵入りさせてしまうわけには行かなかったのか、いわゆる開発途上国市場向けの低価格スマートフォン用OSとして仕立て直して搭載されることが決定され、ロシア向けなど何度か製品化発表がなされたものの延期や中止が繰り返されてなかなか実現せず、2015年に入ってようやくインド市場向け「Samsung Z1」としてまずバングラデシュで発売が開始されました。

ちなみにこのSamsung Z1、お値段が日本円に換算して1万円前後と大変お安く、そのためかインド市場で半年ほどの間に100万台を販売したと報じられています。

ただし、発売されたSamsung Z1搭載のTizenはこれを入手し調査した技術系サイトのArs Technicaに「The first Tizen smartphone isn’t an “Android killer”—it’s a bad Android clone (最初のTizen搭載スマートフォンは“Androidキラー”ではない-それはAndroidの劣化コピーである)」という非常に刺激的なタイトルのレポートにおいて「Tizen doesn’t offer any innovative ideas. It’s just Android with worse design, no direction, no hardware support, and no apps.(Tizenはいかなる革新的アイデアも提供していない。それはまさに劣悪なデザインで何の方向性もなければハードウェアサポートもなく、そしてアプリのサポートもないAndroidである。)」とこれ以上はないほどに酷評されてしまいました。

Samsung Z3現行最新のTizen搭載スマートフォン

Samsung Z3
現行最新のTizen搭載スマートフォン

つまり、「Tizen≒Androidの劣化コピー」という評価がなされたわけですが、それでも2015年10月にインド市場向けTizen搭載スマートフォンの新モデルとしてSamsung Z3が約1万6千円程度の価格で発売されており、またロシアをはじめ過去にTizen搭載端末の発売計画が頓挫してきたインド以外の各国市場向けにこの機種の販売計画が報じられているため、販売で先行しながら撤退に至ったFirefox OSとは対照的に、一旦は搭載製品が発売中止に追い込まれたTizenはそれはそれなりに市場で受容されつつあるとみて良さそうです。

ようやく搭載製品が発売にこぎ着けたUbuntu Touch

Ubuntu Touch公式サイトトップページ

Ubuntu Touch公式サイトトップページ

3番目はイギリスのCanonicalが開発した、Linuxのディストリビューションの1つである「Ubuntu」をベースにした「Ubuntu Touch」です。

このOSは端的に言ってしまえば通常のパソコン向け「Ubuntu」を基本としてスマートフォン/タブレット向け(※注4)の統合プロセッサでの動作に必要なデバイスドライバなどのハードウェアサポートを付加し、これにタッチパネルによるユーザーインターフェイスを組み合わせたものです。

 ※注4:スマートフォン用とタブレット用で異なった最適化が行われており、それぞれ「Ubuntu Phone」「Ubuntu Tablet」と命名されています。なお、GUIシェルそのものはクロスプラットフォームのユーザーインターフェイス/アプリケーション開発フレームワークであるQt 5を基本として開発されています。

つまり、来歴はともかくやっていることは(HTML 5+CSS+JavaScriptでのアプリ開発のためのSDKが提供されていることも含めて)Firefox OSやTizenとあまり変わりないわけですが、既にあるLinuxのディストリビューションを基本としていたために2013年初頭に開発が公表された時点で実働デモがGoogle Nexusシリーズにインストールした状態で公開され、しかもかなりの完成度を示していたことが知られています。

もっとも、NexusシリーズやサムスンのGALAXYシリーズ向けのカスタムROMの形をとった開発者向けDeveloper Preview版OSイメージは2013年2月から公開・提供されていた(※注5)ものの、実際にこのOSを搭載した製品を発売しようというパートナー企業はなかなか現れず、2014年に入ってようやくスペインの端末メーカーであるBQと中国のMeizuの2社が名乗りを上げました。

 ※注5:開発者およびパートナー企業向けのUbuntu Touch 1.0は2013年10月17日にリリースされています。

BQ Aquaris E5 Ubuntu EditionスペインのBQによるUbuntu Touch搭載スマートフォン

BQ Aquaris E5 Ubuntu Edition
スペインのBQによるUbuntu Touch搭載スマートフォン

しかし、スマートフォン向けのハードウェア要件で示された最下限のハードウェアスペックがFirefox OS等と比較して結構高い性能を要求していた=価格競争力の面で優位性がない(※注6)ためか、その後もなかなか実際の製品は出荷に至らず、2015年2月9日にようやくBQが「BQ Aquaris E4.5 Ubuntu Edition」としてEU圏市場向けに「Ubuntu Touch」搭載製品を発売しました。

 ※注6:CPUにARMのCortexーA7、メモリは1GB、ストレージは8GB以上、マルチタッチ対応のタッチインターフェイスというのが最低条件で、256MBのメモリでも動作したFirefox OSや、バージョン4.4以降ではOS内部の見直しを行ってシェイプアップした結果メインメモリ512MBでも動作するようになったAndroidなどと比較して、より高スペックのハードウェアが必要です。

この機種のお値段は日本円換算で2万円少々とTizen搭載スマートフォンの初号機となった「Samsung Z1」の倍以上の価格設定となっていますが、さすがにその分ハードウェア仕様がハイスペック(といってもローエンド端末としてはですが)となっており、さらにこの後「BQ Aquaris E5 Ubuntu Edition」としてより高性能なモデルが追加され、しかも2015年10月17日にはロシア市場での両機種の発売が発表されています。

やはりiOSとAndroidの壁はとてつもなく厚い

以上、「第三のOS」3種の状況を見てきました。

結局、記事執筆時点ではFirefox OSが事実上脱落、Tizenは一旦脱落しかかって徳俵に足をかけた状態に追い込まれたもののどうにか低価格端末市場で復活、Ubuntu Touchは遅延しつつも徐々に進行中といったところで、Android搭載端末のトップメーカーであるサムスンが開発に関わっているTizenの粘り強さが際立つ状況にあると言えます。

それでも市場シェアは1桁パーセント台前半といったところで、iOSとAndroidはとてつもなく厚く巨大な壁としてこれらのOSに立ちはだかっています。

また、ハードウェアメーカーのてこ入れで土俵際から押し戻したTizenとは対照的に、Firefox OSやUbuntu Touchがそもそもハードウェア製造販売を行うパートナー企業を探すのに苦労していた/している状況を考えると、この種のOSをリファレンスとなるハードウェアを開発できるメーカーのバックアップなしに立ち上げ、有力キャリアの支持を得るのがいかに大変なのかが見て取れます。

実際、アプリなどを開発する側からすれば動作の基準となるリファレンス機無しというのは色々厳しい部分があって、それは評価を行うキャリアなどにとっても同様なわけですが、その点で脱落に追い込まれたFirefox OSはなまじハードウェア仕様の許容範囲が広いが故に市場にきちんとフォーカスしきれなかった印象があります。

正直、現在のこの状況からiOSやAndroidに対抗できるレベルまで育て上げるのはかなり大変ではないかと思うのですが、いつまでも2強多弱というのも面白くないので、Windows 10 Mobileともども関係各社・各団体には頑張って欲しいものです。

▼参考リンク
Firefox OS — 必要なものを、必要な時に — スマホとして持つべきものを全て備えた OS — Mozilla
Tizen | An open source, standards-based software platform for multiple device categories.
Ubuntu on phones | Ubuntu

Fx0 LGL25 | Firefox OS | au
つくる自由! ウェブ新世紀ハジマル | 2014年 | KDDI株式会社
4K対応テレビ CX800N/CX800シリーズ(液晶) | テレビ ビエラ | Panasonic

Mozilla Will Stop Developing And Selling Firefox OS Smartphones | TechCrunch(Firefox OS搭載端末の開発・販売終了を報じた記事)
Google グループ(上掲TechCrunchの記事を受けたMozillaのソフトウェアエンジニアであるケビン・グランドン氏によるGoogle グループへの投稿)

Eldar MurtazinさんはTwitterを使っています: "Tizen is almost dead. It isn't delay. That's cancel of the whole project. I doubt that samsung will launch more than one device for 2014"
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