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「回収額は見ていない」有料ゲームアプリでのマネタイズ~ドグマ出版 香山哲氏インタビュー

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by [2015年7月10日]

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つい先日まで東京にいて、数日のうちにベルリンに発つという香山氏。この日は神戸でお話を伺った

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この後登場するネコはぜひご自身の目で!

 先日APPREVIEWでレビューしたアプリ『利子98階』をもうプレイされただろうか? アイコンに惹かれてゲームアプリをダウンロードしてみたのだが、プレイを始めるとユニーク過ぎるシナリオ、イラストデザイン、ゲーム性に編集部が騒然となった。
 デベロッパーを調べてみるとドグマ出版という同人系の出版社に辿り着いた。ドグマ出版を主宰する香山哲氏の活動はゲーム以外にも漫画、書籍、個展など多岐に渡っているようだ。
 そんな香山氏に、幅広い活動の中でのゲームの位置付けやマネタイズの方法についてお聞きした。

駄菓子屋やファミコンが拠り所

ゲーム内容やアイコンがユニークですね
 パソコン向けのインディーゲームなどでは珍しくないと思うのですが、スマホ向けアプリではなかなかないかもしれません。やっている事と場所がずれてますね(笑)。
 僕の一番好きな世界観や雰囲気が、駄菓子屋やお祭りの屋台、縁日です。僕がゲームを作り始めたころのコンピュータ雑誌には、ページにところ狭しと詰め込まれたフリーウェア&シェアウェア紹介コーナーが必ずあって、それが駄菓子屋に並ぶお菓子に似ていると思っていたんです。自分もそういったページに参加したいと思いましたし、ファミコンを遊んで依頼ずっとゲームを作りたかったので、中学生のときにフリーウェアを作り始めました。
 現在のAppStoreやGoogle playにアプリがずらりと並んでいるのもまさにそういう感じですよね。

初めて作ったアプリは何ですか?
 不謹慎なんですけど、上から手榴弾がいっぱい飛んできてそれを右に左に避けるゲームです。当時はBASICで作っていました。

影響を受けた人や作品はありますか?
 ゲームだと、ここ数年ではイギリスのデベロッパー「Llamasoft(ラマソフト)」です。ラマという名の通り、キリンやヤギなど偶蹄目ばかりをテーマにしていて、実際にラマと暮らしながらプログラムされているそうです。そこのゲームが音や光がビカビカでどぎつくて、脳で遊ぶという感じなんです。

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香山氏をして「ヤバイ」と言わしめた酢だこさん太郎

 ゲーム以外では、やはりビックリマンや酢だこさん太郎といった駄菓子の影響を受けています。酢だこさん太郎って、響きがヤバイですよね(笑)。ああいうむちゃくちゃで意味がわからない、ルールも歴史もない感じが好きです。ハイカルチャーで歴史があって形式を大事にしてというのももちろんすばらしいですが、僕のマインドとしては、ずっと駄菓子屋やファミコンを拠り所にする小学生でいたいです。

学問的には何を専攻されましたか?
 専攻は生物学です。大学院では体内時計について研究していました。寝る~起きるの周期とか……全く(ゲームに)関係ないですが、自分の中では繋がっているんです。例えばビックリマンシールを集める行為は、博物学的なところがあって、生物は多様な種がいて、遺伝子の変異でバリエーションが出ていくという、プログラムの世界でも、例えばインベーダーやパックマンというオリジナルが出たらそのクローンがたくさん出ますよね。そういう(クローンによって発展していくゲームの)世界は好きですね。

本職は何ですか?
 わからないですよね(笑)。おそらく一般的に本職というと、時間や稼ぎが主たるものだと思います。僕の場合、時間はゲームや漫画を作ることに一番使っていて、稼ぎは受託も含めるとプログラムがメインかもしれません。営業的なことは苦手で、自分の作品を気に入ってくれた人が、どこかに就職して制作依頼してくれたり、ラッキーで生きています。 
 プログラム、出版、漫画、執筆、イラスト、デザイン、どれも専門でやっている人とは比べられません。いや、漫画は比較的できているかな? でもプロ意識はありません……それこそ小学生マインドなので(笑)。小学生は趣味とか仕事ではなくて、「やる」か「やらない」ですよね。僕も、やってるだけって感じです。

つい先日までは東京、今は神戸、近々にはベルリン……拠点を変える理由は何ですか?
 フリーランスの仕事が増えてきた頃に東京に来ました。それまでは日本のいろいろなところを転々としていましたが、日本には島という属性があるので、どこに行っても共通点が多く、自分に合わないと思っていたのですが、東日本大震災で一気にそれまでも思っていた海外志向が高まりました。今後は少しずつ海外へ拠点を移していこうと思っています。無理をせず楽しめる範囲で。

ベルリンはどんなところですか?
 ベルリンにこだわりがあるわけではないのですが、ヨーロッパでは芸術家の地位や、政治・社会に対する意識が高く、サラリーマンも個人が事業主というつもりで生きていて、そういう印象に共感できるからでしょうか。
 ベルリン以外にもポーランド、フランスのパリといった都市も回ってみたのですが、ベルリンは、ほとんどの人に英語が通じるのと、移民が多いせいか外国人に寛容ですね。労働力を得るためにトルコからの移民政策をしていたこともあって、トルコ人街があるのに中華街がないんです。ドイツでも地方では外国人に対して排斥的な人もいますがベルリンは居心地がいいですね。

プログラミングはユウラボに師事

ドグマブックスは出版社と考えてよろしいですか?
 はい。学生のときからドグマ出版という同人漫画みたいな活動をしていて、そこで「漫画少年ドグマ」という雑誌を作って、自分で自分の漫画に賞を出したら、何か仕事がもらえるのではないかと思ったんです。そうしたら本当に仕事が来たので、いい作家さんがいたら一緒に漫画を発表できる場として続けていました。
 もともとゲームも作っていたので、出版とゲームで屋号を分けなくていいかなと。ドグマブックスは海外のアプリを作るときに必要になったので、ドグマ出版を直訳したものです。

ランチパックの本を執筆されていますがお好きなんですね

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ランチパックの本(アストラ刊)。香山氏厳選の50種類が紹介されている

 あの「正方形で何種類もある」というのがビックリマンに通じていて好きです。

スマホアプリに参入したきっかけは何ですか?
 漫画少年ドグマの中で、アプリを作る連載をメディアミックスでやりたいなと思っていたんです。その企画をユウラボさん※に連絡したら快諾してもらえて。当時はプラットフォームはガラケーでしたが、僕はゲームのプログラムがほぼできなかったので、ユウラボさんに手伝ってもらっていたのですが、そのうちに「プログラムをやってみたらどう?」と言われて、しばらくはユウラボさんにいろいろ教えて頂きました。そうこうしているうちにグリーやモバゲーが流行り始めて、本格的にアプリに参入したのはそのときですね。
 ユウラボさんからは、技術はもちろん大事ですが「完成が第一」ということを強く教わりました。個人でアプリを開発している方はたくさんいますが、完成までもっていける人は本当に少ないと思います。ストアに並んでいるアプリは完成したからそこにあるわけで、その何倍ものアプリがリリースまで至らないんです。表現したいことがある、妥協はしたくない、となるといつまで経っても完成しません。だから自分はいいものができなくても、まずは完成させるというのを目標にしています。
 そして、個人開発者は稼ぎたい人ばかりではなくて、それぞれわけあり人生だったり、ドラマがあって、そういう人たちが希望を求めて集まってくるのがアプリストアのおもしろいところですよね。
 ※フェアルーン、ドランシアといった8ビット系本格RPGが人気のデベロッパー。ユニークなカジュアルゲームも多数リリースしている。

アプリは何人で作っていますか?
 今は僕がほぼ一人でやっています。家族や仲間にはテストプレイをお願いしています。

仲間とはどんな方ですか?
 普段はバラバラですが、ネットでやり取りしたり、ときどき合宿したり……僕と同じようなスタイルで活動している人たちがゆるく繋がっている感じです。こうしておけば、大口の注文も手分けして受けられるんです。報酬は成果によって配分していますので、会社勤めや期間の決まったプロジェクトでなくても、コンスタントに入ってくる小さな収入で、みんなが作家活動を続けられています。
 彼らのほとんどが僕の出版していた漫画などを読んでくれていて、作家的な活動をしていました。漫画少年ドグマの漫画賞に応募してくれた人が実はゲームを作っていたり、という感じで広がっていきました。
 雑誌に集まってくる人たちにはどこか共通点があって、だいたい人格も作風で束ねられているというか、広く社会全体から見れば性格も似ているので協力もしやすいです。

漫画の連載はAPPREVIEWでもやってみたいです
 全くのプログラム初心者が絵だけで進めていく“夢のアプリ”みたいな企画とか、読んでみたいです。そういう人の方が実作業にとらわれることがないので、いいアイデアが出せそうです。僕なんかはやはり実装の工数を考えてしまいますからね。例えばボタンを押すエフェクトでも、光って終わりではなく、キラキラの粉が出てそれがずっとモヤモヤ出続けてるとか……面倒ですね(笑)。

ドグマ出版としてアプリへのこだわりはありますか?
 無いかもしれないです(笑)。本当に個人が家でやっている日曜大工を公開しているようなものですから。『エンカウント将棋』などはまさにそれで、このゲームは、仲間内でプログラムの技術を鍛えるためにやっている「クソゲー大会」から生まれました。クソゲー大会はいわゆるゲームジャムなんですけど、ある日の朝からスカイプで参加者を繋いで、テーマを1つ決めてその日の夜までに作る。夜になったら、お菓子を食べながらお互いにできたゲームを遊んでみて、ワイワイ言う合うという。その時作ったものを試しにリリースしたので、『エンカウント将棋』の★2という評価はある意味すごく安心しています。
 アプリは出してみないと分からない、もしかしたら気に入ってくれる人もいるかも、失敗作から学べることも多いということで、自分で気に入ったものも、気に入っていないものも全部公開して見てもらうようにしています。
 僕の場合、制作物きっかけで友達ができるのも貴重なので、一緒に楽しんでいきたいというのもありますね。

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今生きていることが費用を回収できている証拠

開発環境を教えてください
 基本的にはMacを使っています。外国へ行く時はノートPC1台です。ここ数年は絵をPhotoshop、音を色んな声や楽器、プログラムはFlashでおこなっています。

アプリストアへの不満などはありませんね?
 不満は特に無いですし、これからも続けて欲しいです。これまで会社を通じてしか出せなかったものが、それこそ駄菓子屋のようにアプリを並べて直接ユーザーに届けられる……こんなにありがたいことはありません。
 『利子98階』は、アジアでのダウンロード数が思っていたよりは多かったんですけど、海外の方に自分のアプリを簡単に遊んでもらえるのもアプリストアのおかげですよね。
 そういえば、その時に日本の英語教育レベルの高さを痛感したんです。僕の英語力を支えているのは、中学と高校で真面目に覚えた単語だけなので。よく「How are you?」「And you?」はネイティブは使わないから間違いといった豆知識がありますよね? そんなの本当にどうでもよくて、How are youを知っている、アルファベットに馴染みがあるというだけで非常にラッキーだと思います。

ストアのレビューを見たりTwitterのエゴサーチはしますか?
 褒めてもらうのが好きですし、おだてられるとすごく創作意欲が湧くので、たまに見ます。一人でアプリを作っていると落ち込むことの方が多いですし。比べても仕方ないのですが、スプラトゥーンすごい!とか、先日映画館でマッドマックスを見て落ち込んで、エンドロールの人数の多さで冷静に戻ったり……やはり圧倒的でしたね。

マネタイズはどうしていますか?
 今、自分たちがやりたいことは、アイテム課金などではなくて、パッケージゲームのように製品として買い切りでいくらというものです。無料版は、動作テストをせずに買って頂くのは怖いので、お試しができるように公開しているものです。
 広告モデルも試してみたのですが、没入感がすごく減るので、自分のアプリに広告は表示したくないです。昔あった、ブラウザで遊ぶFLASHゲームみたいに、四辺をバナー広告で囲まれている状態は、逆に風情がありますよね(笑)。広告だらけの状態って、煌びやかで、高揚感があって、トリップする感じで、僕は好きです。
 僕はどんなにマイナーなことをやっていても突き詰めれば1,000人は好きでいてくれる人がいると思っています。同人漫画などもまさにそうですし、無理にプロモーションをしたり、載せたくない広告バナーでチャリンチャリン稼ぐよりは、しっかりと1,000人に喜んでもらえるものを作って、楽しんだお代を気持ちよく払ってもらうという関係が一番好きです。
 僕のアプリは普通のアプリのモデルでは成り立たないのですが、例えば気持ち悪いキャラクターにすれば、レビューサイトが取り上げてくれたりしますので、結果的にはそれがプロモーションになっているかもしれないですね。
 ちなみに利子98階はまだ数千ダウンロード、数年前に出した利子20階でも10万ダウンロードくらいだと思います。

開発費用の回収は考えていないのでしょうか?
 回収額はわからないし、赤字でもいいくらいです。アプリ開発にかかる費用は、自分が市販のゲームで遊ぶよりはるかに安い。ハードとソフトを揃えるお金があったら何本ゲームを作れるか……こんなにおもしろいゲームはないって感じです。
 ゲームを作っている間にも、たまに別の受託案件をやっていたりするので、その間の生活費はペイできていると思います。その日を赤字にしない、つまり今生きていることが回収できている証拠ですね(笑)。

スノードームのようなアプリを目指して

今一番やりたいことは何ですか?
 いろいろやっていますが、ゲーム作りが一番やりたいことかもしれません。ゲームは、映像や音、脚本、デザイン……すべてが合わさった総合芸術です。そんな中でスマホアプリのサイズ感はすごく好きです。
 僕の理想のアプリを民芸品に例えるとスノードームです。飾っておくだけ=アイコンを置いておいてもいいし、たまに起動していじってみてもいいし、友達に見せてもいい。デジタルでもアナログでも、そういった民芸品みたいなものを作り続けたいですね。アプリでは、まだスノードームに達せていないので、それに近づけるまでの完成の回数がまだ必要です。

これは完璧にできたという感覚は今までにありましたか?
 漫画では、始めてから4~5年経ったころにできるようになったんです。なので、何回完成させれば納得できるものになるかは、何となく分かっています。アプリであれば、あと4本以内にできると思います。いつも、次は必ずという気持ちでやっています。

リリース予定はありますか?
 2本くらいを並行して作っています。それも5年前からやっていますが(笑)、10代のころから作りたいものはたくさんあるんですよね。その中から、まずはアプリに適したものを選抜し、今やるべきものを見極める。取材を進められるもの……今なら神戸での取材が必要な源平合戦をテーマにしたゲームを進められますね。神戸には、合戦跡がたくさんあるんです。関西から壇ノ浦にかけては、平氏が一気に負け始める、アツいエリアですからね。

APPREVIEWの読者へメッセージを
 自分たちがやっているものは、全員が好きになるものではないので、友達にこういうのが好きそうな人がいたらぜひ紹介してください(笑)。

香山氏よりスペシャルプレゼント!

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利子98階と大ラビットぼうやのオリジナルポストカードもセットでお届け!

 インタビューを最後まで読んでくれた皆さんの中から2名様に香山氏が執筆したランチパックの本をプレゼント。応募の締め切りは2015年7月20日。当選者の発表は、ダイレクトメッセージでの通知を持って代えさせて頂くので、APPREVIEWのTwitterアカウントを忘れずにフォローしておこう。

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▼参考リンク
香山哲氏のサイト
ランチパックの本のホームページ
Llamasoft

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