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LTE普及促進の戦略製品 ~Qualcomm Snapdragon 400~

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by [2014年11月25日]

Qualcomm Snapdragon 400
かつてのSnapdragon S4 Plusの後継モデルにあたり、Kraitコアのデュアル、あるいはCortex-A7コアのクアッド搭載に対応する。

Qualcommの統合プロセッサであるSnapdragonシリーズには現在、200番台、400番台、600番台、800番台の4グループが存在しています。

厳密には、さらにそれぞれの中でARM v7系命令セットをサポートする32ビットCPUコア搭載モデルと、ARM v8命令セットをサポートする64ビットCPUコア搭載モデルが存在していて、都合8グループが存在する格好になっています。

この内、上位の600番台と800番台は日本の大手キャリアが販売するスマートフォンに大量採用され、またタブレット製品での採用例も多いのですが、下位の低価格スマートフォンやウェアラブル機器をターゲットとする400番台および200番台、特に400番台は前にご紹介したASUSTekのZenFone 5に搭載されて話題になった程度で、後は本当にひっそりと(子供・高齢者向けなどで)搭載製品が流通している様な状況です。

そのため、これまでこのSnapdragon 400は日本ではほとんど話題にならなかったのですが、ワールドワイドで見た場合、これは実はLTE普及の鍵を握る非常に重要な機種であったりします。

そこで今回は、このSnapdragon 400について考えてみたいと思います。

低価格化要素

このSnapdragon 400は基本的な構成は上位のSnapdragon 600と大差ありません。むしろ、ある面では(性能はともかく)より高度な機能を備えたチップであるとさえ言えます。

それでは、このSnapdragon 400がSnapdragon 600よりもより下位のモデルと位置づけられ、低価格で販売されるのは何故でしょうか。

それは、主に内蔵CPUコアとGPUコアの性能差にあります。

大幅にチップ面積が縮小されたCPUコア部分

まずCPUコアですが、これはSnapdragon 600がQualcomm自社開発のARM v7系32ビットCPUコアであるKrait系コアを4基搭載するクアッドコア構成としているのに対し、Snapdragon 400ではKrait系コアの2基搭載によるデュアルコア構成、あるいはARMのリファレンスデザインによるCortex-A7コアの4基搭載によるクアッドコア構成のいずれかを選択搭載する形となっています。

Krait系コアのデュアルとCortex-A7のクアッドを選択可能としていることから、この2パターンでチップ占有面積に大きな差が無いことがわかり、またSnapdragon 600比でCPUコア部分のチップ面積が概ね半減していることもわかります。

Krait系のCPUコアはアウト・オブ・オーダー命令実行機能や投機的実行機能をサポートし、11段のパイプラインを備えたスーパースカラー(Superscalar:スーパースケーラとも)CPUコアであり、ARMのCPUコアで言えば32ビット系最上位のCortex-A15に近い機能・性能を備えています。

つまり、そうした高度な機能を備え高クロック周波数での動作が期待できる設計である一方で、読み込まれた命令を解釈する命令デコーダや命令実行の順番を管理するスケジューラなどの回路構成が複雑・巨大化していると考えられます。

これに対し、Cortex-A7は上位のCortex-A15とペアを組んでbigLITTLE構成で使用することが前提となっていたことから、命令セットやレジスタ構成のレベルではCortex-A15と完全互換で、アプリケーション側からはどちらが動作しているのかを処理速度以外では判別できないレベルとなっています。

もっとも、bigLITTLE構成で使用する、という事実が示すようにこのCortex-A7は低消費電力動作が特に強く求められて設計されたプロセッサであり、そのためアウト・オブ・オーダー命令実行機能や投機的実行機能といったチップ面積肥大化の原因となる複雑な機能をばっさり削ってごくシンプルな8段構成のパイプラインを備えたインオーダー命令実行構成のCPUコアとしています。

6ステージ構成のパイプラインの動作模式図
命令1から順番に、各ステージごとに小刻みに複数の命令をオーバーラップさせて実行してゆくことで、6つのステージを処理する各演算ユニットを遊ばせず全体としてのプロセッサの処理速度を引き上げる。インオーダーCPUの場合、パイプライン内において時系列で矛盾が生じない範囲で命令の順番を変えたりせず、やってきた命令がそのまま充填されるため、アウト・オブ・オーダーCPUに比して性能が低下する。

無論、単純にそれをやってしまうと激烈に性能が低下してしまうので、チップ面積の増減を考慮しつつパイプラインの効率に特に響く分岐予測だけは重点的に強化してあります。

さらに、それ以外のチップ内部設計の効率化や最適化もあって、このCortex-A7はごく小さなCPUコアながら2011年頃のARMのスマートフォン向け主力CPUコアであったCortex-A8(40nmプロセス)との比較において、これを20パーセント上回るパフォーマンスを発揮し、しかも60パーセントもの消費電力節減を実現したとされています。

そのため、このCortex-A7を4コア搭載するSnapdragon 400は、多少低クロック動作でもCortex-A8をデュアル構成で搭載していた2011年頃の各社製統合プロセッサに対して優位なプロセッサ性能を期待できるわけです。

ただし、動作クロック周波数そのものはKrait系やCortex-A15などを搭載した機種よりも低くなりがちで、シングルスレッドの処理能力自体はそれほど高速ではありません。

Snapdragon 400でKraitのデュアルコア構成が選択肢として提供されているのは、恐らくこうしたシングルスレッド性能を重視する用途(※注1)への対応と考えられます。

 ※注1:極論すればかつてのMS-DOSのような単純かつ原始的なOS上でアプリを動作させるのであれば、マルチコアは不要で、その分のチップ面積をシングルコアの性能向上に振り向けた方がアプリのパフォーマンスが向上します。

1/4しかないGPU

GPUについては、Snapdragon 400ではユニファイド・シェーダーを内蔵するAdrenoシリーズの中でも下位モデルに位置づけられるAdreno 305が搭載されています。

現在の一般的なGPUでは、3Dグラフィック処理でポリゴンを扱う際の頂点座標を計算する頂点シェーダー(バーテックスシェーダー)と、シーン内のジオメトリ演算を行うジオメトリシェーダー、それに画素の演算を行うピクセルシェーダーの3つのシェーダー群をそれぞれ専用の回路とせずに、一種類の汎用シェーダーをプログラミングしてそれぞれの役割で利用できるようにする、ユニファイド・シェーダーを採用しています。

そして、そのシェーダー群はある程度の単位で束ねてクラスタを構成して利用されるのですが、同じシリーズのGPUの上位と下位の差は、主にこのクラスタの内蔵数と動作クロック周波数によって決まります。

つまり、より上位のモデルほど一般的には内蔵しているクラスタ数が多い=GPUの演算性能が高いということになるのですが、これは言い換えれば回路規模が大きい=チップ専有面積が大きいということで、さらに消費電力もそれだけ大きくなります。

実際、Snapdragon 400の搭載するAdreno 305はSnapdragon 600搭載のAdreno 320比で演算ユニット数が1/4に縮小されており、GPUコアの動作クロック周波数はほぼ同等のため単純計算で約1/4のチップ面積と約1/4の消費電力を期待できる(※注2)わけです。

 ※注2:ただし、シェーダー以外の回路も当然あるため、ちょうど1/4にはなりません。また、必然的に演算性能はAdreno 320のおよそ1/4しか出ません。

削ってばかりというわけでもない

CPUとGPUについてはどうしても削る話がメインになってしまうのですが、このSnapdragon 400は、実は一点だけSnapdragon 600よりも勝っている要素があります。

それは、LTEなどの通信を司るベースバンドプロセッサが外付けではなくCPUコアやGPUなどと共に1チップに統合されていることです。

実はSnapdragon 600はその型番(APQ8064T)が示すように、前世代のSnapdragon S4 Pro(APQ8064)のマイナーチェンジモデルで、CPUコア・GPU・メモリインターフェイスなどに若干の改良があったものの、その基本はSnapdragon S4 Proからほとんど変わっていません。

そのため、チップサイズ的な問題もあったのか、同機種の構造を引き継いだ結果ベースバンドプロセッサ外付けという構成も踏襲されていたのです。

その観点ではSnapdragon 400も前世代のSnapdragon S4 Plusの後継に当たるのですが、こちらは各モデルとも型番そのものが大きく変わっており、前世代からの変更点がSnapdragon 600よりも多かったことを示しています。

なお、現行のSnapdragon 400の内蔵ベースバンドプロセッサは中国で一般的に利用されているTD-LTE対応のものなど様々な通信規格に対応したモデルが選択可能で、LTEのCategory 4、つまり下り最大150 Mbpsの高速通信をサポートする低価格スマートフォンをワールドワイドで販売できるようになっています。

このうち中国向けの対応は後から追加で行われたもので、中華スマートフォンでおなじみのMediaTekなどの低価格プロセッサに対抗する目的でのバリエーション展開だったようですが、こうしたてこ入れ策もあって、通信面での対応にはほぼ隙がなくなっています。

同業他社の多くが提供している低価格プロセッサでは、これと同じコストで高速LTE対応を実現するのは特許ライセンスの問題もあって結構厳しいようですから、この高速かつ世界中どこでも対応できるLTE通信機能の内蔵は、Snapdragon 400にとって大きな武器になるわけです。

低価格機でも高速LTE通信を

このSnapdragon 400の最大の特徴、それは低価格かつそこそこのプロセッサ性能でも上位機並みにCategory 4の高速LTE通信をサポートしていることの一点に尽きます。

新興国向けのスマートフォンでは何より価格が重要な問題となるため、これまでなかなかLTEの普及が進めづらかったのですが、低価格でしかも通信については「鉄板」のQualcomm製ベースバンドプロセッサおよびモデムを搭載するこの機種であれば、MediaTekなどの低価格プロセッサに対抗してゆくことができるでしょう。

ちなみに、前回ご紹介したASUSTekのZenFone 5では8メガピクセルのメインカメラが搭載され、Wi-Fiの対応が802.11 b/g/nのみとなっていましたが、Snapdragon 400シリーズそのものは13.5メガピクセルのメインカメラと802.11 a/b/g/n/ac、つまり現在一般に用いられている全てのWi-Fi規格に対応し、しかも1080P解像度でH265でエンコードされた動画の再生も可能となっています。

また、内蔵ディスプレイもWUXGA(1920×1200)解像度まで出力可能で、作ろうと思えばこのプロセッサを搭載したフルHD解像度ディスプレイ搭載スマートフォンを作ることも可能です。

もっとも、先に触れたようにCPUの性能はよくてSnapdragon 600の半分弱程度、GPUの性能はSnapdragon 600のおよそ1/4程度しか期待できませんから、リッチな3Dグラフィックがどうのといったアプリの動作は厳しいでしょうが、それを承知であえて長時間連続動作を重視して通信面では上位機種に遜色のほとんど無いこのプロセッサを採用するという方向性は、ひたすらテキストサイトを閲覧するのにスマートフォンを使用している筆者個人の感想としては、テキストスクロールがもっさりしなければという条件はつくものの「あり」だと思います。

無論、キャリア・アグリゲーションや64ビット対応などの最新技術が普及・一般化してくるとまた話は違ってくるのでしょうが、そうなったときにはそうなったときで、新しいSnapdragon 400番台のプロセッサが対応することになる(※注3)のでしょう。

 ※注3:64ビット対応については既にCortex-A7の後継的な位置づけのCortex-A53をクアッドコア構成で搭載するSnapdragon 410が発表されています。

▼参考リンク
Snapdragon 400 Processor Specs and Details | Qualcomm

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