Galaxy S6 edge

同じ機種なのに写りが違う!? サムスン、Galaxy S6に搭載されたカメラモジュールの秘密 前編

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

by [2015年5月20日]

Galaxy S6 edge

Galaxy S6 edge

電子部品に詳しい方ならよくご存じのことと思いますが、電気・電子部品業界においては、製品の安定供給を確保するために異なる複数のメーカーが仕様上全く同一に扱える部品を供給する仕組みあるいは慣習があります。

これは、例えばあるメーカーの工場で火災が起きてある特定の部品の供給がストップしても、それと同型番の部品を他のメーカーから調達することでその部品を使用する製品の生産と供給を途切れさせないためのものです。

こうしたことが当たり前に行われてきたのは、一つには特に純粋にデジタルな機能を備えた半導体の場合、規定の性能条件を満たしていれば、どこのメーカー製のICやLSIを用いても、特に決定的な差とはならないためです。

スマートフォンおよびタブレットの「Galaxy」シリーズでおなじみのサムスン電子も元々はDRAMなどの半導体部品メーカーで、今もSSD用のフラッシュメモリやApple向けの統合プロセッサなど、様々な半導体部品を生産し、各社に他の幾つかのメーカーと競合する形で部品供給を行っているのですが、このほどそのサムスンがスマートフォンの最新製品である「Galaxy S6」および「Galaxy S6 Edge」でメインカメラについてソニー製と自社製の2種の異なった(しかし仕様上はいずれも公称スペックを満たす)カメラモジュールを混在させていることが発覚しました。

しかも、そのことについての問い合わせに対しサムスン自身がそれを認めたこと、そしてその2種のカメラで撮影した画像がほぼ同一条件でさえ一目でわかるほど大きく異なる色特性を備えていることがSamMobileなどの海外サイトで報じられました。

そこで今回は、この「Galaxy S6」および「Galaxy S6 Edge」のカメラモジュールを手がかりにして、割と当たり前の慣習として複数メーカーから同一スペック部品調達を行っている半導体業界と、それが実質的にタブーに近いカメラ業界の2つの業界の「文化」の違いについて考えてみたいと思います。

公称スペックは同一である2種のカメラモジュール

Galaxy S6 背面

Galaxy S6 背面

今回話題となっているのは、「Galaxy S6」および「Galaxy S6 Edge」の2機種に搭載されている16メガピクセル級メインカメラです。

ソニーが自社のXperia Zシリーズなどに採用している20メガピクセル級の「Exmor RS」シリーズと比較すれば解像度が一段落ちるものの、それでもそれ以外の各社で(ハイエンド機種を含めて)広く採用されている13.1メガピクセル級のカメラモジュールと比較すればより高解像度で撮影のできるこのクラスのカメラはそれだけに製造が難しく、これまで事実上ソニーとシャープの2社が市場を独占するような状況が続いていました。

そこにサムスンが「ISOCELL」と呼ばれる裏面照射方式のCMOSセンサーを搭載するカメラモジュールを自社で開発し、「Galaxy S5」から搭載を始めていたのですが、今回の「Galaxy S6」および「Galaxy S6 Edge」ではなぜかこの「ISOCELL」(型番はS5K2P2)単独ではなく、これと公称スペックが同クラスのソニー製「Exmor RS」シリーズ(型番はIMX240)が混用されているというのです。

元々、Galaxyシリーズでは「Galaxy S4」の世代まで長らくソニー製のカメラモジュールがメインカメラとして搭載されていて、それが「Galaxy S5」で自社の16メガピクセル級「ISOCELL」に置き換わっていました。

カメラモジュールはスマートフォン全体で見るとかなり単価の高い部品であるだけに、自社あるいは自社グループ内で内製した部品を調達することは、製品の利益率を考えるとサムスンにとって非常に好ましいことです。そのため、ソニー製品と肩を並べるスペックのカメラモジュールを開発するのがサムスンにとってある意味悲願となっていて、そのことはこの方式についての米国特許(US 20130307040)や、YouTubeで同社が公開している「ISOCELL」の特徴を示した動画などからも透けて見えます。

しかし、そうであるならばなおさらのこと、「Galaxy S6」「Galaxy S6 Edge」でわざわざ再びソニー製カメラモジュールを採用する理由は乏しいということになります。

サムスン Galaxy S5サムスン自社開発の16メガピクセル級「ISOCELL」を初搭載した機種

サムスン Galaxy S5
サムスン自社開発の16メガピクセル級「ISOCELL」を初搭載した機種

もっとも、「Galaxy S5」でも部品供給が安定しない可能性があったのか、あるいはその状況を考慮したのか、カタログ等で「ISOCELL」搭載を明言しておらず(※注1)、出荷された「Galaxy S5」の全数が「ISOCELL」搭載であったかどうかについては、今となっては確認する手段がありません。

 ※注1:各キャリアの製品紹介等でも「約1,600万画素のCMOSセンサー搭載」としか謳っておらず、レンズに至っては開放絞り値が幾つであったのか、35mmフィルム換算での焦点距離がどの程度であったのかといった基本的な光学系のスペックが明らかになっていません。

それでも、少なくとも発売から1年以上経過した今となってもソニー製カメラモジュール搭載個体があったという話が出てきていないことから考えると、この機種についてはおおむねサムスン自社開発の「ISOCELL」搭載であったと考えて良さそうです。

そうすると、発売直後の今の段階で既に異種カメラモジュールの混用が、それも同一市場向けに供給された製品で確認されてしまった「Galaxy S6」「Galaxy S6 Edge」では、「S5K2P2」搭載個体と「IMX240」搭載個体が全く区別なく混在状態で出荷されている可能性が非常に高いということになります。

幾つか考えられるカメラモジュール複数種供給の理由

ソニー Exmor RS世界初の量産積層型裏面照射型CMOSセンサー。上がカメラモジュールで下の小さなチップがセンサー本体。

ソニー Exmor RS
世界初の量産積層型裏面照射型CMOSセンサー。上がカメラモジュールで下の小さなチップがセンサー本体

冒頭でも触れましたが、半導体部品を使用する製品を作るメーカーが本命以外の供給元から部品調達を行う場合には、以下のような理由が考えられます。

 1:本命のメーカーに何らかの不都合があって部品を必要な時に十分な数量を供給できなくなった/できない可能性がある
 2:搭載製品の生産計画数(=部品の調達数)が非常に大きく、本命のメーカー製の部品だけでは必要数を満たせなくなった/満たせない可能性がある
 3:本命以外の供給元が本命のメーカーよりも低廉な価格を提示した

つまり、基本的に本命の部品メーカーが製品を作るメーカー側の要求を満たせない場合に、こうした措置がとられることになります。

回りくどい言い方になってしまいましたが、今回のケースだと「S5K2P2」を製造・供給しているサムスン電子に何らかの問題があってGalaxyシリーズの開発製造を行っている部門の要求を満たせなくなったために、ソニー製の「IMX240」の調達と搭載が行われた可能性がある、ということです。

もちろん、これとは反対に当初ソニー製の「IMX240」を全数に搭載する予定であったものが、ソニー側の部品供給体制に何らかの問題があって「S5K2P2」で代替されるようになった、という可能性も皆無ではありません。

しかし、ここしばらくApple向けのiPhone 6・6Plus用カメラモジュールをはじめ世界中のスマートフォンメーカーに採用され、最近でもシャオミやファーウェイ向けに大量供給するなどソニーは積極的に自社製の裏面照射型CCDセンサーである「Exmor RS」シリーズの拡販に努めています。

ソニーセミコンダクタ長崎テクノロジーセンター

ソニーセミコンダクタ長崎テクノロジーセンター

ソニーは子会社であるソニーセミコンダクタの長崎テクノロジーセンターと山形テクノロジーセンター、鹿児島テクノロジーセンター、それに熊本テクノロジーセンターでカメラモジュールの中枢を担うイメージセンサーを生産しているのですが、現在の生産能力がスマートフォン用以外を含め60,000枚/月で、一度75,000枚/月への生産能力引き上げ計画が立てられながら、今年に入ってさらに強化され80,000枚/月、そして87,000枚/月へと計画が相次いで上方修正されています。

こうした状況が示すように、ソニー製イメージセンサーやカメラモジュールの需要は増える一方であって、同社はその商機を逃さないために設備投資をしてセンサー生産量を増やす努力を行っているわけです。

ちなみに、この月間生産数だと現状で年間96万枚となり、iPhoneの年間販売数が約7,500万台を記録していることなどからするとあまりに少ない供給量となってしまうのですが、実はこの「枚」は300mm径のシリコンウェハーに換算した数字で、ウエハー1「枚」あたり非常に多数のセンサーチップが採れる(※注2)ため、実際のイメージセンサーやカメラモジュールの台数換算で見るとこの数字からは想像もつかないほど莫大な数の生産量となります。

 ※注2:イメージセンサーの機種によってチップのダイサイズが異なるため、1枚のシリコンウェハーから採れるセンサーチップの枚数はこのダイサイズによって必然的に大きく変動します。例えば、デジタル一眼レフカメラ用の35mmフルサイズタイプのセンサーと、スマートフォン用カメラモジュールの1/2.4型センサーとであれば、前者は対角線長が後者の40倍以上となり、チップ面積比で計算するとざっと2,000倍もの差があります。つまり、同じシリコンウェハーでもスマートフォン用センサーならば単純計算で35mmフルサイズセンサーの約2,000倍の個数が採れることになります。そのため生産能力を示す場合には製品の台数ベースでの比較には意味がなく、ウェハーの枚数単位での生産能力表示になっています。

こうした状況が示すようにソニーのイメージセンサー/カメラモジュール生産能力は非常に大きいため、同社製イメージセンサーの供給不足をサムスン製イメージセンサーで補うという図式はイメージしにくく、むしろ逆の状況となる可能性の方が格段に高いというのが実情です。

一方、サムスンは先にも触れたように前作であるGalaxy S5で今回の2機種と同スペック、つまり16メガピクセル級の「ISOCELL」裏面照射型CMOSセンサーを搭載していましたが、この機種が現行製品であった期間を通じて部品供給不足に陥ったといったニュースは一切出ることがありませんでした。

こうした状況から判断する限り、今回のケースではソニーとサムスンの2社のいずれかがカメラモジュールの部品供給能力不足を引き起こしたとは考えにくいといえます。

むしろ、円安ウォン高基調で推移している昨今の為替市場の状況を勘案すると、今回のカメラモジュールメーカー混在の原因は、円安ウォン高で相対的にソニー製「Exmor RS」カメラモジュールの価格が大幅に低下してこれまでより安く調達できるようになった結果、製品の利益率を上げる目的でサムスンのスマートフォン部門が自社製の「ISOCELL」を容赦なく見捨てて「Exmor RS」に切り替えた、といった状況である可能性の方がまだ高いといえるでしょう。

後編では、具体的に裏面照射型CMOSセンサーがどのようなものなのか、「ISOCELL」と「Exmor RS」がどのような特徴を備えているのかを見てゆきたいと思います。

▼参考リンク
Here’s the difference between Samsung and Sony camera sensors on the Galaxy S6 and S6 edge – SamMobile

Sony Japan | ニュースリリース | 積層型CMOSイメージセンサーの生産能力を増強
Sony Japan | ニュースリリース | 積層型CMOSイメージセンサーの生産能力を増強
Sony Japan | ニュースリリース | 積層型CMOSイメージセンサーの生産能力を更に増強

PageTopへ