Intel Curieモジュールご覧のとおり本当に小さなプロセッサモジュールだが、この中にBluetooth通信機能や各種センサー、それにメモリとストレージが内蔵されていて、OSを含むソフトウェアと電源を用意すれば独立したコンピュータとして機能する。

ボタンサイズのx86コンピュータ ~インテル、“Curie”モジュールを発表~

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by [2015年1月21日]

Intel Curieモジュールご覧のとおり本当に小さなプロセッサモジュールだが、この中にBluetooth通信機能や各種センサー、それにメモリとストレージが内蔵されていて、OSを含むソフトウェアと電源を用意すれば独立したコンピュータとして機能する。

Intel Curieモジュール
ご覧のとおり本当に小さなプロセッサモジュールだが、この中にBluetooth通信機能や各種センサー、それにメモリとストレージが内蔵されていて、OSを含むソフトウェアと電源を用意すれば独立したコンピュータとして機能する。

ここ1,2年ほど半導体業界の巨人、インテルは「モノのインターネット」(Internet of Things:IoT)やウェアラブルコンピュータなど、これまで進出していなかった分野へのコミットを強化しています。

「Quark」と名付けられた超低消費電力かつ非常にコンパクトなx86命令対応新CPUシリーズや、その「Quark」を搭載したArduino互換の開発ボードである「Galileo(ガリレオ)」、それに「Quark」よりも消費電力が大きく性能も高い「Atom」プロセッサを搭載しつつ切手やSDメモリカード程度のサイズの基板に必要な機能を集約したウェアラブルデバイス向けプラットフォームである「Edison(エジソン)」、とここ1年少々の間にこれまでならば考えられなかったようなサイズ・スペックのx86系プロセッサやそれを搭載したモジュールが発表されてきました。

よく知られるようにこれまでのインテルはCore iシリーズに代表されるTDP(Thermal Design Power:熱設計電力)が数十ワットから100数十ワットのレンジの単独動作するタイプのプロセッサを主力製品とし、この種のTDPが1ワット以下から数ワットのレンジの超低消費電力タイプで何らかの機器に組み込まれて使用されるようなプロセッサの開発や製造販売にはほとんど関わっていませんでした。

実際、これらの分野では機器組み込み用途での実績が大きく、しかも低消費電力での動作に強みを持つARM系プロセッサのシェアが圧倒的で、文字通りARMの独擅場となっていたのですが、そこにWindowsが動作するx86系CPUの開発元であるインテルが、それも手厚い開発環境のサポートやその他様々な支援策を携えて乗り込んできたわけです。

もっとも、Iotにしろウェアラブルにしろ、切手大の「Edison」クラスのモジュールですらサイズと消費電力が大きすぎるきらいがあって、もう一段サイズも消費電力も小さくしたモジュールが求められる状況にありました。

そして今年のCESで、そうした声に答えるようにインテルは新しいウェアラブル機器用モジュールとして「Curie(キュリー)」を発表しました。

今回はこの「Curie」について考えてみたいと思います。

「Curie」の主な仕様

「Curie」の主な仕様は以下のとおりです。

  • CPU:Intel Quark SE(32bit)
  • 内蔵メモリ
    • SRAM:80kB
    • フラッシュメモリ:384kB
  • Bluetooth:Bluetooth Low Energy
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  • センサー:6軸加速度・ジャイロスコープ複合センサー
        
  • バッテリー充電回路(PMIC)内蔵

これだけの仕様のコンピュータが衣類のちょっと大きめのボタンサイズに収まるというのですから、驚きです。

もっとも、そのサイズで一通りコンピュータとして機能するようにするためには、半導体製造プロセスが大幅に微細化した今の技術を持ってしても大幅な機能制限が必要です。

パソコン黎明期並みの容量となったメインメモリ

特にSRAMの容量が80kBでフラッシュメモリの容量が384kB、という仕様はx86系コンピュータとしてみるともう1980年代初頭のパソコンレベルの数字で、これだとWindowsのようなGUI(Graphic User Interface)を搭載した今風のモダンなOSどころか、大昔のMS-DOS並の文字によってコンピュータと情報をやりとりするタイプのレガシーなOSを動作させるのも厳しいレベルです。

恐らく、SRAMとフラッシュメモリは共に同じメモリアドレス空間内に配置されていて、通常のパソコンなどのようにメインメモリやストレージといった区分を行わずに利用するものと推測されます。

その構造からいってこのモジュール単独でのスタンドアローンな利用はあり得ないことから、ユーザーインターフェイス部をばっさり切り捨てることでOS動作に必要な最低メモリ量を引き下げてRTOSが動作するようにしてあるものと推測されます(※注)が、それにしてもワークエリアに利用できるメモリ容量が80kBというのは、結構思い切った仕様です。

 ※注:オープンソースのリアルタイムOSが動作することがアナウンスされています。

まぁ、これは恐らく搭載出来たSRAMの仕様やチップの物理的なサイズなどの制約から決定された容量で、恣意的にこの値をさだめた訳ではなさそうですが、それはそれとしてもかなりぎりぎりの容量であることには変わりありません。

最低限の性能だが32ビット命令対応は死守したCPU

もっとも、メモリ容量ではかなりシビアな対応を行う一方で、CPUコアについては16ビット命令だけでなくセグメントなどの取り扱いが大幅に改善される=プログラミングしやすい32ビット命令への対応が明言されています。

実のところ、SRAMとフラッシュメモリを合わせても16ビットアドレッシングで扱える1MBより少ない容量のメモリしか搭載されていないこの「Curie」の場合は、一般に「リアルモード」として知られる16ビット命令セットの下で動作するモードでも問題無く動作可能です。

そのため、プロセッサそのものの小型化という観点からは32ビット命令のサポートを削るという選択肢も当然考えられます。

しかし、x86系プロセッサのリアルモードではメモリアクセスに16ビット長のレジスタ2本を用い、一方を4ビットシフトして合成することで20ビット=1MB分のメモリアドレスを扱えるようにする、という開発時の様々な事情に由来する非常に煩雑な仕組み(セグメント方式)を用いています。

このセグメント方式ではプログラムが一度に参照出来るメモリ空間(オフセットアドレス空間)が64kBに限られるため、64kBを超えるデータをリニアに(線形的に)等しく扱いたい、といったニーズには応えられません。

一言で言うと、それはそれなりにプログラミングしやすくなっているx86系プロセッサの32ビット動作モードと比較して、非常にプログラムしにくい命令体系なのです。

今回の「Curie」内蔵のIntel Quark SEプロセッサが32ビット命令サポートとなっているのは、OSレベルでの対応もさることながら、恐らくこうしたプログラミングレベルでの作業負担の軽減を図っているためと推測できます。

唯一の入出力デバイス

さて、公表された範囲ではこの「Curie」には外部デバイスと直接接続するための物理的なインターフェイスが見当たりません。

つまり、この「Curie」にプログラムを転送するのも、このモジュール上で得られたデータを読み出すのも、全て
Bluetooth Low Energy対応のBluetoothインターフェイス経由で無線にて行うほか無い、ということになります。

言い換えれば、このモジュールには映像出力に用いるためのGPUなどのハードウェアも一切搭載されていない、ということで、このあたりの機能削減もモジュールの小型化に大きく貢献していると考えられます。

実際、グラフィック機能が搭載されていればVGAクラスの画面解像度でも簡単に数百kBのビデオメモリが必要となるわけで、このあたりの機能をばっさり削るだけでも回路設計を随分コンパクトに出来ます。

確かに超小型だが・・・

以上、インテルの新しいプロセッサモジュールである「Curie」についてみてきましたが、とりあえずボタンサイズで動作するx86系CPU搭載モジュールを作ってみました、という域を出ていないように筆者には見えます。

もちろん、このサイズで、それも最低限とはいえ複雑なx86系32ビットプロセッサを搭載したマイコンモジュールが成り立つというのは技術的にはそれだけでも十分すぎるほど凄いことなのですが、問題はその先、つまりこのモジュールを使って何をどうするのか、という部分が全くといって良いほどイメージ出来ないことです。

CESの発表ではインテルのブライアン・クルザニッチCEOが歩数計としての機能を持たせたこの「Curie」モジュールをスマートフォンと連携させる、というデモを行い、またサングラスメーカーであるOakleyとの提携が発表されたようですが、それが何故x86系プロセッサを搭載したモジュールで行わねばならないのかという必然性が見えず、本当に「とりあえず作ってみました」という印象が拭えません。

この手の製品はいわゆる鶏卵問題という奴で実際に動くハードウェアが出てこないとソフトウェアが開発出来ず、またソフトウェアが存在しないとハードウェアの開発も出来ない、という面倒なことになりがちなので、インテルが思い切ってこの「Curie」を製品化にこぎ着けたことは大いに評価されるべきことです。

今後インテルは本年中にこの「Curie」の量産出荷を開始する予定とのことで、例によって例のごとく手厚いソフトウェア開発キットの提供などの施策を行い、ウェアラブル機器へのコミットを強めてゆく方針が示されていますが、今のこの「Curie」の仕様のままだと、また何らかの強力なキラーアプリケーションを提示出来ないと、「技術的には非常に面白いチャレンジだけどそれだけ」ということになりかねません。

今後何故この「Curie」でなければならないのか、x86系プロセッサでなければならないのか、をインテルがきちんと示せるかどうかにこの製品の成否はかかっているのではないでしょうか。

▼参考リンク
インテル CEO、コンピューティングの未来を提示
Intel® Curie™ Module: Unleashing Wearable Device Innovation
Intel CEO Outlines Future of Computing

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