津嶋辰郎氏

[Developers Summit 2015] イノベーションの不確実性をコントロールする技術 #devsumi

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by [2015年3月17日]

 2月19日・目黒雅叙園にて、Developers Summit 2015 が開催されました。本記事では、このカンファレンス内で行われた『エンジニア発スタートアップ』と題したセッションの前半部の講演『イノベーションの不確実性をコントロールする技術』のダイジェストをお送りします。(後半の「エンジニアにとっての財務/会計」はこちら

津嶋辰郎氏 本講演は、株式会社 INDEE Japan の代表取締役兼マネージングディレクターの津嶋辰郎氏が講師を務めた。津島氏によれば、株式会社 INDEE Japan は、『イノベーションを通して美しさと幸せを生み出す』を理念とする事業立ち上げの傭兵集団であり、ベンチャー企業だけでなく大手企業のワールドワイドなスタートアップ事業の支援も行っているという。コンサルティング会社のように戦略を提供するだけでなく、プロジェクトチームの一員となって頭と身体に汗をかくのが特徴だ。

イノベーションとの出会いは鳥人間コンテスト

 今回、『エンジニア発スタートアップ』ということでお話させていただく津島と申します。本セッションのタイトル通り、自分自身もメカトロニクスのエンジニア出身で、大学在学時に鳥人間コンテストに出場するチームを設立したのがイノベーションとの最初の出会いでした。
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 当時は大会記録がうなぎ上りに高くなってきていて、ヤマハやトヨタといった企業のチームが優勝常連チームだったのですが、新参チームとしてどう張り合うべきか、を強く意識してベテランチームがタブーとしていた領域に切り込んで改善することで設立から3年で優勝することができました。この時の「その道のプロと言われる方々であっても検証できていない領域がまだまだあるんだ。」という大いなる勘違いが原体験となり、常に現状に異議を唱え続ける自分のエンジニア生活がスタートし、イノベーションの支援事業に特化した株式会社INDEE Japanを設立するに至ります。
当時は運も良かったのだと思いますが、イノベーションに関わって20年の経験を積んだ今なら「あの時なぜ上手くいったのか」を体系的に説明できるので、本日はこういったノウハウを共有したいと考えています。

成長期と立ち上げ期で必要なノウハウは異なる

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 上に示したのは、新しいものが普及していく過程をグラフで表現した普及曲線です。この曲線の黄色で囲った部分、つまり事業の成長期・拡大期の戦略で大きく成功した企業が多かったのが日本の高度経済期だと言われています。本日お話しするのは青い領域で、ここがイノベーション・スタートアップを指しています。ここで重要なのは、黄色い領域と青い領域では求められるスキル・ノウハウが大きく異なるということと、スタートアップはノウハウを理解していても実際に正しく実行するのが難しい、ということです。我々 INDEE Japan がベンチャーだけでなく大企業の新規事業の支援も行っているのには、こうした背景があります。

多くの人がハマるイノベーションへの誤解

 まず、多くの企業がしている誤解が、イノベーションを起こすには卓越したエンジニアと革新的なアイデアが不足している、というものです。もちろんエンジニアもアイデアも必要なのですが、多くの企業がこの2つは既に十分持っています。実際にハッカソンやアイデアソンで山のようにアイデアが生まれており、それを実現する能力のあるエンジニアも数多くいます。
 イノベーションにおいて最も重要なのは、エンジニアの能力の高さではなく専門に留まらない好奇心・人間への深い洞察です。そして、現在多くの企業に不足しているのはアイデアではなく、覚悟を持って最後までイノベーションをやり抜く人材です。
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 では、そもそもイノベーションの本質とはなんなのか。イノベーションとは Invention (発明) × Diffusion (普及) である、と我々は考えています。つまり、単なる技術革新はイノベーションではなく、それが普及して人々の生活を変えて初めてイノベーションである。ということです。一言で言えば、未来の当たり前を創造することがイノベーションである、ということですが、「未来の当たり前」になるためには当然「今世の中で何が不便なのか」「将来何があったら嬉しいのか」といったことを深く考える必要があります。ただ単に技術革新 (Invention) だけではダメで、人間への深い洞察に基づく普及 (Diffusion) が重要だということです。

イノベーションを生み出す3つの切り口

 人間への深い洞察を得る上で重要になるのが、以下に示す3つの切り口です。
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 まず、機能的な要素として、イノベーションによって顧客は新たに何ができるようになるのか、ということです。次に、感情的な要素として、顧客がどのような感情を抱いているのか、どのように感じたいのか、ということと社会的な要素として顧客は周囲からどのように見られたいのか、ということが重要です。この3つの観点はどれも重要なのですが、実際には多くの企業が分かりやすい機能的な要素ばかりを考え、感情的な要素と社会的な要素を見落としてしまっています。
 この3つの要素についてベビーカーを例に考えてみると、「赤ちゃんを安全に運びたい」というのを解決するのが機能的な要素です。次に、「より快適に赤ちゃんの面倒をみたい」という顧客に応えて、様々な便利機能を付けるのが感情的な要素、「子供思いな母親に見られたい」というのを解決する高級感のある見た目が社会的な要素です。
 この3つの要素を考える上で重要となる考え方が、顧客は自分の代わりに用事を解決してくれる製品・サービスを雇っているという考え方です。つまり、「顧客は製品が欲しいから買っているのではなく、用事を解決したいから製品を雇っているのだ。」という考え方です。ブランド品であっても、製品そのものが欲しいわけではなく、自分のステータスを表現したいという用事を解決するために雇っているというわけです。

障害がどこにあるのかを知ることが重要

 では、イノベーションにおいてテクノロジーとはなんなのか。一言で言えば、顧客が製品やサービスを雇う上での障害を取り除く手段です。ここで取り除くべき障害は4つの要素に大きく分けることができます。まず、分かりやすいのが能力面と金銭面の障害です。どんなに良い製品・サービスであっても、使うのに高いスキルが必要だったり、価格が高すぎたりすると普及しません。これが、技術の進歩によってシンプルかつ安く提供できるようになると、徐々に普及していきます。
 次に、アクセス面の障害。どんなに腕の良い修理屋が居ても、人里離れた山奥に工房があったらだれも来てくれません。Mister Minit やセブン銀行はこれを解決したことで顧客を獲得しました。時間面の障害についても同様で、インフラが整っておらず、配送に一か月かかっていたとしたら、Amazon はここまで普及しなかったでしょう。
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 つまり、既存の製品・サービスの障害がどこにあるのかを知ることが、テクノロジーを普及させイノベーションを生み出す第一歩となります。

仮説検証のサイクルを素早く、多く回すのが重要

 ここまででスタートアップに必要な要素、イノベーションの本質とは何かを見てきました。では、そのイノベーションの不確実性のコントロールはどのようにしたらいいのか、といえば高速仮説検証しかありません。
 高速仮説検証とは、仮説を立てて、実験をして検証する、というサイクルを早く回すことを指します。最近広まってきているミニスタートアップという考え方と同じです。高速仮説検証が重要であることを示すものとして、初期の計画のまま事業が立ち上がったケースはたった 3%、つまり 97% の企業は仮説検証の結果ピボット (路線変更) をしているというデータもあります。
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 大企業の新規事業の場合、最初から完成品を目指してしまい、このサイクルが遅いことが多いのですが、「まだ人に見せられる段階じゃない」と言わずに、机上の空論でもとにかく仮説を出すこと、穴だらけでもとにかくプロトタイプを作ることを私たちはお勧めします。

スタートアップ事業に重要な3つの要素

 最近は Business Model Canvas という9つのセルを持つフレームワークが有名になってきていますが、我々はその中でも特に3つ、CS・VP・$R の3つの要素が重要だと考えています。(下画像参照)
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 この3つが解決すれば、Business Model Canvas の他の6つのセルはテクノロジーで解決することができます。一方で、CS・VP・$R はイノベーションを具体的な形に落とし込む上で必須な要素です。何故なら、街を歩いている人に向かって、「何か困っていることはありますか?」と聞いても答えられる人はほとんどいませんが、「月々一万円でここまでしてくれるなら製品・サービスを雇ってみようかな。」という人は多いからです。つまり、イノベーションというのは、価格なども含めて形にした上で初めて意味をもちます。意味を持つレベルにまで形にする上で、誰に対して (CS) どんな価値を提供するのか (VP)、そして自分たちはどこでお金を稼ぐのか ($R) は最低限決定しなくてはなりません。
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 この考え方をコアにして、我々 INDEE Japan でより発展させた JOBS メソッドというものもあるのですが、これについては JOBS メソッドワークショップというセミナーを開催しているのでぜひこちらにご参加いただければと思います。

イノベーションの不確実性をコントロールするには

 最後に本講演のまとめですが、イノベーションとは Invention × Diffusion であり、人々の生活を変えて初めてイノベーションとなります。また、イノベーションは顧客のジョブの発見、つまり人間への深い洞察から始まり、技術はその障害を取り除く手段です。そして、イノベーションの不確実性は高速仮説検証で解決するしかありません。
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 なお、本講演は『ザ・ファーストマイル』という本の内容に基づいておりますので、イノベーションについてより詳細に知りたい方はぜひご参照ください。

 イノベーションは普及まで考えて初めて価値がある、ということでした。普及まで考えると、当然技術力だけでなく、人間に対する深い理解が必要であり、イノベーションの機能的、感情的、社会的な要素に分けて考えることが有効です。また、イノベーションは CS・VP・$R の3つの観点から形を作って初めて意味ができるので、とにかく早くプロトタイプを作り仮説検証を繰り返すことが重要で、それを実際に完成品に移す際の色んな障害を解決するのがテクノロジーである、というのが筆者の理解です。
 イノベーションを生み出すノウハウが企業に蓄積されれば、私たち消費者の生活もより便利になっていくので今後の日本のイノベーションに大いに期待したいですね。

▼関連リンク
株式会社INDEE Japan
デブサミ2015

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