キングジム PORTABOOK  XMC10白いキーボード部分が黒い筐体の横幅を超えてはみ出す様に展開している。

折りたたみキーボードの新提案~キングジムのモバイルパソコン『ポータブック』

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by [2015年12月17日]

キーボードは、モバイル機器の入力デバイスとしてみた場合、大変扱いの厄介なデバイスです。

モバイル機器の性質上、そのサイズはできるだけ小さく薄く、かつ軽く造るのが望ましいにもかかわらず、キーを打鍵して操作するというその利用形態からすると、キーのサイズは指で触れた際に隣接するキーを間違って打鍵しない程度には十分大きくあることが望ましく、キーストロークも十分深くし、またそのキー数も一定程度以上の数があることが求められるためです。

それはつまり、携帯時には十分フットプリント(投影面積)が小さく薄く、それでいて利用時には一定以上の平面積を専有する程度には大きくあることが求められるということで、結果としてモバイル機器のキーボードは、何らかの形で折りたたみ機構と組み合わせて利用されるのが一般的となっています。

一般的には、クラムシェル型のノートパソコンがそうであるように、一定の投影面積を占有し、現状ではそれ以上の小型化は事実上不可能なデバイスであるディスプレイパネル(およびそのベゼル)のサイズを上限として、その枠内に収まるような形で折りたたむことで実用性と可搬性の両立を図ることが大半なのですが、10インチクラス以下の機器になってくると、ただディスプレイを蓋としてキーボード面を閉じるように畳むだけでは、十分な小型化が難しくなってきます。

歴史的には、後述するように様々なアプローチが試みられてきたのですが、なかなかこれ、という妙手が出てきませんでした。

キングジム PORTABOOK  XMC10白いキーボード部分が黒い筐体の横幅を超えてはみ出す様に展開している。

キングジム PORTABOOK XMC10
白いキーボード部分が黒い筐体の横幅を超えてはみ出す様に展開している。

そしてこのほど、アイデア豊かな文具系ガジェットやテプラでおなじみのキングジムから、8インチディスプレイ搭載でしかも全く新しい構想に基づく折りたたみキーボードを搭載したモバイルパソコン「PORTABOOK(ポータブック) XMC10」が発表されました。

今回は、このXMC10を中心にモバイル機器におけるキーボードについて考えてみたいと思います。

XMC10の主な仕様

まずは記事執筆時点で公開されているXMC10の主な仕様から。

  • OS:Windows 10 Home(x64)
  • CPU:Intel Atom x7-Z8700(1.6GHz クアッドコア)
  • サイズ:約204×153×34mm(折りたたみ時)・約266×153mm(使用時平面占有サイズ)
  • 重量:約830g
  • メインスクリーン
    • 種類:TFT液晶
    • 解像度:1,280×768ピクセル
    • 画面サイズ:8インチ(対角線長)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:2GB(LPDDR3-1600)
    • eMMC:32GB
    • 拡張スロット:microSDXC card(UHS-1対応)
  • カメラ
    • フロントカメラ解像度:2メガピクセル
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 b/g/n
  • Bluetooth:Ver.4.0(EDR準拠)
  • 電池容量:非公開
  • 外部ディスプレイ出力:HDMI(最大3,840×2,160ピクセル 30Hz)
        ・アナログ15ピン3列RGB(VGA端子:最大2,048×1,536ピクセル)
  • キーボード:85キー 日本語配列
  • ポインティングデバイス:光学式フィンガーマウス
  • USBポート:1基(USB 2.0対応)

折り畳み時の平面サイズが約204mm×153mmですからおおよそ紙のA5サイズ相当、展開時の平面サイズの最大幅が266mmなのでB5サイズの長辺よりも若干広い程度、ということになります。

PORTABOOK _02074

キーボードを格納した状態

PORTABOOK _02071

キーボードを展開した状態

パソコンとしての機能は、7年か8年ほど前に流行したネットブックの正常進化と言えば良いのか、それとも昨今流行のAtomプロセッサ搭載スティック型コンピュータに毛が生えた程度と言えば良いのか、2015年現在のパソコンとしては必要最小限か、あるいはその少し上といったレベルに収まっています。

モバイルバッテリー充電対応やVGA端子の搭載を謳うキングジムのXMC10製品紹介ページ

モバイルバッテリー充電対応やVGA端子の搭載を謳うキングジムのXMC10製品紹介ページ

その一方で、この種のパソコンがどのように使われているかについては相当に検討が行われた形跡が散見され、例えば外部ディスプレイ出力端子は、スティック型コンピュータで一般的なHDMI端子だけでなく、この種の機種には珍しく会議室などに備え付けのプロジェクターで標準搭載されている率の高いアナログ15ピン3列RGB端子(いわゆるVGA端子)が標準搭載されており(※注1)、5VのUSB端子タイプのACアダプタ給電端子とすることでタブレットやスマートフォン用に販売されているモバイルバッテリーからの充電にも対応しており、内蔵バッテリーで動作させる場合以上の屋外連続使用も可能となっています。

 ※注1:会社の会議室などに設置のプロジェクターは稼働率がそれほど高くないためかなかなかHDMI入力やDisplay Port入力に対応する新機種への代替が進まず、NTSCビデオ入力やS端子入力、あるいはVGA端子入力にしか対応しない機種があちこちで使用され続けています。こうした事情から、法人ユースの多いノートパソコン、例えばLenovoのThinkPadシリーズなどでは多くの機種で未だにVGA端子が搭載され続けています。

また標準でOffice 365の1年間利用権が添付されるなどからも、ビジネスユースのツールとしての性格が色濃いことを示しています。

もっとも、その割にプリインストールされているOSがMicrosoft Windows 10 Home x64版となっていて、企業内でドメイン接続をするような用途に対応していないあたり、微妙な印象を受けるのですが、このあたりはOSライセンス料などの事情などで妥協や割り切りがあったか、さもなくば法人向けではWindows 10 Proをプリインストールして出荷するといった別対応がある可能性を示しています。

さすがに、8インチディスプレイ搭載でもキーボードを搭載したノートパソコンだけあって、折りたたみ時で厚さ34mmと分厚い筐体になっており、さらに重量も約830 gと、大型化したと言っても200 g以下のレンジに収まるのが一般的な昨今のスマートフォンや、重くても600g前後の8インチタブレットを見慣れた目には恐ろしく重くなってもいます。

このXMC10の重量のそれなりの部分は、恐らく強度確保が最優先される、本体とディスプレイ部を結合・回転させるヒンジおよびその周辺部品によるものと考えられますが、それだけでこんな重さになるわけはありません。

重量増の主因、それは恐らく新機構の折り畳み機能を搭載したキーボードにあります。

そこで、少し脱線するのですが、モバイル機器向けキーボードを巡る状況を見てみるとしましょう。

諸条件のすりあわせの難しい折り畳みキーボード

先にも少し触れましたが、モバイル機器で十分小型で実用的なキーボード搭載を実現するには、様々な難問があります。

キー数は削れない

まず、所定のキー数を確保する必要があること。

具体的に言うと、現在の一般的なデスクトップパソコン用キーボードでは、テンキーなしでも概ね90キー前後のキー数になっているわけですが、その中でもアルファベットや記号などのほぼ削減不能のキーが48個、制御その他で外せない、いわゆる制御キー系のキーが最低でも10個程度あります。

そのため、キーボードで極限までキー数を削減するには、これら58個のキーを維持したままで、削られたキーの機能を「Fn」キーなどと呼ばれるキーバインド動作専用の特殊キーとそれ以外の一般キーを組み合わせて押すことで代替することによって成立させることになります。

実は、この58キー+Fnキー+αで60キー配列のキーボードは製品として存在しています。

PFU Happy Hacking Keyboard LiteA4半裁英語60キー配列のHHKとしては唯一の廉価版モデル。後継のLite2では実用性向上のため右下にカーソルキーが押し込まれ、かな漢字変換キーを追加した日本語配列版が用意されるなど、当初の理念から大きく後退する変更が行われた

PFU Happy Hacking Keyboard Lite
A4半裁英語60キー配列のHHKとしては唯一の廉価版モデル。後継のLite2では実用性向上のため右下にカーソルキーが押し込まれ、かな漢字変換キーを追加した日本語配列版が用意されるなど、当初の理念から大きく後退する変更が行われた

PFUの「Happy Hacking Keyboard (HHK)」シリーズがそれです。

このシリーズのキーボードでは基本的に、紙のA4サイズ半裁、つまりA4の約半分の面積にフルサイズのキーボードと同等のキートップを搭載しつつ実用的な配列を実現するために、使用頻度の低いScroll Lockなどの画面制御系のキーやカーソルキー、それにファンクションキーなどをFnキーとその他キーのキーバインドに割り当てています。

まぁ、これは身も蓋もないことを言ってしまえば、カーソルキーのない端末での利用が珍しくなかったUNIX(およびその互換OS環境)でEmacs系(Muleなど)の統合環境的な性格の強いエディタを常用するようなユーザーに最適化した配列設計で、そういったユーザーには熱烈に支持されるものの、その一方でMicrosoft Officeを使用するような普通のWindowsユーザーには大変使いにくい配列である(※注2)と言えます。

 ※注2:HHKの廉価版モデルの第2世代製品であるHHK Lite 2でかなり強引なカーソルキーの追加や日本語配列化(変換制御キーの追加とJIS配列化)などを行い、キー数を増やすことでようやく日本の一般市場にまともに受け入れられるようになりました。

このHHKの例からわかるように、極端なキー数削減は実用上難が多く、一般的な使用の範囲では75~89キー程度は搭載せねば実用性の面で色々厳しくなってきます。

キーのサイズも削れない

2番目は物理的なキーサイズの縮小には限度があること。

人間の大人の手指はサイズ変動の少ない部分ですから、必然的にこれと接触するキーボードのキートップサイズも、これに準じたサイズが最適解となります。

それどころか、現在の一般的なデスクトップパソコン用キーボードを見れば明らかなように、キートップはわざわざ台形断面に形成して、キートップの上面部分をキーそのものよりも一回り小さく作ることで、間違えて隣のキーを打ってしまうことを避けるような構造にすらなっていて、キーサイズの決定に当たってはトラブルを防ぐためにある程度余裕を持たせている事は明らかです。

Lenovo ThinkPad X240最近のノートパソコン用キーボードの例。これは英語配列だが、キーサイズを小型化せずに極力小さな面積により多くのキーを押し込むために工夫が凝らされており、一番奥のファンクションキー列だけ縦方向の寸法を圧縮し、誤操作の出やすいカーソルキーだけを下に突き出して配置し、さらにはキー自体を周囲のキーから間隔を置いて配置するアイソレーションキーとしている

Lenovo ThinkPad X240
最近のノートパソコン用キーボードの例。これは英語配列だが、キーサイズを小型化せずに極力小さな面積により多くのキーを押し込むために工夫が凝らされており、一番奥のファンクションキー列だけ縦方向の寸法を圧縮し、誤操作の出やすいカーソルキーだけを下に突き出して配置し、さらにはキー自体を周囲のキーから間隔を置いて配置するアイソレーションキーとしている

もちろん、厚みを極力薄くすることが求められるノートパソコン用キーボードなどではそこまで凝った作りにはなっていないのですが、それでも各キー周囲に余分なスペースを確保したアイソレーションキー構造としたり、キートップをやはり少し底部よりも小さくなるような形状の工夫を行ったりしており、ミスタッチを防ぐことが設計上の重要なポイントとなっていることが判ります。

つまり、各キーのサイズは、例えば使用頻度のそれほど高くないファンクションキーの縦方向のサイズを圧縮する、といった方策を講じることはあるにせよ、基本的にはデスクトップパソコン用キーボードの標準的なキートップサイズから極端に小さくすることは困難です。

先にも触れたようにキー数は大きく削減できませんから、このキーのサイズが変えられないことと併せて、モバイル機器用キーボードの平面積は実用性の確保を重視する限り、その削減が難しいということになります。

より薄くより軽くするとほぼ確実に低下する打鍵感

さて、モバイル用キーボードで一番面倒な問題、それは薄さと打鍵感の両立です。

基本的に、キーボードの打鍵感は何らかのバネによる反発力と案内機構によるキーストローク長、(あれば)クリック感を演出するための仕組み、それにキーボード本体基板部のたわみ剛性で決まっていると考えられるわけですが、それらの要件を十分に満足させるような仕組みを用意すると、ほぼ確実にキーボード全体が厚く重くなってしまいます。

キーストロークは一般的なデスクトップパソコン用キーボードで2mmから3mm、かなり深い機種でも4.5mm程度、ノートパソコンなどでは1mmから2mm程度といったところです。

つまり、この部分だけでもキータッチを良くする(≒デスクトップパソコン用キーボード並みにする)には2mm程度の厚みの増加が必要ということで、よほどサイズ的な許容範囲が広くメカニカルキーボードを搭載してしまったような一部のハイエンドゲーミングノートパソコンなどを別にすれば、ここで贅沢をする機種はほとんどありません。

そのため、一般的にはキーストローク1mm~2mm程度のパンタグラフ支持機構を備えたメンブレンゴムシートスイッチによる薄型キーボードが、小型モバイル機器向けに多用されています。

実を言えば、こうしたキーボードでも、十分にリジッドな、高剛性の筐体に直結支持されるなどして十分なたわみ剛性を確保できていれば、意外とまともなキータッチが
得られます。

しかし、残念ながら世間一般のこの種のキーボードの大半は、重量面の制約などから薄い軟鋼板やアルミ板に固定されており、打鍵の際のたわみ量が大きく、またキーの位置によって大きく変動するためにあまり良い打ち心地になりません。

こうしたキーボードの剛性を向上するにはより高強度の金属材料を使用するか、あるいは同じ材料でもプレス成形などによって板材に補強用リブなどを形成する他なく、そうするとコストが増加するかキーボード全体の厚みが増えるかのいずれかとトレードオフということになってしまいます。

大きな平面積のキーボードを小さな平面積の筐体に収める方法

以上のような事情から、十分実用的で打ちやすいキーボードを例えば今回のXMC10のように小さな8インチディスプレイパネルより一回り大きい程度の平面積の筐体に収めようと思えば、何か特別な格納方法を工夫する必要があります。

一番単純なのが、キーボードをさらに2つ以上に折り畳んで携帯時にはディスプレイサイズ以下の平面積に収まるようにする方法。

これは最近のBluetooth接続モバイルキーボードでも良く見られる手法で構造も比較的単純なのですが、2つばかり大きな難点があります。

それは、折りたたんだときの厚みが当然に展開時の約2倍となることと、ヒンジやラッチ機構が必要となるため、それなりに重くなることです。

これらから、特にキーボード本体の厚みや重量が特に厳しく制限されることになりがちなこの種のキーボードでは、正直に言って打鍵感の良さは期待できません。

次に考えられるのが、開き直ってキーボードそのものを軟質樹脂一体成形とし、巻き取って筒型にして携行できる様にする方法。

これは展開時のキーボードが多少大きくとも、2辺いずれかのサイズで巻き取って筒型にしてしまえば、携行が容易になるという大きなメリットが存在します。

しかしこの方法は、キーボード本体を展開する先に十分な強度があってキーボード本体を十分展開できるだけの面積の平板が必要となるため、例えば電車の車内でキーを打ちたい、といった用途には全くと言って良いほど向きません。

この種のキーボードは機構部が樹脂封じの状態となるため濡損に強く、一部の産業用途では根強く愛用されていますが、一般的なモバイル用途では使いどころの難しい機種であると言えます。

3番目に考えられるのが、何らかの仕組みによって、キーボードを適宜分割してその筐体サイズに収まるように格納する方法。

ジョン・カリダスによって発明され、IBMによって取得された合衆国特許 公告番号US 6262881 B1の機構解説図(抜粋)一般に「バタフライキーボード」として知られる分割収納式キーボードの機構特許である。なお、この特許は現在も保護期間中である

ジョン・カリダスによって発明され、IBMによって取得された合衆国特許 公告番号US 6262881 B1の機構解説図(抜粋)
一般に「バタフライキーボード」として知られる分割収納式キーボードの機構特許である。なお、この特許は現在も保護期間中である

これはかつてIBMがThinkPad 701c・701csで挑戦した、ディスプレイパネルを開くと筐体内に収まるように分割して格納されていたキーボードが複雑なリンク機構などによって所定の位置に展開し、筐体サイズよりも大きな横幅を実現するというもの(※注3)が有名です。

 ※注3:これによりB5サイズ相当の筐体にA4サイズのキーボードが搭載できました。日本での正式名称は「分割収納式TrackWrite」だそうですが、一般にはその特徴的な展開シーケンスから「バタフライキーボード」の名で知られています。

このIBMの方式のネックは、分割された薄いキーボード本体がリンクによって点支持される構造となるため、その本体そのもののたわみ剛性が十分でない場合には打鍵感が悪化すること(※注4)と、肝心のリンク機構が複雑でそれ自体が結構な重量となってしまう上に故障してキーボードが展開しなくなる恐れが少なからずあることです。

 ※注4:この対策としてThinkPad 701c/csではかなり高剛性の薄型キーボードが搭載されていましたが、それでも決して良い打鍵感とは言いがたく、またその分重くもなっていました。

キーボードの平面サイズを筐体よりもずっと大きくできるため、小型のモバイルコンピュータでもキー配列やキーサイズをデスクトップパソコン用キーボード並みにできる点でこの方式は理想的だった(※注5)のですが、筐体からはみ出した部分が実質的に薄いキーボードベース部分だけで支持されるため、どうしてもそこのタッチが悪くなりがちだったのです。

 ※注5:この方式の産みの親であるジョン・カリダス(John Karidis 1958-2012)氏は晩年に行われたインタビューで、この方式がThinkPad 701クラスのノートパソコンよりもさらに小型のモバイル機器でこそ有用であることを示唆しています。

こうした事情からこの方式はこの2機種で終わり、その反省から後にIBMは通常の筐体サイズから横幅が張り出すようにして1ランク上のサイズのキーボードを搭載する、という手法(※注6)によって抜群のキータッチを実現した、ThinkPad s30という機種を生み出すことになったのですが、やはりこうした無理のある設計は定着しないものなのか、以後この構造を採用した機種も登場していません。

 ※注6:なおこの張り出した部分も、同様に張り出したディスプレイパネルのカバーで覆われているのですが、そのカバー側張り出し部には無線LANのアンテナが内蔵されており、無駄になっていませんでした。

XMC10の新提案

さて、前史や他方式の話が長くなってしまったのですが、今回キングジムから発表されたXMC10では、これまでのこうした様々な小型機への実用的キーボード搭載のための研究開発の歴史を覆すような、単純ながら非常によく考えられた折り畳みキーボードが搭載されています。

XMC10のキーボード展開状態ご覧の通り左右で2つに分割したキーボードを「ハ」の字状に左右で逆方向に回転させ、下の筐体平面積の枠内に収まるように移動させる。これにより簡潔な機構でバタフライキーボードを上回る実用性を得られるようになった。

XMC10のキーボード展開状態
ご覧の通り左右で2つに分割したキーボードを「ハ」の字状に左右で逆方向に回転させ、下の筐体平面積の枠内に収まるように移動させる。これにより簡潔な機構でバタフライキーボードを上回る実用性を得られるようになった。

単純化して言えば、横長のキーボードを中央で二分し、それぞれを逆方向に90度回転させて縦置きにして横並びにすることで、通常であればパームレストに割り当てられる面積まで無駄なく活用して携行時のサイズを最小に抑えつつ、筐体サイズを超える大型(約27cm幅)のキーボード(※注7)搭載を実現したのです。

 ※注7:幅だけならば概ね2ランク上のノートパソコンのキーボードに匹敵します。

これは先に触れたThinkPad 701c/csのバタフライキーボードに近い発想なのですが、薄いキーボードを斜めに切って2分割し、浮動させて展開・格納していた同機種とは異なり、ケースに収まったキーボードユニットをほぼ水平回転させるだけで格納しているため、キーボード本体も2分割する以外はほとんど通常のもので済みます。

しかも構造が単純でキーボード同士を重ね合わせる部分が無いためケース部にそれなりの厚みが確保でき、通常のフルサイズキーボードほどで無いにせよ、かなりの剛性が得られる構造となっています。

つまり、バタフライキーボードに近い効果をより単純な機構で実現し、よりよい打鍵感を実現していることをも期待できるわけです。

実際、キーピッチは18mm、キーストロークは1.5mmとこのクラスの機種としてはなかなかの数値を実現しており、キー数が85個とキーや筐体のサイズからは考えられない数のキーが搭載できています。

これはThinkPad 701c/csの時代にはなかった、キーボードの前縁から手前にパームレストを設けるような考え方が一般化した今だからこそのアイデアであると言えますが、何とも上手い手を思いついたものです。

もっとも、その一方でこの機種ではポインティングデバイスが若干犠牲となっており、光学式のフィンガーマウスと称するポインティングデバイスがキーボード中央に(ThinkPadのTrackPointのように)搭載されていますが、3つのボタンがキーボードよりも1段低い筐体本体に搭載されているため、その操作性はあまり期待できなさそうです。

こういったデバイスを搭載するのならば、ついでにディスプレイにタッチパネル機能を搭載した方がより使い勝手が良くなるのでは無いか、とも思うのですが、コスト上昇を考えると、このあたりが落としどころなのでしょうか。

キングジムらしいアイデア商品だが…

以上、モバイルキーボードについてあれこれ考えつつXMC10について見てきましたが、この機種で不安要素があるとすればそれはキーボードでもポインティングデバイスでもなく、貧弱なメモリ・ストレージ容量です。

かつてのThinkPad 701c/csでもThinkPad s30でも問題となったのですが、小型の筐体に特殊な機構・構造のキーボードを搭載するタイプの機種では、往々にしてCPUやメモリ、あるいはストレージの性能や容量が制限され、拡張性が皆無かそれに近い状態となりがちで、将来的な長期使用に不安が残ります。

特にこのXMC10では恐らくCPU側の制限もあるのでしょうがメインメモリが2GB搭載で固定、つまりこれ以上増設できないというのが最大の不安材料(※注8)で、いかにWindows 10でOSそのもののメモリ消費量削減が進んでいるにしても、ちょっとした規模のアプリを起動すればあっという間にメモリ使用率が90パーセントを超えてしまうような構成というのは正直感心できません。

 ※注8:かつてシャープのMURAMASA PC-MM2シリーズというモバイルパソコン(メモリ量は256MBで固定でした)を使用していた筆者の後輩が、メーカーにマシン本体を送付して「改造」してもらってメインメモリを512MBに増やすサービスを利用していたのを見たことがあるだけに、この手の「下限ギリギリ」のメモリ搭載量のパソコンには不安がぬぐい去れません。

筆者私物のThinkPad X240でWindows 10 Pro x64版を起動した直後のタスクマネージャの状態ご覧の通り、特に何のアプリも起動していないにもかかわらず、メモリは2.2GBを消費している

筆者私物のThinkPad X240でWindows 10 Pro x64版を起動した直後のタスクマネージャの状態
ご覧の通り、特に何のアプリも起動していないにもかかわらず、メモリは2.2GBを消費している

ちなみに筆者所有のThinkPad X240(メインメモリ8GB搭載。Windows 10 Pro x64版インストール)で起動直後の状態でタスクマネージャを確認したところ、メモリ消費量が2.2GB、同様にWindows 10 Pro x64版インストールの自作機(Xeon E5520 ×2
・メインメモリ20GB搭載)では1.6GBとなっていました。

ほとんど素のままのWindows 10 Proをインストールしただけの後者の数字から考えると、今回のXMC10のメインメモリ容量でもとりあえずは実用的に使用できそうな感じですが、Office 2013 ProfessionalをはじめそれなりにアプリやユーティリティをインストールしたThinkPad X240が何もしなくとも2GB以上のメモリを消費していることを考えると、メインメモリ2GBというのは結構ギリギリな印象を受けます。

もちろん、使い捨ての文具的な発想で、ここ2年ほど使えれば良い、というのであればそれはそれで問題なく実用に耐えると思うのですが、こうした「手になじむ」サイズの小さな機種だからこそ長期的に同じ機種を使い続けたい、という要望もあるはずで、キングジムさんには同じサイズでもう少しスペックアップした上位機種の発売を期待したいところです。

▼参考リンク
フルサイズをコンパクトに、たためるパソコン「ポータブック」 | キングジム
Happy Hacking Keyboard | PFU
特許 US6262881 – Compact notebook computer with movable keyboard section – Google 特許検索
Butterflies are Free | Lenovo(ジョン・カリダス氏の訃報を伝えるLenovoのブログページ。ThinkPad 701c/csについても触れられている)

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