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汎用化するシミュレータ~フォーラムエイトのUC-win/Road~前編【TGS2015】

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by [2015年10月20日]

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VRデバイスも含め、3Dグラフィック技術の適用先として大きな割合を占めるものの1つにシミュレータがあります。

これまで、鉄道、自動車、航空機とおよそ人の扱える乗り物全般についてシミュレータが用意され、そればかりか(ゲームとは言え)現実に存在しないロボットや宇宙戦闘艇などまでもが、「シミュレーション」の題材となってきました。

ロボットや宇宙戦闘艇はともかくとして、鉄道や自動車、それに航空機のシミュレータは、単に娯楽の対象となるだけでなく、例えば電車の乗務員やバス運転手、それに航空機のパイロットといった「本職」の訓練にも大変有益です。

実際、ここ10年ほどの間に、鉄道各社では訓練用シミュレータを導入した、という話があちこちで聞かれましたし、免許を取りに自動車免許教習所や免許センターへ行くと、大概一度はシミュレータを拝んでそこで訓練するのが当たり前のようになっています。

また、皮肉なことにシミュレータでの訓練が有益かつ正しく現実に即したものであったが故に、あの「911」の惨劇はあれほどの規模になってしまったという話もあります。

そんな風に、今や乗り物を運転/操縦する前にシミュレータで訓練するのは当たり前、という時代が来ているのですが、どうやらそのシミュレータにも変革の時が訪れているようです。

今回は、そんなシミュレータ開発を行っている「FORUM 8」さんの東京ゲームショウ2015における展示を通じて、シミュレータについて色々考えてみたいと思います。

個別につくられてきたシミュレータ

これまで、シミュレータでは、それぞれの用途に応じて専用のシステムが使われるのが一般的でした。

有名なところでは、アメリカ軍の航空機シミュレータには長年にわたって巨額の予算が投じられ、それが現在の3Dグラフィック技術の源流の1つとなっていますし、自動車業界でも運転教習用途だけでなく設計支援のためのシミュレータ開発にかなりの投資が行われてきました。

このあたり、近似の目的のために何度も似たようなシステムが開発されるという車輪の再発明を繰り返すような状況になってしまっていたのですが、機密情報の漏洩対策やシミュレーションに使用できるハードウェアの性能の制約なども手伝って、個別に専用のシミュレータを造らざるを得ない状況になっていたのでした。

例えば鉄道会社向けのシミュレータでは、訓練用シミュレータのハードウェアをわざわざ車種ごとに用意することは珍しくなく、特に操作そのものからして全く異なる自動空気ブレーキと電磁直通ブレーキ、それに電気指令式ブレーキ(※注1)を混用している会社ではシミュレータ使用を含む訓練全般で色々苦労がある(※注2)ようです。

 ※注1:自動空気ブレーキは基本的に全ての動作が空気圧指令によって行われる方式で、ブレーキ管と呼ばれる配管内の圧力が低下すると各車に備わった三動弁と呼ばれる特殊な弁が作用してブレーキがかかる仕組みです。この方式はブレーキ管の圧力操作に特別な取り扱いを要します。一方、電磁直通ブレーキはブレーキ弁に取り付けられたブレーキハンドルの回転角に比例してブレーキ管に加圧することで各車のブレーキシリンダーを直接作用させる仕組み(直通ブレーキ)に、同じくブレーキハンドルの回転角に応じて電気的な指令を行い、より高速でブレーキを作用させる仕組みを組み合わせたもの、電気指令式ブレーキはそれを更に推し進めて空気圧指令を排し、各車のブレーキ装置にブレーキハンドルからの電気的な指令のみでブレーキ作用を行わせる仕組みです。これらは後ろの種類ほど応答性能(つまりブレーキ指令から実際にブレーキがかかるまでの応答速度)が高く、またブレーキ時にモーターを使用して発電を行い、その電力を架線に戻す電力回生ブレーキとの併用が容易となっており、現在の日本の鉄道では路面電車から新幹線まで貨物列車など在来車との互換性維持の問題があるものを除くとそのほとんどが電気指令式ブレーキ搭載となっています。

 ※注2:予算の都合等で最新の電気指令式ブレーキや電磁直通ブレーキ搭載車のシミュレータは用意できても自動空気ブレーキ搭載車のシミュレータが用意できず、もっとも訓練の必要な、つまり操作の難しい方式の訓練が十分行えない様な状況となりがちです。このため、緊急時に自動空気ブレーキ操作の訓練を受けた運転士が手配できずやむなく運転士資格を持った経験者のベテラン助役が代わりに運転した、といった話は珍しくなく、これが理由でまだ使える自動空気ブレーキ搭載車の淘汰が促進されるといった本末転倒な話もまた珍しくありません。

また、自動車の場合でもゲーム「グランツーリスモ」シリーズをプレイしたことがおありの方ならご存じのとおり、車種やタイヤ、あるいは路面状態などによって例えばカーブでの挙動が全く違うことは珍しくありません。また、よりリアルにシミュレーションしようと思えば思うほど、トランスミッションなどの操作系とその挙動を厳密に再現する必要が生じるわけで(※注3)、これもまたユニバーサルな汎用のシミュレータ1つで片付けるのが難しい状況にありました。

 ※注3:例えばオートマティックとマニュアルだけでも変速用シフトレバーの取り付け位置や形状、その操作法が大きく異なるのですから、当然の話ではあります。教習所でオートマ車特有のクリープ現象に驚いた方も少なくないことでしょう。

更に言えば、航空機でも操縦時のトラブルを回避する必要から、例えば旅客機はボーイング747なら747、727なら727という風に機種グループごとにパイロットの搭乗資格が厳しく定められており(※)、ある機種に乗務するにはその機種用に用意あるいは指定されたシミュレータで訓練せねばならないようになっています。

 ※それを逆手に取り、あえて操作系に既存機種との互換性を持たせることで搭乗資格を共通化し、ある機種の搭乗資格者の多い航空会社に新機種を売り込む、といったことも行われています。

つまり、ゲームはともかく本職が使うようなシミュレータの場合、そのほとんどのケースでそのターゲットとなる機種特有の運転あるいは操縦に必要なハードウェアの再現が必須であり、それらが高価なこともあって、シミュレータのソフトウェアレベルでは単能かつ専用の汎用性の無いものを用意して利用することがほとんどだったのです。

そもそも、ゲームの「電車でGO!」シリーズでさえ、対象となる車種が異なる新作が出る度に、その車種に合わせた専用コントローラが発売されたりしていたのですから、「本物の操作を再現する」というシミュレータの目的からすれば当然のこととは言え、結構面倒な状況となっていたわけです。

汎用化するシミュレータソフトウェア

UC-win/Roadによるドライブシミュレータ体験セミナーも開催されたノートパソコンに自動車用ハンドルデバイスなどを組み合わせるという一種異様な構成である。

UC-win/Roadによるドライブシミュレータ体験セミナーも開催された
ノートパソコンに自動車用ハンドルデバイスなどを組み合わせるという一種異様な構成である。

しかし、冷静に考えてみると停止していた物体が加速し、減速し、また特定の条件に従ってその進路が決定され、最終的に停止する、という乗り物の運動を考えてみると明らかなように、ソフトウェアレベルで見るとこの種の運転系シミュレータには一定の共通性があります。

極論すれば、入力系の仕様さえある程度カスタマイズ可能とできるのならば、また十分な演算性能を備えたCPUやGPUが利用できるのならば、それぞれの環境に合わせた地形データ等の周辺情報データが必要となるものの、少なくとも物理法則に従って運動する物体を扱う限り、この種の運転系シミュレータのソフトウェア的なエンジン部分を汎用化することは十分に可能なのです。

UC-win/Roadの航空機ゲーム向け派生システムの例このようにフライトシミュレータ系の入力デバイスと組み合わせ、3画面構成とすることも可能で、システム構成上の自由度は高い。

UC-win/Roadの航空機ゲーム向け派生システムの例
このようにフライトシミュレータ系の入力デバイスと組み合わせ、3画面構成とすることも可能で、システム構成上の自由度は高い。

今回、「FORUM 8」さんが展示していた「UC-win/Road」シリーズは、まさにこうした共通点を生かして実際の演算・描画処理などを行う部分を共通化した汎用シミュレータです。

会場では自動車のシミュレータが主体となって展示が行われていて、それ単独でもかなりの出来のシミュレータであったのですが、筆者にとって無視できなかったのが、両脇に展示されていたフライトシミュレータと鉄道車両運転シミュレータでした。

前者はゲーム用としての展開が行われていることもあってか、よくあるフライトシミュレータ用とおぼしき入力デバイスを組み合わせて入力系が構築されていたのですが、問題は後者でした。

何と、どう見ても本物の電車用マスターコントローラとブレーキ弁が置かれ、それらを操作してシミュレータが利用できるようになっていたのです。

「Forum 8」ブースで展示されていた国鉄制式客車の下回りのモデリングデータ蓄電池が小型で台車が図面番号VA3062以降のタイプのTR23、それに台枠の横梁の配置などから判断して、戦時中から戦後すぐにかけての時期の仕様のオハ35形などで用いられたものがプロトタイプと推測できる。

「Forum 8」ブースで展示されていた国鉄制式客車の下回りのモデリングデータ
蓄電池が小型で台車が図面番号VA3062以降のタイプのTR23、それに台枠の横梁の配置などから判断して、戦時中から戦後すぐにかけての時期の仕様のオハ35形などで用いられたものがプロトタイプと推測できる。また、配管等が機能別に色分け表示されており、普通は見えないが構造上必要な位置に必要なリベットや金具等が適切に表現されていることから、明細図レベルの詳細な図面を基にしてモデリングされたことは明らかである。

しかも、その脇にはデモンストレーション用に各種鉄道車両のモデリングデータが展示されていたのですが、その車種や塗装、時代の選択が筆者の目から見てもやけにマニアックで、この会社には相当な鉄道愛好家がいることがわかる人にはすぐわかるレベルの完成度だったのです。

今はなき弁天町の交通科学博物館や万世橋の交通博物館、企救丘の北九州市立交通博物館、高津へ移転前の電車とバスの博物館、それに現在も向島に健在の東武博物館とあちこちでこの手のシミュレータや実物運転台展示を拝んだりプレイしたりしてきた筆者にとって、これは見逃せない展示であります。

そこで、係員の方にお願いして実際にこのシミュレータでの運転を体験させていただくことになりました。後編ではその様子をお届けします。

▼参考リンク
フォーラムエイトホームページ|VRソフト・BIMソリューション・土木設計ソフト・構造解析ソフト・シミュレーション

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