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ゲーム音楽で人の心を動かすバンドマン ~ SYUPRO-DX 入間川幸成氏インタビュー

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by [2015年5月27日]

 SYUPRO-DXは、大ヒット中の号泣アドベンチャー『彼女は最後にそう言った』をはじめとする8ビット系ゲームアプリで、ユーザーから絶大な支持を集めているデベロッパーだ。彼らが作るアプリに対しては、ゲームシステム、シナリオはもちろんだが、音楽を評価する声も非常に多い。

メインテーマが神曲~初めて聴いた時、もう鳥肌が止まりませんでした
シーンとBGMが合いすぎて泣きまくりました
感動… BGMが優しくて癒されました
(Google playのレビューより)

 今回はこれまでベールに包まれていたSYUPRO-DXのコンポーザー、入間川幸成氏をお迎えして、音楽歴や制作環境、SYUPRO-DXのゲームの魅力についてお話を伺った。

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Riverside Creatureではボーカル&ギターを務める入間川氏

このインタビューの登場人物
入間川幸成氏 SYUPRO-DXのコンポーザー。3ピースバンド『Riverside Creature』としても活動中。埼玉県出身
浜中剛氏 SYUPRO-DXのプログラマー。入間川氏とは小学校、中学校時代の同級生
横田純氏 SYUPRO-DXの脚本家、広報。四天王リリース時にはインタビューにご登場頂いた

▼関連記事(SYUPRO-DXのゲームアプリ)
2015年 5月リリース 彼女は最後にそう言った(以下、彼女は最後に)
2014年12月リリース 奴は四天王の中で最も金持ち(以下、四天王)
2013年 5月リリース あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね(以下、ドブネズミ)

作曲大好きバンドマン

音楽を始めたきっかけは何ですか?
 小学校に入る前、兄と姉の影響でヤマハ音楽教室のエレクトーンを習い始めました。その後小学校5年生のときに家にあったクラシックギターを始めるんですけど、その流れでロック、歌謡曲、さらにはファイナルファンタジーIVのBGMをエレクトーンの先生にやりたいと言って。やらされる知らない曲よりもやりたい曲を弾いて……エレクトーンにハマったのはその時です。

バンドを始めたのはいつですか?
 ギターも並行して練習していて、中学校に入ったときに友人を誘ってバンドを組みました。小中と同じだった浜中とも一緒にバンドをやりました。
 高校では軽音楽部で、ひたすらギターが主役のロックをやって、音楽で生きていこうかなというのはたぶんその頃までに決めていた気がします。
 大学ではジャズ研に入ったのですが、ジャズは即興演奏がメインなので、引き出しの無いロック小僧は、かなり痛い目を見ました(笑)。それでも何とかジャズのテイストを吸収して、僕はジャズ研の中ではフュージョンバンドをよくやっていました。もともと大学には「うまいやつに会いに行く」という動機で行ったんです。僕は“学歴が高い方が楽器がうまい”という謎の仮説を持っていて、高校の頃に進学校の人とバンドをやったんですけどメチャクチャうまいんです。それは今でもそんなに間違っていないと思っています。勉強をそつなくこなせる人は、芸事の勘所をつかむのもうまいはずなので。

DTMを取り入れたのはいつですか?
 就活では「豊かに暮らしていきたい」と思っていて内定も頂いたのですが、一段落して暇になったときにDTMを始めたんです。それまでもMTRで多重録音して1人で曲を作っていましたが「パソコンでやるとできることが増えるらしい」と、Macを買ってGarageBandで遊んでLogicを買ってとやっていたら、曲作り、楽器演奏ってやはりおもしろいんですよね。
 それで、内定を辞退してサウンドクリエイターを目指して選考を受けまくったんですが全部落ちました。就職浪人をしていたある時、昔のバンド仲間と「何やってんの?」「何もしてないよ」「じゃあ飲もうぜ」「バンドでもやるか」ということで結成したのが今のバンド『Riverside Creature』です。

なぜゲーム音楽を手がけるように?
 Riverside Creatureのライブに、浜中が「曲作ってバンドやってんだって?」と見に来てくれたことがありました。そこで「俺ゲーム作ってんだけどBGM作ってくれない?」と誘われて、ゲーム音楽を作り始めました。

現在メインの活動はバンドですか?
 はい、明けても暮れてもバンドですが、運営費やツアーの交通費をバンドの活動だけでは捻出できないので、アルバイトをしながらまわしています。ちなみにアプリ関係の仕事はSYUPRO-DXのみです。

収入の割合は?
 バイト最強です。バンドはワーストというかマイナスです。バンドで足が出た分は、バイトの収入を補填していく感じです。CDがちゃんと売れたときはトントンくらい。次にSYU-PROの収入で、あとは請け負いのオケ製作等ですね。
 SYUPRO-DXの音楽は1曲いくら、という形で作っています。今後は一緒にやっていこうよという話もしているんです。彼らからは貢献度が高かったという評価をもらえましたし、僕もゲームを作っていきたいと思っています。今回の『彼女は最後に』が転機になるかもしれませんね。

バンドとゲーム音楽制作はどう両立させますか?
 イメージ的には、入間川という曲を作る音楽大好きな人が、バンドに曲を書いているときと、ゲームに曲を書いているときがあるというのが、僕の中ではすっきりします。よくよく自分と問答を繰り返すと、僕はバンドが好きなバンドマンというよりは、曲作りが好きなバンドマンみたいです。

音楽的なバックグラウンドを教えてください
 家では、母が好きだったサイモン&ガーファンクルがずっと流れていました。自分で聴いていたのはL’Arc~en~Ciel、スピッツといったJ-Rockですね。それが今のバンドの根っこだと思います。その後に洋楽で、ソロ楽器としてのギター、技巧派、速弾きに傾倒しました。ディープ・パープル、リッチー・ブラックモア、イングヴェイ・マルムスティーンを聞いたときは「こんな音楽あるんだ!超カッケー!」と。バロック、クラシカルな旋律を派手なサウンドでやる、きれいなのに激しいみたいなネオクラシックの影響が大きいです。

ゲーム的なバックグラウンドを教えてください

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入間川氏のゲームボーイコレクションを撮影して頂いた。保存状態の良さにビックリ! 聖剣伝説もある!

 ゲームをやっていて「音楽がすごい」と思ったのがゲームボーイの『聖剣伝説』です。特にオープニング、ボス戦すごいなと。『ファイナルファンタジー』『ロマンシング サ・ガ』などもよく遊びましたし、当時のスクウェアのRPG、伊藤賢治さん、下村陽子さん※が大好きです。また、これらの曲はネオクラシカルな雰囲気だったことにあとで気づきました。※スクウェアのRPGの音楽を数多く手がけた、ゲームミュージック界を代表するお二人。
 映画のように、ストーリーがあって、感情移入していくときに気持ちを盛り上げてくれるBGMが流れるゲームが好きなんでしょうね。

SYUPRO-DXの音楽のひみつ

SYUPRO-DXでの担当は音楽のみですか?
 これまでは音楽のみでしたが、次回以降はより深く関わっていく予定です。

次回作は『いさましメモリアル』ですか?
 「俺、知らない」と思いながら前のインタビューを読みました。『彼女は最後に』の開発途中からSYUPRO-DXの事務所に行くようになって、パソコンの中に『いさましメモリアル』のフォルダがあるのも知っているんですが、それがいじられている形跡はありません(笑)。彼らはブレストして面白そうなタイトルだけとか、響きがいい言葉もアイデアとしてストックしているので『いさましメモリアル』がリリースされるかは分かりません。

具体的にはどんな関わり方になるのでしょうか?
 これまでは、横田くんの書いた脚本や浜中の作ったゲームシステムがある程度決まってから「このゲームのこういう感じ」「この映画のこのBGM」「バラード調ならこっちも可」「楽器はこういうの」といったリファレンスを受け取って、それに自分の引き出しも足して「これで合ってる?」というやり取りをしていました。
 しかし四天王の戦闘曲では、僕とSYUPRO-DXとでイメージしていたものが違っていたんです。僕は“殴る、倒すみたいな戦闘”を考えていたのに対して、SYUPRO-DXは“ポケモンみたいな試合”を考えていて……言葉だけでは伝わらなくて、やってみて初めてわかることってありますよね。
 今回の『彼女は最後に』でも、開発中のバージョンを遊んでいたときに、メインのフィールドを歩きまわっていると「この曲OKもらったけど、作った俺が飽きるな」と思ったんです。実際に『彼女は最後に』のゲームシステムを体験したうえで、印象に残るフレーズと印象に残さないフレーズ、BGM的に流れる場所を考えて、作り直させてもらいました。
 必要に迫られてSYUPRO-DXへ通い始めたんですけど、彼らも受け入れ体制をくれたので、僕はそこへ容赦なく飛び込んでいこうという心構えです。何より彼らとゲームの話をしているのは楽しいですからね(笑)。

SYUPRO-DXのゲームは音楽がすばらしいというファンも多いです。理由をどうお考えですか?
 ありがたいことです。SYUPRO-DXも僕も、使い古されてきた手法をむしろ一回踏まなきゃいけないというくらいにベタ好きです。それは音楽においてもそうで、わかりやすくて、キャッチーなもの、彼らが作るゲームシステムにハマるユーザーさんは音楽にも同じことを期待しているのではないでしょうか。ゲームと音楽とユーザーさんの親和性が高い、「このゲームが好きな人なら、この音楽が好きなのではないか」という仮説です。「僕がすばらしい才能を持っているから」と言えたらいいんですけど、たぶん違うと思います(笑)。

『ドブネズミ』『四天王』の聴きどころは?
 チップチューン、ファミコンオマージュです。SYUPRO-DXはドラクエ大好きですし、それがゲームからにじみ出ていますよね。そのテイストは必須で、僕もピコピコミュージックは好きですけど、それだけで曲を書いていると飽きてきちゃうので、生楽器を入れ始めたんです。和音数が限られているファミコンの音楽を再現しようとすればできますが、それだけよりは足していったほうがおもしろいですよね。ファミコンっぽい音に生楽器の音を混ぜていく過程、僕の挑戦と彼らのOKラインの探りあいが聴きどころです(笑)。

『彼女は最後に』の聴きどころは?
 1曲だけ昔から使っている8ビットプラグインを入れているんですけど、あとは全部生楽器ライクなピアノがメインです。
 四天王あたりからの曲作りのやり取りは「だいたいこんな感じ、あとは任せる」みたいになってきたんです。四天王は特に曲数が多かったんですけど、彼らも作るのに超全力だったはずなんで、この曲はここでこう鳴ってというところまで考えていないはずです。『彼女は最後に』では、SYUPRO-DXからの信頼に対して僕がどのように応えたのかが聴きどころではないでしょうか。

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Logicに立ち上げた『彼女は最後に』のプロジェクト

SYUPRO-DXのピコピコ音はYMCKのプラグイン

制作環境を教えてください
 Intel Macを買って、しばらくは(プリインストールされた)GarageBandをいじって「これがDTMというものか」という感じで、トラックを重ねて多重録音していくという概念を覚えました。その後、Logic Express 8を買ってからは、MIDIキーボードを弾いてピアノロールを入力して、MIDIでいじっていくという流れで作業をしています。今は最新バージョンのLogic Pro Xを使っています。あとはエディロール(現ローランド)の宅録用のオーディオインターフェースでギターを録ったりしています。MIDIとオーディオが同時に入れられればいいやという程度で最小限の入出力数のモデルです。

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入間川氏のMacを中心としたデスクトップ

よく使う音源はありますか?
 リズム音源の『Ultrabeat』等、Logicに入っているものを中心に、EASTWESTのストリングス音源を足したり、YMCKさんの8ビットプラグイン(Magical 8bit Plug)を使わせて頂いています。これがすごく使いやすくて、SYUPRO-DXのゲームでピコピコ鳴っているのはだいたいこれです。昔の硬い音は、Webアプリを使ったり、Logicのソフトシンセでそれっぽいのを作ります。僕はソフトシンセの内側には詳しくないので、ツマミをいじりながら目的の音を探します。プリセットで遊びながら、カッコいい音をストックしていく感じです。

バンドの音楽はどのように作りますか?
 バンドもだいたいデスクトップで完結するようにしています。外で録ってきた音も自分で足す音もLogicに入れてMIXします。SYUPRO-DXの製作は深夜もできるのがいいところですね。ヘッドフォンだけしてMIDIキーボード打っていればいけるので。

ゲームアプリならではの工夫はありますか?
 録音レベルが困りますね。一定に揃えるんですけど、効果音よりBGMが小さいゲームはいけてないと思うんですよ。自分の尺度で提出して、SYUPRO-DXの過去の作品を参考に微調整しています。
 MIXは、ソニーのMDR-CD900ST(モニターヘッドフォン)でやるんですけど、最終的にはiPhoneのデフォルトのイヤフォン、iPhoneのスピーカーでもチェックします。特に低音が強すぎるとスピーカーだと消えちゃうので。……ってこれみんなやっている工夫ですね(笑)。でもそれに尽きます。イヤフォンでベストなMIXにしてあるので、まだプレイしていない方はぜひ一度イヤフォンで遊んでみてください。
 ファミコンやゲームボーイの頃は3~4和音しか出ないんで、例えばドラムの音にキックとスネアの2音を使うとあと2音しか出せないんです。それで交互に鳴らしたり、同時に聞こえているように左右に思い切りパンを振る、というのをドブネズミで再現したことがあるんですけど、割りと無駄でしたね(笑)。「昔の人すごいな、この仕様でちゃんと和音に聞かせる努力はすごいな」と思いながらそれっぽいことをオマージュしていました。

ゲームのBGMを作るにあたってアドバイスを頂けますか?
 音楽制作のハードルが高いと感じている方は、リズムだけ、ビートだけでも十分BGMになる気がしています。フリーのDTMソフト『Domino』等で音を並べてクオンタイズ※をかければ、必ず規則的にはできるので下手な音にはならないはずです。旋律的なものが欲しいと思ったら、和音を打って2個くらいをずっとループさせるだけでも全然いいと思います。あと、楽しいと思いますよ、音楽作るのって。もっとやりたくなりますから。※演奏データのタイミングのズレを補正する音楽制作ソフトの機能。

みなさん、サントラ出したら買います?

今後やってみたいことはありますか?
 SYUPRO-DXは、ゲームに関わるワクワクするアイデアを考えるのが大好きなので、アプリ製作とは別にいろんな企画を考えているようです。ドブネズミのノベライズみたいに、ゲーム以外にも広がりをもてる企画をしていきたいねという話もしています。
 僕個人としては、ニーズがあるのなら、ゲームのサントラも出してみたいです。例えば、四天王のラスボスの曲はぜひ聞いてほしいんですけど、ぜったいみんな聴いていないと思うんです。あそこまで行ける人はほとんどいなさそうなので。僕の去年の夏がほぼあそこに結集されているんですよ(笑)。でも、聞かれないだろうなと思いながら本気出すのがカッコいいよねという部分もあります。

読者にメッセージをお願いします
 『彼女は最後に』を楽しんでくれた皆さん、せっかくなので『四天王』『ドブネズミ』も遊んでみてください。あと、僕はSYUPRO-DXの作品の中で『拝啓、モールス信号』が大好きです。昔のシンプルな作品にもいいのがあります。横田ボイスが入っているのもあるんですよ。
 僕らが作っていて楽しい物があそこにはあります。それをみなさんと一緒にシェアできたら嬉しいですね。

▼参考リンク
入間川氏のTwitter
入間川氏のバンド『Riverside Creature』
SYUPRO-DX
Apple – Logic Pro X
Magical 8bit Plug – YMCK
MIDI音楽編集ソフト「Domino(ドミノ)」

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