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無料ゲーム総合1位獲得記念『彼女は最後にそう言った』SYUPRO-DX 横田純氏インタビュー

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by [2015年5月28日]

ss005 2015年5月19日、SYUPRO-DXが送る涙腺崩壊アドベンチャー『彼女は最後にそう言った』がApp Storeの無料ゲームカテゴリで見事総合1位を獲得しました。


 前作『奴は四天王の中で最も金持ち』でつきつけられた課題をすべて克服し、大きく進化したSYUPRO-DX。シナリオ担当の横田純氏に再度ご登場願い、『彼女は最後にそう言った』の制作秘話を伺いました。

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2015年 5月リリース 『彼女は最後にそう言った』(以下、彼女は最後に)
2014年12月リリース 『奴は四天王の中で最も金持ち』(以下、四天王)
2013年 5月リリース 『あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね』(以下、ドブネズミ)

──『彼女は最後にそう言った』App Store総合1位ランクインおめでとうございます。ご感想をどうぞ
 ありがとうございます。ただただ、うれしいです。
 たくさんの人に届くものを作ろう! と思いながら制作していたので、それが実現できて感無量です。

──ストアの順位が上がり始めたきっかけを教えてください

1位を獲得した日の評価とレビュー。ほとんどが☆5という驚異的な数字を叩き出した

1位を獲得した日の評価とレビュー。ほとんどが☆5という驚異的な数字を叩き出した

 ありがたいことに『ドブネズミ』『四天王』をリリースした頃からいろいろなレビューサイトで取り上げていただけるようになり、本作もリリース直後からたくさんレビューを書いていただいて、じわじわダウンロード数が伸びていました。

 順位が爆発的に上がる決定的な要因となったのは、人気実況プレイヤー・最終兵器俺達のキヨさんが『彼女は最後に』の実況動画を投稿してくれたことでした。その動画をきっかけにダウンロードが急増し、プレイしてくれた方々がTwitterで「泣いた」「感動した」等のコメントを添えて実績をシェアしてくれたことでポジティブなイメージを伴った連鎖が生まれて、またたく間に広がっていきました。

──『四天王』で浜中さんが作られた簡易RPGツクールのようなシステムは、『彼女は最後に』でどのように役に立ちましたか? 実制作期間を教えてください
 プロット・シナリオ制作に1ヶ月。マップやキャラクターのグラフィックに1ヶ月。イベントの配置に1ヶ月といったところです。その他もろもろの細かい作業をするのにもう1ヶ月ほどかかったので、全部で4ヶ月くらいですね。

 プログラム担当の浜中はぼくがシナリオやグラフィックの制作をしている間、ずっとシステムの改良や機能追加をしてくれていまして、『四天王』の時にはできなかったことがいくつもできるようになりました。
ss001 たとえばBGMのフェードイン・フェードアウトや、イベントが発生しているキャラクターの上にフキダシを出しっぱなしにする機能など、数え上げればキリがありません。しかも浜中はぼくが書いたシナリオのプロットをざっと読んで「こういう機能、必要だろうな」と自分で判断してくれて、ぼくの知らない間に「作っといたからー」って突然機能が増えているという感じだったんですよね。追加した機能を浜中が「これはこういう事ができるんだけど……」って毎回説明してくれるんですけど、ぼくは毎回それが何に使う機能なのか全然わからないんですよ。でも説明を聞いていって、実際イベントを作る作業に入ってみると「うおー! この追加してくれた機能すごいよ! これ最高だよ!」ってなりまして、それは結果的に『彼女は最後に』を作るにあたって絶対なくてはならなかった機能だったということがあって、本当に心強かったですね。言わなくても伝わるというか、なにも言ってないのに必要なものをちょっと多めに用意しておいてくれるというか。そういうことが『彼女は最後に』を制作している間に何度もありました。

──『四天王』は40ページぐらいだったそうですが、『彼女は最後に』のプロットはどのくらいになりましたか?
 簡単な設定と、ざっくり話の流れだけ書いてあるプロットが10ページ。シナリオの流れに沿って細かいセリフまで書いたものが90ページくらいです。ぼくは演劇の脚本もゲームのシナリオもテキストエディタに横書きで書くんですが、A4の紙にめいっぱい文字を詰めて印刷するとそのぐらいの枚数になります。
 クリアまでのプレイ時間が6時間~8時間くらいかかる『四天王』が40ページだったことを考えると量が多い感じがしますが、文章を読んでシナリオを追っていくというゲームの性質上、やはりこのくらいにはなってしまうかと思います。
 このあとテキストファイルに書かれた完成版シナリオをもとに、浜中が制作した簡易RPGツクールシステムを使ってイベントを作っていきます。

必見! 横田純氏のシナリオ管理

Googleスプレッドシートで細かく管理されている

Googleスプレッドシートで細かく管理されている

 これがそのシステムの作業画面になります。これは一体なんなのかというと「Googleスプレッドシートに命令を書き込んでいくことで、プログラムができない人間でもゲームが作れちゃう」というものです。
 たとえば「#メッセージ」と書けばメッセージウィンドウに文字が表示されますし、「#移動」と書いてマップの座標を指定すればキャラクターがそこに移動する……という感じです。ぼくは一切プログラムができませんが、これを使えば「このセリフが表示されたらBGMをフェードアウトさせて、主人公をこの場所までゆっくり歩かせた後、いきなり画面が真っ暗になって効果音が鳴る!」みたいなことが自由にできるわけです。データが完成したらスプレッドシートをCSVとして出力して、プログラムに流し込む……という手順でゲームを作っています。

──夏休み、田舎、閉鎖空間、よみがえり……こういったモチーフを選ばれた理由は?
ss005 2年ほど前、劇団(MacGuffins)の公演のためにループものの脚本を書いたことがありました。そのとき使わなかった「山奥の村の不思議な祭の夜に、死んだ同級生から手紙がくるところから始まるループもの」というアイディアを今回使おうと思いました。なので、「死んだ同級生から手紙がくるとしたらどんな状況か?」「不思議な祭ってどんな祭か?」という点に気をつけ、「祭といえば夏から秋にかけて行われることが多いよな」「田舎には変わった風習があったりするよな」「そういえば昔行ったお祭の記憶ってなんだか心に残ってるな」……というところから話を広げていきました。

 最初にとりかかったのは「村」と「祭」の名前の設定です。祭、死者、幽霊、夏……という漠然としたキーワードからイメージに合う村の名前を探っていって「待宵(まつよい)」という言葉にたどり着きました。「待宵」は陰暦8月14日の夜、翌日の十五夜の月を待つ宵という意味の他に、来るはずの人を待つ宵という意味があることを知り、死者がどこかで待っているような情景を想起させるこの言葉がしっくりきました。(※1)
 死者との一期一会を描くなら……ということで、祭の名前は「うたかた祭」に決めました。「うたかた」(※2)は、はかなく消えやすいものという意味があり、物語の根幹を支えるイメージとうまく結びついたためです。

ss001 ゲーム中に出てくるゴルフ場や過疎化した村のイメージは、ぼくの祖父母の家が山奥にあったことがかなり大きなウエイトを占めています。家のまわりにはお店がなにもなくて、自動販売機ですら1kmぐらい先。家と家との距離がとにかく広くて、高い場所に家が建っているせいで見晴らしはいいんですが、夜は本当に真っ暗になるのでなにも見えなくなるんです。夏に外に出ればカブトムシやクワガタがわんさか取れて、昼間はとにかくセミがうるさくて、夜になると聞いたこともないような何かの鳴き声が聞こえてきて……という「楽しいけどちょっと怖い田舎」のイメージが心の中に焼きついていたので、それが『彼女は最後に』に色濃く出ています。

 そんな田舎に、あるとき本当にゴルフ場ができたんです。山の形が見るからに変わってしまって、コンクリート打ちっぱなしみたいなグレーの大きな壁ができて……たぶんその壁の向こうがゴルフ場なんでしょうけど、ゴルフ場そのものは壁に隠れて見えないんです。でも、ゴルフ場ができた頃から「なんだかセミが去年より静かじゃないか?」とか「前はあんなにカブトムシ取れたのに今は全然いなくなったよね?」とか、子供ながらに体感でわかる明らかな変化があって、それがなんだかさみしかったんですよね。
 どうしてゴルフ場ができたのかも、そのあたりに住んでる人たちがゴルフ場をどう思ってるかもぼくは全然知りません。ゴルフ場を作らなきゃいけない理由があったのかもしれないし、ただ誰かが作りたいから作っただけなのかもしれない。でも、できちゃったものはできちゃったんだから、その変化は受け入れないといけない。時間が経ったら人も場所も変わっていくのは当たり前だし、ずっと同じものはないってわかってるんですけど、やっぱり変わっていくってことは少なからず「さみしさ」みたいなものを伴うよな、というところが『彼女は最後に』の深い部分を支配している気がします。

【編注】
(※1)旧暦。太陰太陽暦。月の満ち欠けでカレンダーが決まる。十五夜の月=毎月15日の月=満月(望月)。待宵月=毎月14日の月。ちなみに現在の新暦8月15日のお盆は、旧暦だと7月15日ごろに相当する。
(※2)漢字で書くと「泡沫」

──『AIR』や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(あの花)系と評されていますが、それらの作品をご覧になったことは?
 SYUPRO-DXメンバーの浜中、入間川の二人はあまりアドベンチャーゲームをやらないようなのですが、『AIR』(※3)だけ唯一3人ともやっていたアドベンチャーゲームだったので、『彼女は最後に』を制作するときイメージ共有のためによく名前が出ました。『あの花』は最初の2話ぐらいしか見ていなくて、あらすじだけなんとなく知っているような状態です。

 それとは別に『彼女は最後に』のユーザーレビューを見てびっくりしたんですが、『カゲロウプロジェクト』の登場人物の名前(シンタロー、アヤノ)と、「8月14日がループする」という設定がモロにカブってしまっていたんです。これはぼくが不勉強で、まったく知らずに正面衝突を起こした形になってしまったので、わかった時にはちょっと落ち込みました。『カゲロウプロジェクト』が好きな方にしてみればただパクったみたいに見えて当然なので、作者やファンの方々にも申し訳ないです。「8月14日がループする」という設定は「待宵(陰暦8月14日の夜)」という言葉から取っているのでちょっと変えるのは難しいですが、シンタローとアヤノという名前の組み合わせは『カゲロウプロジェクト』を知っていたら違う名前にしていたと思います。ちなみに『彼女は最後に』の主人公・シンタローの名前は、子供の頃から大好きな『南国少年パプワくん』のシンタローから取りました。(参考画像

 『彼女は最後に』のシナリオを詰めるにあたって、一番最初に参考にしたのは『金田一少年の事件簿』の『雪影村殺人事件』(※4)なんです。金田一が中学の時に2週間だけ滞在した東北の雪影村で起こる事件でして、当時のクラスメイトが死んでしまったという連絡を受けて、葬儀に出席するために金田一が5年ぶりに雪影村を訪れる……という話です。雪影村に存在する奇妙な風習や、5年前のクラスメイトは5年前のまんまじゃないという時間の流れを感じさせる描写は『彼女は最後に』を制作する上で相当参考になりました。

ss004 時間ループ関連でいえば、『彼女は最後に』で章が終わるごとにタイトルロゴが表示される演出は、アニメ版『四畳半神話体系』の各話の最後で時計が巻き戻る演出から影響を受けています。森見登美彦作品では他にも『宵山万華鏡』という連作短編集が素晴らしく、「祭の夜に迷い込む」「祭の夜がくり返している」という不気味で不思議な雰囲気が見事に表現されています。映画では『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の影響が最も強く、『恋はデジャ・ヴ』『時をかける少女』などが後に続きます。最も意識していたのは『あの花』ではなく『サマーウォーズ』でして、そう思って見ればナナミは夏希先輩に見えてきませんか? ちなみにナナミの名前は『スーパーダンガンロンパ2』の七海千秋から取っています。(参考画像

全部お話しすると本当にキリがないのでやめておきますが、シナリオに関しても登場人物に関しても、数限りないオマージュとリスペクトが至るところにあり、ぼくが今まで見てきたものや触れてきたものを全部ミキサーにかけたら『彼女は最後に』ができました、という感じです。

【編注】
(※3)美少女ゲーム業界で「泣きゲー」というジャンルを築き上げた『Key』の作品。鄙びた海辺の田舎町を舞台にした切ない恋愛ADV。京都アニメーションによりアニメ化されている。主題歌の『鳥の詩』はネット上で「国歌」と言われるほど大ヒットした。
(※4)ファイル23(Case4)。講談社漫画文庫版File23(第23巻収録)

──ミニゲームがたくさんありますが、本編を作ってからつけたしたのでしょうか。それとも制作中に思いついたことを盛り込んだのでしょうか?
ss002 「お願いごと」のミニゲームはシナリオを書いた時点では存在しませんでした。メインのストーリーとは別に村人のセリフを作っていく段階で入れていきました。特に「死語部」に関しては「死者が祭の夜にもどってくる」という設定とうまくリンクしたので、土壇場でいいの思いついたなあとホッとしています。

──『四天王』『ドブネズミ』など過去作への影響はいかがですか?
影響はものすごく大きかったです。
 ありがたいことに『彼女は最後に』をクリアした多く方々が『四天王』『ドブネズミ』も続けてプレイしてくださり、ランキングが急上昇しました。二つともロールプレイング・アドベンチャーカテゴリのかなり上位まで返り咲き、ゲーム総合ランキングにも再度ランクインするほどでした。感謝感謝です。

──ところで『いさましメモリアル 〜我が伝説に一片の悔い無し』はその後いかがですか?(笑)
 完全に凍結しています。(笑)
 以前のインタビューで「パワプロのサクセスみたいなシステムの学園勇者もの『いさましメモリアル』っていうのを作ろうと思ってます!」とお伝えしたと思うんですが、そのときは『実況パワフルプロ野球』のアプリが出てるのを知らなかったんですよ。あのインタビューのあとパワプロのアプリが出ていることに気づいて、遊んでみたらものすごく完成度が高かったので「サクセスみたいなシステムで作るのはダメだ!」と、かなり大幅な企画の修正を行ったんですが、紆余曲折を経て「『いさましメモリアル』、今はやめとこう」となりました。その結果生まれたのが『彼女は最後に』なので、今にしてみれば(KONAMIが)パワプロのアプリを出してくれてよかったです。

──気が早いのですが次回作のご予定は?
 『彼女は最後に』のシステムをベースに、新しいアドベンチャーゲームの構想を練っています。まだ発表できる段階ではないのですが、それ以外にもいろいろ水面下で動いているプロジェクトがあるので、今年中になんらかのニュースをお届けできればと思っています。

──小説版『ドブネズミ』の売れ行きはいかがですか?
 今年2月に発売して、増刷がかかったというお話は聞いていないので……皆さん、ぜひ買ってください!ゲームをやっていなくても楽しめるとAmazonでコメントをいただいております!

──本日はありがとうございました

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