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日本独自のICTでオリンピック成功を!【後編】  2020年開催までに残された時間は『あと3年』?

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by [2014年9月26日]

この記事は前回の記事(日本独自のICTでオリンピック成功を!【前編】-東京五輪は日本がICT国家になるチャンスだ!)の後編です。

前回の記事では、生産人口が減少していく日本が観光以外でも稼げるようになるために、東京オリンピックで日本のICTを国外にアピールして世界中に売り込む必要がある、というお話を伺った。
今回の記事では、東京オリンピックを成功に導くために、具体的にどのような取り組みが必要なのかを、東京電機大学で未来科学部学部長を務める安田浩先生に前回に引き続きお聞きした。

オリンピックに向けた便利なサービスは民間企業に期待

───「なぜ東京オリンピックでのICTの活用が日本にとって重要なのか?」をお話していただきありがとうございました。次は、「東京オリンピックを成功させるために今やらなくてはならないこと」をお聞きしたいです。

安田氏 ICTオリンピックを成功させるために、まず最初に考えなければならないのは「ICTでどのようなサービスを提供するか?」ということです。
ひとつは競技映像への自由なアクセスを可能にするネットワークは重要でしょう。ロンドンオリンピックでもHD映像の配信はしていましたが、東京オリンピックではよりオープンに、あらゆる映像にアクセスできるようにしたいですね。水泳だったら水中からの映像とか、上空からの映像とか、ジャッジ用のハイスピードカメラとか、観客がそれぞれ見たい映像に自由にアクセスできるネットワークが理想です。しかもそれを4K画質でできたら最高だと思います。ただし、これを実現するには無線帯域とセキュリティの問題があります。
もうひとつは、各国の言語でのナビゲーションシステム。これも、無線帯域とセキュリティの問題が解決すれば、できます。海外からオリンピックを観に来る方々に対して、それぞれの母国語でレストランや乗り換えを案内するナビは必要でしょう。
その他にもいいサービスはきっとたくさんあるはずですが、そうしたサービスは民間企業もどんどん考えてくれていて、オリンピックまでにはすごく良いものが出てくるだろうと期待しています。そこで、サービスを生かすためのセキュリティソフトやハード、通信インフラの整備が私たち研究者に課せられた使命だと思っています。

一番難しいのは大量のトラフィックをどうさばくか

───今、オリンピックを成功させるにあたって乗り越えなければならない一番難しい問題はなんですか?

安田氏 どんなサービスを実現するにしても、そもそも無線の通信帯域が足りないだろう、というのが一番根本的で難しい問題です。例えば、新しくできる国立競技場に10万人が入場できるようですが、2020年には全員がスマート端末を、それも人によっては複数台を会場内で使うだろうと予想されます。ただでさえ通信量が大量になることが予想できますが、それに加えて4K画質で競技映像を配信したり、競技終了後に一斉に帰る観客を各国の言語でナビゲートしたいわけです。
その膨大な通信量をどう処理するのか、これを解決しないことには先に進むことができません。ちょうど今はテレビの地デジへの完全移行が進んでいるので、昔テレビが使っていたアナログの帯域に使える余地が残っています。特にNHKの使っていた300メガヘルツの帯域なんかは、結構遠くまで伝播ある程度強く伝播するという一番使いやすい帯域です。だからこそアナログテレビ用の帯域を活用したいという話はもちろんあります。無線の帯域は総務省が割り当てているので、これは国に訴えかける必要があります。
また、会場内で4K映像を配信するとなると普通の無線技術ではパケットを送りきれないので、超高周波数の電波で短い距離でどかっと送る、という技術を磨く必要もあるでしょう。この技術は競技場周辺や地下鉄、ビル内の通信を支える技術にもなると思います。
また、観客をなるべく分散させて誘導するシステムも重要でしょう。10万人の観客が全員同じところに移動してしまったら、今度はそこの無線がパンクしてしまうことになりますから。
実はセキュリティのことを全く考えなければ、現時点での技術レベルでも莫大な通信量の処理はできます。無線帯域を開けっ放しにしてがんがん通信してもらえばいいだけなのですから。ただ、クレジットカードなどお金が絡む通信もある中でセキュリティを無視できないので、技術を磨かなければならないのです。

サーバ、端末、ネットワーク、認証の4つの安全化がセキュリティの鍵

───セキュリティの話が出ましたが、高度なセキュリティを実現するには具体的にどうしたらよいのでしょうか?
安田氏 セキュリティについて考える上で、安全でなければならないものは4つあります。まずサーバ、その次に端末、ネットワーク、そして最後は認証です。
サーバと端末についてはウイルスが入ってきても動作させない、ということを完全に実現して根本的に安全化しようとしています。簡単に言えば、変な動作をし始めたサーバや端末の動きを止める仕組みを作っているのですが、それによって動作能力が落ちたり、致命的な瞬間に動作が止まったりすると困るのでそこを解決しなくてはなりません。サーバ・端末安全化技術はもう既に芽が出始めているので、おそらく2年後までにはしっかり動作するだろうと思っています。検証の結果、汎用サーバでは運用が難しいという話になる可能性はありますが、その場合は特定の限られた目的のみで動作するようなサーバで対応することになります。想定していた動作以外の動作を検出したら動きを止めればいいわけですから、これは簡単に実現できます。次にネットワークの安全化ですが、これは暗号化で大体上手くいくだろう、という見通しを立てています。

生態認証の仕組みをいち早く整備して標準化すべきだ

安田氏 最後の問題は認証ですが、やはり生態認証を入れるしかないだろうという話にはなっています。しかし、これが難しい。指紋認証や静脈認証、顔認証は精度を厳しく設定すると何度もやり直さないといけないとか、子供の場合は成長したら別人だと判別されてしまう可能性があります。そうなるとDNA鑑定のようなものが一番確実に認証できるから良いように思えてくるのですが、これが簡単にできてしまうのはそれはそれで問題です。

───DNA鑑定が手軽にできると、どのようなことが問題になるのでしょうか?

安田氏 例えば、床屋さんや美容院なんかに行って髪の毛を切りますよね。そうするとその床にはお客さんのDNAサンプルが大量に落ちてるわけですよ。DNA鑑定がその場で誰でもできるようになると、美容院のスタッフは簡単に究極の個人情報が手に入れることができるわけです。

───つまり、DNAを生態認証に使うとなると、様々な場所で認証のキーが手に入ってしまうと。

安田氏 その通りです。そうなってしまうと怖くて誰も美容院に行けなくなってしまいますよね。結局、1要素の生態認証ではどう頑張っても無理で2要素か3要素を組み合わせた生態認証をやるしかないだろうという話になっています。
ただ、生態認証をしっかりやるということになれば、当然ながら入国審査の時点でしっかりやる必要があります。そうした入国制度などを整えるためにも生態認証技術はあと2年くらいでなんとか形にしたいです。オリンピックで実現した日本の生態認証システムを国際標準化して、世界に普及させてそれで稼げれば最高ですね。

残された時間はあと3年しかない

安田氏 このように磨かなければならない技術はたくさんありますが、オリンピックのために実は残された時間は多く見積もってもあと3年しかありません。
2020年の東京オリンピックに向けたシステムは、少なくとも1年前にはほとんど開発し終えて、細かいテストをしなければならないでしょう。では、2019年までに完成させるためには遅くともその1年前(2018年)から開発を始めなくてはならない。そしてそのためには、さらに1年前には仕様を決めなくてはならない。すると、2017年の8月にはどんな技術が使えるのか見通しが立っていなくてはなりません。なので、これからあと3年間でオリンピックに必要な独自技術を完成させる必要があるわけです。
しかも、ソフトウェアというものはアップデートし続けない限りは、最終的にはほとんどのものがタダになってしまうので、生み出した日本独自のICTを開発しなおせる優秀な人材を育てる必要もあります。2020年のオリンピックと、その後の日本のためにICT業界でやらなければならないことはものすごく溢れていて、しかも早急に取り組まねばならない、というのが現状です。

2020年に開催される東京オリンピック。まだまだ先の話のようにも思えますが、設備の整備やシステムの構築にかかる時間を考えれば、あと3年で日本独自のICTをなんとか形にしなければならない、というお話でした。
ICTオリンピックとしての成功のためにも、「まずは『サービス』を考えなくてはならない」としながらも、確実に問題になるだろう無線帯域不足を解決する技術や、セキュリティの実現のための生態認証技術を早急に磨く必要があるようです。また、ICTオリンピックを成功させることができたとして、その後日本がICT国家として世界に羽ばたくためには、世の中の変化に合わせてソフトやシステムをアップデートできる技術者を教育することも重要なのだ、という安田氏の意思を今回のインタビューを強く感じました。

安田浩 氏
東京電機大学未来科学部学部長。東京大学名誉教授。画像符号化・画像圧縮技術の世界的権威。JPEG、MPEG規格の世界標準化に中心的役割を果たす。1996年、JPEG・MPEG規格標準化の功績により米国テレビ芸術科学アカデミーよりエミー賞(技術開発部門)を受賞。「MPEGの父」として世界的に高く評価されている。2009年に紫綬褒章受章。
現在は東京電機大学未来科学部学部長として複合領域サイバー・セキュリティ技術研究プロジェクト(MCSTRP:Multi-disciplinary Cyber Security Technology Research Project)の研究に尽力している。

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