NTTドコモが発表したニュースリリース

5GHz帯でLTE通信を ~NTTドコモ、ファーウェイと共同研究で実用化の糸口をつかむ~

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by [2014年8月28日]

NTTが横須賀、武蔵野、厚木、筑波、それに関西文化学術研究都市、と日本国内各地に多数の研究所を設け、様々な技術開発を行っていることはよく知られています。

最近では4K2Kテレビなどで利用される次世代動画圧縮フォーマットであるH.265の規格制定において同社研究所の持つ技術が重要な役割を果たしましたし、それ以前でも様々な規格や仕様の制定で、同社研究所は大きな貢献をなしてきました。

NTTドコモが発表したニュースリリース

そしてさる8月21日、NTTドコモは今年2月から始めていた中国のファーウェイ(華為技術)と自社傘下のドコモ北京研究所(DOCOMO Beijing Communications Laboratories Co., Ltd.)の共同実験で、LAA(Licensed Assisted Access using LTE)の基礎となる5GHz帯でのLTE通信に成功したことを発表しました。

携帯電話の通信を高速化させるLTEの手法を無線LANなどで特に許認可の必要なく利用されている5GHz帯(アンライセンス周波数帯)の通信に応用し、同じ周波数帯を利用する従来の無線LANよりも高速での通信を実現することで、通常の割り当て周波数帯でのLTEやLTE-Advancedによる通信の補完的通信手段としよう、というのがこのLAAと呼ばれる技術の基本コンセプトです。

しかし、実はこれまで、実際にLTEの技術で5GHz帯の通信が可能かどうか、確認されていなかったのです。

そこで今回は、ようやく実用化の糸口をつかんだこのLAAとLTEを取り巻く状況について考えてみたいと思います。

そもそも「間に合わせ」かつ
「中継ぎ」の技術だったLTE

Long Term Evolution、世間一般ではLTEという略称の方がとおりの良いこの名称は、元来3Gと4Gの2つの世代の携帯電話通信技術のストップギャップ、つまり中継ぎとなる通信規格に与えられた名称です。また、3.9Gという3Gよりは4Gにかなり近いが一歩足りない微妙さを表す世代表記も用いられていました。

この規格は既存の3G通信との互換性を切り捨てることで、W-CDMAやCDMA2000の普及時に問題となった高額の特許料を回避し、いわゆる電話機能なしでパケット通信のみ(※NTTドコモが先日サービスを開始したVoLTEのようにIP電話の要領で通話音声をパケットデータの形で送受信する「電話」は可能)として通信プロトコルの簡素化を実現、さらに既存技術をブラッシュアップすることで、漸進的に、そして低コストで3Gから4Gへの移行を実現しよう、というものです。

しかし本格的な4G登場までの中継ぎであったはずのこのLTEは、即戦力として実際にユーザーに提供できる高速通信技術としてプッシュしたい通信キャリアの圧力もあってか、いつの間にやら正式な4Gに含まれることになってしまいました。このあたり、技術的に3.9G(LTE)と4Gを明確に区別する要素はなかったため、なるべくしてそうなった、という見方もできるのですが、それではなぜこれまで区分していたのかという話にもなり、その辺の事情については割と不明瞭なままとなっています。

また、複数周波数帯を束ねて見かけ上一つの周波数帯として扱うことで高速性と安定性を確保するキャリアアグリゲーションをはじめとする、このLTEをより高速化する一連の技術について4GではなくLTE-Advancedと命名された結果、「LTE」という略称はそれそのものが3G以降の高速通信技術を総称する語として、一種のブランド化してしまいました。

つまり、4G相当の通信技術開発の遅れから間に合わせとして普及が始められたはずのこの技術・規格は、様々な事情から結果的に4Gの本流というべき立場に押し上げられてしまったのです。

LAAの目指すところ

先にも触れたとおり、LAAは無線LAN(Wi-Fi)のIEEE 802.11a/n/acで利用されている5.25GHzから5.35GHzの間などの「アンライセンス周波数帯」と呼ばれる、日本でいえば電波法に基づく基地局免許なしでの自由な利用が可能な扱い(※ただし、一部の帯域については電波干渉を予防する目的で、利用される電波の出力上限について厳しい制約が課されています)となっている周波数帯を利用してその周波数帯でLTE技術による通信を行うことで、現行の無線LANなどよりも高速での通信を実現しよう、という技術です。

もっともこれらの周波数帯域は、日本では移動体衛星通信や気象庁の設置している気象レーダーの使用する周波数帯域と重複・干渉する恐れがあることから、ほとんどの帯域で屋外利用が厳しく制限されており、通常のLTE/LTE-Advancedによる通信のように割り当て範囲でどこでも自由に利用できるような性質のものではありません。

また、当然ながら既存の5GHz帯を利用する無線LANと干渉すると、この周波数帯を利用してスマートフォンを利用したテザリングなどを行っている場合、ものによっては悪影響を与えることになりますから、それは当然に回避をはかる必要がありますし、さらにこのLAAと無線LANを同時利用した場合の双方の実効速度低下を防ぐための様々な対策も必要です。

NTTドコモが公表した従来方式とLAAの通信比較概念図
LTE-Advancedの技術であるキャリアアグリゲーションの利用が前提となっていることがわかる。

そのため、LAAでは高い周波数帯域であることを利したLTEの広帯域化(つまりは高速化)が第一の特徴として挙げられる一方で、無線LANなどとの共存、つまり他の通信技術との干渉を防ぐ技術を採用することが次点に挙げられ、さらには事実上屋内主体の利用実態となることが予測されることから、従来の2GHz帯でのLTE通信と束ねてキャリアアグリゲーションを行って通常のLTE通信に対して補完的に利用することが示唆されています。

逆説的にいえばこの帯域は屋外利用に厳しい制限があるため、どれほど高速化が可能であることが判っていてもこの帯域単独で「携帯電話の通信」に利用できるようにするのは困難で、他の帯域と束ねて安定的かつ高速な通信を実現するキャリアアグリゲーション、つまりLTE-Advancedの技術が実用化されるまでは、今考えられているようなブースター的な利用方法であっても実現困難だったのです。

また、ここまででお気づきの方も多いでしょうが、このLAAは少なくとも日本では、主に地下鉄の駅構内など気象レーダーや移動体衛星通信との干渉の心配のない場所に設置される基地局にしか適用できない技術です。

そうした基地局の設置されている場所の多くが人口集積地で、人が集まるため既存のLTE通信や3G通信が輻輳し、通信キャリア各社がWi-Fi(無線LAN)への通信オフロードのための施策を積極的に実施していることを考えると、このLAAはなかなかWi-FIへオフロードされないデータ量の大きな通信を、それと同一周波数帯を用いるLTE通信を実現することで有無を言わさず、そしてユーザーの利便性を損なうことなくオフロードさせるために非常に好適な手段といえます。

そのため、ピーク時の通信オフロード対策で苦労しているNTTドコモがこの技術の開発に積極的に取り組んでいることにも頷けますし、実に合理的な問題解決手段であるともいえます。

なお、今回の実験ではLAAでの実効通信速度が、5GHz帯を利用するIEEE802.11nの約1.6倍に達したことが明らかにされており、単にWiーFiによる通信を肩代わりするだけでなく、通信そのもののさらなる高速化の可能性が示されています。

NTTドコモとファーウェイ

今回、NTTドコモの北京研究所とファーウェイが共同で研究を行っているのは、LAAを正式に規格化するにはそうした電波干渉の問題などを早急に解消する必要があって、実際に5GHz帯でのLTE通信を行って、その電波が具体的にどのように他の機器や通信に影響を与えるのかを測定・検証せねばならないためです。このあたりは理論計算やシミュレートだけではまだ完全に明らかにはできない部分で、実地検証が何より有効なのです。

実際にも、たとえばLTE-Advancedの場合はNTTドコモは自社の国内各研究所を利用し、各研究所間や研究所周辺などで電波を飛ばして貴重なデータを収集していることが明らかにされていますが、今回は無線LANルーターも製造しているファーウェイとの協力により、北京の施設で実験が行われていることが公表されています。

こうした実際に電波を飛ばした結果得られたデータを基にした対策案などの提案は、規格制定時に概ね尊重され盛り込まれることが多いですから、NTTドコモがこの業界でイニシアチブを握って規格制定を(身も蓋もないことをいってしまうと自社にとって)よりよい方向に主導してゆくため、また実際に運用を開始してから深刻な問題が出ることのないようにするためにも、こうした基礎的なデータの大量収集・蓄積は重要な意味を持っています。

なお、NTTドコモがなぜファーウェイを今回の研究パートナーとしたのかは明らかになっていません。アメリカ議会などでのファーウェイ製ルーターなどに対する神経質なまでの対応を見ていると若干不安が残りますが、NTTドコモほどの企業が共同研究を行う相手ですので杞憂なのかもしれません。

ようやく踏み出した「はじまりの一歩」

NTTドコモが公表している実験のイメージ図
今回の発表内容はあくまでLAA単独での通信確立成功を示すものでしかないことに注意。

さて、今回ようやく「5GHz帯でのLTE通信」に成功したLAA技術ですが、当然ながらこれをもって直ちに実用化できる訳ではありません。

今回の実験ではまだ5GHz帯を利用する無線LANの通信との共存、つまり無線LAN接続の機器がデータの送受信を行っている最中にこのLAAのLTE通信を利用した場合、互いにどのような影響を及ぼし合うのかが明らかになっておらず、また複数のアンテナを利用するMIMO技術を適用した場合などにどのような挙動を示すのかも判然としません。

つまり、実際にこのLAA技術が商用レベルで利用可能となり規格化が完了するまでには、そうした諸問題を一つずつ順を追って丹念に調査・研究・解決してゆくほかなく、今回のこれはその第一歩がようやく成功したことを示すものでしかないのです。

もっとも、ファーウェイ側から公表されたプレスリリースでは「予備テストの結果、LTE技術は5GHz帯のアンライセンス周波数帯においても有効であり、現在広く利用されているWi-Fi技術よりもカバレッジとキャパシティの双方において優れていることが確認」されたとしており、技術的にはかなり素性が良いとみてよさそうです。

とはいえ、この種の基礎的な技術の研究は相応に時間を要し、最終段階で長期実用テストを行う必要もあるため、今回のこれが実際に通信キャリアのサービスの一部として提供されるまでには、おそらく年単位の時間が必要となることでしょう。

▼参考リンク
報道発表資料 アンライセンス周波数帯におけるLTE通信の実験に成功 -より快適なデータ通信に向けたLTE技術の応用と世界標準化に向けて-(NTTドコモ発表のニュースリリース)
ドコモとファーウェイ、アンライセンス周波数帯においてLTE技術の活用を試みる共同実験の結果を公表(ファーウェイ発表のプレスリリース)
3GPP workshop – LTE in unlicensed spectrum

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