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数字の一人歩きは無くなるか?ようやく統一される人口カバー率の算定基準

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by [2014年7月14日]

いうまでも無いことですが、携帯電話を選ぶ際に「自分の使いたい場所でつながる」かどうかというのは非常に重要な問題です。

料金体系がいかに格安であろうが、ベストエフォートでどれだけ高速での通信が可能であることを謳っていようが、そもそも通信が自分の使いたい場所でつながらないのであれば、それらには何の価値もありません。

そのため、人口密度が高い=利用者数が多く基地局設置の費用対効果の大きな都市部はともかく、人口密度の極端に低いいわゆる過疎地域に住まう人にとっては、キャリア各社が公表する提供エリア一覧はどのキャリアを選択するかを決定する上で非常に重要な情報源の一つです。

しかし、残念なことにこれまでは、各キャリアの採用する各種算出基準がバラバラで、横並びでの公平な比較ができませんでした。

そのため各キャリアによる広告宣伝の内容について、実際には宣伝されているようにはつながらないではないか、という不満が昔からあったのですが、このほど電気通信4団体で構成する電気通信サービス向上推進協議会が「電気通信サービスの広告表示に関する自主基準及びガイドライン」を改定し、これまで各キャリアごとにバラバラだった人口カバー率算出方式を統一することになりました。

そもそも、各社で算定基準の異なる数値を比較して「うちの方がつながりやすい!」と宣伝してきたわけですから、消費者にとってわかりやすいとかわかりにくいとか言う以前の問題で論外な話なのですが、今回のガイドライン改定はその算定基準を総務省が公表している「広帯域移動無線アクセスシステムの高度化のための特定基地局の開設計画の認定申請マニュアル(平成25年5月)」に掲載のメッシュ方式と呼ばれる算定方式に統一することで、優位性訴求の根拠を明確化し、誤認を無くすことを目的としています。

何が問題だったのか

KDDIによる「当社に対する措置命令に関するお詫びとお知らせ」(2013年5月21日発表)
広告表示の適正化、という観点での措置命令とこれに対する取り組みが公表された。

今回、このガイドラインが改定されるに至った背景事情の一つとして、昨年5月にKDDI(au)がiPhone 5向けの75MbpsでLTE通信が可能なエリアについて、実際の実人口カバー率が14パーセントにとどまるにもかかわらず、「誤って」96パーセントと表示(※この誤表示はiPhone 5でLTEにて利用可能な周波数帯がAndroid搭載スマートフォンよりも狭いことが失念されていたのが原因と推測できます)し、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)第4条1項1号「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある」(原文ママ)ものとして、同法第6条に従い消費者庁から行政処分(措置命令)を受けたことが挙げられます。

LTEをはじめとする高速化技術の普及もあって、キャリア各社の競争が激化する中で「つながりやすさNo.1」や「超高速」といったあいまいなイメージを訴求する広告がまかり通る状況が問題視されるようになってきているのです。

実際にもこれまでの各社の算定基準では、かつての総務省の基準に従い、市役所や役場およびそれらの支所付近で通信できればメッシュ全体をカバーしたと判断する会社(※つまり、役所に合わせてピンポイントで基地局を設置すれば、それだけでその行政区分内の全人口が実人口カバー率の数値に加算されます。ただしこの基準だと、市内のいずれか一つの支所付近で通信できなければ、その市域全体がカバーされていないと判断されます)や、「メッシュ内である程度の世帯で通信できればメッシュ全体をカバーしたと判断する」という非常に曖昧かつ恣意的な基準を用いていた会社まであって、極端な話、基準となるメッシュ(500m四方)の一隅にある家々でかろうじて電波が届き通信できれば、残りのエリアにどれだけ居住者がいてそこで通信できなくともそのメッシュ全体を「カバーした」と判断する、といったほとんど詐欺同然のことが行われていた疑いさえあるのです。

このような状況では、特に山間などで地形的な条件からそうした状況の発生しやすい地域では公表される実人口カバー率そのものが全く信用できなくなってしまいます。

総務省の定める算定方式

総務省の公表している「広帯域移動無線アクセスシステムの高度化のための特定基地局の開設計画の認定申請マニュアル」掲載の人口カバー率計算に関する参考資料。非常に詳細かつ厳格にメッシュが規定されている。

それでは、今回のガイドライン改定で採用された、総務省が「広帯域移動無線アクセスシステムの高度化のための特定基地局の開設計画の認定申請マニュアル」で示している人口カバー率の算出方法はどのようになっているのでしょうか。

実はこの算出で用いる「メッシュ」そのものについては昭和48年行政管理庁告示第143号で非常に厳密な規定が行われていて、緯度経度の関係から個々のメッシュの位置関係についてはほぼあいまいな要素の入り込む余地がないようになっています。

また、人口データについてはこのマニュアルでは平成22年国勢調査の結果を用いることと定めているのですが、各メッシュごとの人口についてはメッシュと行政区画の関係(どのメッシュがどの市町村に属するのか)が公表されていないため、これについては平成22年国勢調査時点での市町村境界を基準として決定することが推奨されていて、ここでは若干あいまいさの入り込む余地が残っています。

とはいえ、各メッシュについては位置関係が緯度経度情報から非常に厳格に規定されているため、自社に都合のよいようにメッシュ割り当てをずらしたりして変えるようなことはできず、またそのメッシュが「カバーした」とされるにはそのメッシュの面積の1/2以上で通信が行えることが求められるため、少なくとも「ある程度」などという統計上全く意味の無い基準を用いるよりはよほど厳格かつ公平な実人口カバー率算出が可能となるでしょう。

何故こんな無法状態で野放しになっていたのか

今回のこのガイドライン改定そのものは、消費者の選択に際しての判断基準がより公平な形で提供されることを意味しており、その点では大いに歓迎できるものです。

もちろん、こうして曖昧さの入り込む余地のほとんど無い算定基準を定めても、いずれそのうちキャリア各社(および各社と契約している広告代理店)はこのガイドラインの隙をついて自分たちに都合の良い数値なりエリアなりを宣伝する手法を繰り出してくる可能性はありますが、統計的な数字そのものの信頼性はこれまでよりもよほど高くなるでしょう。

問題は、こうした算出基準が携帯電話の実用化後四半世紀近くも統一されないまま漫然と放置されていたことです。

本来ならばこうした話題はもう20年も前にはとっくに解決していなければならなかった類いのもので、それが今の今まで(長らく少なからぬ批判があったにもかかわらず)満足に議論されることもないまま放置されていたことについては、全くもってマーケティング優先かつ顧客軽視の行いであって、業界そのものの自浄作用の欠如を疑われても仕方ないでしょう。

また、これまで実人口カバー率について「99パーセント突破!」だの「1億人突破!」だのと景気の良い数字が各社によって喧伝されてきたわけですが、そうした華々しい数字が広告上に踊る一方で、今もなおどの携帯電話にもつながらない地域(不感地域)に居住する人が2013年の時点で4万人近くいることや、そうした地域への自治体によるキャリア各社に対する基地局整備の要請が採算性の欠如を理由として拒否されていることは、ほとんど等閑に付されてきました。

そうした不感地域では、携帯電話がつながらないが故に嫁のなり手がない、あるいはそこを出ていった若者が戻ってこない、といった深刻な社会問題が起きているのですが、マイノリティの悲しさか、そうした地域の人びとの悲痛な叫びは(長い時間をかけて徐々に解消が進んではいるものの)ほとんど無視されたままなのです。

無論、キャリア各社は営利企業である以上、採算性の問題は無視できません。しかし、公共の共有資源である周波数帯の割り当てを受けて事業を行っている以上、またそれにより大きな収益を上げている以上、そうした不感地域を可能な限り無くす努力を行う社会的責任が(実人口カバー率の高さ=不感地域の少なさを宣伝文句としているのならばなおさらのこととして)各社にはあるはずです。

今後、キャリア各社には数字が一人歩きするような状況を作らないよう、またその数字に見合った社会的責任を果たすよう、求めたいものです。

電気通信サービスの広告表示に関する自主基準及びガイドライン第10版(電気通信サービス向上推進協議会)
広帯域移動無線アクセスシステムの高度化のための特定基地局の開設計画の認定申請マニュアル~2,625MHzを超え2,650MHz以下の周波数を使用する特定基地局~(総務省)
当社に対する措置命令に関するお詫びとお知らせ(KDDI)
参議院会議録情報(第186回国会 総務委員会 第15号 ※携帯電話のつながらない不感地域問題が取り上げられた)

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