ブレーキ弁を「緩め」位置まで回しきった状態ブレーキハンドルをここまで回さないと、列車のブレーキは解除されない。

汎用化するシミュレータ~フォーラムエイトのUC-win/Road~後編【TGS2015】

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by [2015年10月21日]

前編では、FORUM 8さんの汎用シミュレータへの取り組みについてみてきました。今回は、実際に鉄道シミュレータを体験させて頂いた様子をお届けしたいと思います。

絶滅危惧種をシミュレートする

Forum 8ブースで展示されていた実車部品を使用した鉄道車両シミュレータ左側のハンドルのついた部品(マスターコントローラ)は形状から恐らく国鉄制式のMC30系(103系電車などに使用)、右奥のハンドルのついた部品が同じく恐らく国鉄制式のME38系ブレーキ弁で、このシミュレータではこれらを操作して運転をシミュレーションできる。

Forum 8ブースで展示されていた実車部品を使用した鉄道車両シミュレータ
左側手前のハンドルのついた部品(マスターコントローラ)は形状から恐らく国鉄制式のMC30系(103系電車などに使用)、右手前のハンドルのついた部品が同じく恐らく国鉄制式のME38系ブレーキ弁で、このシミュレータではこれらを操作して運転をシミュレーションできる。なおこの機器構成から、シミュレーション対象はSELD(HSC-D)発電制動併用電磁直通ブレーキ搭載の抵抗制御車となる。

実際にシミュレータの前に座り、本物のマスターコントローラとブレーキ弁のハンドルを握ると、やはりというか何というか、高揚感がわき起こってきます。

自動車の場合は自分で車を買えば(道路交通法の許す範囲で)自由に運転できるわけですが、鉄道車両の場合、どこかの(営業運転以外で車両を動態保存している)保存鉄道へ行きでもしない限り普通は車両を自由に運転するというのはあり得ないことです。

こうした事情があるため、例えシミュレータであろうと本物の機器によって車両を運転する機会が得られるというのは鉄道趣味者としては非常にうれしいものがあります。

特に、最近の博物館で設置されるシミュレータは多くが(その博物館を運営している鉄道会社の)最新鋭車を模しているため、ワンハンドルマスコンと呼ばれるT字形のハンドルと電気指令式ブレーキの組み合わせにより加速制御も減速制御も一括して操作できてしまう新しいタイプのコントローラを搭載していることが大半で、今回のように自動加速制御式のマスターコントローラと電磁直通ブレーキ(HSCあるいはSEDブレーキ)を扱えるシミュレータは、このシステムを搭載する実車自体が近年急速にその数を減らし絶滅危惧種扱いされつつあることもあってか、少数派になってきています。

そうしてみると、こうして本物のマスターコントローラとブレーキ弁を用いて「昭和の電車」の運転を体験できる今回のシステムは、貴重なものであると言えます。

昭和の電車のコントローラ

シミュレータの運転台部クローズアップ左から電圧計・電流計・速度計(車上信号表示機能付き)。圧力計×2と計器が並んでおり、針が回転していることからこれらもシミュレーションの対象となっていることがわかる。

シミュレータの運転台部クローズアップ
左から電圧計・電流計・速度計(車上信号表示機能付き)。圧力計×2と計器が並んでおり、針が回転していることからこれらもシミュレーションの対象となっていることがわかる。

電車の運転席を背後からのぞき込んだことのある方は恐らく少なくないと思いますが、そこにある主な機器がどのような役割を果たすのかを正しく理解している方というのは、決して多くは無いことでしょう。

ことに、昭和30年代以降日本で広く普及した自動加速制御タイプのマスターコントローラと電磁直通ブレーキの弁を並べたタイプの電車の運転台を覗いても、どちらのハンドルをどのような状況でどう操作するのか、正直よくわからないのでは無いかと思います。

シミュレータの挙動にも関わることですので、ここではこのタイプの運転台でどのような操作が行われているのかをまずご紹介することとしましょう。

まず最初に、このタイプの電車では、加速を制御するマスターコントローラのハンドルと、制動を制御するブレーキ弁のハンドルの、2つのハンドルを回転させて加速から停止までを操作します。

車で言えばアクセルとブレーキの関係ということですが、電車の場合、アクセルに相当するマスターコントローラの操作でギヤチェンジやクラッチ操作に相当するような操作も行われるところに大きな差があります。

具体的に言うと、マスターコントローラのハンドルには、一定回転角ごとに刻み(ノッチ)が入っていて、通常5段程度のノッチ数となっているのですが、実はこれはおおざっぱな指令で、電車の床下にある主幹制御器では電車が加速し一般に主電動機を流れる電流量が一定程度減少するのを検出する度に限流リレー(リミッタ・リレー)が作用し(加速を滑らかにするために)ノッチの刻みよりもずっと小刻みに自動で回路構成を切り替えて進段させるという、結構複雑な動作が行われています。

つまり、加速するときには一度に最終段までノッチを進めても、後はノッチ進段が内部的かつ自動的に行われるのですが、問題はハンドルをそこから逆回転させて0ノッチまで戻した時の動作です。

実は、電車の制御器の場合、車のアクセルと違ってマスコンハンドルを回せば進段したからといって、ハンドルを逆回転させても逆方向に進段するとは限らないのです。

これはどういうことかというと、ハンドル逆回転が即主回路オフ、つまり力行の停止となり、さらにこれにより主幹制御器が加速前のポジションに自動的に戻ることを意味している機種と、山岳線などでの使用を前提にハンドル逆回転でノッチ進段が通常と逆方向に行われる(これを戻しノッチといいます)機種の2通りがあるためです。

ちなみに、この世代の電車の主回路を構成する直流整流子モーターは通常、2個2組を1セットにして、直列接続と並列接続を切り替えて特性を変化させて加速を行う仕組みとなっていて、直並列切り替え1つ取っても牽引力の変動を極力避けるため複雑な挙動となっています。このあたりも含めると、実は電車のシミュレーションというのはマスターコントローラ1つ取っても事前に考えるよりもずっと複雑で奥が深いというか、色々厄介な制約を抱えていることがわかります。

一方、厄介と言えば更に厄介なのがブレーキ弁です。

電磁直通ブレーキの前世代に当たる電磁自動空気ブレーキ世代と比較すると、ブレーキハンドルの回転角に比例したブレーキ力が得られる、セルフラップ弁と呼ばれる弁になっている分だけ格段に操作が簡単になっているのですが、それでも本来は制御器側でコントロールされる発電ブレーキや電力回生ブレーキとの連動のための仕組みがあって、速度が十分に落ちてその種の電気ブレーキが失効すると自動で空気ブレーキにバトンタッチされるようになっているものの、そこからブレーキ特性が若干変わったりする(しかもその失効が起きる速度が車種によって異なる)ので油断がなりません。

端的に言って電車の運転は世代ごとにどんどん簡単になっていて、昭和一桁代まで時代をさかのぼると、これどうやって運転してたんだ? と言いたくなるほど面倒な操作を強いられたりしているのですが、その時代のものと比較すれば格段に容易になったとされる昭和の電磁直通ブレーキ搭載車種でも今見ると結構面倒な操作が必要で、フェイルセーフ性が求められるためにどうしても進歩が遅くなりがちな鉄道業界といえど時代と共に着実に進歩していることがよくわかります。

実際に動かしてみる

ブレーキ弁を「緩め」位置まで回しきった状態ブレーキハンドルをここまで回さないと、列車のブレーキは解除されない。

ブレーキ弁を「緩め」位置まで回しきった状態
ブレーキハンドルをここまで回さないと、列車のブレーキは解除されない。

前置きが長くなってしまったのですが、それでは実際に今回展示されていたシミュレータを操作してみることとしましょう。

まずブレーキハンドルを左の「緩め」位置まで回してブレーキを解除します(※注4)。

 ※注4:この時代の電車用ブレーキの場合、通常はブレーキハンドルの回転位置が左から順に「緩め」・「全ブレーキ」・「非常ブレーキ」・「(ハンドル)抜き取り」の4ポジションとなっていて、「緩め」と「全ブレーキ」の間でハンドルの回転角に応じたブレーキ力が得られるようになっています。一方、「非常ブレーキ」というのは通常の電磁直通ブレーキとは別系統の非常用自動空気ブレーキシステムを作用させるポジションで、このポジションまでブレーキハンドルを回すと走行中でも問答無用で急ブレーキがかかります。また、「抜き取り」ポジションがこれらの後にあることからも明らかなように、ブレーキハンドルを差し込んで「緩め」位置まで回さない限り、電車のブレーキはかかったままの状態となります。

自動車などの感覚からするとちょっと違和感があるのですが、鉄道車両の場合、ブレーキは(空気圧などの供給のある限り)常時かかっているのが基本で、出発直前に「緩める」ことで走れるようにするという仕組みになっているのでこのような操作になっているのです。

次にマスターコントローラのハンドルを適当なノッチまで回転させ、発車します。

UC-win/Roadで対向列車としてやってくる国鉄103系電車視界改善のために運転台の高さを嵩上げし、乗務員室直後の機器室にATC-6形ATC装置を搭載する1974年以降製造のタイプで、ウグイス色であることと無線アンテナの仕様から国鉄の分割民営化後に埼京線で使用された時期の仕様を再現したものとなる。

UC-win/Roadで対向列車としてやってくる国鉄103系電車
視界改善のために運転台の高さを嵩上げし、乗務員室直後の機器室にATC-6形ATC装置を搭載する1974年以降製造のタイプで、ウグイス色であることと無線アンテナの仕様から国鉄の分割民営化後に埼京線で使用された時期の仕様を再現したものとなる。

このノッチ進段操作はこの世代の電車の場合、途中の細かい進段操作が自動で行われるため、それほど神経質になる必要はありません。とはいえ、発車してすぐ停車するような短い駅間距離の区間で最終段まで進段するのは(進段が終わる前に減速するため)意味がありませんから、実際の運転では駅間距離やその区間での速度などを勘案して適宜進段するノッチ数を決めることになります。

なお、画面上では対向列車としてATC信号装置を搭載したタイプの103系が走っているので筆者が運転している列車も同様に103系の走行特性をシミュレートしているのかと思ったのですが、係員氏にお尋ねしたところ、今回のシミュレータでは特定の形式の走行特性を再現したものでは無いとのことでした。

まぁ、このあたりは実際に103系の運転経験のある本職の運転士さんでも無い限り恐らく違いはわからないものなのでしょうが、一体どんな走行特性として設計されているのか興味の沸く部分です。

ちなみにこのシミュレータではATSやATCといった保安システムは再現されていないとのことで、つまり信号を無視し駅にも止まらずフルノッチで全力走行させて均衡速度を出せば、この仮想車両の設計上の走行特性をある程度推測できるのですが、周囲の目もあったのでそれは自重しました。

UC-win/Roadでの列車運転中の画面表示流石に土木技術系が出自の会社だけあって、地上施設や建物のモデリングはよくできている。なお、画面右下の白い部分は運転区間の運転曲線(ランカーブ:速度と距離のグラフ)で、自分の運転がオレンジで示されたお手本とどの程度一致しているのか、あるいは乖離しているのかをリアルタイムで確認できる。

UC-win/Roadでの列車運転中の画面表示
流石に土木技術系が出自の会社だけあって、地上施設や建物のモデリングはよくできている。なお、画面右下の白い部分は運転区間の運転曲線(ランカーブ:速度と距離のグラフ)で、自分の運転がオレンジで示されたお手本とどの程度一致しているのか、あるいは乖離しているのかをリアルタイムで確認できる。

とはいえ、さすがに業務用でも使われているシミュレータだけあってその挙動は自然で、筆者の目から見ても手抜きされた要素が思いつかないくらいリアルに再現された対向列車の車両や背景となる線路脇の住宅などの建物もかなりよく作り込まれているにもかかわらず、実にスムーズに車窓風景が展開します。

また、このシミュレータ、本職の教育・訓練用途で使用することが想定されているためか、自分の運転した際の走行特性を示したグラフ(運転曲線)と理想的な運転曲線を同時に表示して比較できるようになっており、ゲームソフトとはその立ち位置が全く異なることが見て取れます。

種類ごとの相違を吸収する汎用シミュレータ

以上、TGS2015で「FORUM 8」さんが展示していた「UC-win/Road」シリーズについて、筆者の興味を引いた鉄道シミュレータを中心にご紹介してきました。

(参考)BVE Trainsimの画面主電動機性能特性などまで踏み込んで作り込むことのできる非常にマニアックなフリーソフトの鉄道車両運転シミュレータ。

(参考)BVE Trainsimの画面
主電動機性能特性などまで踏み込んで作り込むことのできる非常にマニアックなフリーソフトの鉄道車両運転シミュレータ。

正直、単に鉄道シミュレータというだけならば、それこそmackoy氏の開発・配布している「Bve trainsim」のようにフリーソフトとして配布されている(そしてやたらマニアックな)ものも存在していて、海外の博物館の鉄道シミュレータでどこかで見たようなインターフェイスだと思ったら実はこの「BVE trainsim」が使われていた(※注5)なんて話も伝わっていたりするのですが、今回「UC-win/Road」で運転操作を体験してみた感じだと、「BVE trainsim」とはずいぶん目指している方向が違っている様に筆者は思いました。

 ※注5:つまりフリーソフトである「BVE trainsim」本体(ちなみに英語対応しています)にご当地車両・路線の対応データを博物館側が自分たちで作ってインストールしたものをシミュレータに組み込んで利用しているということです。

このあたりの「ずれ」が果たして汎用化されたシミュレータと特化シミュレータの差によるものなのかどうかは判断しづらい所なのですが、マニアの考える要点と、プロが求める要点のずれとでも言うのでしょうか、そんなものがあるような印象なのです。

このあたり、「FORUM 8」さんが元々土木技術系の会社であることも幾分かの影響がありそうですが、同じ対象を題材としてシミュレータを作っても決して同じにならないあたり、なかなか興味深い部分であります。

▼参考リンク
フォーラムエイトホームページ|VRソフト・BIMソリューション・土木設計ソフト・構造解析ソフト・シミュレーション

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