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「思いついたメロディで誰でも気軽に音楽を」自動作曲を研究して25年…カシオ南高純一氏インタビュー

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by [2015年5月19日]

 Chordana Composer(コーダナコンポーザー)は、iPhone/iPod touchで気軽に音楽制作を楽しめるアプリだ。このアプリには、カシオ計算機が25年もの歳月をかけて研究を重ねてきた自動作曲の技術が詰め込まれているという。その研究・開発の中心となった南高氏にカシオ計算機の羽村技術センターでお話を伺った。

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カシオ計算機株式会社 コンシューマ事業部 企画部 アプリ企画推進室 南高純一氏


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技術に魅力を感じて“楽器メーカー”のカシオ計算機へ

専門、専攻は何ですか?
 大学は工学部です。アプリの開発に関係するようなことですと、大学にあった大型コンピュータを使ったFORTRANやCOBOLの実習くらいでしょうか。マークシートを計算機に読ませて計算をさせたりしていました。
 私は小学校以来ずっと理系で、算数や音楽は他の科目に比べれば成績は良かったように思いますが、特にアプリとか、もちろん音楽の専門というわけでもありません。
 趣味としての音楽は、小学校5年生の時にギターを買ってもらったのが始まりです。私の父も、昔ギターを買ったと言っていましたが、戦争中だったせいか祖父に叩き壊されたそうです(笑)。それでも昭和の初期って少し良い時期があって、蓄音機でレコードをかけて音楽を聞くことができたんです。父もレコードはたくさん持っていましたので、それを聞かせてもらったりしていました。

なぜカシオ計算機に入ったのですか?
 就職の時は、カシオが楽器を始めて2~3年が経っており、他にもいろいろな楽器メーカーがありますが、カシオというと、技術的に魅力があるイメージを持っていました。もちろん、ヤマハやローランドにも鍵盤のシンセサイザーはありましたが、同クラスのポリ数ではカシオが一番良かったんですよね。あまりマニアックなものではないのですが、49鍵で同時発音数が6ポリで、価格は約10万円というのは、かなり新鮮な印象がありました。

自動作曲の研究を始めたきっかけは何ですか?

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南高氏率いるチームが情報処理学会の全国大会で発表した自動作曲に関する論文

 25年以上前のことになりますが「何か新しいことをやらなければ」ということで、社内に企画チームがいくつかできました。当時はまだPCM音源ができる前なので、1つはとにかくまず楽器音を良くすること、もう1つはカシオならではの機能の開発に注力すべきだということになったんです。当時1980年代は人工知能(AI)が少しはやりまして、そこで何かできるかなということで、何人かで「それなら自動作曲はどうだろう」という話をしたのがきっかけです。

カシオ計算機での担当は何ですか?
 入社すると、楽器の開発に配属されて、それから自動作曲の研究をやって、もう一回電子楽器の開発に移って、そのあとまた研究部門へ戻ってきました。そしてiPadが出てこようかという頃にタッチパネル&ディスプレイを想定した研究を始めました。とても分厚い電子楽譜というのが当時すでにあったり、電子ペーパーがあったりと、そういう頃ですね。そして現在のアプリ開発に至ります。

Chordana Composerもそうですが、スマホなどでDTMをすることについてどう思いますか?
 便利になったと思いますが、パソコン、タブレット、スマホ、それぞれでやるべきことがよくわからなくなっている感じがします。
 今は、これまでパソコンでやっていたことをiPadで置き換えようみたいな流れだと思うんですけど、そうすると元々パソコンでやっていた人たちが置いてけぼりになっている感じがします。逆にスマホやタブレットで始めたことが、パソコンに生かされて、有機的に両方共うまく使えるようになっていればいいのですが、そうもなっていないように思います。

DTMはどうご覧になっていますか?
 DTMはマニアックでハードルが高いイメージがあります。例えば、オーディオインターフェースを買わないといけないことや、DAWソフトを買うにしても価格が高いし、何を選んでいいかわからないですよね。DAWを買ったらドングルが必要だったなんてこともあります。
 ただ最近、ヒット曲をざっと聴いてみたんですけど、普通に組織だって音楽を作るところは必ずDTMを道具として使いこなしているという認識です。スマホやテレビ、ラジオはもちろん、TM NETWORK以降はライブに行っても実はバックで結構使われているなど、そういう時代なんですね。
 また、クラシックやジャズなど、コンピュータ感が希薄なジャンルも依然として人気があります。逆説的ですが、音楽を多様さだけでなく、楽しむ深みが広がったような感じがするのは、DTM、コンピュータのおかげだと思います。
 私自身は、結局はピアノで弾いた方が早いとなることが多いのですが、MIDIファイルを楽譜化するアプリに昔作った曲を読み込ませてみたり、ProTools付きのオーディオインターフェイスを買ったものの(DTMを)始められてなかったり……そんなつまみ食い的な感じでDTMを楽しんでいます。

音楽アプリ開発者として現状のスマートフォン、モバイルOSへの不満はありますか?
 そんなにありません。開発で苦しんでいる時に細かいことをぶつぶつ不満を持っていることはあるんでしょうけど、世に出した後は、いやなことは忘れてしまうので(笑)。
 入出力、特にマイク入力のハードに絡む性能や、あとは楽器なのでUSB-MIDIで接続する部分などは、時代とともにあがっていってほしい気持ちはあります。どうしてもマイク入力は、そのハードウェアの性能に左右されてしまうところがありますので。

スマホは何を使いですか? よく使うアプリはありますか?
 スマートフォンはiPhoneです。一応Androidも持っています。個人的なところでは、ピアノを弾いたり、バンドをやっていたりするので、YouTubeやiTunesは必須です。iPhoneに外部マイクを着けてレコーダーとして使うこともあります。

  • Chordana Viewer(カシオ) この曲やりたいねという時に、とりあえずコードだけをざっと確認するのに使っています。私も企画に参加しており中身のエンジンはだいたいやったんですけど、自分の意見も結構入っているかもしれません。
  • 音楽練習ツール(カシオ) 普通のメトロノームなんですけど、特にピアノの練習の時は必須ですね。宣伝になっちゃいますが、すぐに録音ができ、すぐに演奏を振り返ることができます。
  • mimiCopy ここからは他社様のアプリですが、これは、コードではなくて、音を1つ1つ拾いたいときに使っています。ジャズのアドリブを拾いたいとか、演奏が速いのでスピードを落として再生するという感じです。
  • iReal Pro 「リアル・ブック」というジャズの曲集が定番としてあるんですけど、そのコード進行が全部入っています。リアル・ブックは結構分厚いので持ち歩けないんですけど、これで事足りることも多いです。ジャズをやる人はほとんど持っているのでは?
  • FFT Plot リアルタイムで周波数を分析してくれるアプリです。仕事で、とりあえず周波数特性を軽く見たいというときに使っています。耳では聞き取りにくい空調ノイズなどもはっきりわかります。昔は何百万円もしたものがこういうかたちでできるのは非常に便利ですね。
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    お気に入りのアプリをデモ中の南高氏

    25年越しのヒットアプリとなったChordana Composer

    Chordana Composerとは?

    Chordana Composer_01

    シンプルにメロディを打ち込める『Chordana Composer』のメイン画面

     2小節程度のメロディを入れると、丸ごと一曲分を自動で作るアプリです。2小節のメロディを入れる方法は3つあって、マイク入力、鍵盤入力、音符入力。2小節を入れたあとは、曲調、ジャンルなどを指定して、お好みの音楽に仕上げます。もちろん作曲ツールなので、できあがったあとも修正したり、音色を変更したり、最終的に仕上がったら、それをメールで送信することができます。

    できた曲の権利はどうなりますか?
     お客様のものです。

    同じ曲ができる確率は?
     最初に入れるメロディが同じで、設定も同じであれば、だいたい同じ曲になります。そうするとメロディがどのくらいの数になるかというと、全部8分音符ですと2小節に16個入るわけです。それぞれをどう選ぶかということで、単純に算数のような計算をすると、ドレミファソラシド8音を16個分選ぶと、8の16乗で、280兆くらい。まず同じになることはないと思います。

    開発のご苦労をお聞かせください
     25年前に自動作曲の研究を始めて、皆さんにかなり興味を持って頂けたんですけど、社内的には商品をどうしようかという話になって、その中で「計算機ができる音楽ってこんなもんか」という評価も結構頂いたんです。それを今回(Chordana Composer)は払拭しないといけないというのがあって、その部分が一番大変でしたね。当時やっていたことから新しくいろいろ追加した部分があるんですけど、それを実際にiPhoneの中へ入れて調整しました。しかし、1つのパラメータをいじると、全部変わってしまったり、今まで良かったものがダメになったり、正しいと思っても調べてみるとバグだったり、何か変かなと思っても今度は正しかったり……この辺りは、自動作曲を扱うChordana Composerならではの難しいところですね。

    「メロディの動きの大きさ」「メロディのテンション度」とは具体的に何でしょうか?

    Chordana Composer_06

    自動作曲の各種設定画面

     メロディの動きの大きさは、入力されたものに対して展開していく際、音域が広がる方向にいくのか、そうではないのかを決めるパラメータです。
     テンションは、ジャズと童謡の違いというか、音の響きの複雑さです。例えば、ド・ミ・ソだけの場合と、それにファの♯を入れると印象が変わるといった感じです。

    ユーザーの反応はいかがですか? どんな要望が多いですか?
     App Storeのレビューを見て、そのあとだいたいTwitterを見るようにしています。アプリを購入した方のご意見と、それらとはまた違った見方をするお客様のご意見を広く参考にしています。
     レビューにはポジティブなものとネガティブなものが両方あって、それが分かれるのはアプリの性質上宿命な部分もあるのですが、とにかくレビューの数が多いということは非常にありがたいです。
     ネガティブなご意見をお持ちのお客様は、ある期待を持ってChordana Composerを購入して頂いたと思うんですけど、その期待に答えられていなかったというところを反省して、これからのアップデートで対応させて頂きたいと思っています。

    Android版のご予定は?
     ご要望は多くいただいており前向きに検討中です。

    アプリの価格はどのように決めましたか?
     App Storeの有料アプリの価格帯を参考にしました。1,000円、2,000円が当たり前のDTMアプリと比べれば安いのですが、作曲に興味がある方が試してみようかなと思える価格であることが重要です。

    Chordana Composerをリリースしていかがでしたか?
     1月30日にリリースして3ヶ月が経ちましたが、3月くらいまでには呼吸困難になりそうでした(笑)。今後も、性能的なものは随時ブラッシュアップしていくつもりです。
     電子楽器のハードを作るのとは全然違う面がありまして、アプリを世に出したからわかったことがたくさんあります。それらを踏まえていろいろ検討しています。
     また、これは開発当初から思っていたことなんですが、Chordana Composerを購入して作曲して、他の人に聞いてもらって良かったというだけでなく、音楽ってやはり人と共感したり、人に喜んでもらったり、できれば誰かと一緒に作ったり、演奏したりという、人と人とのつながりが大事なんですけど、そちらの方向に何かを考えていきたいと思っています。

    その人なりに音楽を楽しむ方法は必ずある

    今後やってみたいことは何ですか?
     2小節だけ入れて曲ができたというのももちろんありですが、自分で曲を作り始めると、本当に自分の子供みたいに思えてきますよね。お客様がそんな風に自分でその曲を作ったと思えるようにしていきたいですね。
     あとは基本に立ち返りますと「作曲って誰でもできる」というのが私の信念でして、誰でもベートーヴェンになれるかというと、オーケストレーションの技術がないと難しいんですが、それと素朴にメロディを作るのは全然別の話です。本当はメロディを作って曲にしていくのは誰でもできることです。そんな楽しみを提案したい、そのきっかけにしてほしいということで作ったアプリがChordana Composerなんです。
     音楽ってすごく難しくて、弾ける人から弾けない人を見ると「なんでできないの?」みたいなことがあるじゃないですか? 私はそれは全然違うと思うんです。その人なりに音楽を楽しむ手段・方法は必ずあるものと思っています。

    読者へメッセージを頂けますか?
     誰でも頭の中にメロディが鳴るときがあるものです。そのメロディをChordana Composerへ入れて、まずは気軽に曲作りを楽しんでみてください。

    → Chordana Composer(コーダナコンポーザー) – Casio
    → Chordana Viewer(App Store)
    → 音楽練習ツール – メトロノーム, チューナー, レコーダー(App Store)

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