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ハイレゾ音源にお墨付き? ~長岡技術科学大学と電通サイエンスジャムが研究発表~

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by [2014年9月29日]

最近、ポータブルオーディオ機器やスマートフォンなどで「ハイレゾ音源」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

ハイレゾ=High Resolution、つまり高解像度な音源という意味ですが、このほど、「鼓膜では聞き取れないとされる高周波を含む“ハイレゾ音源”をヘッドホンで聴いた場合、(圧縮音源に比べて)脳が快感を感じる」という研究結果が国立大学法人長岡技術科学大学と株式会社電通サイエンスジャムから発表されました。

そこで今回は、この「ハイレゾ音源」に迫ってみたいと思います。

そもそもハイレゾ音源って何?

ハイレゾ音源=高解像度音源、といっても具体的なイメージがつかめない方が恐らく多いのではないかと思います。

ハイレゾオーディオの音域と人の可聴帯域の比較図
なお、音楽CDでは人の可聴帯域が再生できるようサンプリング周波数が44.1KHzに決定されたという歴史がある。

一般的には、ハイレゾ音源とは音楽CD(サンプリング周波数44.1KHz 量子化ビット数16bit チャネル数2)やDAT(サンプリング周波数48.0KHz 量子化ビット数16bit チャネル数2)といったデジタル音声信号が一般的に利用されるようになって以降標準的に使われている音声フォーマットよりもサンプリング周波数や量子化ビット数を大きくし、より広い周波数帯域の音声信号を取り扱えるようにして記録された音声データ、具体的に言えばサンプリング周波数をCDやDATの2倍、4倍、8倍と2n倍に引き上げ、量子化ビット数を24bit~32bit程度に拡張したフォーマットで記録された音声信号のことを指します。

サンプリング周波数が大きい=単位時間あたりの音声信号波形を時間軸方向により細かく分割してデータ化する、量子化ビット数が大きい=ある時間における音声信号の波形の振幅をより細かく分割してデータ化するということですから、つまり音声信号を時間と信号の振幅で記録したグラフがより高精度に記録できる=従来よりも正確に音声を再生でき、再現できる音の周波数帯域も広くとることができるわけです。

ちなみに、音声信号の記録方法にはこのようなPCM(Pulse Code Modulation:パルス符号変調)音源の他に、PDM(Pulse Density Modulation:パルス密度変調方式)というパルス信号の密度で波形を表現する記録方式やPWM(Pulse Width modulation:パルス幅変調方式)というパルス信号の幅で波形を表現する記録方式があって、PDM方式は後述するSACD(Super Audio CD)やDSD(Direct Stream Digital)音源と呼ばれるタイプのハイレゾ音源で利用されています。

なお、MP3などの圧縮音源で用いられる、単位時間あたりに使用されるデータ量を示す「ビットレート」という概念はこれとはまた別物で、実用になるかどうかはともかく、「低ビットレートで圧縮されたハイレゾ音源」を作成することも理屈上は可能です。

テープメディアから始まった「ハイレゾ音源」

さてこの「ハイレゾ音源」、一般向けのオーディオ機器で利用できるようになったのは、実は意外と古くて1990年代前半であったりします。

具体的に言えば、1992年に登場しあっという間に同時期登場のミニディスク(MD)に駆逐されてしまったデジタルコンパクトカセット(DCC)ではPASC(Precision Adaptive Subband Coding)と呼ばれる圧縮技術の一部として、最大量子化ビット数36bitに対応するデータフォーマットが採用され、実際にもDCCのデッキでは外部DAコンバータ接続時に(当時の民生用デジタルオーディオインターフェイスで扱える最大値であった)量子化ビット数24bitでの出力が可能な機種が存在していました。

また、1993年にパイオニアが発売したDATデッキ、D-07では「96KHzハイサンプリング・ワイドモード(HSモード)」が搭載され、こちらはその名の通りサンプリング周波数を通常の2倍の96KHzとして高音質化を実現(※注1)しました。このHSモード、パイオニア製の対応デッキでしか利用できないという弱点はあったものの、扱える周波数帯域の上限がそのまま通常のDATの2倍となる44,000Hz、つまり人間の耳では聞き取れないレンジまで引き上げられ、その生々しい音質は衝撃的でした。

 ※注1:テープを倍速で動作させるため高音質と引き替えに収録時間が半減するというトレードオフがありました。

そんなわけで、当時の市販音楽コンテンツで「ハイレゾ音源」を収録した物は皆無に近かったため実質的に生録でしかメリットが享受できなかったのですが、20年前のこの時期にはごく一部の機種に限られたとはいえ既に一般向けオーディオ機器で「ハイレゾ音源」の利用が可能だったのです。

最初から「ハイレゾ音源」に対応していたDVD

録再対応のオーディオ機器で実験的に始まった「ハイレゾ音源」への対応を本格化させ、一般化させたのは、実は1996年に発売開始されたDVD Videoでした。

Cirrus Logic CS4382-K
パソコン用サウンドカードやDVDプレーヤーなどに広く搭載されているDAコンバータチップ。24ビット192KHzのステレオ音声出力に対応するが非常にコンパクトで、搭載機器の小型化や低価格化に大きく貢献した。

DVD Videoの音声トラックでは仕様として最大でサンプリング周波数96.0KHz、量子化ビット数24bitの音声が扱えるようになっていたため、低価格DVDプレイヤーの普及が「ハイレゾ音源」対応機器開発に必要な部品の一般化・低価格化に大きく貢献したのです。

もっとも、録音機材でのハイレゾ対応は1996年の時点でもほとんど進んでおらず、さらにDVDのディスク容量が最初から不足気味で映像収録を優先せねばならない状況でもありましたから、DVD Videoの市販タイトルで「ハイレゾ音源」収録のものは音楽系コンテンツなどごく少数にとどまっています。

なお、このDVD Videoとほぼ同じディスクを用いて192KHz 24bitでのハイレゾ音楽再生に対応したDVD Audioや、DVDと同様の容量のディスクにPCM方式ではなくPDM方式により2822.4kHzという超高サンプリング周波数の1ビットデータを記録することで公称で最大100KHzの音まで再生可能となったSACD、といった音楽CD後継を目指したメディアが存在していますが、前者は事実上消滅状態、後者も開発元であるソニーのクラシックレーベルを中心に細々とタイトルが発売されているような状況で、音楽CDの本格的な置き換えは実現していません。

「ハイレゾ音源」対応を急速普及させたパソコン

DVD Video対応機器に続いて「ハイレゾ音源」対応が急速に進んだのはパソコンでした。

パソコンでは1995年のWindows 95発売に先立ちMicrosoft社によりMPC規格としてDATと同じ48.0KHz 16bitステレオ音声が標準採用され、さらに1996年には「AC’97」としてインテルがMPC規格準拠サウンド機能のハードウェア規格を提唱、これがパソコン用PCM音源の事実上の標準となっていました。

RME DIGI 96/8PST
比較的初期に登場した、96KHz 24bitでの録音再生に対応するスタジオ向けオーディオカードの例。

その後2000年頃からまず録音スタジオ向けオーディオカードなどで96KHz 24bit対応が本格的にはじまり、2001年にはパソコン用サウンドカードのトップメーカーであるCreative Technology社から「Sound BLASTER Audigy」シリーズとして96KHz 24bit出力対応カードの発売が開始され、さらに2004年にはインテルの提唱により「High Definition Audio」と呼ばれる「AC’97」後継のパソコン向け標準サウンド機能の規格が定められました。

これにより「High Definition Audio」対応チップの搭載が一般化した2006年頃以降は低価格パソコン本体の内蔵音源でさえ仕様上は「ハイレゾ音源」の無変換での再生に対応するのが当たり前となっていったのです。

もっとも、特に「High Definition Audio」規格準拠のCodecチップと呼ばれる音楽録再デバイスを搭載したパソコンや対応周辺機器では、コストダウン圧力などにより音質に決定的な影響を及ぼすDAコンバータやその先にあるアンプ回路の性能が低いことが大半で、「額面上のスペックは立派だが音はそれほど良くない」あるいは「音の再生時に他の回路から漏洩するノイズが乗る」といったケースが大半を占めています。

TEAC製アンプ(NP-H750)での内蔵USB DACの入力音声信号サンプリング周波数表示
このように比較的低価格のUSB接続対応DAコンバータでも192KHz入力に対応する機種が増えている。

次に述べるポータブルプレイヤーよりも格段に容易に「ハイレゾ音源」対応が可能であったにもかかわらず、パソコンでこれがなかなか盛り上がらなかった背景には、こうした一般的なパソコン単独で「ハイレゾ音源」を再生した場合の低音質やノイズ対策の困難さが一因としてあったと考えられます。

実際、パソコンで「ハイレゾ音源」が盛り上がりを見せるようになったのは、USB DACと呼ばれるUSB接続でパソコンからのノイズ干渉を受けにくいタイプの外付けDAコンバータが96KHz 24bit以上のサンプリング周波数・ビットレートに対応するようになり、さらに比較的低価格で販売されるものでも十分な音質が得られるようになってからのことでした。

対応の遅れたポータブルプレイヤー

SONY NW-F880シリーズ
ソニー初の「ハイレゾ音源」対応ウォークマン。

一方、ポータブルプレイヤーのハードウェアレベルでの「ハイレゾ音源」対応はパソコンに比してかなり遅れました。

AppleのiPodではDAコンバータ周りのハードウェア変更の必要の無いロスレス(可逆圧縮)音源再生対応や対応の容易な24bit出力への対応は比較的早い時期に実現したものの、ハイサンプリングによる「ハイレゾ音源」への本格対応は未だ実現されず(※注2)、ソニーのウォークマンでさえ2013年10月発売のNW-F880シリーズでようやく最大192KHz 24bitの「ハイレゾ音源」に対応した(※注3)という状態で、パソコンでの対応の早さとの対比が際立つ状況となっています。

 ※注2:例えば現行のiPod touch本体単独では何らかの方法でダウンサンプリングしない限り「ハイレゾ音源」の再生は不可能です。
 ※注3:なお、「ハイレゾ音源」対応ウォークマンはDSDフォーマットのPDM音源にも対応しますが、これは内部的にPDM音源データをPCM音源データに変換して再生を行っています。

これは量子化ビット数の引き上げは最大音量が大きくなる(≒SN比が大きくなる)だけで圧縮音声データの場合はそれほどデータ容量の増大につながらないため比較的採用しやすいのに対し、サンプリング周波数の高周波数化はデータ容量の大幅増大を意味し、ストレージ容量に厳しい制約のあるポータブルプレイヤーでは「ハイレゾ音源」対応=プレイヤー内に保存可能な曲数や再生時間の激減となり使い勝手の大幅な低下をもたらすためです。

SONY NW-ZX1の表面(左)、背面(中央)およびアルミ合金削り出しモノコックボディ(右)
NW-ZX1は「ハイレゾ音源」で十分な高音質を実現するために本体背面下部が膨らんだ特異な形状となった。

また、限られたバッテリーの電力量の枠内で動作するポータブルプレイヤーの場合、高周波数で回路を駆動することを強いる「ハイレゾ音源」の再生には相応の電力消費増大が伴い、しかも十分高音質なヘッドフォンアンプ回路の搭載なしにはその効果が発揮できない、という問題があったことも無視できません。

ソニーの「ハイレゾ音源」対応ウォークマンの最上位機種であるNW-ZX1が音質を優先して本体背面下部が膨らんだ独特の形状となったことが話題となりましたが、これはそうした「ハイレゾ音源」再生で十分な性能を発揮しうる大型のアナログ増幅回路や電源回路を組み込んだ結果そうなったものだったのです。

▼関連記事
「尖った」ウォークマンの復活 ~NW-ZX1~

「ハイレゾ音源」のメリット

以上のように、特に1曲あたりのデータ量の増大の問題が深刻であることと、十分その性能を発揮させるために必要な回路規模が大きくなる傾向が特に強いこと、それに何より市販音楽CDの吸い出しなどがソースとなる機会の多いポータブルプレイヤーでは市販のごく限られたコンテンツでしかそのメリットを享受できなかったことなどから、「ハイレゾ音源」は長らく普及が進みませんでした。

それはつまり、これに対応することによってユーザーが得られるメリットがそれに必要なコストに比して小さい、ということだったのですが、その点で今回の国立大学法人長岡技術科学大学と株式会社電通サイエンスジャムによる共同研究の結果は興味深い物であると言えます。

音楽CD相当の圧縮音源とハイレゾ音源を聴いたときの脳の活性化状態の比較図
暖色方向で濃いほど脳の活性化状態が大きくなっており、ハイレゾ音源の方が良い結果となっている。

「音楽を聴く」という行為は、結局の所それによって快感を得る、というのが究極的な目的となるわけですが、その点において「CDレベルの圧縮音源を聴いたときと比較して、ハイレゾ音源を聴いたときの方が、脳は「快感」を約1.2倍、「安心感」を約3倍強く感じ、さらに「不快感」を約4割、「不安感」を約3割減少させる」とし、「ハイレゾ音源」が音楽CD相当の音源より優位に立つことを示す今回の結果は、今後「ハイレゾ音源」の普及を促進してゆく上で一定の科学的な裏付けを与えるものです。

下世話な言い方をすれば、これまで半ば迷信や単なる自己満足に近い扱いを受けていた、お金をかけて「ハイレゾ音源」の再生を可能とする環境を用意し、その対応コンテンツ購入して再生する、という行為にある種のお墨付きが与えられた訳で、高価な「ハイレゾ音源」対応機材やコンテンツの購入が正当化できて安堵しているユーザーも少なくないでしょう。

個人的には、実験環境の条件で「ハイレゾ音源対応ウォークマン、ハイレゾ音源には未対応のウォークマン、ハイレゾ音源対応ヘッドホンを使用。それぞれの再生機(ウォークマン)に同じ楽曲のハイレゾ音源とCDレベルの圧縮音源を入れて、どちらの音源を聴いているかわからない状態で音源を聴いた際の脳活動の変化を測定」とあることから、「ハイレゾ音源」と「CDレベルの圧縮音源」の再生環境(機器)が違えばそれだけで音質にかなりの差が生じて快感に差が出るのではないか、どうして全く同じ再生機に異なる音源を入れて測定しないのか、という疑問がありますし、80年代のそもそもマスターテープレベルでCDレベルの音質でしか記録されていない音源の場合、ハイレゾ対応してもアップサンプリング処理となるためその効果が限定的とならざるを得ない、という問題もあったりするのですが、それはそれとしてもこれは「ハイレゾ音源」の普及促進に追い風となることでしょう。

▼参考リンク
人々がハイレゾを求める理由は、脳にあった?耳だけではなく、脳が聴き取る“ハイレゾ”の魅力が発見された!脳はハイレゾ音源で「快感」に包まれることが判明|株式会社電通サイエンスジャムのプレスリリース

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