キングジム デジタルまいごひも MA150Bluetooth通信を用いて全く新しい提案を行うデバイス。緑色の樹脂製ループ(円環)に収まった白い円盤状のものが本体で、交換用に色違いで赤色のループが同梱される。

Bluetoothで見えないまいごひもを ~キングジム「デジタルまいごひも」~

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by [2015年5月11日]

キングジム デジタルまいごひも MA150Bluetooth通信を用いて全く新しい提案を行うデバイス。緑色の樹脂製ループ(円環)に収まった白い円盤状のものが本体で、交換用に色違いで赤色のループが同梱される。

キングジム デジタルまいごひも MA150
Bluetooth通信を用いて全く新しい提案を行うデバイス。緑色の樹脂製ループ(円環)に収まった白い円盤状のもの(左下)が本体で、交換用に色違いで赤色のループ(右下)が同梱される。

子供を連れてどこかに出かけるときに保護者の方が一番気をつかうこと、それは恐らくその子供とはぐれてしまわないよう、ずっと目を離さないでい続けることでしょう。

ことに1歳から3歳程度の間の乳幼児に属するお子さんの場合、行動半径も大きくないため探し出すのはそこまで難しくはないはずなのですが、問題はその探し出すまでの間に何が起こるか知れたものではない、という一点です。昨今の世相ではその間に見知らぬ誰かにその子が誘拐されたりすることもあり得ますし、また車道に飛び出して大事故を引き起こす可能性も少なくありません。

こうした事情から、最近では欧米と同様にお子さんの手首などに「まいごひも」を取り付けて、お子さんが保護者から一定距離以上離れられないようにするのが流行るようになっています。これはその見た目故に時として「まるでペットのリードのようだ」などと物議を醸すことがあるのですが、お子さんの安全を確保する上では間違いなく有用なアイテムです。そのため、自分では子育てをしたことのない層による「見苦しい」「虐待に見える」あるいは「手をつなげば良いじゃないか」といった主張と、実際に子育てに苦労している層による「何かあってからでは遅い」あるいは「複数の子供がいるのに全員手をつなぎ続けろというのか」といった主張とにきれいに分かれるような状況となって論争の種となっています。

そしてこのたび、そんな議論に限定的とはいえ一つの解決策を提案する画期的な製品がキングジムから発表されました。

その名は「デジタルまいごひも MA150」。

今回はこの製品と、それを取り巻く状況について考えてみたいと思います。

デジタルまいごひもの仕組み

キングジムの「デジタルまいごひも」公式ページこの新しいデバイスについて詳しく説明・解説されている。

キングジムの「デジタルまいごひも」公式ページ
この新しいデバイスについて詳しく説明・解説されている。

この「デジタルまいごひも」の仕組みは単純です。

ハードウェア的にはBluetooth 4.0の通信機能を利用した発信機能を搭載するデバイス本体とスマートフォンなどをペアリングし、そのスマートフォンにインストールされた専用の「デジタルまいごひも」アプリが定期的にそのデバイス本体との間で距離の確認を行って、スマートフォンからデバイス本体までの距離が設定された閾値を超えた場合=子供が保護者のスマートフォンから一定の距離以上離れようとした場合/何らかの事情で各デバイスと専用アプリをインストールしたスマートフォン本体の間の通信が途絶した場合に、デバイス本体とスマートフォンの双方あるいはいずれかでアラームを鳴動させるというものです。

Bluetooth 4.0で通信、というあたりで気づかれた方もおられるかと思いますが、これはいわゆるBluetooth Low Energy(BLE)の低消費電力通信機能を利用することでデバイス本体側の消費電力を可能な限り低く抑制しています。

また、この通信方式を採用しているということはつまり、4.0以前の古いバージョンのBluetooth機能しか搭載していない世代のスマートフォンではこの「デジタルまいごひも」は利用できないということになります。

ここ1年~2年ほどの間に発売された機種であれば大概搭載されているものですが、それでも低価格モデルなどではBluetooth 3.0止まりの機種もあるため、この製品を購入する際には今自分が利用しているスマートフォンのBluetooth機能がBluetooth 4.0に対応しているかどうかを確認する必要があります。

ちなみにこの「デジタルまいごひも」はBluetoothのペアリング機能を利用するため、複数台の同時利用も可能な仕組みで、そのアラームが鳴る距離は約8m~30mの範囲で4段階に設定可能とされています。

もっとも、公式ページで案内されているスマートフォン側アプリ(※:iOS・Android共通:記事執筆時点では製品発売前のため未公開)の設定画面では、複数台の登録について説明はあるものの、それらは単純に登録順に番号が機械的に割り振られるだけで、特にそのデバイスを利用しているお子さんの名前を登録するとか、お子さんごとに通知用アラームの鳴動パターンをカスタマイズできたりとか、そういった個々人の識別を容易にするためのカスタマイズ機能は用意されていないように見えます。

例えば登録したお子さんによってアラームが変えられるだけでもかなり利便性や対処時の応答が違うと思うので、このあたりは是非今後のアプリのバージョンアップなどで対処してほしいところです。

一方、各デバイス側のアラーム機能については、オンオフを制御できますが音量の制御はできません。所在位置を知らせるためならば相手による所在の確認を容易にする意味でも、音量を小さくする機能は不要という割り切りなのでしょう。

また、この「デジタルまいごひも」ではスマートフォンと各デバイスの間の距離は検出できますが、スマートフォンと各デバイスの間の方位や位置関係を検出することはできません。

リアル「まいごひも」の完全な代替とはなり得ない

この「デジタルまいごひも」は「まいごひも」の持つ機能の中で「子供が保護者の目の届かない所に移動しようとしている/移動した」という事象を検出し通知することに特化したデバイスです。

そのため、これ単独ではリアルな「まいごひも」に備わる機能をすべて代替することはできません。

具体的に言えば、無線通信で機器間をリンクし続けるだけですから、肝心の「子供の行動を拘束/束縛する」機能は当然に備わっていないのです。

このあたりは無線通信検出のみで「拘束/束縛」をしないために冒頭に記したような議論あるいは論争とも無縁でいられることとトレードオフの関係になってしまうのですが、有線接続にしたのでは何をしているのか本末転倒だ、という話になってしまいますから、製品としてみた場合、現状の構成が恐らく正解なのでしょう。

もっとも、保護者から勝手に離れるとアラームが鳴って飛んできた保護者に連れ戻される、というこの「デジタルまいごひも」の利用状況は、長期的に繰り返すと間接的かつ無意識にお子さんの行動を「拘束/束縛」あるいは支配することになるかもしれません。

というのは、こうした利用状況の反復は、まさにイワン・パブロフ博士による有名な「パブロフの犬」として知られる条件反射(古典的条件付け)についての有名な動物実験(1902年)と同じだからです。

こう言うと、「デジタルまいごひもは子供を動物扱いするデバイスだ」となりそうですが、そもそも「しつけ」はある面において子供に対する社会的行動についての条件反射の反復刷り込みそのものな訳で、これを否定するのは「しつけ」そのものの否定ということになりそうな気がします。

紛失予防や防犯にも応用が利く?

なお、この「デジタルまいごひも」は特に子供のまいごに限定した製品というわけではなく、何かの紛失予防や犯罪対策にも有用です。

むろん、紛失予防については紛失しそうな品にこのデバイス本体をあらかじめ装着しておかねば全く役に立たないのですが、「スマートフォンから離れると警告アラームの鳴る、複数同時利用ができ、それぞれを個別に対応できるBluetooth対応電子タグ」と考えると、これは防犯用デバイスとしてかなり有用かつ応用が利きそうです。

というのも、登録されたどの品が万引きなどされたのかといった情報が、一目で確認できるようにできるわけで、通常の防犯タグのようにゲート通過時に反応があるもののそれがどのような品なのか判然としないため確認作業に手間取る、といった状況をなくすことができるためです。

現状ではこの「デジタルまいごひも」で参考価格4,104円とのことですから防犯タグとして考えると結構高額で、また商品登録作業など相応に手間のかかる作業が必要であるため、そうそう簡単に万引き防止用などとして店舗が大量導入できそうにないですが、それでも一定以上の高額商品であれば、十分実用になるかもしれません。

そうは言ってもやはり所在座標や方角を知りたい

以上、キングジムの新作「デジタルまいごひも」を見てきましたが、恐らくはBluetooth通信の距離による信号減衰を逆手にとったとおぼしき簡潔にして巧妙な距離検出の仕組みとその応用には、思わず膝を叩いてしまいました。

すでにあるものを利用して簡潔だけど新しい応用法を提案する、という水平思考はテプラを代表製品とするキングジムの真骨頂ですが、今回の「デジタルまいごひも」もまたその例に漏れなかったわけです。

もっとも、これはCR2016タイプの小さなボタン電池1つで1,000時間もの驚異的な公称稼働時間を実現したわけですが、簡潔に整理され尽くした、ある意味枯れきったハードウェア故に、それ以上のことができなくなっている嫌いがあります。

例えば何らかの事情で子供の姿を見失った保護者は、まずその子供がどちらの方角へ向かったのかを知りたいと思うわけですが、この「デジタルまいごひも」ではその子供が保護者の勢力圏内にいないことは検出できても、その後一体どちらの方角へ向かったかを知るすべがありません。

この製品がこれまでにない新しい市場を切り開く提案であり、また比較的低価格で販売される製品であることも考慮すると、これはこれで一つの正解・完成形なのだと思いますが、「デジタルまいごひも」という新ジャンルを追求するのであれば、やはりスマートフォン本体と同様にジャイロスコープや加速度計、あるいはGPS機能などを搭載し、圏外に出た子供さんの向かう方向やその所在座標情報などを素早く検出できるようにしてほしいと筆者は考えます。

実際、理不尽な交通事故や凶悪な殺傷事件が少なからず発生する昨今の日本の社会情勢を考えると、例えば見失った子供が交通量の多い交差点の近くにいる、本来立ち入りの許されないため池の堤防上にいる、あるいは近所の公園にいる、などと分かるだけでも保護者の方の対応はかなり違ってくると思います。

それらを実現可能とするには、この「デジタルまいごひも」とは似ても似つかないような複雑かつ大規模なハードウェアになりそうですし、またその情報を受け取るスマホの対応アプリもまた高度化あるいは複雑化する可能性が高いのですが、それはそれで複雑化に見合ったメリットは十分に得られるのではないでしょうか。

そこまで来るといわゆる恐竜的な進化・機能的肥大化の袋小路に陥ってしまい、現在のキングジムの流儀に合わない製品になってしまいそうですが…。

▼参考リンク
ひもがいらない「デジタルまいごひも」|KING JIM
子どもが離れるとスマホのアラームが鳴って知らせる「デジタルまいごひも」発売 | ニュース | ファイルとテプラのキングジム

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