Apple Watch右側面上部に「Digital Crown」と称する大きめの竜頭を搭載し、これを回転操作することで画像の拡大縮小や画面のスクロールなどを行える。

Apple Watchはどこを目指すのか

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by [2015年3月13日]

Apple Watch各コレクション右からApple Watch、Apple Watch Edition、Apple Watch Sportとなる。

Apple Watch各コレクション
右からApple Watch、Apple Watch Edition、Apple Watch Sportとなる。

特許公報その他の情報から長らく噂になり続け、昨年秋にようやく今年春の発売が予告されていたAppleのウェアラブルデバイス「Apple Watch」が遂に発表されました。

ウェアラブルデバイス、特に腕時計タイプのものはGoogleのウェアラブルデバイス特化形OSである「Android Wear」を搭載したものが先行して発売されていますが、満を持しての登場となった今回の「Apple Watch」は一体どのようなデバイスにまとめ上げられたのでしょうか。

今回はこの「Apple Watch」について考えてみたいと思います。

公開されていないハードウェア構成

この「Apple Watch」の主な仕様は以下のとおりです…といいたいところですが、記事執筆時点では今回の「Apple Watch」の主なハードウェア仕様、具体的には搭載されている統合プロセッサの構成や搭載されている電池容量、あるいはディスプレイの解像度、そういったハードウェアとしての「Apple Watch」の性能を推測する手がかりとなるような仕様はほとんど公開されていません。

もっとも、表層に現れる部分についてはむしろ饒舌なほどに公式ページで語られており、そこから以下の情報を得ることができます。

  • 筐体やベルトの構造、デザインによって「Apple Watch」「Apple Watch Sport」「Apple Watch Edition」の3つの「コレクション」が設定されており、ケースサイズは42mmサイズと38mmサイズの2種提供される
  • iPhone 5以降のiPhone、それも「Apple Watch」の発表と同時に公開されたiOS 8.2をインストールした端末との組み合わせでのみ利用でき、iPhoneとの通信にはWi-FiとBluetoothのいずれかを状況に応じて自動選択する
  • 搭載OSは「Watch OS」と称される「Apple Watch」専用のウェアラブルOSである。その操作は感圧機能を備えたRetinaディスプレイ上の静電容量方式タッチパネルと、「Digital Crown」と命名された竜頭の回転・押し込みを併用する
  • 標準で複数の専用アプリが搭載され、「Apple Pay」サービスにも対応。またiPhone経由での対応アプリの追加インストールが可能となっている
  • 「Taptic Engine」と称するリニアアクチュエータによる振動機構や赤外線LEDと可視光LED、フォトダイオードの組み合わせによる心拍数センサー、それに通話およびSiri用としてマイクとスピーカーを内蔵する。
  • 搭載されている統合プロセッサは「S1」と称する
  • 内蔵バッテリーがフル充電の状態で連続18時間の稼働が可能である
  • それでは、これらについて順に見てゆくことにしましょう。

    3コレクション38モデルのバリエーション展開

    今回の「Apple Watch」の発表で一番驚かされたのが、最下位で42,800円(税抜)、最上位で何と128万円(税抜)から、という極端に広い価格設定と、その価格に合わせた筐体仕様のバリエーション展開です。

    整理すると、研磨加工されたサファイアクリスタルをディスプレイ面保護に用い、18金(18K)製のケースを備えるハイエンドモデルである「Apple Watch Edition」と、同じく研磨加工サファイアクリスタル製ディスプレイ面と冷間鍛造加工された316Lステンレス製ケースを備える基幹機種たる「Apple Watch」、それに軽量Ion-Xガラス(アルミノケイ酸ガラス)製ディスプレイ面と7000系アルミニウム合金製ケースを備えるスポーティモデルの「Apple Watch Sport」の3つの「コレクション」が提供され、さらに使用者の体格などに合わせてそのケースサイズが42mmと38mmの2種用意されるため、本体部分だけで6種類、ベルト部を合わせると実に合計38モデルもの多様なバリエーションが用意されていることになります。

    ちなみに公式サイトでは「標準的な金よりも最大2倍硬くなるように開発した18K」とあることから、「Apple Watch Edition」の本体ケースが純度18/24、つまり金を75パーセント含む合金で作られていて、残り25パーセントに混入される金属の配合を宝飾品で一般に用いられる銀、銅、それにパラジウムなどを混入したタイプの18Kと変えることで、2倍の硬度を持たせているということになります。

    金は純度が高いほど柔らかく展性が高くなりますから、硬度が必要な場合は一般に18Kの合金に純度を落として使われる事が多いのですが、腕時計の場合それでもまだ表面硬度が足りずに傷つく可能性があって、そのため特に硬度を高くする配合が行われているのです。

    一方、基幹機種である「Apple Watch」では「驚くほど錆に強いアロイである精錬された316Lステンレススチールを選び、それを冷間鍛造で最大80パーセント硬くしました」としています。

    「316Lステンレススチール」つまりSUS 316Lは67パーセントを占める鉄を主体にクロム18パーセント、ニッケル12パーセント、モリブデン約2パーセントを含有するステンレス鋼の一種で、「L」はLow Carbon、つまり基本となるSUS 316よりも炭素含有量を減らし(0.06パーセント以下から0.03パーセント以下に削減)、硬度を下げ柔らかく加工しやすくし、また溶接などによる腐食に対する耐性も高めた派生種別です。

    このSUS 316Lはその優れた耐食性故に腕時計のケースに使用されることが多く、かの有名な「ブライトリング」などでも使用されています。

    もっとも、現在の「ロレックス」などの高級腕時計では「SUS 904L」という、鉄が約50パーセント、クロムが19~23パーセント、ニッケルが23~28パーセント、そしてモリブデンが4.5パーセントという組成で、元々は強酸を扱う化学プラントの配管用に開発された超高耐食性ステンレス鋼が使用されているため、これは公式サイトが謳うような「驚くほど」のものではありません。

    無論世間一般で、例えば台所の流しなどに広く用いられているSUS 304(※注)などと比較すれば確かに「驚くほど錆びに強い」合金鋼ですし、価格設定を考えるとSUS 316L以外の選択肢は無かったのだと思うのですが、上に記したようにSUS 904Lがほとんど貴金属並の耐食性を備えていて、それが時計業界ではもう30年も腕時計に使われていることを考えれば、これは今更感が強いというか、いささか盛り過ぎなセールストークではないでしょうか。

     ※注:クロム18パーセント、ニッケル8パーセントを含有し、一般にはそこから「18-8ステンレス」の名で呼ばれています。

    Apple Watch Sport7000系アルミニウム合金製ケースを備える。

    Apple Watch Sport
    7000系アルミニウム合金製ケースを備える。

    次に、「Apple Watch Sport」で採用されている7000系アルミニウム合金ですが、Apple自身は「私たちは新しいアロイである「7000シリーズアルミニウム」を生み出しました。これは、標準的な合金よりも60パーセントも強く、しかも驚くほど軽量です」としています。

    これだけ読むとまるでAppleが7000系アルミニウム合金を発明したような言いっぷりですが、7000系アルミニウム合金というのはアルミニウム-亜鉛-マグネシウム系合金およびアルミニウム-亜鉛-マグネシウム-銅系合金の総称で、アルミニウムの精錬技術が広く普及した19世紀後半には既にこの地球上に存在していた、高強度を特徴とするアルミニウム合金の系列です。

    実際にも前者のアルミニウム-亜鉛-マグネシウム系合金は7N01を筆頭に新幹線電車などの鉄道車両用構造材として20世紀後半以降広く利用され、後者のアルミニウム-亜鉛-マグネシウム-銅系合金は20世紀初頭に開発されたジュラルミンを筆頭にアルミニウム-亜鉛-マグネシウム系合金と比較しても格段に高い強度が得られることから航空機を中心に利用されています。

    つまり、この系列の合金であれば銅の配合次第で強度を大幅に増すことができるのは100年も前から周知の事実で、成分比率も明らかにされないのではAppleが一体何をどう「生み出した」ものやら筆者には正直よくわかりません。

    ちなみにこの「Apple Watch Sport」ではその「7000シリーズアルミニウム」の表面を酸化皮膜処理して傷つきにくくしているとのことですが、これも要するに弁当箱でおなじみの「アルマイト処理」をしているわけで、アルミニウム合金製部材の表面を傷つきにくくする処理としては常識的なことをやっているだけの話で、特に大々的に謳うような要素はありません。

    絞られた対応機種

    iOS 8.2以降標準搭載の「Apple Watch」アプリ削除不可のアプリとして搭載されている。

    iOS 8.2以降標準搭載の「Apple Watch」アプリ
    削除不可のアプリとして搭載されている。

    今回の「Apple Watch」はiPhoneの周辺機器的な位置づけとなっており、対応するiPhone各モデル、それも「Apple Watch」のためのアプリが標準で組み込まれたiOS 8.2以降がインストールされた端末と組み合わせて、iPhoneをいわゆる母艦として使用するのが前提となっています。

    それはこの「Apple Watch」が外部機器接続のための物理的な端子を備えておらず、アプリのインストールにはペアを組むiPhoneからIEEE 802.11 b/g/nによるWi-FiあるいはBluetoothにより転送する必要があるためです。

    腕時計形ウェアラブルデバイスということで屋外でも利用される可能性が高く、また屋内と屋外を判別することは困難ですから、屋外利用に厳しい制限のある5GHz帯を使用するIEEE 802.11 a/nが非サポートとなり、Bluetoothと同じ2.4GHz帯利用のみとなったのは当然のことでしょう。

    なお、Bluetoothはバージョン4.0、つまりiBeaconでも利用されているBluetooth Low Energy(BLE)モードがサポートされているタイプのものが搭載されていて、iPhoneとの通信は状況によりWi-FiとBluetoothを自動切り替えして使い分けるようになっています。

    以前江ノ電なびの記事でも記しましたが、BLEはiPhoneの場合2011年11月発表のiPhone 4Sより標準搭載されていて、このBLEを利用するiBeaconはこの機種をサポート対象機種としています。

    しかし「Apple Watch」の母艦となりうる対応機種は、これより一世代後のiPhone 5以降とされています。

    iPhone 4SとiPhone 5では統合プロセッサの演算性能向上やLTE通信のサポート、それにメインメモリ容量の増加といった端末の基本性能にかかわる大きな変更があったことから、これらのいずれか。恐らくはプロセッサ性能かメインメモリ容量のどちらかの不足がiPhone 4S非サポートの主因と考えられます。

    竜頭の活用

    Apple Watch右側面上部に「Digital Crown」と称する大きめの竜頭を搭載し、これを回転操作することで画像の拡大縮小や画面のスクロールなどを行える。

    Apple Watch
    右側面上部に「Digital Crown」と称する大きめの竜頭を搭載し、これを回転操作することで画像の拡大縮小や画面のスクロールなどを行える。

    「Apple Watch」では「Watch OS」と称するウェアラブルデバイス専用OSが搭載され、対応アプリが提供されることが公表されています。

    ユーザーインターフェイス周りはともかく、OSの基本的な部分は恐らくMac OS XやiOSと共通設計になっていると推測されますが、OSが搭載されていて後から別途対応アプリがインストールできるということはつまりGoogleの「Android Wear」と近似の仕組みを備えていることも同様に推測できます。

    「Watch OS」およびそれを搭載する「Apple Watch」と、「Android Wear」の決定的な相違点、それはユーザーインターフェイス部分にあります。

    「Android Wear」各機種ではタッチパネル操作を基本とし、竜頭をメインボタン相当として利用しているのですが、この「Apple Watch」ではやや大型化し、押し込みによるボタン操作に加えて回転操作を行えるようにすることで、Apple流に「Digital Crown」と命名された竜頭で画面の拡大縮小やスクロール操作などを行えるようにしてあるのです。

    このあたり、AppleとGoogleが「腕時計」といった場合にそれぞれどんな機種をターゲットとして想定していたかが明確に分かれていることが判って大変興味深い部分なのですが、低価格機種への展開を想定するGoogleが高コスト要因となる回転機能を備えた竜頭を無視し、質感や操作感を重視するAppleがこの機能を「Apple Watch」の全コレクション全モデルに搭載した、というのはある意味納得のいくことです。

    iPhoneの周辺機器として

    iOS標準搭載の「ヘルスケア」ご覧の通り標準で心拍数の項目が用意されているが、iPhone単体では利用できない。

    iOS標準搭載の「ヘルスケア」
    ご覧の通り標準で心拍数の項目が用意されているが、iPhone単体では利用できない。

    この「Apple Watch」では心拍数センサーが内蔵されていることが示されています。

    これこそはユーザーの腕に密着して装着される腕時計型ウェアラブルデバイスならではのセンサーで、iPhone側のiOSに搭載されている標準アプリの一つである「ヘルスケア」で用意されているもののiPhone単体ではデータ無しとなっていて利用できない「心拍数」の項目は、これで利用できるようになるのでしょう。

    「ヘルスケア」では膨大といっていい項目数が用意されているのですが、これまではiPhoneに搭載のセンサーの関係でよくできた歩数計程度の機能しか利用できていませんでした。

    それが、「Apple Watch」とiPhoneをリンクさせることで一つセンサーの種類を増やし、より有効なヘルスケア機能が提供できるようになるわけです。

    「Apple Watch」はこの心拍数センサーだけでなく、マイクとスピーカーの内蔵によるSiriサービスの提供やiPhoneとリンクしての通話機能を実現していること、それにこのデバイスのディスプレイをiPhone内蔵カメラのファインダーとして利用するアプリが提供されていることなどから、スタンドアローンなコンピュータと言うよりはむしろ、iPhoneの機能を拡張する周辺機器として利用することに特に重点を置いて開発されているように見受けられます。

    現状の技術では腕時計型ウェアラブルデバイスをそれ単体でスマートフォンと同等のスタンドアローンなコンピュータとして利用するのは、バッテリー容量とプロセッサの消費電力の2点で困難と言わざるを得ない状況にあります。そのことを考慮すれば、この「Apple Watch」が搭載の難しい機能やそもそも搭載しても意味の無い機能、それにプロセッサパワーの必要な処理を可能な限り母艦たるiPhoneに丸投げして自身を周辺機器に位置づけることで搭載機能・デバイスの整理削減・最適化を図り、デバイス単体の消費電力低減を目指すのは妥当な判断と言えるでしょう。

    もっとも、それでさえ現状のこの「Apple Watch」はフル充電時で18時間の連続稼働時間しか確保できていません。

    これはつまり、1日の終わりに専用充電ケーブルにつないで充電を開始してから寝ろ、ということなのでしょうが、バッテリー容量が徐々に低下することやいつも充電できる環境にあるとは限らないことなどを考慮すると、正直心許ないバッテリーライフであると言えます。

    特にこの「Apple Watch」の場合、専用充電ケーブルを本体ケースの裏蓋部分に接触させて磁石により位置決めし電磁誘導による給電する構造ですから、充電は必ず腕から外して行う必要があります。

    これは防水で弱点となる給電用端子が不要になるという点で優れた設計ですが、充電の度に腕から外さなければならないというのは、少々考え物です。

    なお、「Google Watch」に属する各種腕時計型ウェアラブルデバイスでも概ね同程度の連続稼働時間が公称されていることと、現状で半導体製造に利用できるプロセスルールから、この「Apple Watch」でもそれらと同程度の消費電力・性能の統合プロセッサと同程度の容量の内蔵バッテリーが搭載されていることが推測でき、さらにバッテリーライフの観点ではそれらと同程度の使い勝手にしかならないことを暗示しています。

    相応によく考えられているが…

    Apple Watch Edition18金製ケースを備えるハイエンドモデル。

    Apple Watch Edition
    18金製ケースを備えるハイエンドモデル。

    以上、「Apple Watch」についてみてきました。先行する「Android Wear」搭載端末各機種と比較すると、AppleとGoogleのいわゆるスマートウォッチに対するスタンスの相違が明瞭になっていて興味深いのですが、ナチュラルに比較できる程度には近似した機能しか実現できていないとも言え、新鮮味という点ではそれほど大きなインパクトがありません。

    無論、文中でも触れたように竜頭の活用をはじめとするユーザーインターフェイス設計やiPhoneとの機能分担の点ではよく考えられており、特にディスプレイが大きく取り回しの点で若干難のあるiPhone 6 plusとの組み合わせでは色々便利そうです。 

    ただ、以前の記事でも触れましたが、この種のウェアラブルデバイスではフル充電後せめて2日か3日程度の連続稼働時間が保証できなければ色々厳しい、というのが筆者の正直な感想です。

    もちろん、現状の技術ではこれだけの機能を搭載した腕時計サイズのデバイスで2日~3日の連続稼働というのが無理難題に近い話なのは重々承知しているのですが、スマートフォンでも2日~3日程度のバッテリーライフを確保できる機種で格段に使い勝手が良くなっていることや、毎日充電しなければならない機種では充電作業がかなり煩わしく感じられることを考えると、やはりこの程度の連続稼働時間は確保して欲しい、と思ってしまいます。

    そのため、筆者個人としては今回の各モデルは(対応アプリの整備状況やそもそも「Apple Pay」サービスが国内で実施されていないことも含めて)「未完の大器」というのが正直な感想で、バッテリーライフの伸びた後継機種に期待してしまう方も多いのではないでしょうか。

    ところで、「Apple Watch Edition」の国内販売価格は128万円(税別)からとのことですが、一体どんな人がこの機種を買うのでしょうか…。

    ▼参考リンク
    Apple – Apple Watch
    Apple (日本) – Apple Press Info – Apple Watch、4月24日に9カ国で発売

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