「えくしみえむ」さんの標準搭載メモリ交換済みX68000 XVIの動作デモ懐かしいシューティングゲーム「COTTON」がプレイアブルであった。

残されたものたちの生存戦略~マイコン・インフィニット☆黄金週間PRO-68Kの展示から~メモリ編

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by [2015年5月28日]

「ホビーパソコン友の会」さんの出展品書籍『懐かしのホビーパソコンガイドブック』掲載機種の実機が展示されていた。

「ホビーパソコン友の会」さんの出展品
書籍『懐かしのホビーパソコンガイドブック』掲載機種の実機が展示されていた。

電子機器一般に言えることですが、あるメーカーによる特定の製品シリーズがその開発生産販売を終了する場合に、一番困るのはその製品シリーズ専用の消耗品やオプションパーツ、あるいは修理用サプライパーツの供給が途絶えてしまうことです。

ことに、1980年代から1990年代にかけて日本のメーカー各社が開発製造を行っていた独自規格パソコン群では、汎用品を使用していたCPUを除くとそのほとんどの部品がそれぞれのメーカーの独自規格設計となっており、生産打ち切り後8年以上が確実に経過した現在では、メーカーに依頼してもまず修理してもらえず、現役当時には当たり前に入手できた周辺機器やオプションパーツ、あるいは消耗品も入手が困難になっており、次第に可動状態を維持するのが難しくなってきています。

そのため、例えば増設メモリが欲しい、あるいは消耗品が欲しい、となるともうネットオークションで落札するくらいしか入手の手段が残っていません。

こうした事情と状況から、必要は発明の母というべきか、それとも「無ければ作る」の精神の発露というべきか、最近は基板設計製作の低コスト・容易化を受けていわゆる「同人ハード」として、こうした古いパソコンの入手困難な専用パーツや、あるいは現役当時には存在しなかった規格の機器へ対応させるための変換パーツなどを個人で自作してしまうことで問題の解決を図ろうという動きが増えてきています。

そうした機器の中には、単純に古い機種を復活・強化させるものばかりでなく、より普遍的な形で過去の資産を生かそうということで、今のパソコンでこの当時の機種のためのソフトウェア資産や一部のハードウェア資産を利用・活用させるためのものも作られています。

5月4日に秋葉原で開催された「マイコン・インフィニット☆黄金週間PRO-68K」ではそうした様々な機器が出展されていました。

あいにく会場が大混雑していたため、また筆者の入場した時間帯が遅かったため、全ブースをご紹介することができないのですが、今回はそうした「昔のパソコン資産を今に生かす」出展を中心に、いわゆる「レトロPC」を今使うために何が必要なのかを探ってみたいと思います。

やはりメモリはフル実装したい

「えくしみえむ」さんのX68000 XVI・Compact用自作内蔵メモリボード

「えくしみえむ」さんのX68000 XVI・Compact用自作内蔵メモリボード

今回の出展の中で、筆者が特に注目したのが、サークル名「えくしみえむ」さんのX68000 XVI・Compact用自作内蔵メモリボードです。

実はX68000 XVIシリーズおよび同世代の3.5インチフロッピードライブ搭載小型モデルであるX68000 Compactシリーズは、 性能をフルに発揮できる増設メモリの入手に難のあった機種でした。というのは、これらのシリーズでは増設メモリとしてまずCZ-6BE2A(X68000 XVI用:59,800円)あるいはCZ-6BE2D(X68000 Compact用:54,800円)という容量2MBの専用設計モジュールを搭載し、それらの上にCZ-6BE2B(54,800円)という容量2MBのモジュールを2枚搭載して本体の2MBメモリと合わせて合計8MBを16MHz駆動で増設し、さらに4MB分を拡張スロットに挿すタイプの10MHz駆動メモリボードで増設する、といういささか変則的な構成となっていたためです。

つまり、本体がハードディスクなしのモデル(CZ-634C-TN)で368,000円のところ、たった6MBのメモリ増設だけで大方本体価格の半分近くになるという凄まじい価格設定になっていたのです。

同時代の他社のハイエンドパソコン、例えばNECのPC-H98シリーズ用のメモリボードであるPC-H98-B02は同じメモリ容量2MBで120,000円もしましたから、それからすれば安くはあったのですが、当時としても絶句するほか無い、もの凄いお値段だったPC-H98の本体価格を勘案すると割高であったことは否定できません。

こうした事情から、現役当時には標準搭載のメモリで我慢する、あるいは性能が出ないのを承知で安い拡張スロット用メモリボードを利用する、などの回避策を採るユーザーが多数を占めていました。

純正メモリモジュールの高価格設定は、実はX68000 XVI・Compact・X68030の各シリーズのメインメモリが、スタティックカラムモードDRAMという特殊なアクセスモードを備えたDRAMチップを採用していたのが一因でした。

DDR4 SDRAMが一般化し始めている昨今、もうこんなタイプのDRAMにお目にかかる機会はほぼないのですが、1990年代初頭の時期にはこの方式を含む3方式の非同期DRAMが市場の覇権を争っていました。後の説明の都合もありますので、ここではそれら3方式について簡単に触れておきます。

非同期DRAM三国志

一般にメモリでは方式や種類によらずデータを記録する1単位ごとに特定の番地(アドレス)を与え、その番地にあるデータを読み書きする場合には実際のデータ読み書きに先だって、まずその番地を指定する作業が行われます。

この番地は一般に行アドレス(Row Adress)と列アドレス(Column Address)という形で2次元の座標系として表現され、DRAMの場合はまず行アドレスを送信してから次に列アドレスを送信するという手順を踏むことで、アドレスのやりとりに用いるアドレスバスの幅を一発で全アドレスを送受信するSRAMなどの半分で済ませるようになっています。

つまり、DRAMは回路的に安上がりなもののデータの読み書きの際にアドレスデータ送受信にSRAMの倍の時間がかかるということで、この遅延時間(レイテンシ)が大きな負担となります。

しかも、最初期のDRAMの場合、データ1単位を読み書きする度に行アドレスと列アドレスを毎回律儀に送受信していたため、レイテンシが非常に大きくなっていました。

そのため、このレイテンシを削減するのが非同期DRAM改良・高速化の重要な目標となり、1980年代後半から1990年代初頭の頃には主として高速ページモードDRAM(Fast Page Mode DRAM)、ニブルモードDRAM(Nibble Mode DRAM)、それにスタティックカラムモードDRAM(Static Column Mode DRAM)という3つの高速動作モードを備えた非同期DRAMが開発・製品化され覇権を争っていました。

これらはいずれも、メモリアクセスでは連続した領域を読み書きするケースが多いことに注目して、連続アクセス時に行アドレスや列アドレスの送信を省くことでメモリアクセス全体の高速化を図ろうというものです。

この内、高速ページモードDRAMは、行アドレス(ページ)が変わらない間は行アドレス指定(RoW Address Strobe:RAS)信号の発行を省き、列アドレス指定(Column Address Strobe:CAS)信号だけを順番に発行してゆくことで(1ページ分の発行回数-1)回のRAS信号の発行を省いてこれによるレイテンシを削減し高速化しようというものです。この方式は仕組みが比較的単純で安上がりな割に効果が大きかったことから、この時の非同期DRAM覇権競争の勝者となりました。もっとも、改良型のEDO DRAM(Extended Data Out DRAM)が早い時期に普及したこともあってこのタイプのDRAMは廃れ、現在ではほとんど利用されていません。

次のニブルモードDRAMは、基本的には高速ページモードDRAMと同様な動作をするのですが、チップ上の出力回路付近に4ビット(これをニブルと呼びます)単位の小規模なバッファ回路を持っていて、連続アクセス時にはこのラッチ回路にいったん読み出されたデータを順次出力することで高速化していました。つまり、この方式のDRAMは連続アクセス時にCASのレイテンシが高速ページモードDRAM比でおおむね1/4となります。この方式はかかる手間とコストの割に効果が薄く、ほとんど利用されませんでした。

最後のスタティックカラムモードDRAMは1ページ分のSRAMをチップに内蔵してあるのが特徴です。これにより連続データ読み出し時には最初にRAS信号を発行するとその時点で1ページ分のデータがDRAM領域からSRAMにコピーされ、後はCASが固定状態(スタティック)のままでデータだけがページの終わりまで連続的に出力されるようになっていました。この動作を1ページごとに繰り返すためこの方式は同一クロック周波数ならば3方式中で最も高速な動作が可能です。

その反面、この方式はSRAMを内蔵するため他の2方式よりも高コストになるという問題がありました。そのため国産パソコンだとシャープのX68000 XVI・CompactシリーズとX68030シリーズに採用されたのみ、さらにこのDRAM本来の動作モードで利用したのはX68030シリーズだけに終わりました。

入手難のスタティックカラムモードDRAMを高速ページモードDRAMで置き換える

今回ご紹介する「えくしみえむ」さんのX68000 XVI・Compact用自作内蔵メモリボードは、シャープ純正のCZ-6BE2A・CZ-6BE2B・CZ-6BE2D(およびこれらを搭載するX68000 XVI・Compactシリーズ)が入手性の悪いスタティックカラムモードDRAMを搭載しながら実際には普通の非同期DRAMとしてしか利用していなかった(※注1)ことを逆手にとって、搭載メモリチップを現在でも入手の比較的容易な高速ページモードDRAMに置き換え、これを普通の非同期DRAMとして動作させる様に設計された互換品です。

 ※注1:どうやら1990年当時、16MHzでノーウェイト駆動の通常タイプ非同期DRAMの調達が難しかったため、16MHz駆動対応品があって通常モードでのアクセスも可能であったスタティックカラムモードDRAMが採用されたようです。

「えくしみえむ」さんの標準搭載メモリ交換済みX68000 XVIの動作デモシューティングゲーム「COTTON」がプレイアブルであった。

「えくしみえむ」さんの標準搭載メモリ交換済みX68000 XVIの動作デモ
シューティングゲーム「COTTON」がプレイアブルであった。

なお、X68000 XVI本体のオンボードメモリを全て高速ページモードDRAMに交換することも可能の由で、会場に持ち込まれ展示されたX68000 XVIにそうした改造が施されていました。

こうして単純にメモリチップ交換を行ってもそれだけで高速ページモード動作させられるわけではないのですが、ともあれこれはX68000 XVIのメインメモリがスタティックカラムモードで動作していた訳ではないことの証明にはなるわけです。

次回は、FM音源について見ていきたいと思います。

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