:携帯端末が助け合って混雑を解消しているイメージ図

協力すれば通信速度アップ? ~京都大学、通信混雑解消技術を発表~

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by [2015年3月19日]

:携帯端末が助け合って混雑を解消しているイメージ図

:携帯端末が助け合って混雑を解消しているイメージ図

今更ですが、携帯電話は通信端末と基地局の間で電波をやりとりすることで、通話や通信を成り立たせています。

より具体的に言えば、端末と基地局の間で定められた周波数帯の電波を使って、情報を送受信しているわけですが、この通信方式では、一つ避けて通れない問題があります。

それは、同じ周波数帯を使用する、つまり同じ通信キャリアと契約し同じサービスを利用している通信端末が同じ場所に多数存在していてそれらが同時に通信を行う場合、一つの周波数帯域で搬送されるデータ量がその帯域に許された上限に達すると飽和して、通信速度の低下が起きてしまうことです。

割り当てられた同じ一つの周波数帯を利用する限り、同じ場所で複数台の端末が同じ一つの基地局との間で通信を行えば端末1台あたりに割り当てられる通信容量が減少するのは自明のことです。

これについては、キャリア各社が進めている通信速度の低下が起きやすいエリアでの基地局増設=担当エリア分割により各基地局が引き受ける端末数を相対的に低減させるという対策も、一つ所に多数のユーザーがいて同時に通信を行う状況では十分な効果を期待できません。

その対策としては、LTE-Advancedに属する技術…複数の周波数帯を束ねて利用する技術「キャリアアグリゲーション(Carrier Aggregation:CA)」や、複数の送受信アンテナを用いて空間多重化を行うことである周波数帯での(周波数帯拡大無しでの)通信スループット改善を図る技術「MIMO(Multi-Input Multi-Output)」の導入、それにWi-Fiルーターの設置による3G/LTE通信のWi-Fi接続へのオフロードなどが行われています。

もっとも、キャリアアグリゲーションは一定の効果が期待できるものの、そもそも日本では各通信キャリアに割り当てられている周波数帯の数が決して多いとは言えず、またその帯域の中で3G音声通話と3Gデータ通信あるいはLTEデータ通信を混在させる必要があること、それにこの機能に対応するハードウェアが必要となることから現状では劇的な効果は期待できず、Wi-Fiへのオフロードもそもそも基地局とは別にWi-Fi通信スポットの整備を進める必要があって、これもまた一定の効果は期待できるものの抜本的な解決策とはなりにくい、という問題があります。

残るはMIMOですが、この技術は通信に用いるアンテナの本数を増やすほどに効果が期待でき、利用できる周波数帯が限られる状況では非常に有効です。

問題は、このMIMOで通信に用いるアンテナ本数の増強が、基地局はともかく端末側では非常に難しいことです。

何しろ、現在の一般的な携帯電話やスマートフォンを分解してみるとわかるのですが、1本の送受信アンテナの搭載スペースの確保やその位置の最適化でさえかなり苦労して行われている状況で、MIMOがいかに効果的な技術であったとしても、いきなりアンテナを増やせといわれてもおいそれと対処できないのです。

そんな中、このほど京都大学からこうした通信混雑時の問題を解決するという研究成果が発表されました。

今回はこの研究成果について考えてみたいと思います。

多数の端末を群として扱う

村田英一 京都大学情報学研究科准教授、田野哲 岡山大学教授、梅原大祐 京都工芸繊維大学准教授らの研究グループによって発表された技術は、「近傍の端末が高周波数帯を利用して相互に連携することによって、等価的に多数のアンテナを備えた一つの端末として機能させるもの」とされています。

これだけだと、具体的に何をどうしているのかよくわからない、という方もおられることでしょう。

わかりやすく言ってしまうとこれは、MIMOによる通信のスループット改善がアンテナ本数に依存することと、端末相互の間では(LTEや3G通信で扱っているのよりも遙かに高周波数の)Wi-FiあるいはBluetoothによる通信が行えることを活用するものと考えられます。

これはWi-Fi通信あるいはBluetooth通信を用いて、LTE通信で送受信すべきデータを分割して複数の端末との間でやりとりすることでそれら複数台の端末をまとめて一つの「群」として仮想的な端末とみなし、その一つの「群」に属する端末それぞれのアンテナにMIMOで扱う複数アンテナの役割を分割して割り振ることで一つの巨大かつ多数の送受信アンテナを備えたMIMO対応通信デバイスとして扱おう、というものです。

一般に送受信アンテナを1本のみ搭載の各端末が個別に基地局と通信を行う場合、通信を行う端末数が多く周波数帯域が飽和する状態ではそれぞれの端末が基地局を独占して通信する理想状態よりもスループットが低くなることは避けられません。仮に各端末の性能が均等で、それらのアンテナ1本による送受信を行った場合の理想的なスループットが1、端末の台数がnであるとすると、通信飽和状態で各端末が個別に通信を行う場合に得られる各端末のスループットの合計値はnを少なからず、ことによるとかなり下回ることになるのです。

これに対し、今回発表された技術を用いてそれらn台の端末をひとまとまりにしてWi-FiあるいはBluetoothによる通信を利用して相互に連係動作させ、n本の送受信アンテナを備えるMIMO対応通信デバイスとして振る舞う場合、基地局側にn本の送受信アンテナが用意できていればこれらの間ではn×n MIMOが構成でき、基地局と端末それぞれがアンテナ1本で通信する場合(※注)の理論値のn倍の通信スループットを得ることが、各端末合計で通信スループットnを安定的に得ることが期待できます。

 ※注:MIMOとの対比でこの構成をSISO(Single-Input Single-Output)とも呼びます。

また、MIMOの場合複数のアンテナを利用し複数の経路により電波が送受信できるようになるため、副次的な効果として電波が届きにくい場所でも安定的に通信が出来るようになることも期待できます。

つまり、古来より伝わる「三矢の教え」ではありませんが、1本1本のアンテナを個別に使って十分な性能が性能が得られないのなら、それらを束ねて使うことで必要な送受信性能を確保してしまえ、ということなのです。

実はMIMOの場合、安定的に高いスループットを得るためには複数搭載される送受信アンテナはその設置間隔を広くとることが求められます。そのため、コンパクトな端末内部に送受信アンテナを2本ないしは3本積んでも期待されるほどの性能は得られません。

その意味では、複数のユーザーが所有する端末をリンクしてMIMOを構成する今回の方式は、端末側の各アンテナの設置間隔が必然的に大きくなる=安定的な高速通信が期待できるという副次的なメリットもあることになります。

問題が無いわけではない

ここまで記してきたように、良いことずくめに見える今回の研究ですが、問題点がないかと言えばそんなことはありません。

このあたりの仕組みにさほど詳しくない筆者が思い付く範囲でも、

  • 各端末の通信をまとめ、束ねてMIMOで送受信をおこなうためには通信制御をいずれかの端末で統括して行う必要があると考えられるが、「群」を構成する多数の端末の調停・制御をどのようにして行うのか
  • 異なる性能・特性のアンテナを備えた複数の機種でどのようにMIMOによる通信を制御・調停し、安定的かつ高速な通信を実現するのか
  • 各端末間で「高周波数帯を利用して相互に連携する」ための通信には屋外利用も考慮すると2.4GHz帯のWi-FiあるいはBluetoothを利用することになると考えられるが、その通信によって2.4GHz帯のWi-Fi通信を飽和させ、この周波数帯を(例えば通常のWi-Fi接続やBluetoothデバイスの接続などで)利用している他の端末に対して深刻な障害にならないか
  • 「群」に含まれうる端末を持ったユーザーがその場から離れる/その場に接近するなどしてMIMOを構成する端末の数が増減した場合、それをどのように検出しどのように動的な制御を行うのか
  • この「群」で送受信される各端末の通信内容(パケット)をどのように各端末で分配し、リンクするそれらの端末を通過することになる他者の通信をどのようにして保護し情報漏洩を防ぐのか
  • 「群」をリンクさせるWi-Fi/Bluetooth接続において、どのようにして他者のもつ複数台の端末による一時的な接続を通常の接続と区別し許可するのか
  • など、(恐らくは既に解決済みのものが多いのでしょうが)今思い付くだけでも結構色々な問題がありそうです。

    この種の通信制御は往々にして効率と安全性や安定性がトレードオフの関係になりがちです。

    まぁ、「群」に参加する各端末の調停や管理などは(構成される送受信アンテナ本数などの増減のない)基地局側で一括して行わせるのが一番手っ取り早い気がしますが、そうすると基地局側でハードあるいはソフトについてそれなりに手を入れる必要が出てきます。

    また、この種の仕組みではその「群」の中で各端末間でやりとりされるそれぞれの通信内容が傍受され、それが悪用されるのを防ぐことが何より強く要請されます。

    要するに、クレジットカード情報やパスワードなどを「群」に参加する他の端末に「抜かれる」ことだけは何としてでも防がねばなりません。そのためには、「群」に含まれる各端末間を結ぶネットワークでは通信内容を暗号化して取り扱う必要があるわけですが、そうすると各端末間の接続をどうやって成立させるのかが問題になってきます。

    更に言えば、「群」が構成された後からWi-Fiルーター(ホットスポット)との接続が可能となった場合、「群」に参加してMIMOによるLTE通信を基地局との間で行うのと、単純にWi-Fiルーターと接続して通信を行うのと、どちらの方が速いのか、どちらを選択するのか、という問題もあります。

    今後が期待できそう

    上でも触れたように、複数の端末をリンクさせるために見ず知らずの人の使う端末との間でWi-Fi通信を許可する必要があり、しかも通信を共有するという点で今回の研究はセキュリティ面やプライバシー保護の観点において少なからず危うさがあります。

    しかし、MIMOによる通信スループット改善が最も求められる通信混雑による帯域飽和状態において、その原因となる多数の端末を逆にその飽和状態改善のためのMIMO利用に利用しようというこのアイデアは、悪化した環境をむしろ状況改善に利用しよう、という一点でなかなか卓抜な考え方であると言えます。

    また、送受信アンテナという携帯電話/スマートフォンではスペース的に最も増設しにくいデバイスを各端末で個別増設せず、LTE通信時にはテザリング機能を使いでもしなければ遊んだままになっているWi-Fi接続や同様に通常はヘッドフォンあるいはキーボード接続程度しか利用されていないBluetoothを活用することでハードウェアにはほとんど、あるいは全く手を入れずソフトウェアだけで機能を実現できそうなのもこのアイデアの魅力だと言えます。

    正直、基地局との間でただでさえ電力消費の大きなLTE通信を行いつつ各端末同士でWi-Fi接続やBluetooth接続を行うというのはバッテリー消費的にかなりやばいんじゃないのか、この機能を使えるようにするとテザリング機能などに悪影響があるんじゃないのか、といった疑問もあったりするのですが、端末側を束ねてこれまででは実現できなかったような多アンテナによるMIMOを実現するというのはそうした疑問を忘れる程度にはインパクトのある話です。

    今後、今回の研究が果たしていつごろ実用段階に到達できるのか、そもそも実用化可能なのかどうかは定かではありませんが、筐体サイズの関係から複数本の送受信アンテナを搭載してもそれぞれのアンテナの間の間隔を確保できないため十分な性能が期待できず、アンテナ1本ではさらにハッピーになれない携帯電話/スマートフォン端末において、これ以上の通信性能改善策は正直期待できそうにありません。

    その意味では、これは何としてでも早急に実用化してほしい技術です。

    ▼参考リンク
    携帯端末が助け合って混雑を解消する技術の実証に成功 -増大するスマートフォンのデータ通信混雑解消に期待- — 京都大学
    携帯端末が助け合って混雑を解消する技術の実証に成功 -増大するスマートフォンのデータ通信混雑解消に期待- (PDFファイル)

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