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ウェアラブル機器の福音となるか ~パナソニック「業界最小」のピン形リチウムイオン電池を発表

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by [2014年10月30日]

既にあちこちでくどいほど指摘されていることですが、ウェアラブル機器をまともに実用化する上での最大の難問、それは電源をどうするかという問題です。

スマートフォンのようにその構造から一定の容積確保が期待できる機器ならば、(それなりの苦労はあるものの)既存のリチウムイオン/リチウムポリマー二次電池をその容積の許す範囲で詰め込めばそれで済みますし、稼働時間の問題もその増量で一応は対処できます。

しかしウェアラブル機器の場合はそうはいきません。

身につける腕時計なり眼鏡なりといった道具、あるいは装身具などの極端に限られた容積の枠内で、しかもスマートフォンなどとは比較にならないくらい厳しい連続稼働時間要求に応える必要があるからです。

厳しい言い方をすれば、弦の部分が醜悪にぼっこり膨らんだ眼鏡ややたら分厚い腕時計など願い下げですし、動作中身につけていると熱くて耐えられなくなったり、あるいは半日から一日もすれば電池切れで再充電を強いられるような機器というのも論外(一般的な感覚から言って、せめて1週間は再充電せず動作して欲しいところ)です。

そして、Android Ware対応製品を含む現在世間で市販されているウェアラブル機器のほとんどは、大変残念ながら大なり小なりそうした願い下げや論外の状態となってしまっています。

つまり、真の意味で実用に耐えるウェアラブル機器というのは未だこの世に存在しない、そう断言しても良いような状況なのです。

そんな中、電池メーカー大手のパナソニックから「業界最小」を謳うピン形リチウムイオン電池『CG-320』の製品化が発表されました。

そこで今回はこの『CG-320』とウェアラブル機器の電源について考えてみたいと思います。

『CG-320』の仕様

公表されている『CG-320』の仕様は以下のとおりです。

  • サイズ:直径3.5mm 高さ20mm
  • 質量:0.6g
  • 公称電圧:3.75V
  • 最大充電電圧:4.20V
  • 公称容量:13mAh

つまりサイズが単四電池の1/3ほどの直径と半分弱の高さしかなく、これで二次電池、つまり充電による繰り返し利用の行える充電池として成立しているというのは驚異的です。

容量と容積のトレードオフ

公称電圧3.75Vで公称容量13mAhということですから、そのサイズと膨張対策などさまざまな制約を抱えるリチウムイオン二次電池であることを考えると相応の容量と言って良さそうです。

もっとも、最近市販が開始されたスマートウォッチの多くが400mAh前後の公称容量のリチウムイオン二次電池を搭載していることから考えると、そのおよそ1/30程度しか容量がない、というのは結構厳しい数字です。

とはいえ、公称電圧3.75Vということは放電中の電圧降下を考慮しても3.3V駆動の半導体デバイス、具体的には一般的なBluetoothの送受信用RFモジュールなどが昇圧回路なしで、つまり変換ロスなしで利用可能、しかも繰り返し充電により長期利用可能というのは、公称電圧3Vしかとれない上に充電不可のリチウム電池に対して大きなアドバンテージとなります。

リチウムイオン二次電池の仕組み

一般に電池はその内部構造が主に正極・負極・電解液の3要素によって構成されます。

つまり、正極と負極という二つの電極と、その間に充填された電解液の間の化学反応によって電位差が発生し、それが電力として接続された回路に供給されるわけで、その主たる化学反応を起こす材料(※この場合はリチウムイオン)がその電池の名称になっています。

それゆえリチウムイオン二次電池の場合、正極にはリチウム金属酸化物、負極は炭素系材料、電解液は有機溶媒にリチウム塩を溶かし込んだもの(※注1)が利用されていて、リチウムの電荷の移動が電力発生メカニズムの基本となっています。

 ※注1:現在のリチウムイオン二次電池では扱いやすいようにこの有機溶媒を重合してポリマー化し、ゲル状としたもの(リチウムポリマー二次電池)がありますが、これは化学反応のメカニズム面から見ると他のモノマーの非水系有機溶媒電解液を使用するリチウムイオン二次電池と変わりはなく(※発生電圧もほぼ同じ)、同じリチウムイオン二次電池の一種として扱われます。

ちなみにいわゆるボタン電池も現在はリチウム電池が利用されていますが、こちらはリチウムイオン二次電池とは異なり負極に金属リチウム(※電解液は同じく非水系有機溶媒)を使用しており、同じリチウムイオンの電荷移動が基礎ではありますが、異なったメカニズムとなっています。

扱いの難しいリチウム

リチウムは資源としてみるとこの地球上に大量に存在するものの、1817年に発見され1821年に単離による金属リチウムの精製に成功するまで単体として存在しなかった=非常に反応性が高いため単体で存在していたとしてもただちに空気中の水と反応して酸化リチウムなどに変化してしまっていた(※注2)、といういささか扱いの難しい物質です。

 ※注2:アルカリ金属の常として、金属リチウムには大量の水と接すると発火する性質があります。

つまり、リチウムイオンの化学反応を利用した電池を作る場合、電解液は発火などの危険防止や酸化リチウム生成による反応停止を防ぐため、イオンの移動度が下がる=大電流がとれないという制約を承知の上で、その組成に水を含まない非水系有機溶媒とすることが必須となるわけです。

また、先に触れたリチウム電池では金属リチウムを用いていますが、金属リチウムはこのように化学活性が非常に高いためその化学反応に可逆性を持たせるのが難しく、一次電池に使用するには適する一方で充放電を繰り返す二次電池に利用するには適さない、という問題があります。それゆえリチウムを使用して安全かつ実用的な二次電池を構成するには、電極に金属リチウムを使用せず、また電解液は非水系有機溶媒を利用せねばならない、という制約が生じます。

実のところ現在の一般的なリチウムイオン二次電池で金属リチウムを負極に用いず、コバルト酸リチウム(LiCoO2)などの遷移金属酸化物を陽極に利用し、電解液にリチウム塩を溶かし込んだ非水系有機溶媒としているのはまさにこの制約によるものなのです。

負極に利用される炭素系材料

一方、リチウムイオン二次電池では負極には一般にグラファイト(人造黒鉛)などの炭素系材料を用いられます。

黒鉛というと鉛筆の芯などが天然の黒鉛を材料としていますが、グラファイトはそれらと比較して純度が桁違いに高く、それにより抵抗値を大きく引き下げています。

こうした炭素系材料を負極とするアイデアは現在のリチウムイオン二次電池の安全性と大容量を担保する非常に重要な発明あるいは発見だったのですが、それゆえ、負極は電極構造に工夫の余地があるものの材質についてはそれほど選択肢が多くありません。

制約の多いリチウムイオン二次電池

このように何やかやと制約の多いリチウムイオン二次電池ですが、電池システム全体を見渡した際に小型化で最も制約となるのが、過放電・過充電に特に弱い、という性質です。

過放電するとリチウム遷移金属酸化物が化学変化して酸化リチウムを、過充電すると同じくリチウム遷移金属酸化物が遷移金属酸化物を生成してしまい、性能が著しく劣化します。

しかも、その生成物が原因で最悪の場合、発火や破裂などの事故を引き起こしてしまうという問題があるのです。

実際、過去のノートパソコンなどでのリチウムイオン二次電池の発火・爆発トラブルはほぼ例外なくこの電圧制御の失敗による過放電・過充電に起因しており、その制御の難しさを物語っています。

そのため、リチウムイオン二次電池を使用する機器では充電するにせよ放電するにせよ厳密な電圧監視や制御が必要で、ことによると電池本体よりもその保護回路の方が大きくなってしまう、といったことになりかねません。

ノートパソコンやタブレット、あるいはスマートフォン(および携帯電話)レベルまでの機器であれば、相応の筐体内容積が確保できるため、そうした保護回路の搭載は容易ですしまた電池容量も大きいためこの問題は特に重要視する必要は無いのですが、CG-320の搭載が求められるクラスのウェアラブルでは保護回路の基板を搭載するスペースを捻出するのも厳しく、今後は電池としてのメカニズムレベルで抜本的な対策が必要になってくるかも知れません。

また、長期間使用した携帯電話やスマートフォンの電池パックを手にとって見たことのある方ならご存じかと思いますが、繰り返し利用の過程で内部組成に徐々に変化が生じ電池そのものが膨張・変形する、という問題もあります。これはことにこのCG-320がターゲットとするような細長い形状のウェアラブル機器、例えば眼鏡形のデバイスなどの場合、筐体そのものが電池の膨張・破裂などにより、いわゆる「ひでぶ」「あべし」状態になって無残に破裂してしまう危険性があります。

CG-320でとられた「対策」

そうした事情から、今回のCG-320では通常のリチウムイオン二次電池で一般的なアルミラミネートされた(=膨張に対して変形することで対応する)電池パックの形態をとらず、用途を考慮して頑丈で膨張による変形に強い(=形状安定性の高い)ステンレス製の円筒形ケース(※注3)に封入するという、一般的な乾電池に近い構造となっています。

 ※注3:そのため、経時変化による内部の膨張・変形とそれに伴う圧力増大は筒の端で逃がされる構造となっています。

ウェアラブル機器での利用を考えると、より軽く作れるアルミラミネートパックを用いた一般的なリチウムイオン二次電池の方が有利なはずなのですが、電池の経時変化による膨張・変形の問題は、そうした重量面での利点では相殺できないほど厳しく、また深刻なわけです。

スパイラル電極構造概念図
シート状の負極と正極をセパレータで分離しつつ巻いて電池サイズからは考えられないような大きな電極面積を実現し、それにより高出力を実現する。これは一般的なアルミ電解コンデンサ(ケミコン)の構造と同様の考え方によるものである。

なお、このCG-320内部の正極と負極は、らせん状に形成された「スパイラル電極構造」を採用しているとのことで、これにより正極・負極のそれぞれについて十分な表面積を確保することで反応量を増やして高出力を達成しただけでなく、従来のより大きな円筒形リチウムイオン二次電池と同じ電極材料でそれらと同等の性能を確保することに成功しています。

このあたりの構造的な工夫は電池メーカー各社が鎬を削って開発を進めている部分で、それだけにもう出るものは出尽くして伸びしろは残っていないような印象を受けますが、それでもこうして新しいアイデアが登場してくるのですから驚きです。

二次電池搭載の革命となるか

以上、CG-320についてご紹介してきましたが、「こんなにも小さな二次電池が構成できるのか」というのが筆者の正直な感想です。

さすがに、これ以上小さく作るのは現状では難しく、また容量面での要求もあることから、今後はこれ以上小さくするのではなく、このCG-320よりも多少直径を大きく、さらに長さもより長くした大容量モデル(CG-425(直径4.5mm・高さ25mm・1.0g、30mAh)・CG-435(直径4.5mm・高さ35mm・1.4g、50mAh))のバリエーション製品展開が予告されています。

それでさえ、Android Ware対応のスマートウォッチ各機種の搭載電池容量のせいぜい1/8程度の容量にしかならない、というのが現在の電池技術の到達点と限界を共に示すものであると言えます。

それでも、先に触れたようにサイズの問題からリチウム電池などの再充電不可能な一次電池に依存せざるを得なくなっている一部のウェアラブル機器の内蔵電池が充電可能となり、また十分な高電圧出力が得られるためBluetooth通信デバイスなどの駆動も電力変換ロス無しに容易に行える、というこの新しいリチウムイオン二次電池のもたらすメリットは決して小さくはありません。

もちろん、現在ARMやQualcommをはじめとする半導体メーカー各社が熱心に行っている、半導体レベルでの消費電力低下のための回路的な、あるいは製造プロセスレベルでのシュリンクのための工夫や努力も忘れるべきではありませんし、そもそもそれら無しでのウェアラブルデバイスは考えられないような状況ですが、その一方で電池が同じ容積・質量でより大きな容量となる、あるいは同じ容量でより小さく、より軽く作れるようになるメリットは、非常に大きなものがあります。

ことにウェアラブルデバイスの場合、絶対的な重量の軽減は至上命題といっても良い問題ですから、大きな割合を占める電池のコンパクト化および軽量化の、それも充電可能な二次電池という形での実現は、ウェアラブルデバイスそのもののあり方を変えてしまう可能性すらある、重要な出来事であると言えます。

CG-320の利用イメージ図
これまでの電池だと搭載できなかったような場所に電池を内蔵できるようになるため、より重量バランスの良いデバイスを開発できるようになる。

また、このCG-320は先にもご紹介したとおりわずか13mAhという小さな容量しかありませんが、それでもこの電池を筐体内のあちこちに分散して複数搭載すれば、これまでであれば一カ所に重い電池をまとめて搭載するために重量バランスが悪かったデバイスを、バランスのとれた扱いやすいデバイスに改良する、といった利用法も当然可能になりますし、それらの電池を直列接続で結べばより高い電圧での動作も可能となります。

同じ重さでもバランスが良ければより軽く感じる、というのは道具の世界ではよくあることなので、そうした利用法を実現するこの小さな電池には、その小さな容量を補って余りある大きな可能性があると言えるのです。

そんなわけで、「今ある技術で最善のウェアラブル機器を」と考えた場合、この新しく小さな二次電池は、それに搭載する電池の最有力候補となることでしょう。

▼参考リンク
業界最小のピン形リチウムイオン電池を製品化 | プレスリリース | ニュース | パナソニック企業情報 | Panasonic

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