X68000のポップアップ式キャリングハンドルロック機構内蔵で押し込むと上下する。

X68000は死なず? ~20年の時を超えて筐体復刻の動き~

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by [2015年2月10日]

SHARP X68000XVI-HD(CZ-644C)CPUを16MHz駆動に高速化した後期モデル。シャープ X68000という機種名をご存じの方は、恐らくアーケードゲームとその移植作に詳しいか、さもなくば30代後半以上の年齢の方に限られることでしょう。

国産独自規格パソコンの最末期にあたる1987年に彗星のように登場し、様々な伝説と影響を残して10年足らずでシリーズの終焉を迎えたこの機種は、絶対的な市場シェア/出荷台数が少なかった割に人気が高く、ネットオークションなどでは今もそれなり以上の価格で取引されています。

そんなX68000ですが、このほどシャープの公式Twitterアカウントで筐体の復刻プロジェクトが進められていることが報じられました。

シャープのガラパゴスストアで無償配布されているX68000シリーズのカタログやサービスマニュアル

ガラパゴスストアで無償配布されているX68000シリーズのカタログやサービスマニュアル

シャープの運営するガラパゴスストアではこれまでもX68000シリーズのカタログやメーカーサービスマニュアル(!!)の復刻・無償配布が行われていたのですが、さすがに筐体の復刻に乗り出すというのは予想外でした。

そこで今回は、今もこうまでして愛されるX68000について考えてみたいと思います。

そもそもX68000とはどういうマシンだったのか

X68000というマシンが何故それほど高い人気を保っているのか、恐らく平成生まれの若い方には理解できないのではないかと思います。

X68000が今なお語り継がれるほどの人気を得た理由、それはひとえに発売時点で当時のパソコンマニア達が抱いていた「夢のパソコン」像に限りなく近いか、さもなくばそれを超えるほどの高いスペックと、恐ろしく自由度の高い開発環境を実現していたためです。

グラフィックもメモリも貧弱だった80年代中盤の日本のパソコン

X68000発売直前の時点で、日本の国産独自規格パソコンは日本電気(NEC)の一人勝ち状態に陥っていました。

1986年の時点で約80パーセント、以後Windows 95の登場する頃まで約10年に渡って90バーセント前後のシェアを維持するという、圧倒的を通り越して怪物的なシェア占有率を記録していたのです。

もっとも、NECのビジネスパソコンであるPC-9800シリーズでは当時毎年1回か2回は新機種が発売されたのですが、グラフィック周りはアプリの互換性の必要などから640×400ピクセル、4096色中16色表示という貧弱なスペックに固定され、メモリはOSであるMS-DOSの制約から640KBあるいは768KBのコンベンショナルメモリと呼ばれる基本的なメモリに1MB単位でプロテクトメモリと呼ばれる機能の異なるメモリを増設可能という構成が6年も続いてしまい(※注1)ました。また、同じくNEC製のホビーパソコンで大きなシェアを得た8ビットCPU搭載のPC-8801シリーズでも、CPUの16ビット化による抜本的な高性能化やグラフィック機能の高機能・高解像度・多色表示化はなかなか進みませんでした。

 ※注1:コンベンショナルメモリとプロテクトメモリではプログラムからの認識やアクセス方法が異なるため、非常に多くの制約がありました。なお、プロテクトメモリは論理的に最大14MB搭載可能でしたが、初期には6MBまで、あるいは8MBまでというのが一般的でした。

こうした、いささか口の悪い言い方をすれば黎明期の「マイコン」時代の仕様を引きずった、筐体デザインも野暮ったいマシンばかりの時代に、突然に発表されたのがシャープのX68000だったのです。

X68000の主な仕様

初代機であるCZ-600Cという機種の主な仕様を示すと、以下のとおりです。

  • OS:Human 68K Ver.1.0
  • CPU:日立製作所HD68HC000-10(10MHz シングルコア)
  • 画面:
    • 解像度:最大768×512ピクセル(※論理的な画面解像度は1024×1024ピクセル。同時発色数65536色中16色)
    • 同時発色数:65536色(※解像度512×512ピクセル以下)
  • 内蔵メモリ
    • RAM:1MB(最大12MB)
    • SRAM:16KB
    • VRAM(テキスト):512KB
    • VRAM(グラフィック):512KB
    • VRAM(スプライト):32KB
  • サウンド:
    • FM音源:4オペレータ、同時発音数8音(ヤマハ YM2151(OPM))
    • ADPCM音源:1音(沖電気 MSM6258)
  • ストレージ:
    • フロッピーディスクドライブ:5.25インチ2HD ×2内蔵(専用増設端子により2台増設可)
    • ハードディスクドライブ:内蔵なし(SASI端子により増設可)

今の感覚だと、CPU動作クロックやメモリ容量が恐ろしく貧弱に見えてしまうのですが、先に述べた同じ時代のPC-9800シリーズなどと比較すればCPU以外は次元の違う圧倒的なスペックで、そのCPUにしてもメインメモリを1MBから12MBまでの全領域で等しく扱えることと、ソフトウェアの開発が容易であること、それに価格が枯れている(=安くなっている)ことを買ってあえてモトローラMC68000(のセカンドソース品かつ低消費電力高速動作版である日立HD68HC000-10)を選んで搭載したものでした。

画面解像度に妙な制限があり、またVRAMがやけに細かく分かれていますが、これは画面表示の自由度を高くするための工夫で、実はここに挙げた画面解像度は公称、あるいはOSが標準で使用しているものでしかありません。

これは必要ならばVRAM容量やコントローラの表示機能の許す範囲でどんな解像度でも造り出すことができ、グラフィック画面に文字を表示することもテキスト画面をグラフィック表示に用いることもできるという凄まじい自由度の高さでした。

更にこの時代のアーケードゲーム機で多用されていたスプライト(多色のキャラクターを画面上を高速移動・表示させるための仕組み)を搭載し、サウンド機能に強力なFM音源を搭載していた事と合わせ、このX68000シリーズは当時全盛の2Dシューティング/アクションゲームの移植に最適なハードウェア構成となっていて、アーケードゲームの移植作が多数発売されました。

ちなみにサウンドにFM音源とは別にADPCM音源が、それも1音だけ搭載されていますが、これは比較的少ないデータ容量で一定の音質が得られることから採用されたものでした。

マンハッタンシェイプの衝撃

SHARP X68000XVI-HD(CZ-644C)CPUを16MHz駆動に高速化した後期モデル。

SHARP X68000XVI-HD(CZ-644C)
CPUを16(ローマ数字でXVI)MHz駆動に高速化した後期モデル。

こうして、当時市販されていた国産ホビーパソコンほぼ全てを周回遅れにする衝撃のハードウェアを備えて発表されたX68000ですが、この機種で斬新だったのは中身だけではありませんでした。

シャープ社内の総合デザイン本部に在籍していた若手デザイナーが手がけたとされる筐体デザインが、かつてアメリカ合衆国のニューヨーク市マンハッタン区に所在しあの「911」で崩落した2棟の超高層ビルに見立てて「マンハッタンシェイプ」と名付けられた、類例の無い独創的なツインタワー構造だったのです。

X68000のポップアップ式キャリングハンドルロック機構内蔵で押し込むと上下する。

X68000のポップアップ式キャリングハンドル
ロック機構内蔵で押し込むと上下する。

これは前面向かって右のタワーにCPUやメモリなどのメイン基板と拡張スロットを、左のタワーにHDDや2台の5.25インチフロッピーディスクドライブ(FDD)、それに電源を収め、これらを連結する底部に各種インターフェイス端子やFM音源・ADPCM音源、それにDMAコントローラなどを搭載したサブ基板を内蔵する、という横倒しにした「コ」の字状の構成となっていて、2つのタワーの間にポップアップ式のキャリングハンドルを内蔵してありました。

しかも、内蔵FDDは5.25インチタイプとしては恐らく史上唯一となるオートイジェクト機能が搭載され、ソフトウェア側でディスクイジェクトを制御できるようになっていました。

X68000付属マウススイッチ切り替えでボールをポップアップさせてトラックボールとして利用できる。

X68000付属マウス
スイッチ切り替えでボールをポップアップさせてトラックボールとして利用できる。

さらに、付属のマウスはこの時代一般的な金属球を用いるタイプのものだったのですが、上面カバーを外してスイッチ操作でこの金属球を上昇させ、トラックボールとして利用できるという凝った機構を備えていました。

このように他例のないメカニズム満載で、しかもエクステリアデザインも斬新なものであったことから、X68000初代機は1987年度のグッドデザイン賞を受賞しています。

「なければ自分で作る」の精神

仕様から明らかなように、このX68000シリーズはある側面から見ると完全にゴリゴリの硬派なゲーマー向けなのですが、実のところそれだけではこのシリーズの人気を全て説明することはできません。

このシリーズのもう一つの側面、それはソフトウェア開発環境としての面です。

先にも述べたようにこのX68000シリーズは1993年に登場した最終機種でありフルスペックの32ビットCPU搭載となったX68030・X68030Compact(25MHz版MC68EC030を搭載)を除くと、動作クロック周波数の相違はあれど全てMC68000かその互換プロセッサであるHD68HC000を搭載していました。

このMC68000(HD68HC0000)は外部データバスは16ビット幅ながら内部アーキテクチャは32ビットという構成で、外部データバスの制約から24ビット=16MB分のメモリしか扱えなかったのですが、内部でメモリアクセスに用いるアドレスレジスタの長さが32ビットであったため、その16MBのメモリ空間内にあるアドレス全てに対して一発で自由にアクセスが可能という特徴(※注2)がありました。

 ※注2:X68000ではメインメモリが最大12MBですが残りの4MBはVRAMやI/Oデバイスが使用します。なお、当時のPC-9800シリーズなどはセグメント方式というプログラムが煩雑なメモリアクセス方式を採用していました。

しかも、当時ビジネスパソコンで主流であったインテル8086(i8086)系プロセッサが演算に用いる汎用レジスタとして16ビットレジスタ4本しか持っていなくて、しかもそれぞれ使途が厳しく制限されていたのに対し、MC68000は8本の32ビットレジスタが特に制限なく使用可能で、格段にプログラムがしやすくなっていました。

もっとも、CPUアーキテクチャが他と異なるということは、ソフトはOSから何から別途開発せねばならないということで、このX68000シリーズではHuman68Kという札幌のハドソン(現・コナミデジタルエンタテインメント)が開発したOSが標準でバンドルされ、ワープロソフトなどのオフィス向けアプリはことごとくシャープ自社ブランドでの発売、あるいは本体へのバンドルとなる、という、かなり厳しい状況でした。

このように他機種と比較して格段にプログラミングしやすく、その一方で最低限必要なソフトにも事欠く状況から、X68000シリーズのユーザー間では(必要なアプリが)「なければ自分で作る」というスタンスが一般化しました。

この「なければ自分で作る」というスタンスは、1音しかないADPCMで、8音分のデータを1音にリアルタイム合成して出力するPCM8と呼ばれるソフトをはじめ、他の機種にも大きな影響を及ぼすような有用なフリーソフトを多数輩出しました。

さらにはPCMステレオ出力搭載サウンドボードやLANボード、果てはMC68000系最後の32ビットCPUとなったMC68060を搭載するCPUアクセラレータボードに至るまで、市販製品が存在しないか、しても入手が難しかったパーツを「自作」し同人誌ならぬ「同人ハード」として頒布してしまう人々まで現れるなど、このスタンスは通常ならばありえなかったようなとんでもないものまで、世に送り出すことになったのです。

ここまで来てしまうとほとんどプロ同然ですが、実際X68000シリーズで鍛えられてプログラマやシステムエンジニア、あるいはハードウェア設計者になったユーザー、あるいはX68000用ソフト開発で経験を積んでその後の飛躍に結びついたソフトハウスはかなりの数になるといい、特にX68000の終息と入れ替わりになるようにしてデビューした初代PlayStation向けのゲーム開発には、X68000シリーズで名を馳せたソフトハウスやプログラマが多数参加していたことが知られています。

思わぬ弱点

こうして最終モデルの販売終了後もあちこちで愛用されていたX68000シリーズですが、シャープのサポート期間が終了した頃から電源故障で起動できなくなる機体が続出するようになりました。

X68000シリーズでは「マンハッタンシェイプ」筐体を実現するために電源の小型化が特に必要とされ、そのため当時最新の4級塩を電解液に使用する高性能電解コンデンサが搭載されていたのですが、これが製造後10年前後で深刻な電源故障を頻発させるようになったのです。

この問題は、故障した電源を分解し問題のコンデンサを全て交換、基板洗浄などのメンテナンスを行うか、それともATX電源などの一般的なパソコン用電源を流用して配線を変換接続するか、といった対策を講じねば解決できないものでした。

そのためX68000シリーズはこの問題により、ある時期以降稼働可能台数が激減しました。

X68000は死なず

電源故障で動かないマシンが激増したX68000シリーズですが、二十一世紀を迎える頃になると再び注目されるようになりました。

SX-Window 3.1シャープ X680x0シリーズのために提供されたGUI環境の最終バージョン。IOCSと共に無償公開され、実機を持たない利用者でもエミュレータ上で問題無く使用できるようになった。

SX-Window 3.1
X68000シリーズのために提供されたGUI環境。
無償公開され話題となった。

というのも、Windows上でX68000のハードウェアをソフトウェアにより再現する、つまりX68000のエミュレータがフリーソフトとして公開され、Windowsパソコンの高性能化により実用的な速度で動作するようになってきたためです。

しかも、それと時を同じくしてエミュレータ動作に必要なX68000本体のBIOS(IOCS) ROMプログラムとOS一式が無償公開され、実機を持っていなかった人でもX68000のエミュレータを動作させることができるようになりました。

このあたりはOSまで全て独自開発の国産パソコンならではの快挙であったのですが、ともあれこうして実機の動作環境をほぼ失ったX68000シリーズは、エミュレータという新たな環境でそのソフトウェア文化を継承できるようになったのです。

やはりあの筐体が欲しい

もっとも、ソフトウェア的にはかなり高い水準で実機の挙動を再現できるようになったとはいえ、本来はハードあってのソフト、ソフトあってのハードです。

特にX68000シリーズは他に類例のない構造・デザインの筐体であったため、ユーザーのこの筐体に対する愛着も並々ないものがあって、故障したX68000シリーズ本体を分解・加工して中にマザーボードや電源、各種ドライブ類などの部品を内蔵してPC/AT互換機として再生する、という改造を行うユーザーが少なくありませんでした。

さらに、何とかこの筐体の持つデザインのエッセンスを汎用のPC/AT互換機用筐体で再現・応用できないものか、という試みも行われ、今は亡き高速電脳というショップが試作筐体を用いた「X26000」と称するカスタムメイドのパソコンを販売して話題になったこともありました。

そして初代X68000発売から28年、最終機X68030の市販終息からでも約20年の時を経て、このほどシャープ公式アカウントでX68000シリーズの筐体レプリカを作成する試みが行われていることが公表されました。

公開された試作筐体では、ご覧の通り、右の実機(X68000 EXPERT)と比較してほぼ同寸となっており、接続端子規格の相違から下部のコネクタ用開口部などの形状が変えられています。

この筐体、特徴的なツインタワー前面の形状を忠実に再現するためにアルミ材加工品で製作され、この部分のデザインが異なる各機種の前面を模した部品と交換可能とすることを検討、という見るからにコスト度外視の凄まじい設計・仕様となっているようです。

正直、こんな仕様ではとてもそのままでの量産化は期待できそうにありませんし、特注品としても費用が一体幾らかかっているのか、恐くて聞けないような構成です。

彼らがこうまでして忠実なオリジナルデザインの再現に挑むのは、それはもうX68000シリーズに対する愛である、としか言いようがない感じなのですが、未だ実機を何台も後生大事に手元に置いている筆者としては、「いいぞもっとやれ」と応援するほかありません。

▼参考リンク
シャープ製品/ネットサービス【繁多】(@SHARP_ProductS)さん | Twitter

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