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制作過程を重んじる伝統工芸に、ITの入り込む余地はあるのか?

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by [2014年8月18日]

 伝統工芸と聞けば筆者は真っ先に「有田焼、伊万里焼、唐津焼」を思い出すが、佐賀県だか長崎県の出身の人に「陶磁器?」と自信なさ気に伺うくらいしか伝統工芸との日常的な接点はない。しかし、筆者のこの態度を笑える人もそれほどいないはず(だと思いたい)。そういうわけで今回は伝統工芸について語っている自分に酔いたい筆者が、ITと伝統工芸という接点のなさそうな二つの分野の融合をテーマで語りたい。

織機に使われる紋紙がコンピュータ開発のきっかけに

 フランス人発明家のジョゼフ・マリー・ジャカールが発明したジャカード織機というものがある。(ジャガード織機とも呼ばれる)複雑な柄や絵も織ることができるのがジャカード織機の大きな特徴なのだが、それを可能にしたのが紋紙という紙だ。紋紙にはあらかじめ穴のパターンが開けられており、穴の開いているところにだけジャカード織機が糸を通すようになっている。つまり、糸の送る工程を制御することで、どのような模様を織るかを紋紙で指示しているのだ。実はこのように紋紙の穴の有無で模様を表現する手法が、0と1のみの2進数でデータを表現する現在のコンピュータ発明のきっかけともいわれている。このような関係からジャカード織機とコンピュータは一見親和性が高いように思えるが、実際に電子ジャカード織機が誕生し、織り職人たちが紋紙に穴を開ける面倒な作業から開放されたのは1980年代になってからのことであった。しかし、当時は電子ジャカード織機の本体だけでも500万円、紋紙を電子データ化するシステムは2000万円ということで、控えめに言っても一般の企業、工房が賄うには慎重にならざるを得ない代物であった。


コンピュータ開発のきっかけといわれるジャカード織機(Copyright © 2006 David Monniaux)
 

デジカメ画像を織機で出力する新技術『PHOTOTEX』

 しかし、これを契機として新たなジャカード織を開発した人物がいる。『PHOTOTEX』を開発した山口英夫氏(株式会社織元山口 代表取締役)だ。『PHOTOTEX』とはデジカメで撮った写真を、プリンタではなく織機で出力する技術を使って織られた織物である。これによって、模様のデータを制作する手間がそれほどかからなくなるだけでなく、大量生産を前提としていた従来の織物とは違って、一点ものにも短期間で対応できるようになった。その高度な技術は中学校、高校のステージ上の緞帳をはじめとし、浅草寺の御戸帳、タイ国王誕生84周年の公式謹呈品としてタペストリーを制作、さらには山口氏の個人的な作品は米国メトロポリタン美術館のパーマネントコレクションに収蔵されているなど、『PHOTOTEX』の技術は国内外を問わず評価され、「第二回ものづくり日本大賞」で経済産業大臣賞を受賞している。

製作過程を重んじる伝統工芸のIT化は難しい

 ジャカード織のように伝統工芸とITが技術の面で綺麗に混ざったのは珍しい例である。というのは伝統工芸は伝統的な手法それ自体に価値があるとされているため、いくら完成品が見た目や機能に問題はなくても、実際の過程が機械化されていたらそれは紛い物とみなされる。そのため、ITのような先端技術を伝統工芸に組み込むことは難しい。
 その結果、ITと伝統工芸の組み合わせは、日常的なIT商品のデザインに伝統工芸を部分的に使用したものなどに見られるものが殆どとなっている。例えば、株式会社朝日電気製作所(石川県白山市)が開発している『九谷焼USBメモリ』『山中漆器USBメモリ』が具体的な商品例として挙げられる。しかし、これらの商品では伝統工芸の技術はデザインなどの付加価値のためだけに使用されており、ITと伝統工芸の融合というよりは単なる抱き合わせである。

ITを組み込んで「新しい伝統工芸」を

 『PHOTOTEX』を開発した山口氏は、伝統的な織り職人と自身を比較して、「織り職人は“小さく緻密なもの”を目指す傾向があるが、自分は“とにかく大きなもの”を作りたい」と言っていた。つまり、ある限定された小さな領域にいかに技術を注ぎ込むかということに尽力する織職人に対し、山口氏はITを用いて新しく大きなものを作ろうという考えで『PHOTOTEX』を開発したというのだ。その山口氏の試みは、従来の伝統とITを掛け合わせて「伝統工芸の新しい道」を模索したというのではなく、「新しい伝統それ自体の創出」といえるのではないだろうか。

▼参考リンク
社団法人 日本機械工業連合会『第2回ものづくり日本大賞』
株式会社 織元山口
株式会社 朝日電気製作所

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