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貴重な海洋資源を守れ! ~Google、密漁対策支援ツールを開発~

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by [2014年12月04日]

GlobalFishingWatch公式サイト
地図上の輝点で表示されているのがAIS搭載船舶である。

先日来の多数の中国漁船による日本の小笠原諸島周辺の領海内などでの宝石サンゴ密漁でも問題となりましたが、ある国の領海、あるいは排他的経済水域(Exclusive Economic Zone:EEZ)内での他国漁船による不法な漁業行為およびその取り締まりは様々な難しい問題を抱えています。

密漁のもたらす問題

密漁の何が問題か、といえばそれは基本的に密漁者がその海域に存在する海産資源の継続性について全くといって良いほど考慮も配慮もしないことです。

絶滅危惧種や育成に長い時間を要する品種に対する乱獲によるその海域での壊滅的打撃や、そうでないある程度以上潤沢な漁獲量を期待できる品種での乱獲による海洋資源の回復力低下、あるいは禁止された海域内での不法な底引き網漁などによる漁場そのものの破壊など、密猟者を放置すると狙われた海域の海産資源は回復不可能な致命的打撃を受ける恐れがあります。

現在、国際的にTAC(Total Allowable Catch:漁獲可能量)といって特定の魚種ごとに捕獲できる総量を定めた制度が国連海洋法条約の下で導入されていて、どの国でも海洋資源の保護と育成が重要視されるようになっている(※注1)のですが、密漁者はそんなものはお構いなしに根絶やしにしてくるのですから論外です。

 ※注1:そもそもEEZは、海洋資源保護の観点から国連海洋法条約批准国に与えられた権利です。

そのため、海洋資源の保護や生物相の多様性の維持の観点から限度を超えた密漁は何としてでも阻止する必要があるのですが、問題はその密漁者をどのようにして見つけ出し、どのように取り締まるか、です。

難しい密漁者の発見と判定

まず、そもそも誰かが密漁を行っているのかどうかを判断するのが難しい、という問題があります。

例えばある海域でどこかの誰か(ここでは仮にA氏としましょう)が漁船を用いて漁を行っていたのを、別の誰か(同様にB氏としましょう)がたまたま見つけたとしても、そもそもそこが漁をして良い場所なのか、一体何を穫っているのか、どのような漁法を用いているのか、あるいはそのA氏がどこからやってきた人間で、そこで漁をする資格を持っているのかどうか、といった密漁か否かを判断するための情報を発見したB氏が持っているとは限りません。

まず、そこがある国の領海内なのか、それともEEZ内なのか、あるいは通常の公海上なのかを判断するだけでも、緯度経度の測定による位置座標の特定とそれを海図と照らし合わせる作業(※注2)が必要で、十分な知識を持った漁業関係者や航海関係者、あるいは領海警備などに当たる組織の人間でもなければ、それを行うことさえ困難でしょう。

 ※注:もっとも、近年はスマートフォンにGPS機能が内蔵されているため、これを用いれば誰でも容易に緯度経度の特定まではできるようになっています。

さらに、その場所が何なのかが判ったとしても、そこで何が獲れるのかが判っていなければお話になりません。

希少価値が高く高額で取引される品種が獲れる海域ならば密漁の可能性が高まりますが、特にこれといって目立った品種が獲れるわけでもない海域であれば、単なる過失など他の可能性も考慮すべきだからです。

また、そもそもその漁船がどこの所属なのかが判らなければ、その海域で漁業権を持っている船かどうかの判定も難しいでしょう。

しかるべき手続きを踏んでその海域での漁業権を取得している漁船を密猟者扱いすれば、それはそれで大問題です。

外観上、すぐそれと判るような特徴、例えば見慣れない異国の文字による船籍表示であるとか、見かけない風貌と話し言葉の乗組員であるとか、そうしたわかりやすい見かけがあれば判断が容易なのですが、そうで無い場合は判断に迷うことも多いでしょう。

もちろん、領海警備を担当する組織、日本でいえば海上保安庁に相当するような組織であれば、警備活動を行う必要からもそういった密猟者か否かの判断を行うための情報は十分把握しているでしょうから、よくわからないが怪しいという漁船を見かけた場合には、とりあえずそうした警備活動を行っている組織に連絡あるいは問い合わせを行うのが賢明です。

しかし、そうして警備組織の手をわずらわせても、先日来の小笠原での一件が示すように警備組織の手に余るほどの数の密猟者が押し寄せれば対応にも限度がありますし、ことによっては他国の領海に侵入しそこを自国の領海であると主張して公然と密漁を行う、といった非常にやっかいな政治問題をはらんだ事態となることも、特に他国の領海との隣接地域ですとありえます。

このあたりの領土問題まで行くと政治問題となるのでまた話が違ってしまうのですが、単純に密漁か否かを判定するだけでも様々な判断材料があって、一般の特に海に関わりのない生活を送っている人間にはそれはかなり難しい作業であると言えます。

ビッグデータを活用して密猟者を特定する

そんな判別の難しい、また面倒な問題の多い密漁問題について、このほどGoogleがデジタル地図作成を行っている非営利組織のSkyTruth(アメリカ)、国際的海洋保全団体であるOceanaと共同で、世界の商業漁業や乱獲に関する情報について視覚化・追跡・共有することで密漁を明確化するためのサイトである、「Global Fishing Watch」を開発していることと、実際に機能するそのサイトのプロトタイプを発表しました。

これはGoogleの持つビッグデータ解析技術とSkyTruthの持つ地図(※注3)情報、それに海洋保全団体であるOceanaの持つ水産資源情報などを組み合わせ、衝突事故防止を目的として300総トン数以上の国際航海船舶や500総トン数以上の非国際航海船舶などに搭載が義務づけられている自動船舶識別装置(Automatic Identification System:AIS)が発する電波を衛星軌道上のAIS受信機搭載通信衛星を用いて受信し、得られたデータを分析することでターゲットとなる船の船籍、速度、それに位置などを判定する、というものです。

 ※注3:厳密に言えば地図ではなく海図ですが。

わかりやすくいえば、AISの発する船舶識別信号を分析してある時点における個々の船舶の位置や進路の向き、あるいは速度を取得し、それが時間ごとにどのような移動を行うのかを検出して個々の船舶の航路を割り出し、それを海図や水産資源情報と重ね合わせて漁業活動の状況を表示することで、その漁船が密猟を行っているか否かを調べるというものです。

こうすることで、例えばある国の領海内で不自然に長時間停泊している船があったとして、その船のAISからの識別信号に含まれる国籍情報がその海域を領海とする国のものでなかったとすれば、その船が密漁船である可能性が高まりますし、またその船の航跡を調べることで、どの国のどの港を出港した船であるのかも判定できるようになります。

基本的にこの「Global Fishing Watch」はAISの発する識別信号を利用する統計的な処理の産物であるため、ターゲットとなる船が密猟者であるかどうかを断定的に判別することは難しいでしょうが、ビッグデータに対して統計的処理が行われるため、適用する手法次第では大きな効果が期待できそうです。

問題がないわけではない

もっとも、今回の「Global Fishing Watch」には、筆者の見るところその仕組み、あるいはその前提条件の部分に深刻かつ重大な問題があるように見えます。

それは、この「Global Fishing Watch」ではターゲットとなる漁船がAISによる船舶識別信号を常に発信していることが大前提の、総じて漁船側乗組員の性善説に依存・期待する仕組みとなっていることです。

というのも、漁船にAISが積まれているとは限らないからです。

先にも触れたようにAISは300総トン以上の国際航行船舶および500総トン以上の国内航行船舶への搭載が義務づけられています。

しかしそれは、言い換えれば国際航行で300総トン未満、国内航行で500総トン未満の船であれば、誰はばかることなくAIS非搭載で公海上を航行できるということなのです。

日本の法制度では、海水面で使用する漁船は漁船法により5トンと100トンを境界としてカテゴライズが行われており、概ね100トン以下の船が大半を占めている(※注4)ことがわかります。

 ※注4:300総トンを超過するのは船内に加工施設を持つ捕鯨母船(10,000トン前後)をはじめ、遠洋漁業に当たる船でも相当大型の部類に入ります。

つまりそれなりに法律遵守の意識が高い日本でさえ、AISの搭載義務を持たない船(※注5)が多数を占めているということで、そのためこの「Global Fishing Watch」を用いても、そもそもターゲットとなるべき漁船がAIS非搭載で識別信号を発信しないので密漁を検出も判定もできない、ということになります。

 ※注5:AIS搭載について法的な義務を負わない、というのが必ずしも搭載していないことを意味しているわけではない、というのがやっかいなところですが。

また、よくあるパターンとして実際の総トン数がどうであれ、公称総トン数を300総トン未満としてしまえば(※注6)AIS非搭載でも法的には問題なく国際航行できてしまいます。また、そもそもそれを超過しAISの機器を搭載している船でも、意図してAISを壊すなり電源を切るなりして船舶識別信号発信を止めてしまえば(※注7)、今回のシステムではその航路を追跡し密漁しているかどうかを判断する材料が得られなくなってしまいます。

 ※注6:大変遺憾ながら、先日の韓国での清海鎮海運所属の大型旅客船「セウォル」号の転覆沈没事故の例が示すように、改造などで重量が増えても増えていないように見せかけるなど、総トン数を偽るケースは漁船に限らず多々あります。こうしたAIS識別信号の活用法が提案されたことが知れれば、無改造でも公称トン数を削って300総トン未満に落とし、AIS搭載義務から逃れようとする漁船が増える恐れがあります。
 ※注7:実際、先日の小笠原沖のサンゴ密漁の際にもそうしてAIS搭載で識別信号発信の義務があったにもかかわらず、公然と識別信号を切って逃走を図った密漁船があったようです。

そもそも、法を犯して密漁を行おうかというような乗組員ならば船籍番号等の表示を改ざんする程度のことは日常茶飯事で、彼らが法の遵守だの義務の履行だのに心を配ることは期待できそうにありません。

そのため、そんな彼らがバカ正直にAISの識別信号発信機能を有効なまま維持するとは考えがたく、またそんなルールを遵守するような律儀な人間ならばそもそも密漁などに手を染めたりしないでしょう。

そういった悪質かつ常習的な密猟者をこそ、特に厳重に取り締まる必要があるわけですが、このGoogleの開発しているツールではそうした悪質密猟者が見過ごされてしまう恐れがあるのです。

このあたりの問題は、監視衛星を複数打ち上げて地球上の全海域を網羅する監視網を構築し、海上の船舶の動きを自動的にトレースし続けるなど、相当なコストをかけて常時監視体制を構築しないことには解決するのが難しい(※注8)ように筆者には思えます。

 ※注8:もっともそうした体制は、それはそれで結果として潜水艦をはじめとする軍用艦艇の行動監視体制としても機能してしまいますから、密猟者撲滅に有用であることは判っていても各国海軍の思惑がからむため、政治的に実現は困難でしょう。

問題提起としては十分に評価できる

以上の通り、この「Global Fishing Watch」には現状で様々な難点があります。

しかし、こうして密漁による海洋資源の乱獲を防ぐための問題提起がなされ、そのためのツールが提供されたこと、それそのものは大いに評価すべきものであると筆者は考えます。

正直、Googleが一体どんな思惑でこのツールの共同開発に乗り出したのかは疑問なのですが、それでも、密漁が国際政治の場でも大きな問題となってきている昨今の情勢を鑑みるに、この方向性自体は間違っていないと思います。

▼参考リンク
Global Fishing Watch
Oceana Report (PDF)
外務省: 国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea :UNCLOS)
「TACを知る!」
漁船漁業(PDF:301KB) – 水産庁 – 農林水産省

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