ソニー Exmor RS世界初の量産積層型裏面照射型CMOSセンサー。上がカメラモジュールで下の小さなチップがセンサー本体。

同じ機種なのに写りが違う!? サムスン、Galaxy S6に搭載されたカメラモジュールの秘密 後編

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by [2015年5月21日]

サムスンの「GALAXY S6」と「GALAXY S6 Edge」で異なるメインカメラモジュールが混用されていることについて、前編では半導体メーカーの慣習や混用に至った理由についての考察を行いました。

後編では、具体的に裏面照射型CMOSセンサーがどのようなものなのか、「ISOCELL」と「Exmor RS」がどのような特徴を備えているのかを中心に見てゆきたいと思います。

裏面照射型CMOSセンサーって何だ?

ところで、これら「Exmor RS」と「ISOCELL」が採用している裏面照射型(Back Side Illumination:BSI)CMOSセンサーとは一体どのようなものなのでしょうか。

表面照射型CMOSセンサーの構造概念図上部のオンチップレンズに入った光がカラーフィルターを経由し、配線層の配線の間を縫うようにして受光面に到達し、ここでフォトダイオードによって電気信号に変換される

表面照射型CMOSセンサーの構造概念図
上部のオンチップレンズに入った光がカラーフィルターを経由し、配線層の配線の間を縫うようにして受光面に到達し、ここでフォトダイオードによって電気信号に変換される

これは「裏面」という言葉から連想されるように、「表面」照射型(Front Side Illumination:FSI)CMOSセンサーも当然あるわけで、こちらは裏面照射型CMOSセンサーが実用化されるまでモバイル機器やコンパクトデジカメなどで幅広く使用されてきたものです。

それでは、何が「表」と「裏」なのかという話になるのですが、実はこれはCMOSセンサーの心臓部であり、レンズを通して送り込まれてきた光を受け取って電気信号に変換するフォトダイオードという部品の光を受け取る受光面の表裏を示しています。

「表面」照射型CMOSセンサーの場合、入射された光はセンサー表面に形成されたオンチップレンズと呼ばれるごく微細なレンズを通したあと、光の三原色(RGB)のカラーフィルターを経由し、さらに配線層に形成された配線をかいくぐるようにして通過してから、ようやくフォトダイオードの受光面で電気信号に変換されるようになっています。

この表面照射型CMOSセンサーは裏面照射型CMOSセンサーよりも先に実用化されましたが、これはCMOSの場合、配線層をフォトダイオードのある基板層の上に形成し、その上にカラーフィルターやオンチップレンズを搭載する方が技術的な難度が低かったためです。

この方式の場合、入射された光が必ず配線層を経由するためどうしても減衰が発生し、その分受光面でフォトダイオードが受け取れる光の量が少なくなる≒感度を高くするのが難しくなり、またオンチップレンズに斜めに入射した光をフォトダイオードに届かせるのが難しいという問題があります。しかし、その反面オンチップレンズで光の向きを収束させるのが容易で、斜めに光が入射した場合に、特に問題の出やすい長波長の赤色光が隣り合う画素に混色しにくい=色が化けにくいという利点があります。

つまり、感度は下がる一方で同条件ならばより正しい色で撮影するのに有利ということです。

裏面照射型CMOSセンサーの構造概念図表面照射型CMOSセンサーと比較するとカラーフィルターより下の部分を上下反転させたような構造となっており、オンチップレンズから入射された光はカラーフィルターを通過すると直接フォトダイオードの受光面に入る構造となっている

裏面照射型CMOSセンサーの構造概念図
表面照射型CMOSセンサーと比較するとカラーフィルターより下の部分を上下反転させたような構造となっており、オンチップレンズから入射された光はカラーフィルターを通過すると直接フォトダイオードの受光面に入る構造となっている

一方、「裏面」照射型CMOSセンサーは、表面照射型CMOSセンサーを基本としつつ、カラーフィルターの下の部分を上下反転させて、フィルターを通過した光が直接フォトダイオードの受光面に入射するような構造になっています。

そのため、光が配線層を通過しなくて済むのでカラーフィルター経由で入射した光が減衰せずにそのままフォトダイオードに入り、センサーの感度を表面照射型CMOSセンサーよりも高くしやすくなりますし、斜めに入射した光でもきちんと受け取ることができます。

同じ感度で良ければ表面照射型CMOSセンサーよりもセンサーのサイズを微細化しても感度低下が起きにくく、同じサイズならばより高い感度での撮影が可能となる(※ソニーのもので最大感度が従来比約2倍とされています)ということになります。つまり、適度にバランスをとれば従来よりもほどほどに小さなサイズで従来と同等以上の画素数、そして従来よりも高感度のセンサーを作れることになります。

スマートフォンなどのモバイル機器用カメラでは今や裏面照射型CMOSセンサー搭載であることが当然のようになっていますが、それはまさにこの高感度かつ高解像度でセンサーをより小さく作れるというこの種のセンサーの特性によるものなのです。

もっとも、既に記したとおりかなり浅い角度で斜めに入力された光でも受け取れるということは、隣接画素の光を誤って検出しやすく混色が起きやすいということになります。

裏面照射型CMOSセンサーがCMOSセンサーの黎明期から構想されながら量産製品化が大きく遅れたのは、まさにこうした混色の問題と半導体製造プロセス面での難度の高さが原因で、実際ソニーの「Exmor RS」にしろ、サムスンの「ISOCELL」にしろ、主立った裏面照射型CMOSセンサーの技術的な核心部分の一つはこの混色対策にあるのです。

サムスン電子が出願し2013年11月に公開されたアメリカ合衆国特許US20130307040で示された「ISOCELL」の断面図。オンチップレンズ(ML)が下になるように図示されているが、2つの画素のフォトダイオードを構成する部分(PD1・PD2)を包むように基板層を縦に貫通して穴が開けられ、絶縁材料が充填された層(DT1)が形成されており、混色を物理的に防ぐ構造となっている

サムスン電子が出願し2013年11月に公開されたアメリカ合衆国特許US20130307040で示された「ISOCELL」の断面図。オンチップレンズ(ML)が下になるように図示されているが、2つの画素のフォトダイオードを構成する部分(PD1・PD2)を包むように基板層を縦に貫通して穴が開けられ、絶縁材料が充填された層(DT1)が形成されており、混色を物理的に防ぐ構造となっている

「ISOCELL」の場合、オンチップレンズ直下の各画素単位でシリコン上に(底にあたる配線層の側から)上方に向けて穴を掘って何らかの材料をそこに充填することで、物理的に隔壁状の部品を形成して物理的に光の干渉とそれによる混色を防ぐという構造になっていることが特許で示されています。

もっとも、サムスンの「ISOCELL」の方式は、同社の持てる半導体製造技術をフル活用して行う力業の対処法であるといえるのですが、実のところこの方式では混色問題を完全には解決できず、混色の改善率はせいぜい30パーセント止まりとなっています。

ソニーの裏面照射型CMOSセンサーの根幹を支えるフォトダイオード部分の改良点従来方式(左)だと光の入射位置や角度によっては混色が起きるが、素子部分で信号増幅を行うソニーの新方式(右)では原理的にこの部分での混色が起きないようになっているとされる

ソニーの裏面照射型CMOSセンサーの根幹を支えるフォトダイオード部分の改良点
従来方式(左)だと光の入射位置や角度によっては混色が起きるが、素子部分で信号増幅を行うソニーの新方式(右)では原理的にこの部分での混色が起きないようになっているとされる

一方、ソニーの「Exmor RS」の場合は感光素子であるフォトダイオードの構造を工夫し、画素単位で信号増幅を行うことで本来入力された信号の利得を大きくし、混色が原理的に発生しないような仕組みをとっており、これら2メーカーは全く異なるアプローチで混色問題に取り組んでいることがわかります。

ちなみにソニーの「Exmor RS」の場合、こうした工夫に加えてセンサーに必要となる論理回路を別に製造したチップに搭載し、これをセンサー部のみを形成したチップと重ね合わせる(積層する)ことでチップ面積をフルに画素に割り当てられるような構造を採用しており、これにより他と同条件でもさらにチップサイズを小型化することに成功しています。

方式が違えば色も当然違う

以上からわかるように、ソニーの「Exmor RS」とサムスンの「ISOCELL」とでは同じ裏面照射型CMOSセンサー方式を謳いながら、その実全く異なったアプローチで開発されており、構造が似て非なるものとなっています。

これは、他社特許を回避する上ではある意味当然の話なのですが、こうしたイメージセンサーで方式が違うということは、つまるところ色特性その他の特性が同じにはならないことを示しているといえます。

フォトダイオードはアナログな電圧変動の形で入射された光の強弱を電気信号に変換するデバイスですから、方式や素子の構造が違えばよほどの偶然がない限り、同じ特性になるはずがないのです。

色の違いに神経質な写真業界

かつて銀塩フィルムによる写真が全盛の頃には、プロカメラマンの中に自分の好みの色特性を得るために同じ銘柄のフィルムを複数ロットでまとめて大量購入してあらかじめ比較撮影しておき、目的にかなうよう同じ銘柄でもごくわずかに異なる特性のロットのフィルムを使い分ける人がいた、という逸話が伝わるほどに、写真業界はその色再現性をはじめとする各種色特性に対して鋭敏な判定が下される市場です。

今回の「GALAXY S6」および「GALAXY S6 Edge」では画素数16メガピクセル級の裏面照射型CMOSセンサーと開放絞り値F1.9のレンズよりなるカメラモジュールが搭載されていることが公称されているわけですが、センサーだけでなくレンズも同様に、「額面上のスペックが同じだからといって同じ画が出る訳ではない」部品の典型です。

ことに構造簡素化や軽量化と薄型化の必要から絞り値が開放で固定のスマートフォン用カメラのレンズの場合、求められるフォーカス特性を得るために樹脂成形による非球面レンズを使用することが多いため、その樹脂の射出成形時の温度管理からレンズの光学設計、果てはコーティング処理に用いる薬品の処方や定着方法に至るまで、その設計生産工程の全ての部分がノウハウの塊となっています。

そもそもレンズ設計には唯一絶対の解はなく、メーカーごとに極端な差が出やすい部分なのです。

レンズとセンサーが違えばそれはもはや同じ製品ではない

京セラ Contax T2高級コンパクトカメラブームを引き起こした、京セラカメラ部門の代表作の一つ。カール・ツアィス Sonner 2.8/38 T*というレンズを搭載しており、「下手でも写真の腕が上がったと錯覚する」と謳われるほどの傑出した高画質で知られる

京セラ Contax T2
高級コンパクトカメラブームを引き起こした、京セラカメラ部門の代表作の一つ。カール・ツアィス Sonner 2.8/38 T*というレンズを搭載しており、「下手でも写真の腕が上がったと錯覚する」と謳われるほどの傑出した高画質で知られる

筆者はかつてドイツのカール・ツァイス財団が設計したレンズを搭載するContax T2という銀塩コンパクトカメラを使用していたのですが、同じフィルムを用いて同じ被写体を撮影しても他のレンズをつけたカメラと全く異なる、「自分の写真撮影の腕が上がった」と錯覚してしまうほどのとてつもない描写力や色再現性に充ち満ちた写真が出てきて愕然とした経験があります。

レンズの差というのは条件にもよりますが時にそのくらい劇的な差をもたらすものな訳です。

その観点で言うと、今回の「GALAXY S6」と「GALAXY S6 Edge」の異種カメラモジュール混在は、額面上のスペックは同じであるものの描画力の違うレンズを搭載したカメラ2種にそれぞれコダックのエクタクローム100と百均ショップで売っている感度100の安物フィルムを詰め、「同じ感度で撮影できる35mmフィルムを入れ、同じ開放絞り値のレンズを搭載したカメラであるから等価である」といって何の説明もないまま同じ値段で外見では区別できない状態にして混ぜて売るようなものです。

このような場合、一般的なメーカーなら異なるカメラモジュールを搭載した個体ごとにカメラ周りのファームウェア等を変えるなどして少しでも近い画が出るように自社基準で色特性の調整を行うところです。今回の問題で一番問題視されるべきは、サムスンがカメラ性能の高さをアッピールするこれらの製品で、そうした配慮を行った形跡が全く見当たらないことだと言えるでしょう。

サムスンをはじめとする韓国メーカーは先発メーカーの製品を「ベンチマーク」して模倣し凌駕することで市場を制覇してきました。ですが、そうであればこそ、そうした「ベンチマーク」で定量化するのが難しい、アナログなノウハウ勝負の部分が、本当の意味で良い製品を作るための課題であると筆者には思えます。

▼参考リンク
Samsung Launches ISOCELL: Innovative Image Sensor Technology for Premium Mobile Devices
特許 US20130307040 – Image sensors and methods of fabricating the same – Google 特許検索
Sony Japan | 世界初 積層型CMOSイメージセンサー“Exmor RS”とイメージングモジュールを商品化

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