今回発表されたマグネシウム二次電池のモデル図

~安価に、高密度に、安全に~ウェアラブル普及の鍵を握る「マグネシウム金属二次電池」とは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

by [2014年7月16日]

今回発表されたマグネシウム二次電池のモデル図

スマートフォン、携帯電話、タブレット、あるいはノートパソコンといったモバイル機器にとって、繰り返し充放電を行える二次電池(充電池)は必要不可欠の部品です。

そして2014年現在、モバイル機器用二次電池といえば1980年代末にソニーと旭化成によって実用化にこぎ着けた、リチウムイオン二次電池が主流となっています。

これはこのリチウムイオン二次電池が既存のニッケル・カドミウム蓄電池やニッケル・水素蓄電池などと比較して様々なメリットを備えていたためですが、そんなリチウムイオン二次電池にもいくつかの弱点があり、また現状では高エネルギー密度化で頭打ち状態となっていることから、これに代わるべき新しい二次電池の研究開発が世界中で進められてきました。

そして今回、京都大学と播磨科学公園都市にある大型放射光施設「SPring-8」の運転管理などを行っている高輝度光科学研究センターが共同で、マグネシウム金属を負極に用いたマグネシウム二次電池の開発に成功しました。

今回はこのマグネシウム二次電池について、リチウムイオン二次電池との比較を通じて考えてみたいと思います。

メリットとデメリットが表裏一体の
リチウムイオン二次電池

読者諸氏にもご存じの方が多いことと思いますが、現在のスマートフォンや携帯電話では、ほぼ例外なくリチウムイオン二次電池(※1)をその電源として搭載しています。

※1:電解質に用いられる有機溶媒を重合させてポリマー化したリチウムイオンポリマー二次電池を含む。

二次電池は通常、正極と負極と呼ばれる2種の電極と電解質(※電解液とも)の3つの要素より構成され、正極-電解質-負極の相互間のイオンのやりとりで充放電を行っています。この基本構成はリチウムイオン二次電池でも同様で、一般に正極にリチウム金属酸化物、負極に炭素、そしてこれらの間に充填される電解質として有機溶媒に溶かし込んだリチウム塩を使用しています。

このあたりの詳しい話は省きますが、ともあれこうした構成を採ることでリチウムイオン二次電池では、公称3.7Vとなる高い電圧での出力を維持し、しかも既存のニッケル・カドミウム蓄電池やニッケル・水素蓄電池とは比較にならないほどの高いエネルギー密度、それに何より継ぎ足し充電(※2)を繰り返してもメモリー効果(※3)がほとんど発生しない、といったモバイル機器用二次電池として理想的な素晴らしい特性が実現されています。

※2:完全に使い切らずまだ残量のある二次電池に対して追加で充電を行うこと。
※3:継ぎ足し充電を行った二次電池で、継ぎ足しを行った容量付近で起電力が著しく低下し、見かけ上の電池容量が低下する現象。

しかし、このように素晴らしい特性を備えているリチウムイオン二次電池ですが、そうした優れた特性と表裏一体で重大な問題をいくつか抱えています。

まず、そもそもリチウムには水と激しく反応する性質があるため、否応なく水分子を含まない有機溶媒を電解質に使用せねばならず、また充放電において常時容量チェックや充電時に高精度の電圧制御を行って危険領域へ突入するのを防がねば、容易にリチウム金属の析出によるショートなどで発火や爆発をする危険性があること。

過去にもリチウムイオン二次電池が発火あるいは爆発するトラブルで製品がリコールされたことが各社で何度かありましたが、これは保護回路が適切に働かず過充電・過放電状態となったことで電池内部に破損やショートが起き、異常発熱から電解質の発火や爆発に至ったものです。

この問題については充放電のメカニズムに直接関わる問題であるため、過充電・過放電を防ぐため適切な設計の保護回路(※電池の起電力などを監視するモニター回路を含む)を組み込んで行き過ぎた充放電を阻止する以外の対策がありません。

次に、満充電状態で長期保存すると電池そのものの劣化が急速進行し使い物にならなくなること。

これもまた電池内部での充放電メカニズムに関わる問題であるため、解決が困難です。

3つ目は、正極の材料として一般に用いられるコバルト酸リチウム(※LiCoO2)が、希少元素であり紛争物質でもあるコバルトを含んでおり、非常に高コストであること。

これについてはマンガンやニッケルなどを含む代替材料の研究開発が進められていますが、工業的に量産製品に採用できるレベルに到達したものは現時点では存在していません。また、そもそもの話として工業的に利用可能な資源としてのリチウムは産出国が偏在しており、その埋蔵量がコバルトほどでないにしろ限られている、という問題もあります。

以上からも明らかなように、リチウムイオン二次電池は高いエネルギー密度での充電が可能な反面、非常にデリケートな性質を備え、しかもコスト的にも高くつく、ということになります。

有望視されたマグネシウム二次電池

こうしたリチウムイオン二次電池の問題から、これに代わるべき次世代二次電池を模索する動きは早い時期から存在していました。

中でも有望視されていたのが、マグネシウムを使用するマグネシウム二次電池です。

一般に電池の能力は、電極や電解質に含まれる金属のイオン化傾向によって大きく左右されます。

各種二次電池の電圧と容量密度の関係図
今回試作のマグネシウム二次電池は理論エネルギー密度には未だほど遠い値だが、それでも電圧がやや低いものの容量密度はニッケル水素電池やリチウムイオン二次電池を超える値となっており、二次電池としての素性の良さを物語る。

そのため、イオン化しやすい上に2価のイオンとなるマグネシウムは理論容量密度が非常に高く、また融点が650℃で180.54℃で融解するリチウムと比較して格段に高く熱的な安定性に優れている=電極の融解などによるショートが起きにくく高い安全性が確保できること、水分子を含んだ電解質が問題なく使用できる=例え内部で異常加熱が起きても電解質が発火・爆発しにくいこと、それに何より海水などから塩化マグネシウムが採取できるため、それを電気分解すれば金属マグネシウムが生産できる=日本でも比較的安定かつ廉価に材料を調達できること、といった大きなメリットがあったことから、マグネシウム二次電池は21世紀に入る前後位から多くの技術者や科学者によって研究されてきました。

ハードルが高かったマグネシウム二次電池の実現

しかし、このマグネシウム二次電池の実現には、非常に難しい問題が立ちはだかっていました。

まず、元素の周期表でも明らかなようにマグネシウムは価電子を2つ持つためイオン間相互作用が強く、固相内で拡散しにくく電極での反応速度が非常に遅く(=充放電速度が遅い)、充放電の繰り返しで正極が急速に劣化するという問題がありました。

正極については2009年にNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が世界初の繰り返し充放電に耐えるマグネシウム二次電池用正極を開発・発表していたのですが、そこから先がなかなか上手くゆかない状態が続いていました。

見いだされた「正解」

この難問に挑んだのが、京都大学大学院人間・環境学研究科の内本 喜晴 教授、折笠 有基 同助教、同大学大学院工学研究科の陰山 洋 教授、タッセル・セドリック 白眉センター特定助教らの研究グループです。

彼らは精密な結晶構造制御を行ってMgFeSiO4(※4)正極材料を作成し、リチウムイオン電池正極の2倍の容量密度が得られることと、高いサイクル特性を備えていることを明らかにしました。

※4:自然界にも存在し「カンラン石」という名で知られています。

この段階で、正極と負極(※マグネシウム金属を用います)は揃ったわけですが、問題は電解質です。

そこで研究グループはこの組み合わせに適し、しかも酸化安定性が高い電解質を試行錯誤しつつ探索しました。

ここで最終的に見いだされたのがマグネシウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(Mg(TFSI)2)というお経のように長い名前の有機フッ素化合物と、トリグライム(※トリエチレングリコールジメチルエーテル(CH3OCH2CH2OCH2CH2OCH))という有機溶剤の組み合わせでした。

この電解質と電極の組み合わせにより、正極の形成に高度な技術を要するものの研究試作段階の現時点でさえリチウムイオン二次電池の2倍以上の容量密度を備え、爆発や発火の危険性が低く、しかもマグネシウム、鉄、シリコン、フッ素など入手が比較的容易で低廉な価格の材料を用いたマグネシウム二次電池が実現したのです。

ちなみに、これらの電極・電解質の挙動については兵庫県西部の播磨科学公園都市にある大型放射光施設「SPring-8」からの高輝度放射光X線を用いた、粉末X線回折測定・X線吸収分光測定によって詳細な分析が行われており、ここで様々な新しい知見が得られています。

マグネシウム二次電池の実用化がもたらすもの

現段階では研究室レベルの話ですから、この新しい二次電池が実際に商業化され製品化されるまでにはまだしばらくかかると考えられます。

しかし、それでも少なく見積もってもリチウムイオン二次電池の倍の容量密度で、材料的にも非常に低コスト、しかも安全性の面でもリチウムイオン二次電池とは比較にならないほど高いと期待できるマグネシウム二次電池の実現の可能性が示されたことは、今後のモバイル機器、特にウェアラブル機器の発展を考えると非常に重要なトピックです。

何より、半導体の製造プロセス縮小による低消費電力化が次第に頭打ちになりつつある昨今の情勢では、半導体側での低消費電力化も限界に達しつつあり、ウェアラブル機器の軽量化や長時間動作化を実現するには、半導体側からのアプローチ「ではない」別の手段を講じる必要があり、その点でバッテリー容積を増やさずに大容量化と低コスト化を実現するこのマグネシウム二次電池の実用化は、間違いなくウェアラブル機器の実用性を高めてくれることでしょう。

もう一つ、マグネシウム二次電池で無視できないのは、リチウムイオン二次電池と違って爆発・発火の危険性が低く防爆対策がほとんど必要ないことです。

実は、リチウムイオン二次電池の場合、その外装をアルミラミネートパックとするなど、電池の膨張・爆発に備えた構造になっているのですが、これの重量が電池パックの重量のかなりの部分を占めており、軽量化の観点ではあまり良い構造とは言えないのです。また、充放電の際に保護回路が常時作動しているということは、少量とはいえ常時その分だけ電力が消費されているということで、その点でもよろしくありません。

マグネシウム二次電池であれば、重い外装も保護回路も不要ですから、同じ電池容量でも大幅に軽くよりコンパクトな電池が得られることが期待でき、その点でもウェアラブル機器に福音となるでしょう。

いずれにせよマグネシウム二次電池はモバイル機器に様々なメリットをもたらしてくれるものであり、早期の実用化を期待したいところです。

▼関連記事
ウェアラブルの近未来~単眼式『Google Glass』と両眼式『MIRAMA』

▼参考リンク
共同発表:高エネルギー密度・高安全性・低コスト二次電池の開発に成功~リチウムからマグネシウム金属へ~(科学技術振興機構(JST)のプレスリリース)
高エネルギー密度・高安全性・低コスト二次電池の開発に成功 -リチウムからマグネシウム金属へ-(京都大学のプレスリリース)

マグネシウムイオン二次電池の正極材料を開発(2009年11月24日発表の独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構および埼玉県産業労働部産業技術総合センター(SAITEC)によるニュースリリース)

コメントは受け付けていません。

PageTopへ