SONY NW-ZX2

順当なブラッシュアップ~第二世代ハイエンドハイレゾウォークマン発表~

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by [2015年1月19日]

2013年冬にデビューし、ソニーのウォークマンとしては初のハイレゾ音源対応機種となった「NW-ZX1」は色々な意味で衝撃的な機種でした。

使い勝手やエクステリアデザインを度外視してでも高音質であることを優先したその潔すぎる回路設計や搭載部品の選択、それに形状面での問題の一方で高級カメラのような質感を獲得した筐体デザインなどここ20年ほどのソニー製品が忘れ去ってしまっていた、「音に全てが奉仕する」一方で「持つ喜び」を重視したこの製品は、往年のDATウォークマン(「TCD-D3」など)に迫る高価さゆえに爆発的な大ヒットとはなりませんでしたが、それでもこのクラスの機種としては異例のヒットとなり、一時衰退していた「ウォークマン」ブランドの復活を感じさせる久々の話題作となりました。

SONY NW-ZX2

SONY NW-ZX2

そしてそれから約1年、このほどこの「NW-ZX1」の後継機種として「NW-ZX2」がCES 2015にて発表されました。

実のところその間にも「ハイレゾ音源対応」ウォークマンとして「NW-A10」シリーズ(ウォークマンAシリーズ)が発表されていて、そこでの改良点や変更点がフィードバックされた、「NW-ZX1」で明らかになった問題点を解消したハイエンド機種が待望されていたのですが、このたびそれがようやく実現したわけです。

そこで今回は、この「NW-ZX2」について現時点で明らかになっている情報を元に考えてみたいと思います。

変わらなかった筐体デザインのアウトライン

「NW-ZX2」では背面下部が突き出し、筐体下部のヘッドフォン端子周辺を大きく膨らませた「NW-ZX1」独特の筐体デザイン・構造が踏襲されています。

この筐体デザインは、背面下部の突出は高音質で定評のある導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ(OS-CON:三洋電機が開発し現在はパナソニックが販売)の搭載によるものです。

具体的に言えば、電源回路の基板上に表面実装形のOS-CONを搭載するにあたって、その背丈が最低で5mm(型番によります)であるため、基板の厚みや増量されたバッテリーパックなども考慮すると、OS-CONを搭載する電源回路部分の筐体の厚みを約16.2mm以下にできなかった結果、この独特の筐体デザインとなっているのです。

つまり今後パナソニックがより背の低いOS-CONを開発するか、さもなくばOS-CON以外の背の低いコンデンサを採用するようにならない限り、このシリーズはずっとこの形状が踏襲され続ける宿命にあるといえます。

また、ヘッドフォンジャック部も同様に大形で音の良いコネクタモジュールを採用したため、筐体上面よりも若干円筒状に突き出した独特の形状となっています。

これもコネクタモジュールを耐久性や接続の確実性を低下させることなく小型化するのは困難なため、今後も踏襲されることでしょう。

なお、この「NW-ZX2」では電源回路の給電系に高速応答の可能な電気二重層キャパシタが新規採用されており高負荷時の給電の安定性向上と電圧降下の抑止が実現されています。

SONY NW-ZX2 シャーシ構造のイメージ図削り出しのアルミ一体成型フレームに金メッキされた銅板によるシャーシを組み合わせるという、音質最優先で軽量化など二の次といわんばかりの潔い設計となっている。

SONY NW-ZX2 シャーシ構造のイメージ図
削り出しのアルミ一体成型フレームに金メッキされた銅板によるシャーシを組み合わせるという、音質最優先で軽量化など二の次といわんばかりの潔い設計となっている。

また、電源回路のOS-CON搭載数増強や音質向上のためアルミ削り出し一体成型のフレームに重い金メッキ銅板によるシャーシを組み合わせるという何やらバブル期のハイエンドオーディオ機器を思わせるような筐体構造の採用、さらには長時間再生のためにバッテリー容量が増量された(充電時間の増分から約1.5倍に増強されたと推定されます)こともあって、本体重量が何と約139gから約235gへ約96gも増え、筐体の厚さも平均で3mm程度厚くなっています。

つまり約7割も重量が増えて2割程度厚くなったということで、音質向上のためには多少のスペースユーティリティの悪化も容認するという設計方針がより明確になっており、筆者的にはなかなか潔くてステキです。

もっとも、これでも筆者が昔使っていたDATウォークマン(初代の「TCD-D3」だと2時間しか持たない専用バッテリーパック込みで約630g)のことを思えば格段に軽量コンパクトで、やろうと思えばもっと重く厚くできるのではないでしょうか。

湯水のようにストレージ容量を消費するハイレゾ音源

前代の「NW-ZX1」はOSとしてAndroid 4.2を搭載しAndroid用アプリが動作する、モバイルコンピュータとしての性格の強い機種でした。

このため、標準搭載の音楽再生アプリ以外に気に入った再生アプリをインストールすることが可能で、標準でサポートされない形式の楽曲データであってもそのフォーマットに対応する再生アプリをインストールすれば再生可能になるなど、汎用性あるいは柔軟性の点では専用のコンパクトなOSとプレーヤーを内蔵するだけの「NW-A10」シリーズなどに勝っています。

もっとも、Playストアを含むフルセットのAndroidに加えてその上で動作する再生アプリ等がプリインストールされている、ということはその分だけ内蔵ストレージ容量が消費されているということです。

そのため、内蔵ストレージとして128GBのフラッシュメモリが搭載されていると言っても、OSやインストールされるアプリに占有される領域がそれなりにあって、しかも外部メモリカード用のスロットを搭載しないため、128GBのmicroSDXCメモリカードを使用することで本体と合わせて合計160GBあるいは192GBのストレージ容量を確保できる(しかも内蔵ストレージの容量をOSやアプリに喰われない)「NW-A10」シリーズと比較して保存できる楽曲数が見劣りする状況となっていました。

ハイレゾ音源対応の楽曲の場合、現在広く利用されているFLAC(Free Lossless Audio Codec)で圧縮されたものだと8(7.1)chでサンプリング周波数192KHz、量子化ビット数24ビットとした場合、ビットレート、つまり楽曲の単位時間あたりに消費するデータサイズが最大で36,864kbps、ステレオ2chでも最大9,216kbpsに達し、MP3などの一般的に利用されている音声圧縮形式で圧縮した場合に広く用いられているビットレート(最大でも320kbps程度)の約29倍~約116倍に達することになります。

さすがに「NW-ZX1」などのポータブルプレーヤーでハイレゾの7.1ch音声を再生することはまずない(※注1)と思いますが、ステレオですら1曲あたり最悪通常の30倍近いストレージ容量を消費するのです。

 ※注1:FLACでの8(7.1)ch音声サポートは楽曲向けと言うよりはむしろ、動画の音声コーデックとして利用する際のサラウンド音声への対応を想定したものです。

そのため一見莫大に見える128GBというストレージ容量ですが、MP3でビットレート128kbpsにて圧縮したステレオ音声の楽曲データを保存する場合は約20,000曲が保存出来るのに対し、サンプリング周波数192KHz、量子化ビット数24ビットのFLACで圧縮されたデータだと約400曲、後述するサンプリング周波数5.6MHzのDSDデータだとたったの約300曲しか保存できないということになってしまいます。

継承されたAndroidの搭載

この問題について「NW-ZX2」で出したソニーの回答は、「NW-ZX1」と同じくAndroid搭載としたままで128GBの内蔵ストレージとmicroSDXC対応のメモリカードスロットを併せて搭載し、合計で最大256GBのストレージ容量を確保するという至って順当なものでした。

「NW-A10」シリーズの本体内蔵ストレージ容量は最上位モデルでも64GBですから、OSやアプリの占有分を考慮してもこの組み合わせならば最大で50GB程度の、「NW-ZX1」との比較ではほぼ丸々128GBのストレージ容量の増加が、それぞれ期待できるわけです。

つまり、既存のハイレゾ音源再生対応ウォークマンとの比較では、microSDXCメモリカードの併用が前提となりますが、いずれの機種と比較しても大きな空き容量が確保でき、しかもAndroid搭載であるため楽曲再生アプリの選択の自由もあるということで、これは「NW-ZX2」の大きな優位点であると言えます。

新規採用された高音質通信プロファイル

以上のように、どちらかというと量的な拡充が目立つ「NW-ZX2」ですが、実は質的な面でも無視できない重要な改良点が二つあります。

一つ目はLDACと名付けられた新しいBluetoothの音声圧縮伸張コーデックが採用されていることです。

このLDACは、Bluetooth対応の音楽再生用機器で標準的に搭載されているプロファイルのA2DP(Advanced Audio Distribution Profile)で、これを搭載する機器では必ずサポートされているSBC(SubBand Codec)と呼ばれる音声圧縮伸張コーデックと比較して約3倍のビットレート(※注2)での音声伝送を可能とする新しいコーデックです。

 ※注2:ビットレートの最大値が328kbpsから990kbpsに向上しています。

レシーバーやヘッドフォンなどの受信側の機器でも対応が必要となりますが、このLDACを利用することにより従来「直にヘッドフォン端子にヘッドフォンをつないだ場合より明らかに低音質」あるいは「ロスレス音源でもMP3並の音質」(※注3)と評価されてきたBluetooth接続での音楽聴取環境が大幅に改善されることが期待されます。

 ※注3:伝送過程でMP3と同様に不可逆圧縮を行ってビットレートを最大328kbpsに落としているのですから当然と言えば当然の結果と言えます。

もっとも、「NW-ZX2」はこの新プロファイルへの対応の一方で、「NW-A10」シリーズでサポートされていた高音質コーデックであるaptXには非対応となっています。

 aptXは元々イギリスのCSR社(現在はQualcommが買収)が開発した音声圧縮伸張コーデックで、SBCを基本としつつSBCやMP3などのように聴覚心理に基づく情報削除を行わず、動的に直前のサンプリング信号と現在扱っているサンプリング信号の差分値を符号化するADPCM(Adaptive Differential Pulse Code Modulation)技術を利用することにより、同程度のビットレートでSBCよりも高い音質を実現する技術です。

もっともaptX自体はSBCを基本としていることから最大ビットレートが354kbpsとそれほど高くありません。

そのため、CD音源レベルのサンプリングレートと量子化ビット数で録音された楽曲の音声伝送には効果が期待出来ますが、ハイレゾ音源の伝送にあたっては、より新しくしかも大幅に最大ビットレートが向上したLDACに勝ることは考えにくいと言えます。

それゆえこの「NW-ZX2」で(搭載に当たってライセンス料の支払いが発生する=余計なコストのかかる)aptXが非対応となったことは理解できなくもないのですが、aptXはドイツのゼンハイザーをはじめ有力ヘッドフォンメーカーの製品に採用されていて世間的にも結構普及しているため、選択肢を増やす意味でできればこれも搭載しておいて欲しかったところです。

なお、このLDACについては「NW-A10」シリーズでのファームウェアバージョンアップによる対応がアナウンスされ、対応機器の発売も多数予告されており、ソニーが本格普及を進める方針であることが明確になっています。

5.6MHzのDSD再生にも対応

DSDで用いられる粗密波の概念図音波をこのように1ビットのスイッチのオン/オフ(一般にはメガヘルツ単位の周波数にて行う)による粗密波として、縦波ではなく横波として表現することでPCMよりも回路が簡素化する。

DSDで用いられる粗密波の概念図
音波をこのように1ビットのスイッチのオン/オフ(一般にはMHz単位の周波数にて行う)による粗密波として、縦波ではなく横波として表現することでPCMよりも回路が簡素化する。

この「NW-ZX2」で前作よりも質的に改良されたもう一つの点、それはサンプリング周波数5.6MHzのDSD128音源の再生に対応したことです。

DSDはSACDに採用されているのと基本的に同様の、アナログ音声信号の数値化技術の一つです。

このDSDでは通常のPCM方式で記録されたデジタル音声が量子化ビット数とサンプリング周波数という2つの要素により単位時間ごとの音声信号を数値化するのに対し、量子化ビット数を1ビットとしてその分サンプリング周波数を高めることで、音を縦波としてではなく、時間軸方向に対する疎密波(横波)として記録する技術です。

この方式は扱いたいアナログ信号の最大周波数の2倍のサンプリング周波数としないと偽の信号が現れるPCM方式よりも再生可能周波数帯域が広くとれて同じデータ量でもより原音に近い音質が得られ、しかも回路構成をより単純に出来るというメリットがあります。

しかしその一方で、十分な音質を得るにはサンプリング周波数がKHzではなくMHz単位となる、つまりそれだけコンバータ回路のスイッチング速度が高速となるため、半導体製造プロセスルールがより大きかった≒高周波駆動できるスイッチング素子の製造が困難であったCDの規格化の時点では、理論的に優れていることがわかっていてもとても一般的な商品に搭載することができない技術(※注4)でありました。

 ※注4:この技術の考え方を応用した1ビットDAコンバータチップが製品化されるようになったのが1990年代頭、大学の研究所などでDSD方式の試作機が作られ公表されるようになったのが1990年代前半の話で、その時点ではポータブルDATレコーダに接続するアダプタの形をとっていました。

つまり、このDSDは通常のPCM方式とは全く異質なフォーマットで再生に必要なハードウェアも別なのですが、実はPCMとDSDは相互変換が可能です。

そのため、PCM音源対応のDAコンバータしか搭載しない「NW-ZX1」や「NW-ZX2」でもDSDをリアルタイムでPCMに変換することで、(音質的なメリットは喪われるものの)DSD形式の楽曲データ再生に対応しています。

そのDSD再生ですが、「NW-ZX1」ではDSD64、つまりサンプリング周波数2.8MHzのデータの再生にしか対応していなかったのですが、先にも触れたように「NW-ZX2」では倍のサンプリング周波数5.6MHzのデータ再生にも対応するようになっています。

このことから、「NW-ZX2」では再生ソフトウェアの改良が行われたか、搭載されている統合プロセッサの性能が強化されたか、さもなくばその両方が行われたか、のいずれかの可能性が考えられます。

順当に改良されたNW-ZX1後継機

以上、「NW-ZX2」の改良点などを見てきましたが、重量や筐体厚の大幅増という問題はあるものの、前代の「NW-ZX1」で指摘されていた問題点をきちんと解決し、さらに新機軸となるLDACをサポートするなど、「NW-ZX1」の後継機と呼ぶにふさわしい完成度となっています。

さすがに発表時のお値段が約12万円と「NW-ZX1」(同時点での実売価格が7万円前後)と比べても結構値上がりしていますが、少なくともハードウェア的にはそれに見合った価値のある機種であると言えるでしょう。

この種のハイエンド機の後継機種への交代は、(特に直前に買った)在来機種ユーザーを納得させるのが結構大変なのですが、さすがにこれだけ価格差があるとそうした不満は出にくいのではないでしょうか。

今後「NW-ZX1」のソフトウェアバージョンアップでどの程度「NW-ZX2」の新機能をキャッチアップするのか、特にLDACをサポートするのかどうかで、既存ユーザーが「NW-ZX1」から「NW-ZX2」への乗り換えを行うかどうかが決まるように筆者には見えます。

また、LDAC対応機器が今後どの程度増えるのかも要注目点といえます。

LDACは仕様を見るだけでもSBCやaptXに対する優位性があるのが明らかで、別にハイレゾ対応の機器で無くともロスレス音源再生に対応した機器であれば露骨に音質差が判るレベルで最大ビットレートが向上し、またアルゴリズム的な改良もあるようですから、よほど有力な対抗規格が現れない限りは、またソニーが他社にもきちんとライセンス供与を行えば、順当に普及しそうにも見えます。

この手の新規格は対応機器が増えなければ普及せず、普及しなければ対応機器も増えないという鶏卵問題を抱えていて、1社独自規格のままだとやがてじり貧で自滅することになるのは目に見えています。

そのため、後はスタートダッシュでどれだけ対応機器を揃えられるか/どれだけ競合他社へのライセンス供与に踏み切れるかという、ソニーのがんばりにかかっていると言えるでしょう。

▼参考リンク
ハイレゾ*対応ウォークマン(R) ZXシリーズの最上位機種『NW-ZX2』を発売 | プレスリリース | ソニー
NW-ZX2 | ポータブルオーディオプレーヤー ウォークマン | ソニー

Sony’s New Portable Audio Products Provide Freedom to Deliver New Music Sound Experience | Sony

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