Microsoft Surface 3手前の赤いキーボードはDark Red Type Cover。

Windows RTとは何だったのか ~ATOMプロセッサ搭載になったSurface 3~

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by [2015年4月17日]

Microsoft Surface 3手前の赤いキーボードはDark Red Type Cover。

Microsoft Surface 3
手前の赤いキーボードはDark Red Type Cover。

今やWindowsタブレット機市場で大きな地位を確立したマイクロソフトの「Surface」シリーズ。

特にx86系CPUを搭載し通常のWindows 8/8.1やMicrosoft Office(※以下、Officeと略記)をプリインストールされた「Surface Pro」シリーズは、最新のCore i系プロセッサを搭載しこの種のタブレット機としてはかなりの高性能を実現していることもあって、人気を集めています。

もっとも、その一方で廉価モデル的な扱いとなっている無印の「Surface」シリーズは、搭載CPUがARM v7系プロセッサで既存のWindowsデスクトップアプリケーションが動作しないため不人気で、「Surface Pro 3」発売時には対置されるべき下位機種の「Surface 3」が発売も発表もされないという異例の事態となっていました。

そうして何と8ヶ月以上製品ラインナップから欠落したまま(※前世代の「Surface 2」が継続販売)となっていた廉価版「Surface」ですが、このほどようやく「Surface 3」が発表されました。

今回はこの「Surface 3」について考えてみたいと思います。

「Surface 3」の主な仕様

現時点で公表されている、英語圏向け「Surface 3」の主な仕様は以下のとおりです。

  • OS:Windows 8.1 update 64bitあるいはWindows 8.1 Pro Update 64bit
  • CPU:Intel Atom x7-Z8700(1.6GHz クアッドコア)
  • GPU:Intel HD Graphics(CPU内蔵)
  • サイズ:約267×187×8.7 mm
  • 重量:約622g(バッテリー含む)
  • メインスクリーン
    • 種類:液晶
    • 解像度:1,920×1,280ピクセル
    • 画面サイズ:10.8インチ(対角線長)
    • アスペクト比:3:2
  • 内蔵メモリ:LPDDR3-1600MHz 2GB/4GB
  • 内蔵ストレージ:64GB/128GB SSD
  • カードリーダー:Micro SD Card対応
  • カメラ
    • メイン(背面)カメラ解像度:8メガピクセル
    • サブ(前面)カメラ解像度:3.5メガピクセル
  • インターフェイス;Mini DisplayPort・USB3.0・ヘッドセット入出力・マイクロUSB充電ポート・Cover Port
  • Wi-Fi:
    • 対応規格:IEEE 802.11 a/b/g/n/ac
  • Bluetooth:Ver.4.0
  • 電池容量:非公開
  • ※Microsoft Office 365サービス1年分添付

CPUには最新型Atomを搭載

今回の「Surface 3」で最大のトピック、それは何といってもCPUがARM v7系アーキテクチャによるNVIDIA Tegraシリーズからx86系のIntel Atomプロセッサの現行最新作、「Atom x7-Z8700」に変更され、OSもこれに合わせて「Surface 2」のWindows RT 8.1からWindows 8.1あるいはWindows 8.1 Pro(※メーカーオプション)に変更されたことです。

つまり「Surface Pro 3」のように高速でなくともデスクトップ画面でWindowsデスクトップアプリの動作可能な普通のWindowsマシンになったということです。

初代「Surface」や「Surface 2」では専用で搭載されていた「Microsoft Office 2013 RT」の互換性が不十分で不評を買っていたのですが、そんな専用版を用意せずとも通常の「Microsoft Office 2013」各エディションや「Office 365」が普通に利用可能となったのです。

この「Atom x7-Z8700」は最新世代のAtomプロセッサの中でもタブレット機用として提供されるコードネーム「Cherry Trail」と呼ばれるプロセッサ群の最上位に位置づけられるモデルです。

「Cherry Trail」は半導体製造プロセスルールが14nm、つまり単純計算で28nmプロセスの1/4のサイズで同等の回路を形成できる現行最新最先端の製造プロセスによって生産されるとのことで、22nmプロセスとの比較でも同じ回路がおよそ半分のチップサイズにできることになります。

そのため、単純に同じCPU回路で同じクロック周波数で動作させ、同じ容量のバッテリーしたとしても、22nmプロセスを利用しているコードネーム「Merrifield」あるいは「Moorefield」、つまり最近の中華タブレットなどでおなじみの「Atom Z34xx」シリーズや「Atom Z35xx」シリーズといったプロセッサと比較してほぼ同じ性能でざっくり言って倍の時間動作するマシンが作れることになります。

今回の「Atom x7-Z8700」ではこうした製造プロセスルール面での優位性をGPU性能の強化やメモリコントローラのデュアルチャンネル化による飛躍的なメモリ性能の向上などに振り向けて総合的な性能の底上げを実現しており(※注1)、少なくとも公表されているスペックから判断する限りは低価格帯向けのAtomプロセッサと言って侮れない仕様・性能となっています。

 ※注1:CPU性能そのものは「Merrifield」や「Moorefield」と大差ないレベルにとどまるとされます。もっとも、メモリインターフェイスの帯域が倍増あるいはそれ以上となるため、同じCPUコアでも演算性能が引き上げられることになります。また、メモリインターフェイスの強化はCPUとこれを共用するGPUの性能向上にも大きく寄与します。

Microsoft Surface Pro 3(右)とMicrosoft Surface 3(左)Surface 3はSurface Pro 3よりも一回り小さい。

Surface Pro 3(右)とSurface 3(左)
Surface 3はSurface Pro 3よりも一回り小さいが画面は同じアスペクト比となっている。

また、2,160×1,440ピクセルの専用設計ディスプレイパネルを搭載して注目を集めた「Surface Pro 3」と同様に、この「Surface 3」でもディスプレイ解像度がアスペクト比3:2に変更され、画面サイズが10.8インチと「Surface Pro 3」の12インチよりやや小さくなったため応分にピクセル数が減って、フルHDより短辺が200ピクセル分広い1,920×1,280ピクセルという他に例のない解像度となったことも注目されます。

タブレットの場合、スマートフォンのようにアスペクト比16:9の細長いディスプレイパネルでは使いにくく、初代モデルよりアスペクト比4:3を墨守するiPadもそうですが、各社ともあえて専用設計のディスプレイパネルを使用してでもより紙のノートの縦横比に近い解像度を採用する傾向にあります。

AppleはiPadの小型モデルであるiPad miniで画面サイズを縮小してもピクセル数を変えず、結果として画素密度が小型モデルの方が高いという状況になっていますが、マイクロソフトは画面サイズの比率に見合った画素数を選んでおり、両社で対照的な設計方針が明確になっています。

なお、この「Surface 3」では「Surface 3 Pro」に添付されていた「Surfaceペン」が付属せず別売となっています。小さな画面の機種の方がスタイラスペンが必要な気もするのですが、画面解像度を画面サイズに合わせて変えて画素密度を一定に保つのであれば、低価格で販売される「Surface 3」に無理にペンをバンドルせずオプション扱いとするというのも一つの見識であると言えます。

Atom搭載「Surface 3」に至る道

Windows 8登場の際に大きな話題となったことの一つに、これまでWindowsで一般に対応してきたいわゆるx86プロセッサではなく、ARMのARM v7系プロセッサに対応する派生バージョンであるWindows RTがタブレット機向けとして提供されたことがありました。

このWindows RTはx86命令に対応する既存のレガシーなWindowsデスクトップアプリケーションが動作せず、またそもそもデスクトップ画面そのものがサポートされない、というWindows 8のサブセット版的な位置づけのOSでした。その一方でこのOSはWindows 8より対応が始まったCPU命令セット非依存のWindowsストアアプリについては対応し、Windowsユーザーが一番求めるであろうMicrosoft Officeについては、(初代「Surface」および「Surface2」にもプリインストールされた)Office 2013 RTと呼ばれる専用バージョンが提供されました。

もっともこのOffice 2013 RTは通常のx86系Windows版Officeで利用できているマクロやアドイン、フォームなどに一切対応せず、その他多くの機能で非対応や機能の不足があったためバージョンの年数表記が同じのOffice 2013と同等には扱えませんでした。

このようにアプリの揃いの面で大きなハンディキャップを抱えていたことから、Windows RTは長らく待望論があった割に上手くゆかず、マイクロソフト自身が2012年10月(※日本国内では2013年3月)に発売したWindows RT搭載タブレット機である「Surface」はそれなりに低価格設定であったにもかかわらずさっぱり売れませんでした。

実際、この初代「Surface」は大量に売れ残ったため、大幅値下げが行われたもののそれでも売れず、マイクロソフトがこの機種の最終的な在庫処分のために9億ドルの減損処理を発表するというかなり悲惨なことになりました。

これは初代「Surface」発売後、わずか半年足らずの2013年2月(※日本国内では2013年6月)にx86系のCore i5プロセッサを搭載し正規のWindows 8や(日本市場向けでは特別に)Office Home and Business 2013がプリインストールされた上位機種の「Surface Pro」が日本国内で発売され、倍以上の価格差があったにもかかわらず、こちらを選ぶユーザーが圧倒的に多くなってしまったためでした。

さらに、改良後継機種としてWindows RT 8.1搭載の「Surface 2」が2013年10月に発売されましたがこれも同時発売の上位機種である「Surface 2 Pro」と比較して惨敗と言って良い販売実績となってしまいました。

OSメーカー純正のリファレンス的な位置づけの機種ですらこのような状況であったため「Surface 2」が出る頃にはサードパーティでわざわざWindows RT/RT 8.1を搭載するタブレット機を発売しようというメーカーはほとんどなくなっていて、Windows RTの前途は非常に厳しい状況となっていました。

また、そもそもWindows 8/8.1そのものが新UIのマウス・キーボード環境でのあまりの理不尽な操作性故に大変な不評を買って、Windows XPサポート終了に伴う買い換え特需の際にもWindows 8/8.1からWindows 7にダウングレード権を行使するユーザーが続出し、OSアップグレードでもあえて一世代古いWindows 7を購入するユーザーが大半を占め、さらにはそもそもWindows利用を止めてiPadやAndroid タブレットなどへ機種変更するユーザーが続出したことから、OSがアップグレードされてもマシンが新しくなってもWindows ストアアプリが動作する環境がさっぱり増えないという状況にも陥ってしまいました。

このためストアアプリの数が期待されたほど増えず開発者も関心を示さず、ストアアプリしかMicrosoft純正以外でのアプリ提供手段が用意されていないWindows RTマシンはいよいよ見向きもされなくなるという最悪に近い負のスパイラルが形成されてしまったのです。

マイクロソフトとしては恐らく没入形のUIを備えるWindows 8でWindowsストアアプリへの移行を強力に推進・誘導し、それを前提としたストアアプリ専用タブレットとして「Surface」をプロモートしたかったのだと思います。

しかし、市場はWindows 8に対して(タブレット機などタッチパネルを搭載する機種を除くと)事実上拒否に近い反応を示し、先にも示したようにWindowsストアアプリも十分揃わない状況に陥ってしまいました。

そのため、Windows RT搭載の「Surface」シリーズはそうした「Windowsストアアプリの動作するタブレット」ではなく、「プリインストールのOfficeもOS本体も中途半端にしか機能が搭載されておらずアプリ互換性の低いWindowsタブレット」と市場に判断されてしまったわけです。

こうした情勢を反映してか、「Surface 2」の後継機種についてはWindows RT 8.1搭載機を小型化するという噂が一部のメディアを中心に盛んに流されたもののこれは結局発売されず「Surface 2 Pro」の後継機である「Surface 3 Pro」のみが2014年夏に発売され、下位の「Surface 3」となるべきWindows RT搭載の廉価モデルは発売されないという状況になってしまいました。

今回「Surface 3」が低価格のx86プロセッサであるAtomを搭載しWindows 8.1/8.1 ProがプリインストールされOffice 365の利用権が付属するようになった背景には、こうしたWindows RT搭載「Surface」シリーズ2機種の深刻な不振があったものと思われます。

Windows RTよさらば

Microsoft Surface 3Surface Pro 3と同様に純正でドッキングステーションが提供される。

Microsoft Surface 3
Surface Pro 3と同様に純正でドッキングステーションが提供される。

これまで、マイクロソフトはことあるごとにWindows RT(およびその搭載製品)を止めることはないとしてきたのですが、遂に引導を渡されたと見て良さそうです。

実際のところ、今年に入ってから「Surface 2」の生産終了が告知され、次期WindowsであるWindows 10についてのイベントでのアップグレード概要説明の際にWindows RTについて全く言及がないなど、Windows RTの終わりの時が近づいていることを示す兆候は色々あったのですが、これまでのラインナップ構成であれば搭載されて然るべき立ち位置の「Surface 3」に搭載されなかったことで、それが鮮明になったと言えるでしょう。

なお、「Surface 3」はメインメモリ2GB、内蔵ストレージ64GBでキーボード(タイプカバー)無しの下位モデルがアメリカで499ドルにて販売の予定となっています。

つまり、今の為替レートだと日本円にして6万円前後というお値段になります。

Microsoft Surface 2できることの差が大きい割にSurface 3との値段差はそれほど大きくない。既に生産は打ち切られている。

Microsoft Surface 2
できることの差が大きい割にSurface 3との値段差はそれほど大きくない。既に生産は打ち切られている。

先代にあたる「Surface 2」の内蔵ストレージ64GBモデルがお値段449ドル、つまり約5.4万円でしたからそのままこの価格で出ても若干の値上げになりますが、他社の競合製品と比較するとなかなかリーズナブルな価格設定ですし、「Surface 2」比でできるようになることの多さを考えると十分納得のゆく価格上乗せと言って良いと思います。

もっとも、記事執筆時点ではSurface 3の北米その他の市場での発売時期はアナウンスされていますが、日本市場については発売そのものの有無を含め、一切言及されていません。

初代「Surface」がアメリカでの発売からおよそ5ヶ月遅れたことが示すように、この「Surface」シリーズの日本市場での発売は他より遅れる傾向があります。

一応、2世代目以降はそれほど待たされずに発売されていますし、日本向けはプリインストールされるOfficeの有無やそのエディションが異なることが多いため、その社内的な調整が必要であることは理解できるのですが、どうにもじれったい感じがします。

Windows RT搭載「Surface」ユーザーはどこへ

ところで、こうしてWindows RTの(商業的な意味での)終焉が近づくと困るのは初代「Surface」や「Surface 2」を購入したユーザーです。

今後Windows RTのWindows 10へのメジャーアップグレードはありません、Windows 10の機能の一部だけをアップデートで提供します、というのはブランドイメージ的に色々まずい気がします。

ことに、期間限定とはいえx86系プロセッサ搭載機向けのWindows 10がWindows 7/8/8.1からの無償アップグレードを実施する予定となっていることを考えると、有償でさえ新OSが提供されない「Surface」「Surface 2」ユーザーには「Surface 3」や「Surface Pro 3」購入時の高額下取りサービスなど何らかの救済措置があって然るべきではないでしょうか。

▼参考リンク
Announcing Surface 3 – Surface Blog
Introducing Surface 3
ARK | IntelR Atom? x7-Z8700 Processor (2M Cache, up to 2.40 GHz)

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